この世界はたった今から僕のモノ!?

フランシスコ家光

第一部

第一章 この世界は貴方のモノ

1 世界を得た瞬間

 さて困った。開始早々そこはかとなく困っている男子高校生が一人。彼の名を司道しどうれいという。この物語の主人公にして、平凡少し下のグレードをキープし続けているただの高校生だ。


 そんな令だが、『平凡少し下』というのがミソで、困っている原因はそこにある。


「あいつらさぁ、教室の掃除もできないくらい多忙な毎日送ってんの?

 あれかな、友達いっぱいで楽しいスクールライフを満喫してんのかなァ!僕にも少し分けろ!」


 無理な話である。

 周りより少し劣っている令は、絶妙な具合にいいように使いやすいらしい。そのため、掃除の代行やパシリなどをさせられることが多々あるのだ。


 断じて、善意でやっているわけではない。


 善意のボランティアは黙々と、ただ黙々と掃除をやり始めた。

 こんなもの、きちんと真剣にやればものの十数分で終わるのだ。チンタラやっているから時間を取られることを、彼らにも自覚してほしい。


 善意の塊はただ一心不乱に手を動かす。

 それ故か、あるいは相手が超人だったからか。令は自らの背後にいつの間にか立っていた人物に気がつくことができなかった。


「司道様。こちらにおいででしたか」

「はんぁ!?」


 誰もいないはずの多目的室。近づく足音すら聞こえないまま、背後から声をかけられた令は思わず奇妙な声を上げてしまった。

 いきなり声をかけられたことに驚く令だったが、直後、別の驚きに直面した。


 振り返った令の目に飛び込んできたのは、小柄ながらも異常な存在感と目力の、漆黒のスーツに身を包んだ女性だった。


「え、アンタ誰?」


 少なくとも記憶にある限りでは、このような『強い女性』を絵に描いたような人に「司道様」などと呼ばれるフラグなど立ててなどいないはずだ。


 問うてから今一度、令は目の前の女性を眺めた。

 スレンダーながらもスタイルはよく、顔も含めてグラビアアイドルになれそうな人だ。長い茶髪を、まさかのシュシュで束ねてポニーテールにしている。

 声は愛嬌があるような気もするが、重厚な響きに冷静な口調も相まって、声だけで圧倒される勢いだ。


 女性は「大変失礼いたしました」と美しいお辞儀をしてから名乗った。

「私は天井あまい花乃かのと申します。後ほど詳しくご説明いたしますが、ひとまず司道令様直属の部下と名乗らせていただきます。

 司道様の身の回りのお世話や手続き等の代行など、経験のない貴方様のサポートをいたします」


 ひとつネタバレをしよう。花乃はメインヒロインである。


 その名前の可愛らしさや肩書きなどにも驚いたが、令はあるひとつのワードに興味を示した。


「え、なに、身の回りの世話?」

「ええ。荒れに荒れた貴方様の汚部屋を、最低限御身分に相応しいくらいには整えて差し上げたり、カップラーメン主体の食事にメスを入れ、バランスの取れた健康的なお料理を作って差し上げたり、あとは……」

「いやそうじゃなくて!……そうなんだけど!

 なんでいつの間にか僕はお世話されることになってんのさ。一介の学生だよ?」


「それが……そうでもないのです。これをご覧ください」


 令は花乃に、両面にびっしりと字が印刷された一枚のA4コピー用紙を渡された。


 ざっくりと内容を要約すると、

 世界の裏社会全てのボスをやっていた、令の遠い遠い親戚のおじさんが亡くなった。

 彼には妻も子も親兄弟もおらず(というより殺された)、母親は生前に父親と離婚・絶縁しており繋がりが辿れない。父親には兄弟がおらずさらに遡って云々カンヌン……。

 という経緯を経て令の父親にお鉢が回ってきたが、令の父親は見事にそれを蹴った。最終的に令しかいないわけだが、親権者である父親の承諾を得て……。


「晴れて僕はこの世界を裏で牛耳るクソヤベェ組織の親玉になりました、と」

 令は静かに深呼吸し、そして、


「僕の意思ってないのかな?」

 と、にこやかに花乃に問う。

「もちろん、ありませんわ♪」


 花乃から同じくにこやかに返ってきた答えをもって、世界は令の掌にすっぽりと収まったのであった。



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