【日常】ほのぼの大胡一家
たまには息抜き回。
ほのぼの一家大胡の家臣団
https://kakuyomu.jp/works/16816927860630530111/episodes/16816927860636458066
後藤透徹(35)
「父上。おかえりなさいませ」
「父上。おつかれさまでした」
「父上。お勤めご苦労様でございました」
「「父上。父上。また舞を一緒に練習しましょ~、ましょ~」」
「父上。お団子作りました。食べてください」
「父上。長刀をまたお教えください」
「父上~。今日の政賢様、どんな面白い事していました~?」
「ちちうえ~。もじをせがわさまにおしえてもらいました。みてください」
「ちちうえ。ちちうえちちうえちちうえ~」
いつもの様に娘たちが出迎えてくれる。悪い気持ちではない。
可愛い娘たちだ。儂は好かれているに違いない。
今も居間の上座に座ると周りを娘たちに囲まれる。
自作の和歌を詠む娘。
蕎麦茶を用意してくれる娘。
それに団子を添えてくれる娘。
肩を揉んでくれる娘。
木で作ってやった長刀を振り回す娘。
膝を枕に
「貴方様。お帰りなさいませ。夕餉の準備が整っております。それと城代の叔父上から、いつもの丸薬が届きました」
妻の慶が「唯一の」男児を抱っこしながら奥から顔を出す。
嫁に来たときはすらりとした柳腰で、これで無事に跡取りが産めるのか?」と危ぶんだ。
瀬川の爺さんの実家の血筋から嫁取りをした。
意味のある政略結婚でもあるし、もののふとしての伝統のある血筋であったから、よき跡取りが産まれるであろうと思った。
嫁当人も情が深く家事はもちろん学や芸事、家の切り盛り、さらには家計にすら明るい。
儂にはもったいないくらいの嫁じゃ。
しかし!
後継ぎが産まれん!
産まれんのだ!!
次こそ男児。
男児を生まねば。
次こそ、次こそ……つぎこそ……
そう思い励み、気づいてみたら「女子ばかり」10人も生まれていた。
今年16の嫁ぎ時の娘を
14、13、12、11、10、10、8、4、3。
諦めかけていた去年、なんの気まぐれか。
やっと、やっと、やっと、
男児が生まれたっ!
(あきらめかけていたので外に女子を作ろうとしたが、官兵衛にすぐに見つかる、チッ)
又之助、と名付けた。
待太之助と名付けようとしたが、家中の者すべてに止められた。
待っていたのじゃから、それが一番じゃろうと思うのだが……
「また男児を呼んできてくれ」
という意味を密かに込めた。
後藤又之助、よい名前だと思うがの。あまり好評ではなかった。
『後藤又兵衛』
とでもすればよかったのか?
慶から大事に大事に受け取り、我が
なんと可愛らしい顔じゃ。
儂には似ておらぬが慶にそっくりじゃ。
勇ましいもののふにはならんでもよい。お前が大きくなるころには、殿が日ノ本を平にしてくれよう。儂もそのために頑張っちゃる。
その時殿のお力になるのは頭の良い家来じゃろう。そう東雲の奴を始め、多くの家中が言って居った。儂よりも頭が回る奴らばかりじゃからそうなんじゃろう。
賢くなれ、賢くなれよ。
殿と同じくらいとは申さぬ。
まずは5歳まで健やかに。
元気に育ってくれ。
瀬川の爺さんが作ってくれた丸薬を飲んで、皆と同じう元気に育てよ。
「貴方。
あまり長く抱っこしているとまた大泣きします。そろそろ……」
「わかった。着替えてくる」
儂はいつもの如く、前が温かくなった「湿った」服を着替えに奥へ向かうことにした。
このくらいなんということはない。
槍働きで血まみれになるよりも遥かに……
萎えるが……
◇ ◇ ◇ ◇
東雲尚政(23)
今日は1号が不調だったな。
明日は3号にするか。
はたまた11号が良いか。
先日殿には9号が「いいんじゃない?」と言われた。
しかし9号は座りが悪い。
すぐに落ちる。
先日も皆に笑われた。
戦場では7号が一番だな。
しっかりついている。
だが形が気に入らないのだ。
今度12号を作るしかないか。
戦場に出ても「落ちない」「形の良い」付け髭を。
俺は、鏡台の引き出しに時間をかけ、綺麗に付け髭を揃えて並べ、立ち上がった。
◇ ◇ ◇ ◇
上泉秀胤(20)
大胡の北5町の
長屋には100匹余りの犬が飼われているという。
どれだけ餌代がかかるか聞いてみたら、
「人間200人分程度ですな」
と答えが返ってきた。
そんな銭がどこから出ているのかと不思議に思ったが、どうやら仕官する際、殿が餌代は全部大胡の金蔵から出すと決めたという。
その代わりとして大胡のためになる犬を育ててくれという事だ。
今日は大胡の役に立つ犬の訓練を見せてくれるという。
「これが捜索に役立ちますなぁ」
犬の臭覚を索敵や忍び除けに使うそうだ。
この前は真田殿の素ッ破を見事見破ったという。
「こちらは伝書の訓練」
「茂みに潜み敵を奇襲します」
近くから襲われると、下半身がボロボロになるであろう。
某は帳面にそれぞれの訓練の様子を書きつけていった。後で殿と一緒に使う時期・場所・方法を考えるためだ。
「そしてこれが一番の犬の使い方でござる」
そういうと、太田殿は犬に囲まれ耳や尻尾をもふもふと触りだした。顔を舐められ、涎だらけになりながら転げまわっている。
やはりそれが一番やりたくて大胡に来たのであるな。
そう帳面に書き込んだ。
◇ ◇ ◇ ◇
大胡是政(29)
最近、
種子島に火縄で点火する際の火の粉で始終火傷をするからだ。
毎日最低でも種子島(最近は鉄砲と言うようになってきた)50射は練習する。
勘定方の瀬川殿に、火薬を使いすぎと文句を言われるが、殿からは「どんどん練習してね。それが大胡のためになる~♪」
と言われた。
だから身体の許す限り練習する。
左右には家臣と配下につけられている雑兵(既に一端の家臣である)が、同じく鉄砲の訓練をしている。
皆、俺と同じく右頬が焼けている。
殿が
「なんとか改良して火の粉が飛び散らないようにしないと怪物中隊になっちゃう。これちゃん可哀そう、さめざめ」
とおっしゃっていたが皆の者は、この顔は鉄砲隊の証だと胸を張っている。
親父殿が趣味の薬草調合で火傷用の湿布を作り皆に配布している。
中隊全員500名に毎日だ。
どれだけ手間をかけているのだろう?
もちろん配下に手伝わせているのであろうが、毎日にこにこと自分で練習場まで持ってくる。
これは間違いなく趣味だ。
まあ、困った趣味ではないが、親父殿の配下がげっそりしているのは気を掛けねば。
後で酒を驕りにいこう。
配下の者が
「今度の射撃は誰が的の中央に近い?」
「儂じゃ」
「俺に決まっておろう」
「某でござる!」
全ての者が自分を推した。
皆で自分の傘に永楽銭を投げ入れる。
「隊長!
隊長は誰だと思います??」
いつもこんな具合だ。
腕自慢の者たちが我が隊には集められている。斬首作戦に参加する者もこの隊から抽出される。
俺は皆に言う。
「それは決まっておろう。
俺が一番だ!」
結局、いつも皆自分に賭けて試合をする面白くない展開となるのだった。
まあ、これで皆励んでいるのだから、問題ない。
◇ ◇ ◇ ◇
上泉信綱(43)
ここ華蔵寺の修練場には、本日は18名の親衛隊の者が座禅修養に来ている。
華蔵寺は天台宗のみならず、真言宗・曹洞宗・浄土宗など様々な宗派を超えて、参拝修養葬儀を行う場になっている。
残念な事に浄土真宗と法華宗は他宗派との共生は認めないとして、人を寄こさなかった。
こちらに人を送り込んできた宗派も不満ではあろうが、商人を通しての利権や情報が欲しいと見えて共生している。
智円殿がすべてを取り仕切る別当となっているが、
殿に
「それではあまりにも旧弊がはびこるのでは?」
と諫めた。
それに対し殿は
「これは内緒だけど……あとで潰す。てゆーか、勢力を削ぐ。お坊さんはお坊さんの仕事だけしてもらおうよ」
と。
智円殿は
「そうなれば拙僧も少しは楽になりますな」
と返したそうだ。
どう見ても智円殿は忙しいのが好きに見えるが。
座禅は己を空・無にするとも言うが、儂らは違う考えだ。
気を溜める。
自分の存在を自在に操る。
これが目的。
そのための禅・瞑想だ。
殿が「まいんどふるねす」といっていた、
己が能力を高める業。
これを皆で行っている。
ただここにいる。
それだけで満足だ。
安寧をここに求める。
そして、充実してきた気をいつでも発せるように。
明日も明後日も雨の日も風の日も。
「継続は力なり」
同じことをしていけば、戦場でも同じように体と心が動く。
これが儂の生きる道。
◇ ◇ ◇ ◇
大胡楓(17)
殿が私の膝を枕に
たまのお休み。
いつもは秋冬となると戦になりますが、今年はまだ平穏です。
大胡へ参ってもう2年。殿には大変優しく大切にしていただいています。家臣の方々も皆優しい方で、また面白い方ばかり。
毎日がとても充実しています。幸せをかみしめている毎日。
殿は
「早く戦のない世の中になるといいな。そうすればかえでちゃんと一緒にいる時間が増えるのに~」
と、うれしいことを言ってくださいます。
ですが……
まだお子を身ごもることができませぬ。
殿は
「気にしなくていいよ。まだ若いんだから年齢じぇーけーだしぃ♪」
とおっしゃってくださいます。
いつもの如くわからない言葉もございますが。
早く立派で元気なお子を授かるようにと、毎日子宝祈願の赤城神社から分祀された屋敷の隣に
「……やはりここはムニャムニャ、教育費を100%にして技術ポイント最優先ですぴすぴ、後備兵をそろそろ増やしてすやすや……」
いつもの寝言をおっしゃいます。
少し風が出てきたので、
「……ああ、眠っちゃった? 楓ちゃんの膝があまりにも寝心地いから寝ちゃったよ。一人にしてごめんね」
謝らなくてもいいのに。
私にはいつも謝ってきます。
でも感謝の言葉の方が聞きたいとお伝えしたら
「それはそうだねぇ。ぷらすの言葉は人を明るくするし豊かに幸せになれる!」
とのこと。
本当に明るい方。
でも、ひと月に一度程度、ほんの一晩ですが
以前より減ったと乳母の福が言うのですが、少し心配なのです。
人が変わったようで。
殿が別の世界に行ってしまわれるようで。
「あ、そうだ! 楓ちゃん。
そろそろあの朴念仁の甲斐性なし。
政影くんにお嫁さん取らせないと!
誰かいい人いない?」
長野様はいつも殿のそばに侍り、護衛と筆記を行っています。
今は所用で出かけておりますが、どなたかを見合わせねば仕事にかまけて、きっと独身を通されてしまいます。
◇ ◇ ◇ ◇
長野政影(28)
「長野様。今日から殿の祐筆をさせていただきます、まつと申します。なにとぞ良しなに」
そう言って顔を上げる今年18という、美形の
昨日、那波から祐筆としての修行を終えて帰ってきた行政官だ。最初期に殿の子育て計画によって各地から引き取られた孤児のうちの一人だ。
元は武蔵の軽格ではあるが士分の者の娘であったらしい。賢さは賢祥殿のお墨付きをもらっている。那波の瀬川殿からも力量十分との申し伝えが来ている。
「では、某が今まで行っていた、内政にかかわる文書の作成をお願いしたい。この部屋を使うように。その棚に必要書類を仲間が持ってくるのでその処理と、正式な文書ができたら、この文箱に入れて殿に手渡されよ」
まつは深々と頭を下げ、忠勤に励むことを述べた。
これで大分某の仕事が軽減され、殿のお傍に侍る時間が増える。
幸せというもの。
……だが、質素なこの書斎も華やいだ雰囲気。
少しはこちらでの仕事も楽しくなるか?
とにかく明るくなることは良いことだ。
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