第5話

 千紘は根岸台神経内科病院の自走式立体駐車場にアクアを乗り入れ、二階のスペースに駐車した。

 車を降りると、コンクリートフェンスまで行き、下を覗いた。アスファルトまで、優に十メートルはありそうだ。民家の二階なら、もっと低い。駐車場だとこんなに高いのか。落ちたら、打撲くらいじゃ済まないだろう。右端に眼を向ける。あった。フェンスに沿って、そこに移動する。

 助手席のメモ用紙は、裏面にも書き込みがあった。


 パーキング 二階のフロア 右端の

 綱を頼りに 階下を目指す


 死を招く 監視カメラの 恐ろしさ

 死角を探し 生き永らえる


 二階にあるロープで、一階に降りろ。監視カメラに撮られたら死ぬ。

 躊躇う余裕はない。シルヴァラードに従うと決めた。監視カメラを避けるには、こうするしかないのだろう。

 バッグからスマホと財布を取り出して、ダウンジャケットのポケットに突っ込む。メイク道具や手帳までは、持って行けない。

 フェンスにそって右端まで行くと、ロープがあった。両手で掴んで、強く引っ張る。鉄骨の柱に固く結びつけられ、緩む心配はなさそうだった。

 もう一度下を見る。一階のフェンスまでなら、四~五メートルか。

 向かいを見る。幾つかの窓には灯りが灯って、人の眼のよう。だが、人影は見えない。大半の窓は黒い。他人眼は気にしなくていい。

 千紘は眦を裂いた。ロープを持ってフェンスに跨った。足を引き上げ、フェンスの上に膝立ちになる。深呼吸をして、フェンスの外に身を躍らせた。

「痛っ」

 フェンスに拳が擦れた。その痛みで、咄嗟に手を緩めてしまい、ズズッとずり落ちる。慌てて両手に力を込めた。

「痛っ」 

 今度は肩だ。ロープにしがみついて、バランスを崩した。その勢いで、コンクリートに打ち付けられた。歯を食いしばって痛みに耐える。揺れが収まるのを待った。

 右手と左手を順に入れ替えて、ロープを伝い降りて行く。もうそろそろだろうというところで、足を伸ばした。しかし何も触れない。もう少し降りて、また足を伸ばす。今度は爪先に触れるものがあった。一階のフェンスだ。さらにひと握り。足を伸ばす。触れた。バランスに気を配りながら、両足に重心をかけていく。ロープを離し、フェンスの内側に飛び降りた。

 足裏にコンクリートの衝撃。痛みが両足に広がる。思わず、顔が歪む。しかし、怪我はなさそうだ。足裏の負担を和らげたくって、その場に座り込む。眼を上げると、ふたつのスロープが横切っていた。

 監視カメラに用心しなければならない。周囲に眼を配って、カメラを探す。右手にゲートがあり、バーが降りている。その上にカメラがある。しかし、それはバーの外を向いているから安全だ。左手を見ると、突き当たりでスロープがカーブしている。その上にカメラがあり、スロープの先を向いている。右のカメラも左のカメラも、千紘のいるところを向いていない。千紘は両者の裏にいる。シルヴァラードは、千紘をカメラの死角に誘導したのだ。二階からわざわざロープで降りて来なければならなかったのは、そのためだったか。

 しかし、ここから先はどうすればいい。どこから病棟に入ればいいのか。眼の前のスロープの周囲に眼を配る。ひとつは二階に向かう。もうひとつは地下に向かっている。二階に戻ってもしょうがない。地下から病棟に入れるのか。しかし、地下に通じるスロープの入り口には、カメラがある。まともに進めば、映り込んでしまう。姿を晒さずに済む方法。何かないか。

 光だ。レンズに向かって強い光を当てれば、イメージセンサーを無効にできると聞いたことがある。しかし、光源は? スマホがある。ダメだ。電源を切れと言われている。それに、スマホの光でレンズを無効にできるとは思えない。

