第2話 ひなと仲良くなる作戦 その1

学校が終わり、家に帰ってベッドに寝転んだ。そしてスマホを手に取り、愛美ちゃんにメッセージを送った。


「ひなの事なんだけど、どうだったかな?」

「あっ、優斗君。ごめんね。連絡するって言ったのに連絡できてなくて。いやー、昨日ひなと話してたら色々な話して盛り上がっちゃってさ。あ、でも大丈夫だよ。ちゃんとひなに何か怒ってるかどうか聞いたんだけど、別に何も怒ってなかったよ」

「そっか……。ならよかった。俺の気のせいだったのかな。あ、愛美ちゃん。ところでさ、雅弘の事って覚えてる?」

「雅弘?ごめん、誰だっけ」

「あー、えっとね。俺の友達の」

「あー、ごめん。あんまり顔は覚えてないかも」

「良かったらさ、夏休み入ったら俺と雅弘、ひなと愛美ちゃんの四人で遊ばない?」

「うん。いいよ。私の吹奏楽部の練習のない日なら遊べるかな。なんだか楽しそうだね」

「よかった。それじゃ、また連絡するよ」

「うん。了解。それじゃ、またね」

「うん。また」


 翌日。今日は修了式の日だ。朝、バス停に行くとひなが先に来ていた。俺はひなに話かけた。


「夏休み、愛美ちゃんと雅弘の四人で遊びに行かないか?」

「別にいいけど」


そっけない返事をしたひなは、そのままバスに乗り込んだ。


学校に着いて雅弘と話す。


「それで遊ぶって言っても何して遊ぶんだ?」

「そりゃ色々だよ。カラオケ、ボーリング、映画行ったり海行ったりだ」

「色々ねえ」

「いいか。一緒に過ごす時間が増えれば、愛美ちゃんと仲良くなるチャンスも増えるだろう。それにお前にとってもひなちゃんと仲直りできるチャンスだ」

「そうだな。夏休みを使って、なんとかひなともう一度やり直せるように頑張るよ」

「ああ、そうだ。その意気だ」


そうして修了式も終わり、ついに夏休みを迎えた。


龍賀城女子は、明日が修了式らしい。俺達は一日早く夏休みに入った。その間に遊びの計画を練る事にした。俺は雅弘に連絡した。


「それで最初は何をするんだ?」

「そうだな。やっぱり一発目は、無難にボーリングじゃないか?それで、その後はカラオケだ」

「ボーリングしてカラオケか」


 ボーリングは別に得意という程ではないが、苦手でもない。まあカラオケも楽しいから俺は割と好きだ。


「じゃあそれでいいよ」

「よし、決まりだな。愛美ちゃんに連絡しておいてくれよ」

「ああ、わかった」


 俺はボーリングとカラオケに行こうと愛美ちゃんに連絡した。


「オッケー。ひなにも伝えておくね」

そしてダブルデート当日。俺が待ち合わせ場所に行くと、雅弘が先に来ていた。


「よっ。来たか」

「早いな。待ち合わせの時間までまだ結構あるぞ」

「楽しみで早く来たんだよ。愛美ちゃんに久しぶりに会える。くー、たまらない」

「ハメ外し過ぎるなよ?」

「わかってるって。お前もひなちゃんと上手くやれよ」

「ああ、頑張るよ」

「お待たせ。ごめん、待った?」


 ひなと愛美ちゃんがやってきた。


「ううん。今来たところだよ。えーっと、ごめん。誰君だったっけ」


 愛美ちゃんが申し訳なさそうに言った。


「沖野雅弘です。よろしく」

「沖野君だね。よろしくー」


 愛美ちゃんがそう言った後、ひなもぺこりと頭を下げて会釈した。それから四人で移動してアミューズメント複合施設であるラウンドツーに行った。

それからボーリングの受付を済ませ、ボーリングが始まった。最初の一ゲーム目は、それぞれの個人戦だった。雅弘が百五十五点。俺が百三十点。ひなが百一点。愛美ちゃんが八十九点だった。それからニゲーム目になった時、雅弘が提案した。


「なあ。チーム戦にしないか?優斗とひなちゃん。俺と愛美ちゃんでチーム戦にして合計得点の多い方が勝ち。負けた方が今日の晩飯奢るってのはどうだ?」

「いいね。面白そう。やろうやろう」


 愛美ちゃんがノリノリだった。


「俺は別にいいけど」


 俺が言うとひなもいいよと言った。


 こうして晩飯をかけたゲームが始まった。前半、雅弘と愛美ちゃんがストライクを連続で出して点数が離される。これは負けたかと思われた中盤、愛美ちゃんが連続ガーターでチャンスが訪れる。そこに俺とひながストライクを出して、形勢は互角になった。ボールの一投一挙手に一喜一憂し、ハラハラとしたゲームが展開されていく。そして最終フレーム。点数差は二本差で雅弘愛美ちゃんチームに負けている。ここでストライクを取れば勝ちだ。そして投げるのは俺。皆が俺に注目する。そして投げた。球は真っ直ぐ勢いよく転がっていき、真ん中のピンを倒して、そこから一気に全てのピンが倒れた。


