第3話
手を伸ばしても届かない。地面を蹴っても進まない。助けを呼ぼうにも声が出ない。何も思いのままにならない悪夢の中にいるようだ。
しかし悪夢なら、眼が醒めれば、ホッとする。夢ではないのだ。全く覚醒しており、現実の世界にいる。それなのに、千紘の身体は硬直していて、手足を自由に動かすことができなかった。あまつさえ、声もでない。いっそのこと、眼を閉じることができれば、注射針が自分の腕に刺さるところを見ずにいられる。しかし、眼を逸らすこともできず、針先を凝視してしまっている。
千紘は椅子に座らされていた。角刈りの男は笑みを絶やさず、にこやかに千紘の左袖を捲り上げる。前腕が露わになった。
「針が刺さるときだけ、ちょっと痛いかもしれませんが、すぐ楽になりますから、おとなしくしていてください」
看護師が子どもを宥めるような口吻だ。角刈りは注射針を天井に向け、プランジャを少しだけ押し上げた。針の先端から液体が飛び散る。男はそれに満足して、千紘の手首を左手で抑える。
千紘は先ほど、男がスキサメトニウムのアンプルから、液体を吸い上げるのを見ていた。その透明な液体を投与されたら、窒息死してしまう。腕に力を込めて、精一杯抗わなくてはならない。それなのに、千紘の身体は恐怖のあまり、完全に硬直してしまっていた。
腕に針の冷たさが伝わる。もうお仕舞いだ。どうしてこんな目に遭うのか、全く判らない。男たちの完全な支配力が、千紘を絶命させようとしている。その邪な強い意志から逃がれる術がない。
意識が遠退いて行く。薄れ行く意識の片隅で、バチバチっと火花が飛ぶのを見た。バチンと大きな音がして、真っ暗になった。
ハッとして眼を醒ました。ゆっくりと眼を開ける。何も見えない。死んだのか。いや、意識がある。
――生きている。
真っ暗だ。でも、死後の世界というわけではないらしい。照明が落ちているだけか。ここは何処だ。白い矩形が浮かび上がっている。ノートパソコンのディスプレーだ。その灯りで、自分の部屋だと気付いた。千紘は椅子に座ったままでいる。
スキサメトニウムは? 打たれなかったのか。とにかく生きている。しかし、どうして?
――致死量分、打たれなかったのか。
男たちの気配はない。別の部屋か。声も、息遣いも、衣ずれの音もしない。洗面所かトイレか。それとも、千紘が死んだと思って、帰って行ったのか。
どれくらいの時間、意識を失っていたのだろう。数十分か。あるいは数時間か。それすら判らない。辺りは静まり返って、聞こえるのは千紘の心臓の鼓動だけだ。
そっと立ち上がって、耳を澄ます。廊下の暗闇に神経を集中する。視界の利かないところに潜んでいるかもしれない。しかし、気配を感じない。
――間違いない。男たちはもういない。
とにかく灯りを点けよう。壁に行ってスイッチを押す。しかし、照明は灯らない。
――ブレーカーが落ちている?
