ラベゼリンの祭の話 2

花撒の時間になり、神殿前の広場は凄い人混みとなった。6人はいつの間にかバラバラになり、それぞれに奮闘した。結果。

「取れたぞ!」

「おめでとうケイナ。俺も取れた!」

「いいなぁ~私は取れませんでした」

「僕も…」

「ダメだった…」

皆が結果を見せ合う中、ルカは

「なんか私のやつだけ蕾なんだけど!!」

手にしたそれを掲げて大きく叫んだ。

皆が手にしているのは白い花弁の開いた花で、こどもたちが持っていたレプリカや祭のイメージとして用いられている花も全てそうだった。

「この花一応天然だろ? そういうこともあるだろ」

「花には変わりないんだし、取れたんだからいいじゃないですか~?」

皆のフォローを受けて尚口を尖らすルカに、見知らぬ人が近寄ってきた。

「蕾だったんですか!? 見せて貰っていいですか?」

吃驚しつつも、ルカは手の中の蕾を見せた。

「ああ、だ。寧ろ大当たりですよ!」

「? ??」

意図してひとつだけ、または少数のみ、形の違うものが混ぜられている…とか、そういうものなのだろうか。

「祭では形骸化されてますが、ラベゼリンは加護や利益を与える時蕾を投げるんです。キャッチ出来たら、その蕾は貴方の成功とともに花開く。大切に持っていて下さい」

一方的に言うだけ言って、その人物は去っていった。

「ええと?」

ポカンとする面々だったが、真っ先に気を取り直したのはルカだった。

「まぁつまり、ラッキーレアって事よね!」

「良かったですね~」

と、すぐにキャイキャイ騒ぎ始める。

「……なあ、今の」

ケイナは声を低めてユグシルを肘で突く。

「うん…学長の直弟子の…」

「だよなぁ」

塔内で数度、学長とまともに撃ち合う姿を見ている。攻性術には縁のないケイナもあれには感心した。最近はあまり派手な動きは見せなくなったから、若い子たちは知らないかも知れないが。

「あれ、カレシかな」

「さあ知らない」

彼が去っていった先には、赤い髪の軍人が彼を待っていた。合流したふたりは、仲睦まじそうに見えた。




「ラベゼリン!」

「おや。来ていたのか」

拝殿上空から祭を見下ろす祭神にフィアが声を掛けると、ラベゼリンはふわりと降りてきた。

「そっちは初めて見る顔だな」

クドルは無言でペコリと頭を下げた。

「これで漸く花が咲く!」

満面の笑みにラベゼリンもつられて笑う。

フィアは勇気を出して、クドルやスナフと知り合い直した。勿論元の関係とは大きく違い、時間も掛かったが、それでも再び仲良くなれた。

今回はその報告にラベゼリンの元を訪れたのだ。

「そうか。フィア。頑張ったな」

「!」

笑みから一転、泣きそうに顔を歪めるが、ぱん!と両手で顔を挟むと、より一層の笑顔を見せた。

「うん!!」

「フィア、そろそろ時間」

「あっ、うん」

クドルの口数は以前よりうんと少ないままだ。少し寂しいが、仕方がない。

「あ。ラベゼリン。さっき蕾持った子に会ったよ。お気に召したんだ、珍しいね」

「珍しいと言うほどではない。オレは、前向きに強欲なバカは好きだからな」



去っていくフィアを見送る。『この世界』では、彼とルエイエは師弟でしかない。護られる関係を選んだフィアは、誰も選ばず、皆と仲良くやっている。それもいい。

フィアに心残りがあった為、彼の手元の花は塔が救われても咲いていなかった。本人が満足したのなら、これで花も咲いただろう。

ラベゼリンのもたらす成功は、花が咲く処まで。結実までは約束されていない。

「あいつの行く先は、見届けたいもんだ」

どんな実をつけるのかは、神にだって解りはしない。

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