 避けて行くしかない。地下スロープの入口には、コンクリートの壁と屋根がある。壁をよじ登れば屋根に上がれそうだ。二階に行くスロープの途中から、登ればいい。それなら、カメラに映らない。スロープは登り坂になっているから、上に行くほど、屋根が低くなる。行ける。千紘は立ち上がった。

 地下スロープの壁に向かって、スロープを斜めに横切った。左のカメラを意識しながら、壁の前に立つ。コンクリートの屋根に両手をかける。地面を蹴って、両手に力を込めた。

 屋根に上がると、入口の真上に行った。そこから地下スロープを覗き込む。また飛び下りなければならない。三メートル、いや、下り坂になっているからもっとか。四メートルはあるのか。まだ足の裏に痛みが残っている。できるだけ、低い位置から飛び降りたい。コンクリートにぶら下がれば、身長を差し引いて、二・五メートルくらいか。

 後ろ向きにしゃがみ、コンクリートの屋根に指をかけた。深呼吸をして足を投げ出す。両手の指で体重を支えることはできなかった。指が離れて、そのままスロープに落下した。

――!

 臀部に強い衝撃。それに頭頂部まで貫かれぬ。声も出ない。尾てい骨にひびが入ったのではないか。立ち上がることもできない。じっとしていると、痛みが和らぎ始めた。

 手を衝いて、ゆっくり立ち上がる。大丈夫。動ける。顔を上げて、スロープの先に眼を凝らす。奥は杳として、どうなっているのか判らない。天井の左右に間歇して並ぶ蛍光灯は、誘導灯になっているだけで、照明の役を果たしていない。

 監視カメラは? ハッとして天井を見上げる。真っ暗で、あっても判らない。しかし、多分、大丈夫だ。真っ暗だから、あれば、赤外線の灯りが見えるだろう。

 足を踏み出し、スロープを蹴った。下り坂で、自然と脚が前に出る。加速し、千紘の足音が谺する。脇目も振らずに駆けて行く。やがて、無機質な鉄扉が茫と浮かび上がった。照明が埃を乱反射して、当たりが煤けた黄色になっている。

 足を止めて、鉄扉の上を見る。監視カメラはない。鉄扉の前で立ち止まる。全身の神経を研ぎ澄まして、周囲の様子を窺う。辺りはしんとしている。怪しい気配はない。ドアノブに手を掛けると、指先にスチールの冷たさが伝わった。

 鉄扉を開けると、重苦しい金属音が響く。扉を開け切ると、陰鬱な色をしたタイルが眼に入った。仄暗い常夜灯に照らされて鈍い光を放っている。それを敷き詰めた廊下が、真っ直ぐ奥に向かう。

 天井を見上げる。監視カメラはない。タイルに足を踏み出す。ここは地下一階だろう。302号室に行くには、三つのフロアを通り抜けなければならない。

 しばらく進むと、左に両開きの扉があった。扉の上に「霊安室」の文字。右には片開きの鉄扉があり、「ボイラー室」の表示。そこから、低く唸る音が聞こえる。さらに進んで、エレヴェーターホールに出た。エレヴェーターは使えない。中には、間違いなくカメラがある。

 廊下を突き当たりまで行くと、右手に急な階段があった。灯りは上まで届いていない。途中で闇に融けている。先がどうなっているのか、判らないが、三階に行くには、これを上るしかない。

 一気に駆け上った。闇に見えたところにも、僅かに灯りが届いている。上り詰めたところにドアがあるのが、薄明かりで判った。

 ノブを引くと、軽い音を残してドアが開いた。その先も薄暗い。けれども、常夜灯の灯りで、先に進めるだけの視界は確保されている。タイルの色は定かではない。白か、グレーか、ベージュか。灯りの下では、明るい色をしているのだろう。丁寧にワックスをかけてあるようだ。常夜灯の弱い灯りを、反射している。