そういえば、意識を失う直前、火花を見た。大きな音がしたのは、ブレーカーの落ちる音だったのかもしれない。
ブレーカーは洗面所だ。スマホの灯りで足元を照らし、壁伝いに廊下を進む。ホラー映画だったら、いきなり、殺人者が飛び出して来るところだ。竦む足を引き摺って、洗面所を目指す。
洗面所に入って、スマホの画面を上に向ける。分電盤がぼうっと浮かぶ。手を伸ばし、ブレーカーを下げた。
ふっと息を吹き返すように、リビングに瞬きが起こった。その灯りが廊下に届く。頭上では換気扇が低く唸り出した。少しホッとして、スマホを洗面台に置く。壁のスイッチを押して、洗面所の照明も灯す。眩い光に射られて、咄嗟に眼を瞑った。頭の芯が熱を持ち、じんじんと痺れている。
どうしてブレーカーが落ちたのだろう。怖ず怖ずと洗面所から出る。ふたつの影が目の端に入った。ぎょっとして思わず身体を引く。腰を抜かし、尻もちをついた。
「厭あっ」
急いで立ち上がり、洗面所に戻った。
それを眼にしたのは、ほんの一瞬だった。それにも拘わらず、その映像が網膜から視神経を経て後頭葉に、ありありと刻まれてしまった。
色白の男は背中を壁につけ、廊下に尻をついていた。右の眼には歯ブラシが突き刺さり、どす黒い血が涙のように頬を伝い、胸まで垂れていた。歯ブラシの柄は眼の奥までしっかりと挿し込まれていた。眼球の外に出ているのはブラシの部分だけだった。柄は眼球を貫いて、脳まで達しているに違いない。
角刈りの男は、若い男の足元にうつ伏せに倒れていた。首の右側に注射器が刺さっていた。男の横顔は苦悶に歪み、一分も笑っていなかった。
何がどうなっているのか、さっぱり判らない。千紘を殺そうとしたふたりが殺された。ふたりを殺した者は、何処にいる? 千紘も殺されるのか。床に尻を衝いて、壁に背中をつける。そのまま、じっとして耳を澄ませる。身体の全神経を尖らせる。恐怖心との闘いだ。
さらに数十分か、数時間、じっとしていた。鼓動が再び落ち着きを取り戻した。同時に、寒さを意識した。部屋の暖房は洗面所まで届いていない。いつもでも、こうしてはいられない。
怪しい気配はない。物音もしない。床に手を衝いて立ち上がる。咽喉がからからに乾いていた。洗面台に向かい、蛇口を開く。冷たい水を掌に受け、咽喉に流し込む。
蛇口を閉めて、洗面ボウルを見つめる。どういうことだろう。何に巻きこまれたのだろう。冷静に考えなければならない。その一方で、何も考えたくないとも思う。
助けを呼ばなければ。しかし誰を頼ればいい? 警察を頼ってもいいのか。ふたりの男は警察手帳を持っていた。
深呼吸をして顔を上げる。鏡に映る顔を見つめる。ダメだ。警察は頼れない。国家権力に頼るわけにはいかない。理由は判らないが、はっきり、そう思う。
「え」
鏡の下部に歯磨き粉で書いた文字があった。
逃げろ
CRF
「CRF……」
CRF? 何のことだろう。思った途端に、症例報告書という語が浮かぶ。色白の男が、ノートパソコンにUSBメモリを差していた。あれのことか。
逃げろ? ここから? 自分の部屋が安全じゃないと言うのか。どこに逃げろと言うのだ。
誰が書いたのだろう。味方か。
ふたりの男に殺されかけた。しかし、千紘のほうが生きていて、ふたりが死んでいる。未知の何者かが、すんでのところで救ってくれたのか。
いや、助かったと思うべきではない。逃げろと言うからには、ほかにも殺し屋がいる。ふたりを殺した者が、次は自分がやる。逃げられるものなら逃げてみろと言っているのかもしれない。
信用できる者に助けを求めにければならない。ふたりは警察官を名乗っていたから、警察官を呼ぶのは躊躇われる。ならば、誰を頼ればいいのか。隣の部屋の住人? ダメだ。たまに顔を合わせるくらいで、どんな人なのか知らない。隣に殺し屋が住んでいないと、どうして言い切れる? スーパーの誰か? あの主婦たちが少しでも千紘の役に立とうとするなんて考えられない。
とにかく、身体を温めたい。マンションの機密が高くても、上着なしで洗面所にいたら凍えてしまう。
洗面所を出て、ふたつの影を眼にしないよう顔を背ける。リビングに駆け込んで、ドアを閉め切った。リビングは充分過ぎるくらいに温められていた。それだけで、少し安心できる。床にペタっと尻を衝き、体育座りをした。脚に顔を伏せ、じっとする。このまま意識が遠のき、次に目覚めたときには、全てが夢だったらいいのに。
しかし、これは悪夢なんかじゃない。廊下にはふたつの死体がある。
ゾッとした。見知らぬふたりの死体。憂鬱な現実。その忌々しさに耐えきれず、立ち上がった。パソコンのディスプレーが眼に入った。スクリーンセーバーが文字を流している。
スマホの電源を切れ
千紘はハッとしてポケットを探った。
――違う、洗面台だ。
外部との接点を置いて来てしまった。しかし、洗面所の前には、遺体が転がっている。取りに戻る気になんてなれない。座ったままでいると、スマホの着信音が鳴り出した。お気に入りの曲を着信音にしているのに、いまはとても禍々しいものに思える。咄嗟に、両手で耳を塞ぐ。その内に切れた。と思う間もなく、また鳴り出す。早く出ろ、早く出ろと催促する。
千紘は覚悟を決めて立ち上がった。廊下に出て、死体を見ないよう、顔を背ける。着信音は鳴り続けている。
洗面所に入って、スマホを取り上げた。
――アラーム?
