【攪乱】これやられると戦力ガタ落ち

 1555年12月下旬

 上野国那和城松の間

 上泉秀胤(大分練れてきた大胡参謀)



「では晴信は津久井城を出たと。兵7000の中には春日の鉄砲隊もいるか」


 幸綱殿がこの場にいる石堂殿に確認を取る。


 此処には

 留守居組の幸綱殿、

 瀬川正則殿、

 冬木元頼殿、

 大胡是政殿、

 原虎胤殿そして某がいる。


 是政殿は華蔵寺に駐屯しているので、すぐに来ることが出来た。

 後藤殿や東雲殿は、様々な地にて軍事演習をしている。新兵がまだ練成中だからだ。


「は。品川には典厩信繁率いる別動隊が。主力備えとしては内藤や馬場がいます」


 皆、じっと聞いていたが、原殿が事細かく備え武将の配分を聞き出し始めた。さすが元武田の臣。よくご存じの様にて、皆その言を頼りにしている。


「では、確実に品川を落とすことが狙いでしょうな。

 虎昌の赤備えは囮じゃな。騎馬で要衝攻撃・攻城戦などやらぬ。槍弾正(保科正俊)も品川じゃ。逍遙軒殿(信廉)と小山田が留守居であろう。騎馬の数・主力の老臣はやはり本隊に多いであろうが、若手の精兵は品川に向けられていると言えよう。

 ……しかし……

(息子の横田)康景が出てきているとか、何を考えておる? 康景は儂の息子で出奔の折、儂に付いてきたいと言いおったが、「辞めろ!」とどやしつけて置いてきた。晴信の奴、何か考えがあるな。

 して、勘助はどちらに居るか分かるかな?」


 石堂殿が品川の別動隊にいると答えた。


 「では間違えなく主作戦は品川じゃ。これで決まりじゃ」


 武将の人事でこれだけわかるとは。これはよく覚えておかねば。敵方の一人を味方に引き入れるだけで、こうも違うとは考えもしなかった。


「では武田の狙いは品川の攻略ということでよろしいな。兵が7000と4000で11000。鉄砲600丁。

 そんなところか」


 幸綱殿が確認する。

 もうこれだけで、普通の大名は木っ端微塵であろう。


「それに対する大胡は機動部隊3大隊6800。

 太田殿の河越駐屯兵団が2000。

 品川が800。

 上野の守備隊がおよそ1000。

 原殿の騎馬隊1000。

 強襲鉄人部隊500。

 機動砲兵隊はまだ使えませぬ。

 特殊任務中隊300は

 200が使用可能です」


 某が説明する。

 この11000に約2000名の黒鍬衆・輜重兵など後方支援部隊がつく。


 合計13000。

 大胡も大きくなったものだ。


「では、緊急展開案として乙2号を採択しようと思う。武田には早々にお引き取り願おう」


 !!!!


「品川を見捨てると?」

「決戦は致さぬ?」

「機動作戦の甲3号の方がよいのでは?」


 皆から驚きの声が上がる。


 それに答えるように幸綱殿が続けた。


「里見殿は動かぬそうじゃ。兵は江戸まで5000出すが守備に徹すると。それから形だけは海上封鎖をする。お逃げなさるのはご勝手。ただし増援はご遠慮願いたいと」


 里見殿は日和ったか。

 形だけ堺の味方だな。


 東国に在って東国商人を使わないでいることはできない。大分銭が動いたであろうが、里見を買えなかったな堺の奴ら。


 増援を許すと申し開きが出来ぬであろうが、逃げるのは「取り逃がした」とするのであろう。


「では殿も海路にて帰国出来るのであろうな?」


 皆が心配していたのは正にこれだ。

 北陸路以外は危険で通れぬ。じゃが北陸は今雪に閉ざされている。海路が使えれば、いち早く決戦なりなんなり出来よう。


「いや、それはあまりにも危険。里見がそれを狙っているやもしれぬ。殿が人質になるなど目も当てられぬ。ここは儂らだけで何とかするしかあるまい」


「それではどうなさる! 乙2号とは決戦を避け、逃げ回るだけではござらぬか。

 品川は見殺しにすると??

 なれば乙3号の武蔵野を通り世田谷から一気に品川まで……」


「それは殿が成らぬと言うておったであろう。晴信が出て来ず、里見も日和って居ることが条件だ」


 それはそうだが、乙1号の決戦以外には品川を救うこと能わぬ。

 某の拙い案であるが言うてみよう。


「しばらく。某は乙2号の後の策が必要かと思いまする。幸綱殿のお言葉にもその匂いが致しまする故、これでも行けるのかと。

 お聞きいただけるでありましょうか?」


 皆の許しを受けて某の案を披露し始めた。


「以前、松山における参謀旅行にて殿が言われたことを思い出しました。何も戦う必要はないと。必要な時、必要な場所を確保できれば良いと。逆に言えば、敵が必要な時にその場所を使えなくしてしまえばよろしいのでは?

 つまり……」


「小荷駄襲撃、補給線の寸断、伝令狩り、流言飛語、闇討ち、酒を振舞うなどの士気低下策。要するに敵の後方を使えなくする。

 色々とやり甲斐がござるな」


 石堂殿が続けた。


「そうじゃな。やり甲斐がある。ここは東雲殿の第4大隊の出番であろうか。特殊任務中隊の2個小隊も使えよう」


「儂にもやらせてもらえぬか? 腕がなまって仕方ないわ。騎馬で縦横無尽にこの武蔵野を駆けたいぞ!!」


 原殿が腕をまくりながら、吠えるように言う。


「申し訳ござらぬが、原殿の赤備えは本隊に居て、ここで決戦に及ぶと見せたい故、ここは忍んでくだされ」


 幸綱殿は最大効率で各備えの力を引き出すことを考えているらしい。


 第1・第2大隊は大胡の中核兵力。

 後藤殿と是政殿の鉄砲隊の威力は、それだけで正面から1万以上の敵を退ける力がある。


 だが、出来るだけ損害が出ない戦いをする。それが大胡の戦い方だ。

 接戦で辛うじて勝ったものの戦傷者続出という勝ちは、大胡では「負け」と言う。


 だから第4大隊の東雲殿の竜騎兵が攪乱するし、第3大隊の太田殿の部隊から送り出した2個猛犬小隊が闇討ちするのだ。


「ではこれから各部隊の目標を決定していく。それでよろしいか?」


 皆がこうべを縦に振る。


 ◇◇◇◇


 この世界は戦争で満ち溢れている……

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860664900827

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る