第5話 ひなと仲良くなる作戦 その4

それから数日が経った。雅弘から連絡が来た。


「テーマパークに行かないか?」

「テーマパーク?」

「そう。東京エバーハッピーランド」

「いいんじゃないか?」

「ひなちゃんはどうか分からないけど、愛美ちゃんは絶対好きだろ。でも女の子は基本、テーマパーク大好きだろ」

「まあな」

「愛美ちゃんに連絡してみるよ」

「ああ」

「そういえばお前、そろそろひなちゃんの連絡先聞けたのか?」

「ああ、教えてもらったよ」

「へえ。どうやって?」

「スマホの電話帳のバックアップを取ってる時に間違えて消しちゃったから教えてって言ってさ」

「なんとかごまかせたわけだな」

「まあな」

「まあ良かったじゃないか。じゃあ俺は愛美ちゃんに連絡するから、ひなちゃんには優斗から連絡してみろよ」

「えっ?ああ、まあ……。そうだな。なんか用事でもないと連絡できないし」


 俺は、ひなに連絡した。


「今度さ、雅弘と愛美ちゃんと四人で東京エバーハッピーランドに行かないか?」

「別にいいけど」

「また連絡する」


 ひなへの連絡はすぐ終わってしまった。


 もっとこう……会話を上手く広げて話せたら良かったんだけどな。俺ってどうしてこうもトーク力がないんだろう。落ち込みながらベッドで横になる。


「東京エバーハッピーランド……か」


 俺はそのまま目を閉じて眠ってしまった。

 それから数日が経った。雅弘から連絡が来た。


「東京エバーハッピーランドだけどさ、明後日行こう」

「分かった。集合場所は?」

「高速バスの乗り場でいいか?」

「ああ、分かった」


 そして当日。俺は待ち合わせ場所である高速バス乗り場へと向かった。

 到着すると誰も来ていなかったので、スマホをいじりながら時間を潰して待っていた。

すると声が聞こえた。ひなと愛美ちゃんだった。


「優斗君。おはよう」

「おはよう」

「あれ?雅弘君、まだ来てないの?」

「まだ来てないよ。もうすぐ来るんじゃない?」

「おーい」


 雅弘がやってきた。


「お待たせー。遅刻しなかったな。セーフ」

「ギリギリだったぞ」

「あはは。悪い悪い。財布をどこに置いたのか忘れて探していたんだ」

「それで遅くなったのか」

「おっ!愛美ちゃん。その服可愛いね」

「ありがとう」


 それから待っていると高速バスがやってきたので、乗り込んだ。


「東京エバーハッピーランド、私初めて行くんだ」

「俺もだよ」

「俺も初めてだな。ひなは?」

「初めて」


「じゃあ皆初めてか。誰も行った事ないんだな」

「やっぱり広いんだろうね」

「東京ドーム十個分の敷地面積なんだってさ」

「へえー。凄いね。って言っても東京ドーム何個分なんてよく分からん」

「まあ広いって事だろ?」

「まあそうだな」

「そういえばこの高速バスって直通なの?」

「うん。東京エバーランド直通だね。途中でトイレ休憩に高速道路のサービスエリアに寄るみたいだけど」

「そうなんだ。休憩あるんだね。良かった」


 バスが走る中、更に会話は弾む。


「来週、吹奏楽部の大会があるんだよね」

「愛美ちゃんって何の楽器弾いてるんだっけ?」

「サックスだよ」

「へえー。オシャレな楽器弾いてるね」

「次の大会。頑張って勝ちたいんだよね」

「一般の人も演奏聞けるの?」

「聞けるよ」

「じゃあ俺達も応援に行こうぜ。なあ優斗」

「まあそうだな。ひなはどうする?」

「行く」

「よし、じゃあ来週は愛美ちゃんの大会の応援だな」

「あ、ねえねえ。東京エバーランドに限定味のポップコーン売ってるよ。絶対食べよっと」

「ひなは?何か狙いある?」

「苺パフェ」

「あー、それも美味しそうだよね」

「うん」

「あ、ねえねえ。コラボアイスだって。スイーツも色々あって迷っちゃうなあ」


 スマホを見ながら東京エバーランドのページを見る愛美ちゃんのテンションが上がっている。色々と話しているうちに休憩地点である高速道路のサービスエリアに到着した。


 トイレ休憩の為、一度バスを降りてトイレを済ませる。


「あっ、帰りの時にお土産見ていこっと」

「俺も親になんか買って帰るわ」

「まあ帰りの休憩で寄った時に買えばいいじゃないか」


 バスに戻り、再びバスが発進する。そしてそこから一時間。ようやく東京エバーランドに到着した。


「着いたー」

「来たな、東京エバーランド」

「広いなあ」

「人多いー」

「とりあえず一日フリーパスチケット買おうぜ」

「そうだね」


 入場受付を済ませて、パーク内に入った。パーク内は、とても賑わっていた。


「とりあえずどこから行こうか」

「はいはーい。私ジェットコースター乗りたい」


 愛美ちゃんが手を挙げる。


「オッケー。じゃあジェットコースター乗ろう。優斗とひなちゃんもそれでいい?」

「いいよ」

「うん」


 ジェットコースターのところの列に並ぶ。列は長く、ニ十分待ちだった。


「結構待つんだね」

「まあでも東京エバーランドにしては、早い方なんじゃない?平日だし」

「だよね。これが土日だったらもっと凄いだろうね」

「皆はジェットコースター好き?」

「俺は全然平気だよ」


 雅弘が答える。


「俺もまあ平気かな」

「ひなはどうなの?」

「乗った事ないから分からない」

「えっ?ひなちゃんジェットコースター初めてなの?」

「うん」

「マジか。そりゃ楽しみだな」


 そんな事を話している間に、順番がやってきてジェットコースターに乗り込んだ。


俺とひな。雅弘と愛美ちゃんがそれぞれの席に座った。そして案内係のお姉さんから注意事項の説明があり、安全バーが降りてくる。そして、いよいよジェットコースターが走り始めた。徐々に上に向かってゆっくりと登っていく。頂上付近まで来る。