着信ではなかった。アラームだ。止めない限り、繰り返し鳴るようスヌーズを有効にしてあった。時間表示を見ると、二時を回ったところだった。どうしてこんな時間に鳴るのだろう。訝りながら、アラームを解除する。
不在着信のアイコンに気付いた。誰からだ。タップすると千紘の電話番号が表示される。
――この電話から?
留守番メッセージのアイコンもある。何だろう。不審に思いながら、留守番電話サービスセンターに繋いでみた。午後十時十七分に、メッセージを預かったと言っている。
「すぐにそこから逃げろ。CRFを忘れるな。廊下のふたりのようになりたくなければ、逃げろ。自ら生きようとしない者に手を貸すことはない」
太い声だった。男の声だ。だが、全く聞き覚えのない声だ。逃げなければ、ふたりのようになる。その言葉を反芻する。
ハッとした。ふたりを殺した者が、千紘のスマホを使って、千紘にメッセージを残したのだ。
罠かもしれない。しかし、縋るべき味方なのかもしれない。どっちだ。どうする。信用するか、しないか。判断を誤れば命取りになる。それだけは間違いない。逡巡している暇なんて、ないような気がする。
――いま、生きている。
殺すつもりなら、気絶している間に、そうしていただろう。敢えて逃げろという必要もない。信用するほうに賭けよう。そう決めた。
千紘は洗面所を飛び出した。
リビングに戻って、マウスをクリックする。スクリーンセーバーが消えて、アイコンが現れる。リムーバル記憶デバイスから、USBメモリを選んでクリックする。読み取りエラーの表示。専用のアプリケーションがないと読み込めないようだ。
色白の男が持ち込んだものが症例報告書なのか、それとも別のものなのか、それは判らない。しかし、ほかに症例報告書らしきものに思い当たらない。中身を確かめようがないのなら、それに違いないと信じるしかない。千紘はUSBメモリを抜き、握り締めた。
取るものも取り敢えず、愛用のバッグだけ掴んで、玄関に向かう。逃げるのに、パンプスなんて履いて行けない。パンプスで気分を変えようと思った朝が、もう随分と先の事に思える。スニーカーを履いて紐を固く結ぶ。ドアノブに手を掛けて、少し躊躇う。ふたつの遺体を放置して行くことに罪悪感を覚えた。しかし、構っていられない。
外に出ると、漆黒の空に細い月が掛かっていた。夜が明けるのはまだ、だいぶ先だ。千紘が思っているより、ずっと短い時間しか経っていないのだ。
エレヴェーターホールには向かわず、非常階段を一階まで駆け降りた。そのまま野天の駐車場を横切って、オレンジ色のアクアに向かう。バッグの中にスマートキーが入っている。ドアハンドルに触れて解錠させた。
ドアを開け、転がるように運転席に乗り込む。始動ボタンを押してハイブリッドシステムを起動させる。眼を上げると、ワイパーとウインドーの間にメモ用紙。何か書いてある。メッセージ? 一旦、車を降り、メモ用紙に手を伸ばす。
横浜
横浜に行けというのか。
鏡、パソコン、自動車。動く先々に、指示を小出しにしている。未知の誰かは、近くに身を潜めているのか。助けるのに値するかどうか、試されているような気がする。
漠然としてはいるものの、逃亡先は指示された。まだ、生き永らえていられる。終わりにはならない。そう思って、心を鼓舞する。
アクアをゆっくり発車する。
路地から大通りに出て、カーナビの時計を見る。深夜だから逃げ易い。しかし、深夜だから、不安になる。
正しい選択なのだろうか。善良な市民なら、警察に通報する。アクアを進めれば進めるほど、不安が大きくなる。得体の知れぬものが爪を研ぎ、千々に斬り裂こうとしている。そんな気になる。
