SS1:風魔鉄砲隊・2

 1556年5月下旬

 伊豆国湯ヶ島砂金採掘場



 昨日大々的に鉄砲を使い、『大げさに』ここ砂金採掘場を占領した。

 鉄砲の音が木魂し遠くまで聞こえるように。


 そこまでやる必要はなかった。

 高々300の兵しか詰めておらなかった。

 この程度なら昔ながらの風魔の攻撃でも殲滅・占領できたであろう。しかし……

 

 今、その音と逃げ散って行った足軽の報を受けてこちらへ急行して来た者どもを討ち取る。


 山道を騎馬と徒武者に率いられた集団が速足で近づいてくる。

 儂らは倒木で道を塞いだ両側の山林に左右に分かれて埋伏した。


 今川の武者も馬鹿ではない。

 左右に伏兵がいるのを想定した指示を出す。


 これを待っていた。

 今までの訓練、『敵の指揮官を見つけ出す』ことと『その打ち損じが無きように標的の分配指示』をする。


 『はんどさいん』にて先手3人の徒武者のうち右の者を第2班。

 左の者を第3班、という様に各小隊長が分隊に指示をする。

 そして『分隊全員』10丁の鉄砲で一斉に狙撃する。


 一瞬で敵の8名の指図をしていた武者や物頭がいなくなった。

 勿論この『戦闘集団であったもの』は『逃げ惑う民』となった。

 もしもまだ戦闘意欲を示すものがいたならば、残りの鉄砲20丁にて黙らせる。

 

 葛山殿の領地より東と南から完全に今川の息がかかっていると思われる者を排除した。先に草を置いてその目星を付けていたからそれは容易であった。


 葛山殿の兵にその後の統治を任せて、風魔山岳猟兵は甲州から南下するであろう武田の後詰を混乱させる任につく。


 本来なればあちらこちらの崖に細工をして通行が困難となるようにするだけで事足りる。

 また撒菱や罠を仕掛ければよい。


 だがここは重要な街道だ。

 ここを大胡の手の者が使えなくしたとなると商人を始めとしたものに迷惑をかけ、悪名が瞬く間に広がろう。


 それ故、これは出来ぬ。

 

 来た。武田の兵、およそ1000というところか。

 伊豆駿河に大胡が手を出したと聞き、今川の大事と見てすかさず今川の要請に答えたのであろう。


 もう動員してあったという事だ。西の織田との戦に駿河の兵をあまり出さぬと思うたら、やはり葛山殿の謀反を警戒していたか。

 これを駿河に入れてはいかぬ。


 最近、火薬の供給が減った。

 だから工夫をする。


 まずは古来の様に、風魔の業による急襲。

 街道の足軽を狙う。

 兎に角こちらの被害を無くすために与える被害は最小限に。


 そしてわざとこちらに追っ手を向けさせる。


 かかった。

 およそ100の兵が山の中に分け入ってきた。

 これを十分本隊から引き離し、鉄砲で指揮官を狩る。


 兵が逃げていき報告。

 追っ手を躊躇わせる。


 そしてまた襲撃。

 これの繰り返し。


 敵の指揮官も減らせる。

 行軍速度も遅くなる。


 殿の「おうだあ」(要求・注文という意味らしい)に全て叶う。


 武田が駿河の今川勢と合流する時には疲弊しきっており、そこへ今川義元の戦死が伝えられ踏んだり蹴ったりで尻尾を撒いて甲斐へと帰って行った。


「おつかれちゃん。

 こたろーちゃん、ぱーふぇくとおーだーでしたね!

 花丸! 瀬川っちから金一封じゃなかった100封貰っていってね」


 殿の燥ぎようは見ていて楽しい。

 これが「でかした。小太郎」だけで終わる普通の大名・北条との違いか。

 喜ばせ甲斐があるとでもいうのか。


 また次もこの笑顔が見たいと思わせるのは一種の才能であろう。

 人が寄ってくる。

 大胡が強いわけだ。


「じゃあ今の所、次のオーダーはないから、西国とかで稼いで来たら?」


 それもよいのだが……


 此度の戦功を子細に(戦術は教えていないが)記した感状を頂いた。


 これがあればどこでも雇うてもらえよう。

 だがそれでよいのだろうか?

 また蔑まれて戦働きをすることに耐えられるか?


 「穢し」

 「卑怯」

 「影の者」


 などという扱い、皆が耐えられるとは思わぬ。


 山で生活していた時とは意識が全く変わった。

 皆、市井の者として生きていくことが当然となっている。


 戦は仕事だ、それも大胡のためになるなら大胡の民は喜んでくれる。


 傭兵はどうだ? 


 大して儲けが出ないにもかかわらず、下種な扱いを受ける。


「派遣社員と正規社員の違いだね」

 と、殿がおっしゃていた。


 良くは分からぬが、大事に扱われるか外部の者として働かされるだけで待遇が悪く、何時でも切り捨てられるという事だと教えられた。


 傭兵とはまさしくそれだ。都合の良い時に使われ、見殺しにされる。


 これが草の運命。


 これが当たり前だとの思いが強くそれが誇りだと思い、『山岳猟兵』でもあり『傭兵』でもあるという条件にて、この部隊を作った。


 しかしそれが間違えであることにようやく気付いた。

 人の忠誠心は金ではなく雇う側の『心持ち』によって贖えるものであった。

 今日帰ったら総括して、この結論を皆の者と分かち合おう。


『大胡の民と生きよう』と。




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 作者の創作意欲のエネルギーとなります!





 む、難しい。

 別個のストーリーとして作るのは結構大変です。

 メインストーリーは流れが出来ているので簡単ですが、読み切りって難しいです。

 ちょっと流れに無理があるところもありますが勘弁してくださいませ。



 明日から「南部戦線」です。

 あの兄弟が活躍?します。



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