第9話

 ハッとして眼を開ける。いつの間にか、眠ってしまっていた。窓の外は明るい。慌ててソファから滑り降りる。

 音を立てないよう、気を遣ったつもりだったが、津野田が眼を醒ました。

「ごめんなさい。起こしてしまいましたか」

「つい、うとうとしてしまった」

 そう言いながら、腕を抱く。暖房がないので、陽が上っても寒い。

「何時だろう」

 壁に時計がある。正確に時間を刻んでいるのなら、二時を過ぎている。もう昼過ぎだ。

「私、買い出しに行って来ます」

「そうだな、水が欲しいだけじゃない。腹も減った」千紘を見て、弁解するように言う。「申し訳ないが、僕が出歩いたら人目についてしまう」

「私ひとりで大丈夫です。きっと近くにコンビニがあると思います」

 玄関に出て、足を止めた。

 帽子とか、マスクがあれば、監視カメラから顔を隠せる。どこかにないだろうか。それらを探しに、別の部屋に行こうと思い立った。

 大きな家で、部屋の数も多い。しかし、生活の臭いのする部屋は、ほとんどなかった。部屋に入って探すまでもない。どの部屋もがらんどうで、ドアを開け、壁のスイッチで照明を灯すだけでこと足りた。

 ただ、二階にひとつだけ、人の気配が残る部屋があった。ベッドがあり、布団の上には、パジャマがきちんと畳まれていた。

 木製の机は古びて、色褪せしている。けれどもその上には、十数冊のノートが角をぴったり揃えて積まれていた。几帳面な人が暮らしていたらしい。書棚には、二冊の四六判と数冊の新書。いずれも背表紙に見えるタイトルは、千紘の知らないものだった。四六判は小説だろうか。新書の背表紙には、介護とかアルツハイマーの文字が見える。それらが、一番上の棚の隅に並べられていた。ほかの棚は空っぽだ。

 書棚と向かい合わせに、もう一方の壁に、タンスがある。これも古びて、抽斗の縁はニスが剥げ、白くなっている。ニスが残るところも、白っぽく褪せて、それがアンティークの味わいになっている。

 千紘は机からノートを一冊、取り上げた。表紙をめくると、端から端まで、小さな文字がびっしりと並んでいる。最初に五年前の二月の日付。日記だろうか。しかし、文字は丁寧で整然としている。誰かに読んでもらうことを前提にしているかのようだ。次のページを繰ると、日付だけではなく、時刻が入っている。何だろう。訝りながら、漢字を拾い読みする。検温。排泄。体位変換。水分摂取量。

――介護記録か。

 ぱらぱらとめくってみる。どのページにも、小さな文字がぎっしり。被介護者の日常を、相当こと細かく記しているのだろう。そうでなかったら、こんな分量にはならない。介護者の生真面目な性格が察せられる。

 カタカナが眼に入って、めくる手を止める。アルツハイマー。被介護者は認知症を患っていたらしい。どんな人だったのか、読めば詳しく判るだろう。いまは読んでいられない。

 タンスの抽斗を引き摺りだす。どの抽斗も空だった。仕方ない。諦めてドアに向かう。壁に、カーキのナイロンジャケットが吊るされている。立ち止まって、それを取り、広げると、フード付きだった。


 コンビニに入って、ATМのコーナーに行った。カメラに写らず、金を下ろすことはできない。できるだけフードを目深にして、顔を隠すより仕方ない。俯いたまま、ATМを操作する。機械がカード情報を読み込む時間が、やたらと長く感じられる。それなのに、機械は読み取りに失敗した。キャッシュカードが吐き出された。恨めしく思いながら、もう一度、カードを挿し込む。再び、読み取りエラーになった。画面には窓口に問い合わせろと出ている。磁気不良か。問い合わせなんてしていられない。