「来るぞ、来るぞ」


 俺はひなに話しかけた。


「えっ?来る?何が?」


 その瞬間だった。ザアアアーーと一気にジェットコースターは、頂上から急降下した。


「うわあああああああ」

「きゃあああああ」


 ひなが悲鳴をあげた。クールなひなのこんな声、初めて聴いた。ジェットコースターの勢いは増していく。どんどん加速して走っていく。風が体を突き抜けていく。

 その時だった。ひなが俺の手を握った。


 俺はドキッとした。


「きゃああああああ」


 ひなが絶叫している。目を閉じている。

 俺はそんな様子のひなを横目で見ていた。

 そしてジェットコースターが終わるまでの間、ひなはずっと俺の手を握っていた。ひなの手は震えていた。


「終了です。お疲れさまでした」


 係員のお姉さんが安全レバーを外してくれる。まだひなは、俺の手を握ったままだ。


「ひ、ひな?終わったよ?」

「あっ……。終わった……?」

「うん」


 そして俺の手を握ったままだった事に気づいたのか、すぐに手を放す。


「ごめん……」

「ん?ああ、いいよ。初めてのジェットコースターで怖かったんだろ?」

「うん」


 めちゃくちゃ可愛いと思った。


 それから次に行ったのは、ウエスタンアイランド。西部一のガンマンを目指すガンシューティングアトラクションだ。


「よし、高得点叩き出してやる。優斗勝負しようぜ」

「いいよ。俺が勝つから」

「私も負けないから」


愛美ちゃんも言う。


「撃って敵を倒せばいいんだよね?」


ひながルール確認する。


「そうそう。出てくる敵を倒しまくったらいいんだ」

「わかった」


 沢山の敵が出てくる。俺達は夢中で敵に銃を撃ち続けた。そしてゲームが終わり、結果発表になった。四位は愛美ちゃんだった。


「あー、ダメだー。難しい」


 続いて三位。雅弘だった。


「くそー、優斗に負けた。……えっ?ってか俺、ひなちゃんにも負けたの?」


 そして二位は、俺だった。


「ええ。俺、一位じゃないの?ってことは……?」


 ひなが一位になった。


「私が一位」


 ひなの射撃の才能に皆が驚かされた。


 次に行ったのは、ミュージックベアシアターという劇だった。可愛い熊達が音楽を奏でて演奏会をするというものだった。


「うわあ、めっちゃ可愛いんだけど」

「癒されるなー」


 愛美ちゃんと雅弘が癒されている。


「この曲、童話だよね」

「森のくまさん」


 愛美ちゃんが言うとひなが答える。


「あ、そうそう。森のくまさん」

「可愛い」


 ひなも可愛いと言いながら劇を見ている。


「ねえ。次ウォーターマウンテン行こうよ」


 愛美ちゃんが言う。


「おお、いいねえ。ウォーターマウンテン」

「ウォーターマウンテン?」


 ひなが聞く。


「水しぶきがかかって気持ちいいらしいよ」

「へえ」


 それからウォーターマウンテンに行った。またしてもジェットコースターだ。


「ジェットコースターじゃない」


 ひなが言う。


「そうだよ。ジェットコースターで、水面にバシャンといくんだよ」

「騙された……」

「ひなジェットコースター苦手?」

「うん」

「大丈夫。また手繋いでいいから」

「……うるさい」

「ご、ごめん……」


 それからウォーターマウンテンに並んで、俺達の番がきた。乗り込んだら係員が安全レバーを下げてくれる。


「それではいってらっしゃい」


 その声が聞こえた後、ウォーターマウンテンのコースターは、坂を上り始めた。


「きたきたきた」

「ううっ……」

「ひな。手握る?」

「いい」


