【恭順】史実が。史実がぁあああ
1550年10月下旬
上野国大胡城松の間
智円(最近政賢におちょくられ始めた外交僧)
「第11回円卓会議~~~♪ 始めちゃうぞ~」
殿がつま先立ちして1回転した後、スタンと前にある座布団に着地した。このような軽業ができる割には、コロコロとよく転ぶ。
「大勢力の狭間でコロコロ旗幟を変えるのやだからね。その分ここで転ぶんだぁ」
と、いつもの様に訳の分からない理由をつけている。
「賢者マリーンよ。存念を申せ」
拙僧の方を向いてにやにや笑っている。
(この兄ちゃん、まだ賢者。絶対DTだよな。勝った!)
聞かなかったことにする。
「赤城神社の御札は大分売れ行きが良いようです。また大量に用意せねばなりますまい」
殿の発案で版木を彫る職人も育てている。
何れは文字ごとに独立した印を鉛で作り、それを並べて文を写すという。そのために現在文字を習っている子らには「楷書」も教えている。
その訓練として御札の量産をしているのだ。
「で、どのくらい移住してきたのん?」
「現在、全部で約3000人。まだまだ増えようかと。用意した長屋では入りきれず兵員用の天幕を使っております。食料は村倉から放出いたす所存」
「そうね、これから寒くなるから、遂に
「焜炉はできましたが、練炭の大量生産が間に合いませぬ。もっと人手を寄こしてくれと工業局の鶴太郎から矢の催促が」
「う~ん。やっぱ国衆の限界を感じる。まんぱわ~。引き抜きにも限度があるなぁ」
最近は石鹸や焼酎などの商品で、大胡の知名度が上がったために人材を連れてくるのはだいぶ楽になってきたが、やはり僻地にわざわざ来たいと思うものは少ない。
ましてや一介の国衆だ。安心度が他の大名と全く違う。年月を掛けて人材を育成していくしかない。
「で、砥石城はどうなったのん? 晴信ちゃん斬首作戦はスカだったし、うまくいかないなぁ」
武田による村上の砥石城攻めは大失敗に終わった。
武田では「砥石崩れ」と呼び始めた。2000人以上の死傷者が出たようだ。討ち取られた兜首も多数に及んでいる。晴信の本陣も急遽後退せねばならず、追撃戦で危機が迫り影を犠牲にして危うく難を逃れた。
その時、再度斬首作戦を行おうと3名の射手を送ったが、今回は村上の素ッ破の支援を受けられず撤退進路に伏せることができなかったため不発に終わった。
後で総括をして今後の改善策を練らねば……
問題はその後の調略の行方だ。
「真田殿の実弟、矢沢綱頼殿の説得により、砥石城の佐久勢500の内、半数250名が上野の家族のもとへ向かいました。そのうち150名ほどが大胡領に入っており、大半が仕官を申し入れておりまする」
「おおおお。士官多数ゲットだぜぃ! じゃあ、常備兵として訓練しながら農民招集兵も指揮できるようにもさせちゃお~ね」
本来は大胡では徴兵は行わないのであるが、いざというときは大胡を守りたいというものが増え、これらを予備役として年に30日ほど訓練に参加してもらっている。
その数は年々増えている。
「じゃあ、矢沢っちが来たら、すぐ会うから呼んでね~」
つぎは~
と殿は忙しなく頭を使っている。
「そうだった! 安中と小幡は? 箕輪の業政くんが攻めっちゃっているの?」
「申し遅れました。今朝この手紙が」
殿に業政殿からの手紙を渡す。殿は封を切り、目を通し始めた。途端に口と眉がへの字になり、その後悲鳴が聞こえた。
「うぎゃあああ、歴史1年くらい進めちゃった感じ~~~~~ぃ!?」
◇ ◇ ◇ ◇
1550年12月中旬
相模国小田原城
北条氏康(足元がぐらつき始めていることを軽く見ている獅子)
「先ほど、この文が西上野、箕輪長野の信濃守業政殿より」
側使えより手紙が渡される。ゆっくりと開いていく。
さてどのような返事が来るか。
長野は簡単に
ここで北条に靡けばその風下に立つことになる。
思案のしどころだろうて。
ふむ。
これは。
長野一族
割とあっさり転んだの。
儂の見建てでは、再来年、こちらが態勢を整えて総がかりをする直前にでも転ぶと思うていたが……
残るは惣社と白井(渋川北)の長尾、吾妻岩下の斎藤。
そして大胡じゃ。
東上野では大身では由良が目障りじゃ。そして大胡と由良が同盟を結んだ。婚儀も無事済ませたから、強固なものになっているであろう。
そちらは後にして、まずは平井から上杉をたたき出す。そのためにも逃散甚だしい武蔵を中心に徳政を施し慰撫しなければならぬ。
また商人どもに銭を借りなければならぬか。
あの年率2割とかいう利子を何とかならんか?
昨年、徳政令を出しているから仕方なしか。帰って来ぬかもしれぬ相手に銭を貸す愚か者など居らぬ。
御用商人の宇野屋、最近米も出し惜しみするようになってきた。他で高く売れるようだ。お蔭で高い米を買わざるを得ぬ。
毎年不作であるから、家臣の者が軍役のために重い租税を課すのは仕方ないが、慰撫をしないと逃散は止まらぬ。徐々に北条の屋台骨が揺るいでいくのを感じざるを得ない。
とりあえず今は関東管領であったあの男を始末することに集中しよう。
関東管領は儂だけでよい。
それが祖父、伊勢新九郎盛時、北条早雲の願いであった。
もう少しでその願いを儂が叶える。
🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸
覗き見厳禁の用語集
https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860636145049
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます