【巡礼】みんな上州にくんべぇや

 1550年5月下旬

 武蔵国松山

 よね(こめではない。お米が食べられる生活を夢見て親がつけてくれた)



 ひつに稗があと一握りしか残っていない。


 昨年の秋、米がいつもの半分しか取れなかった。その収穫も半分以上が松山に来た新しいお侍さんに持って行かれた。

 冬の小麦を植えたけど足軽にとられた村の者が多く、あまりとれなかった。その収穫も残った米と一緒にほとんど別のお侍に持って行かれた。


 もう種籾すらない。

 わたしらはどう生きろっていうんじゃ。


よねこめをもらってきたぞ!」


 夫婦めおとになってまだ半年の作造が勢い込んで家に入ってきた。


「村長さんから借りたのか?」


「いや、村の社に来ている御師おしさんと赤城神社の御札を配りに来た歩き巫女殿が、皆に御札と米を配ってるんだ!」


 手にした麻の袋は2~3升は入っているのか。

 重そうだ。


「それでな。これは絶対に秘密じゃが……赤城神社に参拝すればもっともっと米をくれると! 銭もじゃ。

 そして……上野に移住すれば赤城のふもとから八斗島の渡しまでの間のどこでも土地をくれるそうじゃ! 年貢も4割。それ以上は取らぬとのこと。戦にも駆り出されんと!」


 興奮して、私の肩をグイッと掴む。

 痛い。

 本当か?

 そんなうまい話、あるわけねえ。

 でも、痛いという事は夢じゃない。


「でも、逃散は掟破り。ひどい罰があるんじゃねえか?」


「それがな。笑っちまうじゃねえか。罰を与える村長むらおさまで移住を考えているそうじゃ。皆で赤城神社に参拝する風を装って移住しちまおうと話が盛り上がっておる」


 生まれた村を離れたくねぇ。

 何処へ行くのかわからん。本当に土地をくれるのか、心配だ。けど、このままここにいてももう食料がねえ。村の衆全員で行けば怖くねえか……


 その日のうちに、うちの家族も行きたいと皆に言うことになった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 1550年10月上旬

 信濃国砥石城

 矢沢綱頼(暗い戦はやめにしよ~ぜ、真田一族。こっちへ来いヤァ、と政賢)



 ひどい戦じゃった。


 断崖を登って仕寄りをしてくる武田勢に、煮え湯落石あらゆるものを投げつけ、一方的に勝利した。人が石ころの様に落ちていき、そして虫けらのように潰れていった。


 その後村上殿が2000余りの兵を連れて武田勢の背後より攻撃、こちらも討って出て挟撃したため武田の兵の血が大地を覆った。


 討ち取った数、数百。手負いは2000余りに上るらしい。


 噂によれば晴信も手傷を負ったそうだ。当分、甲斐より出てこれまい。


 兄者が

「戦が終わったら読んでくれい」

 と、儂に手渡した手紙を読む。


「勝利より悲惨なものは負け戦しかない。儂らが勝つのは大したことではない。じゃが負けたときはだれも匿ってくれはしない。そんな気持ちで兄弟、戦のない世を作らぬか? 儂らの子ら孫らに上田の野を思うさま駆けさせたいんじゃ」


 筆に力が籠った文字を見る。


 先に渡した佐久の皆への手紙を見せて家族とともに暮らしたいものがいれば、赤城神社に巡礼の態を装い、少しずつ移動したらどうじゃとも書かれていた。


 希望する者は、兵・百姓・職人、あらゆるものになれるという。子らにも習い事を無料でさせるそうじゃ。


 こんな夢のような話があるのか?

 これを考えつき実行している大胡政賢殿に益々会いたくなった。


 まずは、今夜から元志賀城の者のうち、主だったものに手紙を見せてみようか。しかし、儂も仕官するとなれば、手土産が必要。


 ここは本腰を入れようか。


 まずは自分の決意を確とせねばならぬ。

 儂は先祖代々の仏壇の前に座り、眼をつぶった。


 🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸🔸


 主人公。神様まで操るのか??

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860636118311

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