 正直、手を握って欲しかったけど、断わられてしまった。


 そしてコースターは、高いところから一気に下っていく。


「きゃあああああ」


 ひなの叫び声が聞こえた。俺は無言でひなの手を握った。


「やっぱり怖いなら怖いって言いなよ」

「…………」


 ひなが無言で手を握り返してくる。


 そしてコースターはトンネルを抜けて、更に一気に急降下した。


「きゃあああああ」


 ひなが叫ぶ。そして水しぶきが体にかかる。


「うおっ、冷たっ」

「冷たっ」


 二人して声をあげた。そしてコースターは終わりを迎えた。


「ねえ。次は空駆けるペガサス乗ろうよ」


空駆けるペガサスとは、ライドが回転するタイプのアトラクションだ。空中を散歩するかのような感覚を味わえるのが特徴だ。


「いいね。じゃあ行こうか」


 空駆けるペガサスの順番待ちの列に並んで待ちながら皆で話す。


「これ終わったらちょっとカフェで休憩しないか?」

「そうだね。そうしよう」

「結構色々乗ってるもんね。私も疲れてきたかも」

「うん」


 話していると順番が来たので、空駆けるペガサスに乗り込んだ。空駆けるペガサスは、一人ずつの席になっている。皆それぞれの席に乗り込んで空駆けるペガサスを楽しむ。

 上下に動くペガサスの乗り心地は面白く、本当に飛んでいるかのような気分を味わう事ができた。

 空駆けるペガサスが終わり、休憩する事にした。カフェに行く。カフェでは、愛美ちゃんとひなが何を食べるか真剣に悩んでいた。


「ひな。どうする?何食べる?」

「苺パフェ」

「即答だね。私も苺パフェは気になるんだけど、コラボアイスとどっちにするか迷うなあ」

「両方買いなよ」

「ひな。私を太らせる気?」

「大丈夫。これくらい食べても太らないから」

「それはひなだけだよ。私は気にするの」

「そう」

「ああー、もうー。どっちにしようー。うーん……」


 愛美ちゃんが悩んでいる。


「愛美ちゃん。もう決めた?」


 痺れを切らした俺が言う。


「うーん……コラボアイスにする」

「俺は珈琲フロートにする。雅弘は?」

「俺もコラボアイスだな。せっかくだし」


 皆それぞれに食べたいものが決まり、注文する。


 注文した品が完成してそれぞれ受け取った。椅子に座り、テーブルを囲み皆で食べる。


「くー、アイス最高」

「コラボアイス、チョコが高級なんだよね」

「このチョコ本当に美味しいよね」


 雅弘と愛美ちゃんがアイスの感想を言い合う。


「ひな。苺パフェはどう?」

「美味しい」

「そう。良かったな」

「うん」


 それからしばらく休憩して、再びアトラクションを回る。


「次はボーンデッドホラーハウス行こうぜ」

「お化け屋敷ー?面白そう」

「優斗とひなちゃんもそれでいい?」

「いいよ」

「うん」


 四人でボーンデッドホラーハウスへ行く。


「二人ずつお進みください」


 係員の人にそう言われ、愛美ちゃんと雅弘が入っていった。

 その後で俺とひなも続く。


「ひな。怖いの平気?」

「平気」


 薄暗い部屋を少し進んでいくと、ゾンビがガアアアと襲ってきた。


「きゃあああああ」


 ひなが悲鳴をあげた。そして俺にしがみついた。


「平気なんじゃなかったの?」


 俺は笑いながら答える。


「ち、違う。ちょっとビックリしただけ」


 それから少し進むと、倒れているゾンビがいる。


「お、襲ってこないわよね?」


 ひなが心配そうに言う。


「さあどうだろうな」


 俺はニヤニヤしながら答える。そして死体の前を通り過ぎた時、やっぱり死体は起き上がって襲い掛かってきた。


「きゃあああああ」


 ひながまた悲鳴をあげる。


「あはは。ひな。ビビりすぎだよ」

「ちょ、ちょっとビックリしただけよ」


 それからまた奥へ進んでいくと、今度は二体のゾンビが前からやってきた。


「うわあああ」

「きゃああああ」


 さすがに俺もビビッた。ゾンビのいない方へひなの手を引いて走っていく。

 すると今度は、立ち止まっているゾンビがいた。


「うわあ。これも絶対、通り過ぎる瞬間に来るやつだろ」


 そう言いながら、ゾンビの横を通り過ぎる。しかし立ち止まっているゾンビは、全く動かなかった。


「あれ?違った?」


 そしてひなが通り過ぎた瞬間、ゾンビが動き出した。


「きゃあああああ」


 ひなはビックリしてその場にしゃがみこんだ。ゾンビがひなに襲いかかろうとしている。


「ひな。大丈夫か?」

「無理」

「立てるか?」

「う、うん……」


 なんとかひなを立ち上がらせて、手を掴んで、そのまま奥へ進んでいく。そしてようやくゴールが見えた。


「ひな。もうゴールだ。頑張れ」

「うん」


 ようやくゴールにたどり着いた。


「お疲れさまでした」


 係員が出口へ案内してくれた。


「お疲れ。優斗」

「愛美ちゃん。どうだった?」

「うん。私叫びまくってたよ。ひなは大丈夫だった?」

「ひなも叫びまくってたよ」

「ひな。ホラー苦手だもんね」

「もう二度と行きたくない」

「あはは」

「あはははは」


 俺と雅弘は、笑った。


 次は怖くないものにしようという話になり、七つの海の海賊に行く事にした。

 七つの海の海賊は、海賊になって七つの海を冒険する船旅のアトラクションだ。

 人気アトラクションな事もあり、結構な人数が並んでいた。


「憧れるわ。船旅。男のロマンだな。優斗もそう思うだろ?」

「ああ。やっぱり海賊って聞くと血が騒ぐな」

「冒険物ってワクワクするよね」

「おっ、愛美ちゃんも分かる?」

「うん。分かる」

「ひなは?」

「何が楽しいのか分からない」

「自由な航海と宝物を見つける事なんだよ。それがロマンなんだよ」

「そうなの」


 順番がようやく回ってきた。俺達は船に乗り込んだ。


「よく来たな。見習いども。この船のキャプテン、クルスだ。お前らは今日から俺の船の見習いだ。しっかり働けよ」


 キャプテンクルス率いる海賊船ゴールデンマリー号が船旅に出発した。冒険の旅がスタートした。船に乗って進んでいると、宿敵でライバルのガーネット海賊団との戦闘になる。


「チッ。ガーネットの野郎。いきなり大砲撃ってきやがった。相変わらず話の通じねえ野郎だ。お前ら船にしっかり捕まってろ」


 船は揺れる。そして砲弾が船に命中する。


「うおおお。船に当たっちまった。だがこれくらいじゃゴールデンマリー号は、やられはしないぜ」


 宿敵ガーネットとの戦闘を終えて旅を続ける。すると今度は、急に天候が変わって嵐になってきた。


「くそっ……。なんて嵐だ。さすがのゴールデンマリー号もこの嵐には耐えられないかもしれない。ここまでか。……何?キャプテンの癖に弱気になるなだって?ははっ、そうだな。お前の言うとおりだ。野郎共、嵐を乗り切るぞ」


 派手な効果音と音楽、映像。そして船が揺れる。大迫力の冒険だ。


「ふう……。なんとか乗り切ったな。お前が励ましてくれたおかげだ。助かったぜ」


 それから船は宝島に上陸する。そこから蛇やワニとの戦闘がありながら森を抜けて、洞窟に入る。洞窟の内部は暗く、明かりだけが頼りだ。緊迫した空気が伝わってくる。空調もひんやりした空気になった。


