SS1:風魔鉄砲隊・1

 ショートストーリーその1を公開いたします。


 あまり盛り上がりませんが、

 こういった書ききれない部分は

 今後ともSSとして書いていくつもりです。


 それ以外の「血沸き肉躍る活劇」みたいなのも書こうかと。

 でもこっちは独立したサイドストーリーにするかもしれません。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 1553年11月下旬

 上野国那波城南東北条長綱本陣



「長綱様。小太郎にございます。遅くなり申した。那波城の中の様子わかり申した」


 偽報を伝えた。

 悔しかった。


 ガキの頃より、先代の小太郎から「北条の目となり耳となり第3の手となれ」と言われ続け、配下にも言い続けた。

 その儂が北条を裏切った。


 長綱様の前を退出する際、自らの手にて軽く傷をつけた体を億劫に動かす芝居をせずとも足取りが重くなる。

 真田素ッ破の頭目、石堂という奴に言われんでも分かっていた。


 もうこのままでは風魔は消滅する。

 足腰の立つものを総動員しているが既に遅い。


 精鋭が倒れたため、それを補うために働くものはすぐに倒される。

 そしてその者が(大抵引退間近の初老)今後育てるはずの若者の質が落ちていく。


 もう箱根の集落にいる者は女子供、老人が殆どだ。

 これでは山で生きていけぬ。

 風魔一族の未来を決定する立場にある者としては己の心情に引きずられてはいかぬ。


 だから大胡に降った。


「あ……謝らないよ。戦だからね。でも……小太郎殿。よくぞ、よくぞ決心してくださった。辛かったであろうに、よくぞ、よくぞ……」


 小さな若き武将が、膝をついている儂の前にて同じく膝を突き、泣き声のような言葉を絞り出している。


 これが氏康様を討ち取った大胡政賢……殿か?


 日ノ本にその名を轟かした相模の獅子を屠ったのであるから、もっと誇り驕り高ぶっているものかと思っていたが。先程チラと見たが傷を負って捕らえられた北条方武将にも一人一人声を掛けていた。


 やはり儂への対応と同じく、その者の苦悩を聞き出しそれに共感して涙する寸前まで行く。


 そして、それを見た周りの者が「憎っくき大胡の鬼」の正体に気づくのだ。

 芝居だと思う者もいるが本当に童のような純朴な目だ。

 次第に頑なな心が溶かされていく。


 草の者も共の芝居とも違う。

 多分この応対が及ぼす相手への効果を知っているのであろうが、これはもう芝居の域を超えている。


 本心であろう。

 誠に悲しみ、憐れんで、自らの痛みとして感じられている。


 これが石堂……殿と幸綱殿が惚れ込んでいる御仁か。

 合戦謀略内政そして人心掌握力。

 全てで北条を上回った。


 小さな領国を急速に発展させれば自ずと無理が出る。

 一人が頑張っても大したことは出来ぬ。


 それを行うには集団に属する者が全て同じ方向を向き進むときに最大の力が現れ大きな収穫が得られる。

 

 草にはそれが出来ぬ。

 それで那波の大損害を招いた。


 もっと戦場での組織力を養うべきであったのだ。

 この巨躯も素ッ破2~3人を倒す力がある。

 そこまで鍛えた。

 が、そこまでだ。


 素ッ破の得意とする情報操作の方が北条を弱らすことで大きな仕事が出来たのだ。

 既に風魔の存在は意味のないものになっているのか?


「小太郎殿。殿がお呼びでござる。

 腰の物はそのままで宜しいとの事」


 風魔の生き残りと共に負傷者の手当をしている所へ、石堂殿が儂を呼び出しに来た。

 何を甘いことを言っている。

 まだ降ったばかりの草の武器をそのままとかあり得ぬ。


 大胡の殿がいる部屋に入ると、納得がいった。

 殿の脇には儂と同じくらいの巨躯がすぐに大胡殿を守る太刀を抜けるように控えている。相当できる奴だ。


「これから風魔は大胡の支配下に入りたいって本当? だったら普通の話し方で行くね。ようこそ~大胡ふぁみりぃへ!」


 一部の報告では大胡の殿の言葉使い、童のようだと聞いていたがその報告が確かであったことが分かった。


 今頃分かっても意味がないが。


「でさ。今、風魔ってどのくらいいるの? 大分減っちゃった?」


 少し悲しそうな顔をしつつ聞いてくる。


「は。15カ所近くの集落に分散し、2000名程度。

 その多くは普通の山暮らしをしております。風魔という意識の無い者もおりまする。その中より体の秀でたものを訓練し200名ほどが風魔として活動しておりましたが……」


 今では真面に使える者は50名おらぬ。

 あとは東国各地に潜んでいる女子と、つい最近修練を始めた若年ばかり。


 そのことを伝えた。


「そうかぁ。じゃあ山暮らしは難しそう? それだったら町で女の人にもできる仕事についてさ、普通に暮らせば……といっても駄目だよね」


 殿は儂の斜め後ろに控えていた石堂殿に目を向けて同意を求める。


「今までは、半農半草?