 この先のことを考えたら、現金は減らしたくない。電子マネーの残高は、どれくらいだろう。

 ペットボトルを数本と菓子パンやおにぎりを買い物カゴに入れる。日用品のコーナーに行って、歯ブラシに指を伸ばす。一瞬、眼球に突き刺さる歯ブラシを思い出して、身が竦む。厭なできごとを追い払うように、ガッと歯ブラシを取る。新聞スタンドの前を通るとき、清澄マンションの見出しが眼に入った。夕刊を一部抜いた。

 それら全ての決済は、電子マネーでできた。しかし、残高は残り少ない。次には現金を減らさなければならない。


 リビングのドアを開けた途端、温かな空気が千紘の頬を撫でた。パチパチっと薪が爆ぜる。暖炉に火が入っている。津野田は、その前に車椅子を停め、眠りこけている。寝不足で疲れているのは、千紘だけじゃない。千紘は中に入り、静かにドアを閉めた。

 ソファに座って、新聞を広げる。捜査本部が清澄署に設置された。住んでいた女を重要参考人として、追う方針。新聞は、千紘が犯人だと思っている。第三者がそう思うのは仕方ない。しかし、女ひとりに、警察官ふたりを殺せるのか。本気でそう思っているのなら、記者は莫迦過ぎる。幸い、千紘の名は出ていなかった。

 新聞を置くと、津野田が眼を醒ました。 

「すまない。また眠ってしまった」

「仕方ありません。昨夜は寝てませんから、買い出し、行って来ました」

 コンビニのレジ袋を取り上げ、津野田に差し出す。

「大丈夫だったかい」

 フードを被って用心していたし、誰かに不審がられた様子もない。多分、大丈夫だ。だが、不安なことがある。

「キャッシュカードが使えなくなっていました」

「そうか」

 津野田は顔を曇らせた。無職の津野田に現金を期待するわけにはいかない。これからの逃亡生活にどれだけの金銭が必要になるのか。

 おにぎりの包装を解きながら、津野田が部屋を見回す。

「ここは、誰の家なんだろう」

「二階に介護記録があります」

 津野田が眉を顰める。

「介護記録?」

「はい。誰の家なのか、判るかもしれません」

「食べ終わったら、それを読んでみよう」

 空腹でいた時間が長過ぎたのか、ふたりとも、おにぎりをひとつ食べたきり、食べられなくなった。

「取って来ます。介護記録」

 リビングを出て、階段を上る。部屋に入って、すべてのノートを抱えた。読み進めるには、結構、多い。二十冊くらいか。

 リビングに戻ると、津野田も冊数に驚いたようだ。ちょっと眼を大きくした。

 津野田にノートを手渡す。津野田は、それを膝に広げ、一冊ずつ見比べる。書き始めと書き終わりの日にちが、表紙に記されている。それを見比べているようだ。彼は一番新しいノートを抜き取った。ぱらぱらとめくって、途中で手を止める。

「亡くなったのか」

 独り言ちて、前のページに戻る。

 千紘は一冊目の途中までしか読んでいない。被介護者の死亡が記されているとは知らなかった。津野田の膝から残りのノートを取り上げ、ソファに座った。一冊目だけ抜いて、後はテーブルに置く。

 しばらく読み進んで、ハッとした。J‐ADNI2の文字が眼に入った。途中を読み飛ばし、その箇所を読む。


 義英さんと話した。睦子さんがJ‐ADNI2の被験者に登録されたという。半年毎に大学病院で、採血、採尿、MRI、PET、腰椎穿刺、認知機能検査、心理検査etc. なんやかんやで30項目もの検査を受けることになる。一回の検査は2~3時間だから、1日で終わらない。検査期間中は毎日通院しなければならない。

 事前に相談して欲しかった。MRI、PETは被曝する。腰椎穿刺は身体的苦痛を生じる。低髄圧症候群になるリスクだってある。ADの人が低髄圧症候群になったら、どうなるのだろう。そんなリスクを冒しても、国がADの治療法を確立したいという理屈はわかる。誰かがボランティア精神で被験者とならなければならないというのもわかる。