「この奥に宝物が眠っているに違いない。お前ら、離れるなよ。……うわああああ」


 キャプテンクルスと一緒に穴に落ちてしまう。


「あいててて……。無事か?お前ら。随分と下まで落ちちまったな。出口を探さねえと」


 そう言ってキャプテンクルスと一緒に出口を探す。すると今度は、コウモリの群れが襲い掛かってくる。


「うわあああ。チッ。脅かしやがって」


 そして奥へ進んでいくと、ついに宝物を見つける。


「おい、あれを見ろ。宝だ。宝の山だ。やったぜ」


 そしてそこに大きなドラゴンが現れる。


「チッ。そう簡単に宝は渡さないって訳か。門番の登場だ」


 ドラゴンとの戦闘になる。その戦闘の最中、キャプテンクルスが深手を負ってしまう。


「ぐおっ……。チッ。油断したぜ」


 そしてなんとかドラゴンを倒した。


「どうやら俺の傷は思ったよりも深いみたいだ。俺はここまでのようだ。俺は宝を見つける事ができた。だからもう満足なんだ。人生に悔いはねえ。後はお前に託したい。俺の代わりの二代目キャプテンは、お前しかいない。頼んだぞ」


 キャプテンクルスは、そのまま息絶えた。そして宝を持って脱出する。


「ううっ……。キャプテンクルス……」


 クルーの皆がキャプテンの死に涙する。


「野郎共。悲しんでる暇はない。俺達は世界一の海賊になるんだ。七つの海が俺達を待っている」


 ラストのエンディングで、初めて主人公が喋った。そして終わりを迎えた。


 上映が終了し、アトラクションから出てきた。


「いやー、めちゃくちゃ面白かった」

「うんうん。迫力あった」

「クルスが死んじゃった時、ちょっとうるっときた」

「面白かった」


 四人とも満足した。


「ずいぶん遊んだし、そろそろ帰ろうか」

「そうだな」

「うん」

「あ、そうだ。その前にお土産見て帰ろうぜ」

「うん」


 四人で売店へ行き、それぞれに欲しい物を選んだ。


「ねえ。ひな。これ可愛いよ。くまのキーホルダー」

「ほんとだ」

「私買おうかな。ひなも買おうよ」

「うん」

「優斗は何か買わないの?」

「じゃあ俺はタンブラー買うよ」

「そうか。俺はピンバッジにしようかな」

「ひな」

「何?」

「あっ……。えっと……その……ひな、ボールペン買わないか?俺とお揃い」

「別にいいけど」

「そ、そっか。ありがと」

「なんでお礼言われるの?」

「い、いや……。べ、別に……」

「…………」


 俺はタンブラーと、ひなとお揃いのボールペンを買った。


「熱いね。二人共」


 雅弘が冷やかしてくる。


「う、うるせえ」


 俺は照れながら返した。それから帰りのバスに乗り込み、バスが動き出した。途中のトイレ休憩で寄った高速道路のサービスエリアでは、親へのお土産を買った。


 バスの中、東京エバーランドの話で余韻に浸る。


「いやー、超楽しかった」

「ほんとにね」

「お土産も良いの手に入ったし」

「うん」

「また行こうな」

「そうだな」

「うん。また四人で行きたいね」

「うん」


 そんな事を話している間に、バスは到着して帰ってきた。バスから降りて雅弘は、愛美ちゃんを。俺はひなを送っていく。


「なあ。ひな」

「何?」

「俺達ってどうして別れたんだっけ?」

「知らないわよ。あんたが私を振ったんじゃない。またボケてるの?」

「いや……。俺がひなの事を振るはずないんだ。俺は……ひなのことが……」

「もう済んだ事よ。私達は終わった関係」

「そんなことない。俺はまだひなのことが……」

「……帰るわ。もう家着いたから」

「あっ……」


 気が付けばひなの家に着いていた。ひなは何も言わず、そのまま家に入っていった。


「ひな……」


 俺はそのまま家に帰った。帰って自分が初恋サービスを利用した事を後悔していた。


「なんでだよっ……。どうしてっ……。どうして俺は初恋サービスなんて使ったんだよっ……。こんなにひなの事が好きなのに……」


 俺はベッドの上で涙を流しながら眠りについた。