 よくわからないけど兼業農家だったんだから、これからは農家よりも収入のある、女の人だけでも他の家族を支えられる町暮らししつつ、その山での知識と技を使った『傭兵』しない? 薬草の知識も生かせるよ」


 なんと。


 大胡が飼い慣らして使うのではないのか?

 儂はそのつもりでいた。

 どのような仕打ち、蔑みを受けようと生きて生きて生き抜く。その覚悟だった。

 それが独立を保ちつつ、生活できるようにと?


「勿論、大胡を攻めないでね。でもその代わりね、大胡筒、鉄砲を供与して火薬の供給もするよん。それを使って山岳猟兵部隊つくってよ」


 山岳猟兵?

 猟兵という物が何かは知らぬが、山岳を駆けまわり鉄砲にて狙撃して逃げる。

 これを繰り返せば10倍の敵も阻止できよう。


 これを売りにして稼げと?


 それは嬉しい。

 独立した存在。

 風魔が自由に稼ぎに行けるとは。そして山岳猟兵?


 全く新しい存在となろう。

 それは「失敗する」か「成功する」か分からぬ。

 だが既に草として再起は出来ぬ。


 ならば新しき形で風魔の業を伝えていけるこの誘いも魅力的だ。

 儂はその提案を受けると伝えた。



 箱根と丹沢山中が一番活動しやすい。

 住まう事は出来なくなったが、移動しての訓練や狩猟などは北条や今川などに見つからずに行動するのは容易き事。


 そこからそう遠くない品川の湊と河越の町にて女子供老人が生活することとなった。


 大胡領にて流行り出した内職に山で身につけた専門的な知識と、その研鑽に対する努力が他の者とは比べ物にならぬ程、早く質の良いものを作り出し量産できるようになっていった。


 これで生活の基盤は出来よう。


 大胡から『余っていた予備の』鉄砲を供与され、火薬を使うよりもまずは扱いを慣れるように構えたり持ち運んだりする訓練を中心とした。


 勿論、そのためには鉄砲の特性を知る必要がある。

 マタギをしていた者が大胡の『狙撃手』に居たのでそれらを教えてもらい風魔的な動きに合わせた。


 此度は組織力を最大限に発揮できるように無言にて合図できる『はんどさいん』を様々なことに取り入れた。


 手旗も狼煙も改良した。


 鏡を使用した伝達も取り入れ、どのような地形でも行動できるように、どこに雇われても対応できるような訓練をした。


 1/3を野外実戦訓練、

 1/3を那波での座学と体力向上、

 1/3を街での家族との時間。


 このように今までの修行一辺倒であった風魔の鍛錬と違ったものに変えたことにより、逆に訓練の成果が上がるようになった。


 これを2年間続けた。

 そして遂に実戦の時が来た。


「こたろーちゃん。どう? 

 山岳猟兵の仕上がりぶり鰤」


 殿の前で「座敷に上がり」説明に伺っている。

 まさかこのような待遇を受けるとは!


 草はあくまでも野にある者。座敷にいるものではない。

 これが武士の常識だ。


 初めの頃は恐れ多く、辞退していたが殿の方が庭に降りて来て儂の前に座って話を聞くと言い出し、仕方なく座敷に上がるようになった。

 それを見てニコニコ笑う殿が何とも無邪気で……眩しかった。


「はっ。坂東の如何なるところでも暴れてご覧に差し上げられるかと。上方は今しばらくお待ちを」


「うんうん。上方はまだだねぇ。

 今回は伊豆と駿河なんだけど行けそう?」


 我らが庭のようなものだ。

 顔には出さぬがその自信が政影殿には伝わったようだ。

 殿は気づいていない。


「簡単だろうけど、伊豆を『占領』しちゃって」


 !!


 まさか『占領』だと?


 風魔の実働戦力はお伝えしている。

 僅か170だ。これでも3倍に増えたのだ。

 しかしその170にて1国を獲れと?


「ああ。伊豆の韮山はもう押さえてあるよ。

 葛山君が内応している~。

 だから風魔で残りの所を制圧するだけでいいと思うんだ。

 その後武田や駿府からの攻勢を阻止するのが役目です」


 シュタッと立ち上がり『敬礼」というものをおこなう殿。

 政影殿に聞いたがこれに付き合うのは『御自由』にとの事であった。


 では……この負け犬を拾って育ててくれたお方と大胡に向けて礼を取るには当然であろう。


 儂は立ち上がり殿の真似をしてこう言った。


「拝命仕りました。風魔山岳猟兵、伊豆攻略とその維持。任務に移ります!」


 さあ、初陣だ。

 これから新たな風魔の歴史が始まる。


 殿は吃驚するもニンマリして再び敬礼を返してきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る