 しかし、どうして睦子さんなんだろう。義英さんなら、断ることだってできたはずだ。どうして自分の母親にリスクを負わせようとするのだろう。私には理解できない。


 千紘は顔を上げて、津野田を見た。その気配を察したのか、津野田もノートから眼を離して、千紘を見る。

「どうした」

「ここに住んでいて、ADだった人……」

「睦子さん?」

 別のノートで津野田も名前を知っている。千紘は頷いて続ける。

「J‐ADNI2の被験者になっていたようです」

「らしいね」

 津野田が、自分が読んでいたノートを差し出す。それを受け取って、読む。


 J‐ADNI2の薬で、睦子さんの症状は明らかによくなっていた。血行もよくなっている。顔色が良いし、血圧も良好だ。義英さんがJ‐ADNI2に睦子さんを参加させたのは、特別な薬が目当てだった。データを取られるだけなら、参加しても、本人のためになることは何ひとつない。しかし、薬の治験なら話は別だ。実際、J‐ADNI2の薬で、睦子さんは快方に向かったのだ。

 しかし、薬の治験は終了してしまった。薬を止めた途端に、症状は元に戻った。むしろ悪くなったくらいだ。睦子さんには、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬はあまり効果がないようだ。一刻も早く新薬が承認されて、普通に使えるようになって欲しい。

 しかし悪いことばかりでもない。治験中は、トシリズマブやゴリブマブを使用しないように言われていた。だから、メトトレキサートしか投与できなかった。明日からは、ゴリブマブを使える。


 メトトレキサートは、抗リウマチ薬の基幹薬だ。しかし副作用がある。骨髄抑制が起きれば、貧血、日和見感染、出血傾向が見られる。間質性肺炎を引き起こすこともある。なので、75歳以上の高齢者への投与は推奨されていない。

 トシリズマブやゴリブマブは抗体医薬だ。低分子医薬品のような思わぬ副作用が起きることはない。しかし、免疫応答を強く抑制してしまうので、細菌に対する抵抗力が弱くなる。だから、高齢者に投与する時には、抗菌薬を併用することで、そのリスクを回避することができる。

 介護記録によれば、睦子さんは88歳だった。ならば、介護者がメトトレキサートの投与に不安を抱いていたのは頷ける。

「睦子さん、リウマチだったんですね」

 ノートを津野田に差し出す。津野田はそれを引き取って、眉を顰める。

「J‐ADNI2の薬と言っているのは、YМG‐0714のことだろう。投与している間は、メトトレキサートしか使えなかったというのが気にかかる」

「免疫力が低下している状態で、YМG‐0714を使いたくなかったということでしょうか」

「YМG‐0714はγセクレターゼの活性を抑制する低分子化合物だ。影響が出るとしたら、体内のたんぱく質分解だろう。それが免疫力と関係するんだろうか」

 津野田は訝しげに首を傾げて続ける。

「ここに書かれていることだけじゃ、YМG‐0714の詳細は判らない。しかし、実に興味深い記録だ。YМG‐0714を投与されてから、亡くなるまでの経過が判るからね。亡くなる半年前に、一回一錠を一日二回飲み始めた。四週間後に一回二錠に増やした。その二週間後、一回三錠まで増やした。その二週間後には、再び二錠に戻して、三ヶ月投与して終了した。その三十五日後、肺梗塞で亡くなった」

「薬を止めてから亡くなった」

「そういうことだ」

「リバウンド?」

 服薬しているときに抑えられていた症状が、服薬の中止で悪化することがある。例えば、血栓ができるのを防ぐワーファリンの服薬を中止すると、凝固系が亢進して、血栓塞栓症のリスクが高まる。

 抜歯する時に、ワーファリンのリバウンドを懸念する医師がいる。血を固まりにくくする医薬なので、投与下で抜歯すると、いつまでも出血し続ける。そのため、投与を中止して抜歯することが多いが、それによって脳梗塞を惹き起すリスクが生じるのだ。海外では、ワーファリンを継続しながら抜歯することが多い。

「なるほど。YМG‐0714の副成分に、DHAがあったように思う。脳の血流を促進させるためだろう。実際、睦子さんは血行が良くなったらしい。それならば、服薬の中止で塞栓ができてもおかしくない」

 千紘は解せない。

「しかし、それが重篤な副作用の正体だとしたら変です。命を狙われるほどの秘密だとは思えません。もし、服薬を中止しなければならなくなった場合、徐々に離脱していくとか、リスクを最小限にする方法がある筈です。リバウンドを心配するのはおかしい」

「確かにそうだな」

 津野田は眉根を寄せ、ノートを見つめる。ほかにどんなことが考えられるのか、ノートの中に答えを探そうとしている。千紘もノートに集中しようとする。津野田が不意に顔を上げた。

「それはそうと……」

「はい」

「表札に浅野ってあったと言ったね」

「ええ」

 津野田はノートを手で打ち払う。

「だったら、この人は浅野睦子さんじゃないか」

「ご存知の方ですか」

「運輸大臣になったこともある代議士、浅野鉄久の奥さんだ。いまの副総理、浅野義英の母親と言ったほうが早いか。夫の政治活動を支えるために、度々メディアで意見を発信していたから、僕ぐらいの歳の者なら、誰でも知ってる有名人だ」

 そう言えば、ノートに義英という名前が出ていた。副総理のことだったのか。千紘は不安になる。

「ここは安全なんでしょうか。副総理って、国家組織の中枢にいる人ですよね。私たちを狙ってるのは、国だっておっしゃってました。それなのに、副総理の家にいるなんて」

 津野田は眉間に皺を寄せた。難しい顔で呟く。

「シルヴァラードは、どうしてこんなところに……」

「何か理由があるんでしょうか」

 津野田は膝を打って、千紘を見た。

「そうだ。シルヴァラードのすることは、一見、何でもなさそうなことでも、必ず意味がある。この介護記録だって、彼が用意したものかもしれない。そうだとしたら、この中に国と闘うヒントがある」

 津野田の言葉を思い出した。シルヴァラードは自ら助くる者を助く。副総理の家にいることには、きっと理由がある。その意味を読み取ることができなければ、シルヴァラードの助けを得られない。

 突然、ドアホンが鳴り、ドキッとした。津野田と顔を見合わせる。

「誰だろう」

 津野田が、訝しげに玄関の方を見る。千紘は壁を見た。モニター子機がある。津野田を振り向くと、険しい顔で頷く。通話のボタンを押した。いかつい顔の男が画面に現れる。

「先ほどの搬送業者です」

 千紘は画面に見入る。今朝のふたりとは違う男のようだ。

「何でしょうか」

「先ほど伺った者が、書類にサインを戴くのを忘れてしまいまして。お願いできますか」

「はあ」

 津野田を見る。頷いている。

「判りました。いま、行きます」

 玄関に行き、靴を引っ掛けて、引き戸を開けた。

 男はひとりではなかった。四人の男が横に広がって立ち塞がっている。どの顔もブスッとして愛想がない。会釈のひとつもなく、営業的な態度にはほど遠い。客対応をしに来たとは思えなかった。思わず、後ずさる。

「どうだ。間違いないか」

 モニターに現れた男が言う。別の男が答える。

「ええ。新海です」

 土間の外れまで下がった。ふくらはぎに上がり框が当たる。モニターの男が、千紘を睨み付けて、土間に入った。

「仲間がいることは判ってる。ふたりをやった手口は素人のものじゃない。ナンバープレートを付け替え、監視カメラを欺くのも、なかなか効果的な方法だった」

 ナンバープレートを付け替えたというのは、どういうことだろう。いや、そんなことはどうでもいい。男は千紘の名を口にした。この男たちは、間違いなく千紘を殺しに来た。マンションに来た警察官の仲間だ。