「やった!!」


 俺は思わず声をあげた。


「うわぁああああ」

「あああああ」


 雅弘と愛美ちゃんの落胆の声が聞こえる。


「ひな、やったよ!!」


 俺はひなのところにいき、ハイタッチをしようとする。しかしひなは、ぽかんとしていて何それという表情をしている。


「あ、ああ……。ごめん。興奮してつい……」


 結局、ひなとハイタッチをする事はなかった。


そして夕飯を食べる為、一度ラウンドツーを出て近くのファミレスに移動した。カラオケの中で食べるよりもファミレスで食べた方が安いし、メニューの種類も色々豊富だし、味も美味しいからだ。


「じゃあ俺、ハンバーグドリア」

「私、カルボナーラ」


 雅弘と愛美ちゃんは、すぐにメニューを決めた。


「俺はどうしようかな。チキン南蛮で」

「私は豚の生姜焼き」


四人ともメニューが決まった。ドリンクバーにドリンクを取りに行く。


「愛美ちゃん。ドリンク取ってくるよ。何がいい?」

「ありがとう。じゃあオレンジジュース」


 雅弘が愛美ちゃんのドリングを取りに行ってあげようとするのを見て、俺もひなに言った。


「ひなは?何がいい?取ってくるよ」

「いい。何があるか知らないし、自分で行く」

「そ、そう……」


 ドリンクをテーブルに持って来て、四人で話す。


「それでね。私、吹奏楽部なんだけど、打楽器の先輩がね。ほんと性格きつい人でさ」

「うんうん」


雅弘は、愛美ちゃんの話に相槌を打っている。二人は割と良い感じだ。距離も縮まって仲良くなっていた。


「ひなは?最近どう?」

「どうって。先週と何も変わらないわよ」

「そ、そう……」


 俺の方はというと、あまり上手く会話ができていないのだった。晩飯を食べ終えて、ラウンドツーに戻ってカラオケルームの受付をした。部屋へと案内され、席に着いた。

 早速、歌い始める。


「じゃあ一番は、俺がいかせてもらいます」

「わー!!パチパチパチ」


 愛美ちゃんが拍手する。それを見て俺とひなも拍手する。


「それで雅弘。何を歌うんだよ」

「キセキ」

「出た。雅弘の十八番」

「えー、そうなのー?」

「うん」


 雅弘がキセキを熱唱する。流石に自信のある曲なだけに、結構上手い。


「おー、雅弘君。歌上手いね」

「えー、そうかなー?ありがとう」


 どうやら愛美ちゃんに好印象を与えたようだ。


「じゃあ次は私だね」

「よっ!!愛美ちゃん!!パチパチパチ」


 雅弘が拍手する。


「じゃあ愛の向日葵にしようかな」

「可愛い選曲だー」


 雅弘が盛り上げる。そして愛美ちゃんが歌う。かなり上手い。


「最高!!」

「ありがとう」

「次は優斗。お前歌えよ」

「俺か。何にしようかな」


 散々迷った挙句、俺は小さな恋のうたを歌った。


「おー、いいね」

「どうも」

「次はひなだよ」

「私も歌うの?」

「当たり前だよ。カラオケ来たんだから」

「そう……。じゃあ……」


 ひなが入れたのは、丸の内サディスティックだった。圧倒的な歌唱力で歌い上げる。


「上手ぁあ!!」

「ヤバイ……」


 俺と雅弘が驚いて声をあげる。


「ひなはレベルが違うからね」


 愛美ちゃんがドヤ顔で言う。本当にプロレベルだ。


「っていうか、優斗君。ひなとカラオケ行った事ないの?」

「えっ、あー……」

「行った事ある」


 ひなが答えた。


「う、うん。あるよ。あ、あるけどさ……。何回聞いてもヤバいよね」


 上手くごまかせた。


「だよねー。私もいつも行くと、自分が歌うよりひなが歌ってるの聞いてたいもん」

「だ、だよね」


 雅弘が危なかったなと視線で合図してきた。俺もああ……と目で合図した。


「よーし、次はアニソンいっちゃおっと」

「いえーい」


  俺達は、四人で遅くまでカラオケをして楽しんだ。


 カラオケの帰り道、暗くなってきたし、雅弘は愛美ちゃんを。俺はひなを送っていく事にした。


「ねえ。優斗」

「な、何?」

「私とカラオケ行った事覚えてないの?」

「お、覚えてるよ」

「そう。なんだか私が歌ったの、初めて聞いた時みたいなリアクションだったから」

「いや、何回聞いても上手いってなるって。ひなは歌上手いからさ」

「そう……」

「そ、それよりさ。この夏はいっぱい遊びたいな。四人で色々な事してさ」

「そうね」

「あー……実はさ。愛美ちゃんには、黙っていて欲しいんだけど、雅弘の奴、愛美ちゃんの事が好きなんだ」

「そう。愛美は良い子よ」

「うん。だよね。俺もそう思う。雅弘も良い奴だし、俺、あいつに協力してやりたいんだ」

「そう」

「それで俺も……」


 俺もひなとやり直したい。そう言いたくなったけど、言う事ができなかった。


「何?」

「いや、何でもない」

「ここでいいわ」

「えっ?」

「だってもう家だし」

「あ、ああっ……。そうだよな。うん」

「…………」

「そ、それじゃ。またな」

「うん。また」


 ひなは立派な豪邸の中に入っていった。


「ここがひなの家なのか。すげえ金持ちなんだな……」


 俺は独り言を呟いた。お嬢様学校に通っているからある程度の金持ちだとは思っていたけど、まさかここまでとはな。俺もそのまま家へと帰った。

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