12 支配者の生き方

 令は自販機に向けて歩いていた。

 その数分前に宙から届いたメッセージの内容が、


『話がしたい。とりあえず午後ティーのレモンティー買ってきて』


 というものだ。


「あのなぁ、僕が悲しいくらいに平凡なのは間違いないけどさ、何故にわざわざパシらせる!?」


 令の魂の叫びは、自販機だけが確かに聞き届けていた。


 世界の最高権力者をパシらせる豪胆な令嬢は、屋上でハンドスピナーと戯れていた。


「曲芸みたいなことしてるな」

「悪い?」

「悪いとは言ってない」


 二人の間にある緊張感の正体は、令の恐怖と宙の口下手のハーモニーである。


「(こいつ、イマイチ何考えてるかわからないんだよな。接しづらいったらない)」

「(どこかにこの男を口説き落とす秘策とか転がってないかしら)」


 得体の知れない令嬢に怯える令と、とにかく家のために目の前の利益の塊に取り入りたい宙。方向性は違えど、二人の考えていることは同じである。


「「(こいつと上手く会話する糸口がほしい!)」」


 咳払いをひとつして、令が切り出した。


「それで、なんで僕を呼んだの?」

「やっぱり私を嫁にしない?」

「お前はボットか!?」


  何度やっても同じ会話にうんざりしてきた令は、宙に紅茶を投げると、踵を返して屋上を去ろうとする。


「待って!」

「なによ」

「もっとお互いを知ってからでも遅くはないわ。今度一緒に遊ばない?」

「ネットによくいる出会い厨みたいだ……」

「デアイチュウ……?ソフトキャンディか何かかしら?」

「……」


 しかし、と令は考える。先代のことは関係ないが、彼女が欲しいというのも確かにある。


「(こんな彼女嫌だけど)」


 ともあれ、一度しっかり宙について知っておくだけでも、判断材料くらいにはなるだろう。そう思えば、宙の提案も一理ある。


「一理ある、が。拉致られたり洗脳されたりしないかすっごく不安なんだけど」


「その心配はございません」

「どっから湧いた?」


 令の隣には、いつの間にか花乃がいた。

 花乃はもみあげをいじりながら淡々と説明する。


「司道様の身の安全は、この街に待機中の1万名のエージェントにより保証されています。万一星影様やその配下の方が不審な行動を見せた場合は、即座に抹殺いたします」

「ちなみに、以前に何度か実例があるそうよ。名家や大きな財閥では司導の人間に手を出すことはタブーになってる」

「ものすっごく怖いけど、安心はできるってことか」


 令の身の安全は、令が思うより厳重に保護されている。なぜならば、令が死ぬと言うことは、世界の中心が崩れ落ちるに等しいからである。


 令は花乃を見て、宙を見て、自分の両手を見つめた。

 自身の権力や地位の片鱗を見て、湧いてきたのは万能感ではなく息苦しさであった。


「あ、それとね。司道くん、別に奔放に生きていいと思うわよ。あのクソお……先代様もかなり自由な方だったし、トップを好きにさせる体制が整ってるらしいから」


 令が花乃を窺う。


「ええ、むしろ責務や閉塞感で心労を感じられては、重要な決断に支障をきたしかねません。司道様の生きたいように、生きられるとよろしいかと」


 令は静かに目を閉じ、深呼吸をし、そして一言、


「君たちエスパー?」


 とだけ呟いた。

 令の生活に増えたのは、面倒ごとの火種と、小うるさい同居人だけである。


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この世界はたった今から僕のモノ!? フランシスコ家光 @Fiemitsu

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