第3話 ひなと仲良くなる作戦 その2
それから数日は、家で過ごした。風呂上がりに雅弘から着信があった。
「もしもし。どうしたんだよ」
「今度、四人で映画でもどうだ?」
「映画か。何を見るんだ?」
「当然、もう一度君に会いたいに決まっているじゃないか」
「ああ、テレビとかでも予告やっているよな。恋愛系?」
「そうそう。やっぱり女の子は恋愛系の映画が好きだと思うんだ」
「まあ別にいいけど。ちょっと気にはなってるけど」
「だろう?俺も気になってるんだよ」
「愛美ちゃんにも連絡したんだけど、オッケー貰ったんだ」
「えっ?雅弘、お前いつの間に愛美ちゃんの連絡先を知ったんだよ」
「この間のカラオケの帰りにな。連絡先教えてもらったんだよ。愛美ちゃんが連絡してくれて、ひなちゃんも良いって言ってくれてるみたいなんだ。後はお前次第だ」
「そうか。俺はいいけど」
「よしっ、じゃあ決まりだな。行く日が決まったらまた連絡する」
「ああ、わかった」
そう言うと電話は切れた。
映画か……。随分と行ってない気がする。映画楽しみだな。そう思いながら眠りについた。
それから数日が経ち、四人で映画に行く日になった。夕方、駅で待ち合わせて、そのまま映画館に行く事になった。待ち合わせ場所に着いた俺が少し待っていると、雅弘がやってきた。
「よお」
「おう。来たか」
「もう一度君に会いたい楽しみだな。予告編見てばっちり予習してきたぜ」
「どんな感じの話だったっけ」
「主人公は男子中学生の幸一で、家が隣同士で同じクラスの幼馴染の葉月と一緒に登校しようとするんだ。でもその葉月は、原因不明の高熱を出して学校に行けない。それが二週間続いて入院する。そして葉月を探す謎の男と出会って、葉月の高熱の原因を知るって話だ」
「なるほど。よく勉強してきてるな」
「当たり前だろう。愛美ちゃんに解説してあげられるように、制作秘話とかも色々調べてきたんだ」
「お前の努力は尊敬するよ」
そんな事を話している間に、ひなと愛美ちゃんがやってきた。
「お待たせー」
愛美ちゃんが元気よくこっちに向かって手を振ってきた。ひなも無言でぺこりと頭を下げた。
「映画、丁度良い時間になりそうだね。それじゃ行こっか」
四人で映画館に向かって歩いていく。
映画館に到着してチケットとポップコーンを購入した。トイレを済ませて劇場に入る。
席は一番後ろの真ん中を四席取る事ができた。一番後ろの席に座り、本編が始まるまでの間、次回公開の映画の予告編などが流れている。
「こういう予告編ってさ、色々面白そうなのチェックできるからいいよね」
「確かにー。私も結構予告編見るの好きなんだ。もう一度君に会いたいは、前に映画観に来た時に予告やってるの見て、見てみたいなって思ってたんだー」
雅弘と愛美ちゃんが話している。ひなは無言で予告編を見ている。
そして映画の時間になり、本編が始まった。
主人公の男子中学生、緑田幸一は幼馴染の白石葉月の家に行く。しかし葉月は高熱で学校を休む。その熱は原因不明で二週間続いて入院した。葉月の為、図書館で熱に効くものについて調べた帰り道、偶然出会ったクラスメイトに黒い服を着た不審者の男の話を聞く。それは女子中学生を探している黒い服を着た不気味な男の話だった。その帰り道、幸一は黒い服を着た不審者の男に出会い、葉月を知っているかと訊ねられる。しかしその時、警察官がやってきて黒い不審者の男は、その場から逃走してしまう。翌日、再び黒い不審者の男に遭遇した幸一は、葉月に何の用だと迫る。その時、どこからともなく現れたのは、ソフィアと名乗る女の子だった。ソフィアは黒い不審者の男をマスクと呼び、マスクと共に葉月を助ける為にやってきたのだと言う。葉月の病室に着くと、ソフィアとマスクはアルファ星からやってきた宇宙人だという。そして葉月もまたアルファ星人の遺伝子が入った人間であり、アルファ星で地球適応体手術を受けて十年アルファ星で過ごさないと葉月は死んでしまうという。悩んだ葉月だったが、地球を離れてアルファ星に行く決意をする。そして十年が経ち、葉月は地球に戻ってきて、幸一と十年ぶりの再会を果たす。
