2 トチ狂った権力というもの

あてんしょん!数少ない真面目回です。ネタ要素ほとんどないです。ごめんなさい!次回のネタに乞うご期待!


 ──本編


 令は糸が切れたパペットのように、ドサッと地面に尻餅をついた。


「いきなりスケール大きすぎるでしょ……。ていうか、なんで裏社会のボスが世襲制なの?明らかに狂ってるって」

「いくら文句をおっしゃろうと、司道様が次の『裏社会のボス』なことは変わりませんよ」


 残酷な現実を突きつける花乃。その口元を見れば、この状況を楽しんでいることが容易に見て取れる。

 その様子に密かな苛立ちを感じながら、令は気になっていたことを質問した。


「さっき、詳しくは後で説明するって言ってたよね?裏社会のボスって具体的に何なの~とか、いろいろ説明してくれ」


 待っていましたとばかりに、花乃は語りだした。


「はい。司道様は『裏社会のボス』──正確には秘密結社『紅の冠くれないのかんむり』の頭に就任されたわけですが、この組織は公には"今は存在しない過去の組織"という認識となっています。司道様ご自身も、どこかで紅の冠という言葉をお聞きになったことがあるのではないでしょうか?私はどうにも、『くれないの?冠』という悲愴な心持ちが名前の由来に思えてしまいます。……余談でしたね。失礼いたしました。

 『紅の冠』はその『冠』という字が示す通り、絶対的な"王"を頂く組織です。それこそ、世界を統べる王を。それゆえに『紅の冠』の頭には間違いなく、独善的ではなく、指揮を執ることが求められます」


 これは……想像以上にスケールが大きく感じる。令は慌てて問うた。


「え、それって、ふさわしくないって判断された場合はどうなっちゃうのさ!?」

「死、あるのみです」


「やっぱそういうやつー---!?ああ、もう、どうして僕がこんな……」

「安心してください。落ち着いて!──そのために、我々がいるんですよ?世継ぎがいないということで、先代が余命宣告されてから急ピッチで、優秀かつクリーンな構成員をかき集め、次代のための補佐役チームが作られたのです。目的はただ一つ。帝王学も政治も経済も何も学んでいらっしゃらない次代──司道令様がきちんと頭を務められるよう、助言、教育、執務の代行などを行うことです」


 令はホッと胸を撫でおろした。

 目の前の女性、天井花乃は優秀な人間だと考えていいだろう。このクラスの人材があと何人かいるのならば、そうそうまずいことにはならないだろう。そうあってほしい。

 そうなると、次に気になってくるのは……。


「そんなに優秀な人たちがいるんなら、僕は何をやったらいいんだ?ってかやることあんの?」

「あります。有り余ってます。先ほども申し上げた通り、司道様は本来であれば、世界情勢のあれこれを、おひとりで、調整されるのです。ですが現状そうしてしまうと世界が終わってしまいますので、我々が、司道様が独り立ちされるまでの滑走路となる。ただそれだけのこと。

 基本的には私と、必要に応じて部下が執務を代行いたします。司道様はそれをご覧になって、執務というものを肌で覚えていただくと同時に、ご自身のご意向をお伝えください。実現不可能か、あるいは即☆世界を滅ぼすご命令でなければ、即座に反映いたします」


 そこまで言い終えて、「そうだ」と手を打つ花乃。


「よろしければ、簡単な命令をなさってみてはいかがでしょう?ローカルな、すぐに結果が出るようなものを」


 それを聞いて、令の眼がキラリ、と光る。大抵この目をするとき、令はロクなことを考えない。


「じゃあさァ、いつも僕をおいてくやつらが掃除の楽しさとか、効率的にやれば一瞬だってことを理解するようにできない?」


 微かに、花乃のため息が聴こえた気がしないでもなかった。


「チーム令に告ぐ。司道様のご命令よ。案の定って感じだけど、事前にマークしていたType Bの生徒をシメなさい。『掃除は楽しい』『効率的にやればすぐ終わる』この二点をみっちり教え込むのよ」


 教室に、スマホを耳に当てた花乃の勇ましい号令が響く。


『了解!(就任早々人使いが荒いぜ、まったく……)』


 一部愚痴が混ざっていたが、数人の男と一人の女性の、これまた勇ましい返事が返ってくる。


 今さらだが、自分の立場を思い知った令であった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る