怖くなって、車を停めた。進む気になれない。かと言って、死体のある部屋に戻るわけにもいかない。
ウィンドーをノックする音がして、ハッとする。白バイだ。途端に心臓が早鐘を打つ。どうする。この警察官も人殺しか。
「開けて」
仕方なく、四分の一だけ開けた。
「どうしました。何かありましたか」
穏やかな口調。ふたりの男たちとは違う。少し安心する。
「いえ、何も」
「ここは駐停車禁止です」
「すいません。すぐ出します」
「免許証見せてください」
助手席からバッグを取り上げ、中を漁る。免許証を取り出し、ウィンドーの隙間から差し出す。白バイ隊員は免許証を見ながら、受令機のボタンを押した。
「……免確によるL1、L2願います。氏名新海千紘、平成元年……」
この白バイ隊員なら、千紘を助けてくれるだろうか。全て事情を話したら、安全なところに連れて行ってくれるだろうか。
「同人、新海千紘で総合一本願います」
千紘は、白バイ隊員を見た。白バイ隊員は千紘に背中を向け、遣り取りしている。随分、時間がかかっているような気がする。不安が兆す。この警察官も味方ではない。そんな気がし始める。白バイ隊員が、受令機から指を離して、千紘を振り向いた。
「これ、本物?」険しい声で訊く。
「え」
白バイ隊員が、懐中電灯を千紘の顔に向ける。眩しくて眼を背ける。
「何ですか」
「車検証、見せてください」
グローブボックスから、車検証入れを出して渡す。白バイ隊員は、それを開いて、懐中電灯を当てる。免許証にも光を向け、裏返し、表に戻し、矯めつ眇めつ見入る。
「偽造にしては良くできてる」
「偽造って……免許センターで発行してもらったものです」
白バイ隊員は首を傾げる。
「あなたのデータがないんです」
何の言い掛かりだろう。
「前科前歴も犯罪組織との関わりも出てこない」
「当たり前です」少しムッとする。
「本名ですか」
何を言い出すのだ。この白バイ隊員も敵に違いない。
「ほかに身分を証明するものはありますか」
あるわけがない。名前の入っているものならある。財布を開いて、カードを抜き出す。キャッシュカード、ポイントカード、協会けんぽの保険証。ほかには……。上下水道の振込受領書があった。
白バイ隊員は、それらをひとつずつ確かめる。
「免許証照会に、システム障害が起きてるのかな」
首を捻りながら、千紘の個人情報の記録を返してきた。味方にならない警察官なら、さっさと離れたい。
「実家の母から、具合が悪いと連絡を受けたんです。早く、駈け付けないと。重い病気なんです。手遅れになってしまいます」
白バイ隊員は、千紘の顔をじっと見つめる。千紘は敢えて見つめ返した。
「判りました。あなたの言うことを信用します。しかし、停車も禁止ですから、キップを切ります」
クリップボードに向かってボールペンを立てる。駐車していたわけじゃないのに、キップを切られるのか。千紘の記録を残したいだけかもしれない。信用されていない。早く逃げたい。
「内容を確認してください。問題なければ、住所と氏名をお願いします」
読まずに、一覧しただけで、住所、氏名、電話番号を書き込んだ。キップを返そうとすると、丸型のスタンプパッドを差し出している。
「左手の人差し指につけて、名前の後ろに押してください」
指印まで取るのか。全く信用されていないのだと思った。だが、逆らって、もっと厄介なことになるのは避けたい。指示に従った。
クリップボードを手渡して、発車した。
すぐに赤信号に当たった。
「首都高で磯子に向かえ」
びっくりして、後席を振り向いた。