そんな話だった。内容は恋愛だと思っていたのに、SF的な要素が出てきて予想外な展開になった。マスクとの緊迫した会話のやりとりや葉月との別れのシーン。中でも最後の葉月との再会のシーンでは、目頭が熱くなった。最後まで飽きずに楽しむことができた。
「いやー、面白かったな」
「葉月役の子、超可愛かった。あれ誰がやってるんだっけ?」
「桃井若菜だよ」
「誰?」
「アイドルやってる子」
「へえー、そうなんだ。俺、アイドルとかあんまり詳しくないから誰だか分からなかった」
「最後のシーン、超良かったね」
「うん。再会して幸一が葉月を抱きしめるシーン、あそこで流れる音楽も最高だった」
「やっぱり映画館で見ると、迫力が違うからいいよね」
「私パンフレット買おうかな」
「めっちゃハマッてるじゃん」
「うん。ハマッちゃった」
愛美ちゃんと雅弘はパンフレットを買った。
「ひなは?買わないの?」
「私はいい」
「そっか」
それから四人で夕飯を食べて行く事になった。夕飯は映画館に併設しているレストランで食べに行く。店内に入ると客はそれなりにいたが、幸いにも混む前だったので、すぐに席に案内された。
「ねえ。ピザ頼んで皆でシェアしようよ」
「いいね」
「うん。いいよ」
愛美ちゃんの提案に俺と雅弘も乗る。
「ひなは?それでいい?」
「私はサラダ食べたい」
ひながぽつりとつぶやいた。
「じゃあ俺は、パスタ」
「私もパスタ」
「おっ、生パスタあるじゃん」
「おお、いいじゃん。私も生パスタにする」
シェアするピザとそれぞれが食べたいものを注文した。しばらくすると料理が運ばれてきて、皆それぞれに食べ始めた。
「なんかいいね。皆でこうやってご飯食べるのって」
愛美ちゃんが言う。
「皆で食べると美味しいもんな」
雅弘が言葉を返す。
「ねえ。皆って苦手な食べ物とかある?」
「俺は漬物がダメなんだ。特にたくあん。あれは無理だ」
「へぇー、雅弘君。たくあん苦手なんだ。優斗君は?」
「俺はパクチー」
「あー、分かる。私もダメ。ひなもパクチー嫌いだよね」
「うん」
「パクチーってなんであんなに不味いんだろうね」
「ほんと。あれ好きな人凄いよね」
「逆にさ、好きな食べ物は何?」
「俺はラーメンかな」
雅弘が答える。
「俺はカレーかなー」
「ひなは?」
「お寿司」
「あー、全部美味しいよね。私はね、オムライス」
「オムライスってふわとろのやつ?」
「そう。家で作ろうと思って練習してるんだけど、なかなか上手くできなくてさ」
「愛美、ふわとろのオムライスできないの?今度やり方教えてあげようか?」
ひなが答える。
「えっ?マジ?教えて教えて。ねえ。優斗君。ひなって料理上手だよね」
「あ、ああ……。そ、そうだね」
「食べた事ないくせに」
「……えっ?そ、そうだっけ……」
「うん」
「えー、優斗君。テキトーじゃん」
「あはは。なんか食べた事あったような気がしたんだ。ごめん」
「今度、ひなに作ってもらいなよ」
「……う、うん」
「……」
ひなは無言だった。
それから食べ終わり、雅弘は愛美ちゃんを。俺はひなを送っていく。
夜道を二人で歩いて帰る。
「ひ、ひな」
「何?」
「あのっ……。さっきはごめん」
「何が?」
「いや、その……ひなの料理食べた事ないのに食べたみたいな事言って」
「別に。気にしてないわ。記憶違いなんて誰にでもあることよ」
「そ、そっか」
「うん」
「………………」
「………………」
無言の時間が続く。
「あ、あのさ……」
「何?」
「今日は楽しかった。また四人で出かけような」
「うん」
ひなを家まで送っていき、別れた。家へと帰ってきてベッドに寝転んだ。
「はぁ……。今度は二人で出かけようって言えなかった」
俺はそのまま目を閉じて眠った。
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