 廊下に飛び上がった。リビングの方向に駈けて行く。追って来る足音が聞こえた。突き当たりに和室があるだけだと判っているのに、とにかく、遠くに逃げたい一心で、真っ直ぐ駈ける。

 後ろで、大きな音がした。振り向くと、リビングのドアが開いている。ステンドグラスが割れて破片が落ちている。ステンドグラスがなくなった隙間に、男の姿が見えた。俯いて頭を押さえている。どうやら、男が駈けて来たタイミングで、津野田がドアを開け放ったらしい。

 男はドアの前に割り込み、リビングを見渡す。そこに津野田が車椅子で突っ込んだ。男は、決してひ弱な体躯ではなかったが、津野田の車椅子に抗うことはできなかった。その場に転倒した。津野田は電気コードを持っていた。先端は、銅線が剥き出しになっている。それを、男の首に押し当てた。

「あっ」

 男が首を押さえ、悲鳴を上げる。津野田は車椅子の向きを変え、千紘を振り向く。

「二階だ」

 階段はリビングの脇にある。ほかの三人に近付かなければならない。しかし、奥に進んでも和室があるだけだ。千紘は頷いて廊下を戻る。ほかの三人は廊下に上がっている。千紘は津野田を車椅子から降ろした。どうせ階段では使えない。少しでも足止めできればいい。車椅子を男たちに向けて押し遣った。

 津野田は両手と腿をうまく使い、思わぬ速さで階段を上って行く。その後を追う。階段を上り切ったところにある部屋のドアを開けた。先に中に入り、津野田を招じ入れる。すぐに鍵をかけた。

「窓だ」

 津野田が叫んだ。窓際に行き、掛け金を外す。すぐに津野田を振り向く。

「ダメです」

 庭に複数の男がいる。どうやら、家を取り囲んでいるらしい。津野田は天井を見上げている。彼の視線の先には、ロープがぶら下がっていた。ロープの一端は落とし戸に結び付けられている。

「天井裏に出られるんじゃないか」

 千紘はロープに駈け寄り、それを引っ張った。すると、折り畳み式の木製の梯子が降りて来た。

「うまいぞ。出られる」

 津野田は梯子に手を掛けた。部屋の外に足音が聞こえる。荒々しくドアを叩く。気が急く。津野田に続いて、千紘も梯子を上る。

 屋根裏は、思いの外、明るかった。三方に明かり取りの窓があったのだ。津野田は垂木の上を、その内のひとつに向かって這って行く。千紘も身を屈め、垂木から垂木に乗り移る。

 窓は嵌め殺しになっていた。津野田は上着を脱ぎ、それを腕に巻く。その手を勢いよく、ガラスに打ち付ける。最初の一撃でひびが入り、二発目で割れ落ちた。津野田は、上着を巻いた手で、窓枠に残った破片をひとつずつ、取り除く。

「さあ、急ごう」

 千紘が先に屋根に出た。思っていたより、傾斜がきつい。用心していないと滑り落ちてしまいそうだ。津野田が這い出すのに手を貸す。

 男たちが追って来る気配はない。鍵のかかったドアに手こずっているのか。それとも、天井裏から屋根に出たことを知らず、袋の鼠が怯えるのを愉しんでいるのか。いずれにしろ、追って来ないのなら、ひと息つける。

 それでも、いつまでも屋根にいるわけにはいかない。敷地は広い。そのうえ、周りは屋敷林が育って、眼隠しになっている。この家だけ、外界から切り離されているかのように、ひっそりと佇んでいる。いま千紘たちに迫っている危機に、近隣の人たちが気付く可能性は極めて薄い。助けを求めることもできない。

 ブーンという音がした。その音は、次第に大きくなって下から近付いて来る。ひと際、大きな音がしたと思った瞬間、眼の前にドローンが現れた。

「これで見張り続けるつもりか」

 津野田が苦々しげに言った。しかし、そんな甘いものではなかった。そのドローンは、火器を備えている。回転翼の下に備わる銃口が、千紘に向けられた。

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