 天井を見回す。視界の利く範囲に監視カメラはない。周囲の様子を窺う。タイルのホールを横切った先に、カーテンを閉ざしたガラス張りの部屋。ガラスには赤いカッティングシートの文字で、休日急病診療所(内科・小児科・歯科)とある。監視カメラは、その上にあった。しかし、レンズはガラス張りの部屋を向いている。千紘を映していない。階段は、休急診療所の裏にあるようだ。

 身体を低くして、カッティングシートのガラスまで駈け寄る。ガラスに沿って角まで行き、そこから首を伸ばす。階段が見えた。階段の手前に、監視カメラがぶら下がっている。

 レンズの向きを考えると、その直下、少なくとも二メートルの範囲は死角の筈だ。レンズカバーは平面だ。広角レンズが使われているとは思えない。ならば、休急診療所の側面は視野角の外だ。側面に沿って進み、カメラの直下に入れば、姿を晒さずに済む。

 ガラスに背中を付けた。その体勢で蟹のように進み、角を曲がる。背中を付けたまま、角を曲がり、側面のガラスに沿って進む。カメラを眼の前に見上げる位置まで行く。背中を離し、階段に向かった。カメラの真下を通り抜ける。一気に階段を駆け上がる。スニーカーのゴム底が足音を減殺してくれる。踊り場で向きを変え、二階に向かう。天井のカメラに気を使いながら、向きを変え、三階を目指す。

 三階のフロアにも、常夜灯の弱い灯りがあった。監視カメラの向きを確認して、壁に背中をつける。灯りが漏れているのはスタッフステーションだろう。夜勤のナースがいるのか。監視カメラに写るのがダメなら、人に出くわすのはもっとダメだろう。深夜に病棟をうろついているのが判れば、間違いなく咎められる。命取りかもしれない。

 肩越しに病室の番号表示を見る。三〇八。横歩きにスタッフステーションから遠ざかる。隣の病室は三〇七。それを見て、人心地つく。若い番号は、スタッフステーションと別方向だ。誰にも気付かれずに、目的地に行けそうだ。

 蟹歩きで三○二号室に辿り着く。肩越しに見ると、四人の名札があった。静かにドアを滑らせる。人工呼吸器のシュコー、シュコーという音が二重、三重に重なり合って聞こえてきた。後ろ向きで部屋に入った。

 天井にナツメ球が幾つかあるので、真っ暗ではない。どのベッドも、外来者を拒むようにカーテンを閉めている。何の動きもない。

 内心、アメコミのヒーローが登場して、何も心配しなくていいと言ってくれることを期待していた。しかし、誰も現れない。途方に暮れて、廊下を振り向いた。部屋を間違えたのか。部屋番号の表示を確かめようと思って、ドアに向かう。

「シルヴァラード」

「え」

 右側の一番手前のベッドだった。カーテンをじっと見つめていると、再び声が聞こえた。

「シルヴァラードの導きか」

「はい」

 カーテンがさっと開く。カーテンランナーが走る音が耳に残る。

「待ち兼ねた」

 ベッドにいたのは、中年の男だった。掛け布団の上に正座して、千紘の顔に見入っている。グレーのセーター越しに、肩が華奢で、胸が痩せているのが判る。ヒーローには程遠い。

「あなたは?」

 声を落として訊く。しかし、男は千紘の問いに答えず、逆に訊き返してきた。

「君はどうやってここに来た?」

 ほかの患者に耳をそばだてられているような気がして、隣のカーテンを見る。男は千紘の視線を追って言う。

「平気だ。みんな寝てる。万一、僕たちの会話を聞かれても、心配はいらない。ここに入院しているのは、ALSが進行して、意志表示もままならない人たちだ。僕たちの話が外に漏れることはない」

「でも、大きな声だと迷惑になりますよね」

「そうだな」男も声を潜める。「で、どうやって来た」

「車です。私の」

「道路監視システムがある。Nシステムとか、Tシステム。高速道路は使った?」

「首都高に乗りました」

「料金所にも、ナンバーを読み取るカメラがある。君の走行経路なんて、簡単に判ってしまう。連中は、既にきみがここにいることを把握しているかもしれない。ぐずくずしてる暇はない。連中に気づかれる前に、病院から抜け出そう」