「見るな」
怒鳴られて、慌てて前を向く。首を固定したまま、瞳だけちらっと上げ、ルームミラーを窺う。そこに人影はない。映らないようにしているのか。
「あの……。どうして私が殺されないといけないんですか」
角刈りは、治験薬のデータ改竄をしたと言っていた。USBメモリには、症例報告書のデータがあるらしい。殺されかかった裏には、治験薬に関する陰謀があるのか。それを訊きたかったのに、男の応えは素っ気なかった。
「知る必要はない」
発声者の実体を認識できないせいか、その声は骨伝導で内耳に直接届いているかのようだ。だが、聞き覚えがある。留守番メッセージの声だ。
「でも……命が懸かってるのに……」
「生きたいと思うか」
「勿論です」
「なら、諦めるな。諦めなければ、逆転できる」
「諦めません」
ルームミラーに眼を遣る。やはり姿は映っていない。
「あのふたり、警察手帳を持っていました」
「警察官なら誰でも持っている」
「警察が私を殺そうとしている?」
信号が変わって、ブレーキから足を浮かせる。アクセルを踏み込む。加速して、速度を一定にしてから再び訊ねる。
「警察が私を殺そうとしてるんですか」
「人を殺すのは人殺しに決まってる。そいつがどこの組織に属しているかなんて、大した問題じゃない。それがたまたま警察だったというだけのこと」
「警察官が市民を殺すなんて、そんなこと……あり得ないでしょ」
「常識を疑わない人間は早死にする」
ルームミラーを見た。映っていない影に向かって訊ねる。
「あなたは、一体?」
「シルヴァラード」
「え?」
「人はそう呼ぶ」
シルヴァラード……。どういう意味だろう。確か、そんな名の銀鉱山がカリフォルニアにあった。
「私は、どうなるんですか。警察に……追われ続けるんですか」
応えが帰って来なかった。それきり、何を質問しても応えてくれなくなった。耳を澄ませても、衣擦れの音すら聞こえない。次第に、後席に人がいるのかどうかすら、怪しいと思うようになった。知らぬ間に車を降りてしまったのか。あるいは、後席に人がいると思ったのは幻覚で、固より誰もいないのか。
磯子インターチェンジの案内表示板が見えた。
「次で降りるんですね」
返事はない。本当に幻聴だったのかもしれない。殺されかかった恐怖で、脳神経に異常なパルスが流れたのか。ならば、ふたりの男を殺害したのは誰だ。いっそ、あのふたりのほうが幻覚であってくれれば、どんなに有り難いか。
けれども、幻覚であった筈はない。いまステアリングを握って車を運転しているのと同じくらいに、スキサメトニウムを注射されそうになったことは、紛うことのない現実だった。それは断言できる。後席から話し掛けてきた声だけが、幻覚なのか現実なのか、確信を持てない。しかし、その声音は、脳裡にはっきりと蘇らせることができる。
「あ」
USBメモリをどうするのか、訊き忘れた。
千紘は結局、磯子インターで首都高を降りた。一般道に出たものの、そこから先は、どうすべきか判断できない。路肩に停車して、逡巡する。何気なく、助手席に眼をやると、メモ用紙がある。それを手に取る。
根岸台神経内科病院
302
千紘はメモ用紙の文字に、指先を這わせる。何度も何度も、メモ用紙の上で指を往復させる。紙の感触が確実に指に伝わる。幻覚ではない。シルヴァラードは現実にいて、千紘を助けようとしている。俄かに身体が熱くなる。
カーナビの時計に眼を遣ると、三時半を回っていた。時間外出入口は開いているだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます