10 有名人と噂の人と凡人と
「え、花乃さん!?」
「なんだ、令の知り合い?」
「う~ん……まあそんなところかな」
知り合いどころか部下にあたる人物なわけだが、部外者であるなぎさに言えるわけがない。
令のその返答に、なぎさの瞳が妖しく光ったことに、令は気づかなかった。
「ふぅん。転校生ちゃん、アンタ名前は花乃っていうんだね」
「はい。苗字は天井と申します」
職業柄か、素早く落ち着きを取り戻した花乃は、いつもの調子で答える。
同じく光ったなぎさの瞳を、花乃は見逃さなかった。
「(この人は……要チェックね)」
何をチェックするというのか。
花乃の経験上、なぎさのような人物は組織にとって危険な存在であることが多い。
花乃の心配は見事的中である。なぎさは『紅の冠』に厄介事をもたらすのだが、それはまた別の話だ。
「天井花乃ちゃんっていうんだ。可愛い名前」
「そうですか?ありがとうございます」
なぎさがその懐っこい笑顔の下で何を考えているのか。それを想像しただけで、背筋に液体窒素が流れそうな心持ちの花乃であった。
実際には、なぎさは言葉以上のことを考えてはいなかったのだが……。
再び令たちの教室。帰り道からご機嫌だったなぎさが、興奮気味に話し始める。
「かっわいい子だったね~!しかもお淑やかな感じもポイント高いっ!あれは確かに群がるわ」
「人を虫みたいに……」
「HAHAHA、人間が虫のようだ!」
令はため息をひとつ吐く。なぎさのネタに心が冷めたこともあるが、なにより、花乃が転校してくるイレギュラーが令の思考を圧迫していた。
(まあ、花乃さんも考えがあってやってるんだろう。帰ったら説明してもらおう)
そこまで考えて、令は思考を打ち切った。
「なぁに黙り込んでんの。授業始まるよ」
「ま、帰ればわかることだ。授業授業、と」
教師が教室に入ってくる。彼が令と面識のある教師ではない人物だとは、未だ花乃の登場に対する動揺から立ち直れていない令は気づかない。
まっすぐに帰宅する。花乃が来てからは基本花乃が買い物を済ませてくれているが、今日、花乃は学校に来ている。
一刻も早く帰って花乃を問い詰めたい令は、まぁ後で買いに出ればいいだろうと、知的好奇心を優先した。
「ただいまァ、花乃さんいるーー??」
ドアを開け、開口一番、令は花乃を呼んだ。
後に花乃から聞かされる数々の事後報告に、令は度肝を抜かれることとなる。
第二章 完
■キャラ紹介■
□
令の同級生。学校どころか世界屈指の情報通。愛らしい見た目と気さくな言動に似合わず、中身はかなりクレバー。信頼した人間としか口を利かないという徹底した態度を取っており、その対象は絶賛喧嘩中の両親に対しても有効だ。
どうやらただの情報通ではないようだが……令に何も話していないばかりか、この物語のヒロインポジションであるからには、絶対に何かあるだろう。
続
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