 ここが安全な場所だと思って遣って来たのに、さらに逃げると言う。

「シルヴァラードにこの病室に来るように言われたんです。誰なんですか。シルヴァラードって」

「僕にも判らない。だが、これだけは言える。彼は事情を全て知っている。僕たちが助かるには、彼を信じるしかない。彼はまさに神のような存在だ。彼が隠れ家を用意してくれた。僕と一緒にに行くんだ」

「隠れ家? そこが安全な場所ということですか」

 男は千紘の眼をつめる。

「判らない。相手が相手だから。しかし、ここよりは安全な筈だ。ここはあらゆるところに、監視カメラがある。トイレに行くのさえ、ままならない」

 シルヴァラードの指示を思い浮かべる。

「監視カメラに映ったら、ダメなんでしょうか」

「勿論だ。この病室までどうっやて来た。まさか、カメラに撮られたか」

「大丈夫だと思います」

 駐車場からどうやって来たのか、説明した。

「なるほど。それなら安心だ。奴らに感づかれる前に、逃げ出そう」

「私が来たルートを逆に戻るんですか」

 男は首を振る。

「残念ながら、僕には無理だ」

 顔を曇らせ、脚を伸ばした。トラウザーズの膝から下は、ひらひらとしている。千紘はハッとして、男の顔を見つめた。

「両脚を切断した」

 正座をしていたわけではなかった。折り曲げる先がない。男はニヒルな笑みを浮かべた。

「名誉の負傷さ。なんて、格好いいものじゃないか」

 千紘に殺されかけた恐怖が蘇る。

「もしかして、警察官に?」

「ああ。奴らに捕まったら、君も、僕も殺される。猶予はない。敵は国だからね」

「国?」

「日本国。国家だ」

 頬が引き攣った。

「まさか。そんなこと……」

 極悪な犯罪者でも、革命家でもない。どうして国に殺されるのか。

「その顔は、心当たりがないって顔だな」

「全く」

「知らぬ間に秘密に触れてしまったんだろう。何処で、秘密を知ったのか、一緒に考えてやりたいが、いまはそんな暇はない」

「あなたは一体……。シルヴァラードという人の仲間ですか」

 男は首を左右に振る。

「彼は僕たちを助けようとしてくれている。僕も彼のお陰で命拾いした」

 感慨深げに、ひらひらのトラウザーズに眼を落とした。殺されかけたのは、千紘だけではないらしい。眼の前の男に比べれば、千紘は遥かに幸運だ。男は千紘のようには動けない。

「カメラレンズに光を当てれば映らないって聞いたことがあります。その間に通り抜ければ?」

 男は首を振る。

「違法なレーザーポインターか、軍用の懐中電灯でもあれば、そんな方法を使えるかもしれない。しかし、そんなことをすれば、忽ち怪しまれる。ここの監視カメラは、警備会社のネットワークに組み込まれている。国家組織はその回線に、いとも容易く侵入できる。実際、奴らは日本じゅうの監視カメラに侵入して、国民を監視している。カメラに向けて強力な光を当てたりしたら、すぐに不審者として追跡されるだろう。付近一帯の監視カメラが総動員される。連中にとって、不審者の足取りを追うなんて、わけもない。カメラの向きが変わったり、電源が切れたり、少しでもカメラに異状があったって、追跡の開始さ。だから、カメラには手出しできない」

 街の至るところに監視カメラが増え、夜道をひとりで歩くときには、心安いと思っていたのに。そのカメラがいまは千紘の敵だ。

 男は思案顔で首を傾げる。

「スロープは立体駐車場に向かうものと、地下に向かうものがあるのか」

「はい」

「地下に霊安室があるんだろうか」

「ええ。ありました」

「それだ」男は腿を叩いた。しかし。千紘の身なりを見て、眉を顰める。「その格好じゃ駄目だな。そうか。そういうことか」

 もう一度腿を叩いた。尻を擦るようにしてベッドの端に移動した。両手を後ろに衝きながら、椅子に乗り移る。脚を失った生活に慣れ切っているのか、難儀しているようには見えない。椅子の上で身体を屈めて、キャビネットに手を伸ばす。扉を開けて、中からパステルピンクの布を引っ張り出した。

「これに着替えてくれ」

 男が差し出すものを受け取ると、ナースウェアだった。どうして? 戸惑いつつ、男を見る。

「早く」

「はい」

 命令口調で言われ、思わず、従う。ダウンジャケットとセーターを脱ぎ、ブラウスの上にナースウェアのトップスを着る。半袖から、ブラウスの腕が出る。見栄えの良いものではない。

「下も」

「え」

 パンツを差し出す。

「大丈夫。見ないから」

 男はベッドに戻ってカーテンを閉めた。そのてきぱきとした様子から、ぐずぐずしていられないような気がした。急いでジーンズからナースウェアのパンツに履き替える。

「着たか」

「はい」

 男がカーテンを開けた。キャビネットを指差して言う。

「そこにカーディガンがある。上に羽織ってくれ」

 キャビネットの上に、カーディガンが出されていた。それを羽織る。ブラウスの腕が隠れる。

「僕はさっき、シルヴァラードは、神のようだって言っただろ」

 ツイードの黒いジャケットに腕を通しながら言う。

「ええ」

「神は自ら助くる者を助く。シルヴァラードはまさにそうだ。生き延びるために、最低限のことはしてくれる。しかし、僕たちは自ら道を切り開かなければならない。彼は力を借してくれるだけだ」

 千紘は言われたことを思い出す。自ら生きようとしない者には手を貸さない。

「僕たちは、彼の助けを有効に使わなければならない。キャビネットの中に、ナースウェアが用意されていることは知っていた。いままで、それの使い道が判らなかった」

「私に着せるため?」

 千紘には、その理由が判らない。しかし、男は説明する代わりに、また指示を出す。

「ストレッチャーを取って来てくれ。病室の外れに倉庫がある」

 千紘はドアを振り向いた。男は声を落として続ける。

「巡回するナースがカメラに写っていないのに、いきなりこの部屋からナースが出て行ったらおかしい。スタッフステーションに行くまでは、カメラに写らないよう用心してくれ」

 眼を丸くして訊ねる。

「私、スタッフステーションに行くんですか。ナースに見られても大丈夫なんでしょうか」

「ダメだ。ナースに怪しまれたら、君も僕も、ここからこっそり抜け出すことなんてできない。騒ぎになれば、僕たちの居場所は国家組織に筒抜けだ」

「だったら……」

 男は千紘に掌を向け、制した。

「行くしかないんだ。スタッフステーションの前を通らなきゃ、倉庫に行けない。見付からないよう通り過ぎてくれ」

「何人の看護師がいるんでしょうか」

「ひとりだ」

 ひとりなら、何とか誤魔化せるかもしれない。と思う間もなく、男は続けた。

「ここは療養病棟だから、ふたりの介護士がいる」

「それじゃ、三人もいるってことじゃないですか。無理です」

「大丈夫だ。介護士は患者の体位を変えなきゃならない。褥瘡なんてことになったら、病院の恥だからね。だから、二時間ごとに病棟を巡回する。この病棟のベッド数は80は下らない筈だ。全部が埋まっているとは限らないが、ふたりで分担したって、巡回に四、五十分はかかるだろう。その間、スタッフステーションにいるのは看護師ひとりだ。介護士が巡回している間は仮眠を取る。その隙をつけばいい」

 そんなに、うまい具合にやれるだろうか。逡巡していると、また急かされる。

「早く。巡回の時間になる」

 ええい、ままよ、という気持ちでドアを開けた。

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