 それから数日が経った頃の事だった。愛美ちゃんから連絡がきた。


「吹奏楽部の大会なんだけど、明後日なんだ。優斗君、来れそう?」

「うん。大丈夫だよ」

「そっか。ひなにもさっき連絡したら来れるって言ってた。でもね、雅弘君が来られなくなっちゃったんだ」

「えっ?どうしたんだ?アイツ、愛美ちゃんを応援するって楽しみにしてただろ?」

「うん。なんか家の方で法事があって行けないんだってさ。だからさ、ひなと二人で応援に来てよ」

「わかった」


 ひなと二人で応援か。この間、あんなことがあったから気まずいんだよな。でも俺はあきらめないぞ。ひなともう一度、仲直りするんだ。


 そして吹奏楽部の大会の日がやってきた。ひなとバス停で待ち合わせて、バスに乗り込んで大会の会場に行く。


「ひな」

「何?」

「あっ……。えっと……。愛美ちゃんの応援頑張ろうな」

「演奏会なんだから声出したらダメよ」

「そ、そうだけど……。こ、心の中でだよ」

「そうね」

「あっ。そうだ。お菓子持ってきたけど食べる?」

「いらない」

「そっか」

「うん」


 どうもうまく会話ができない。


「なあ。ひな」

「何よ」

「ひなはさ。俺のどんなところが好きだったんだ?」

「何それ。なんでそんな話」

「教えてくれ」

「……優しかったから」


 ひなはぼそりと呟いたが、俺にはよく聞こえなかった。


「えっ?」

「な、何でもないわよ。覚えてないわよ」

「そうか……」


 それからはお互い無言だった。そしてバスは、演奏会場近くに到着した。そこから徒歩十分くらいで演奏会場に到着した。


「着いたな」

「うん」

「結構広いな」

「そうね」

「席、前の方が良い?後ろがいい?」

「どっちでも」

「そうか。じゃあ良く聞こえるように後ろの席にしようか」

「うん」


 後ろの方のよく見える席に座った。それからしばらくして大会が始まった。各校それぞれの吹奏楽部が演奏する。どの学校もレベルが高い。そして愛美ちゃんとひなの学校である龍賀城女子の吹奏楽部が出てきた。


「おっ、きたきた」


 演奏が始まった。ブラスバンドの心地良い音色が、軽快な音楽を奏でる。俺には正直、どの学校も同じレベルの演奏に聞こえた。よく分からなかった。


「ひな。どう思う?」

「そうね。龍賀は結構良い線いってると思うわ」

「そうなのか」

「分からないの?」

「うん」

「ただ加山高校の演奏が一番上手かった。龍賀は負けたわね」


 そして結果発表になった。結果は、加山高校が優勝で、龍賀城女子は準優勝だった。


「ほんとだ。加山高校が優勝だ」

「はっきり言って頭一つ飛びぬけてるわ」

「そんなに違うのか」

「違うじゃない。なんで分からないのよ」

「ご、ごめん」


 それからしばらくして愛美ちゃんと合流した。


「お疲れ様。愛美」

「愛美ちゃん。お疲れ様」

「うん、疲れたー。あーあー、準優勝だったよ。絶対優勝したかったのにな」

「残念だったね。でも準優勝でも凄いよ」

「私達は優勝目指してたからね。だから悔しいよ」

「そっかあ」

「うん。あっ、私そろそろ行くね。部活の皆で反省会があるんだ」

「そっか。わかった」

「うん。二人共応援来てくれてありがとう。心強かったよ。気を付けて帰ってね」

「うん。ありがとう」


 それから愛美ちゃんと別れて、ひなと二人でバスに乗って帰った。


 ひなの家までひなを送っていく。


「ひな」

「何?」

「今度さ、海に行かないか?」

「海?いいわね。愛美と沖野君も誘って」

「あっ、う、うん。そうだね……」

「何?」

「い、いや。何でもない。きっと楽しいよ」

「そうね」

「本当は……」

「何?」

「いや、何でもない」

「それじゃ、私帰るわ」

「あ、うん。また……」


 気が付くとまた、いつの間にかひなの家の前まで歩いてきていた。 ひなが家に入っていったのを確認して、俺も家に帰った。本当はひなと二人で行きたいんだ。

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