#18我が家へ
ルミナさんの話によると、昔ジャバルさんに猛烈アピールをしたとか。
最初は煙たがられていたけど最終的にジャバルさんが折れてお付き合いに発展したらしい。
ルミナさんが自慢げに話す”恋の猛烈アピール大作戦”の話しを、マーガレットは甘味水を飲みながら食い入るように聞いていた。100年ぶりの甘味水だっていうのにマーガレットは恋バナに夢中になっている。まさにお年頃の女の子といった感じだ。
こうなると会話に入る隙が無い…僕はルミナさんが奢ってくれた甘味水を美味しく飲みながら2人が楽しそうに話す姿を眺めていた。
「でねぇ〜、やっぱり男性のハートを射止めるにはやっぱり胃袋を掴むのが1番!!」
「ほう!料理ですか!師匠!!」
この短期間でルミナさんはマーガレットの恋の師範に昇格したらしい。
こうやって楽しそうに話している姿を見ると、即死級の回し蹴りをするようには見えないな…。まさに美しい薔薇にはトゲがあるとはこの事だ。
それにしてもこの”甘味水”が思ってる以上に美味しい事に僕は驚いている。
これはマーガレットが100年ぶりに飲みたがる気持も分かる。美味すぎる!!
単にリンゴジュース的なのを想像していたが実際はそうでは無く、ほのかに微炭酸で味はリンゴに似ていてどこかマイルドな味だ。それにアルコールが入っている訳では無いと思うが、飲んでいると体が熱ってくる。異世界版のお酒なのだろうか?
飲むごとにその味にハマってしまう。これはリピート確定だ。
「ルミナ、お店の方は大丈夫なのですか?」
マーガレットとルミナさんの後ろの方から聞き覚えのあるダンディズムな声が聞こえる。
間違いない。この声の主はジャバルさんだ。
「あっ、ジャバル〜!!もう仕事は終わったのかい?」
「今日は早めに切り上げて来ました。それにハルト様達も来ていると思いましたので、せっかくですから一緒にお食事でもと思いまして。」
「さっすがジャバル!!貴方のそうゆうところ好きだよ。」
ルミナさんはそう言うとジャバルさんの頬に熱いキスをした。
その瞬間、お店の中にいた男性客達は絶望に満ちた雄叫びを上げ中には号泣する人までいた。ルミナさん本当に人気者なんだなぁ…。
「こっ、人前でしてはいけないと何度も言ってるではありませんか!」
紳士でダンディズムなジャバルさんの頬が少しだけ赤くなっていた。
ポーカーフェイスだと思っていたけど意外と照れ屋な一面もあるらしい。
これぞまさにギャップと言うやつだ。
「もう照れっちゃってさぁ〜可愛いだから!」
「とにかくです!ハルト様とマーガレット様に美味しいご飯を!!ルミナ期待していますよ。」
最後の最後でダンディに決めても頬が赤くなっているジャバルさんであった。
◇
しばらくするとルミナさん渾身の料理が運ばれて来た。
「さぁ!!私が持てる全ての力を使って作り上げた渾身の料理達!その名も”ルミナスペシャル”!!誰も取りはしないから、たぁ〜んとお食べ!!」
肉に海鮮にどれもこれも見た事もない極上の料理がテーブルに並べられている。
それにこの世界に来てからやっとまともな食事が食べられる…僕の胃袋は限界に達していた。ルミナさんに感謝しつつご馳走になるとしよう。
「いただきます!!」
どれから食べるか悩んでいる暇は無い!!ここは今戦場なのだ!!
僕は目の前に置いてあったステーキのような肉料理を取って口へと運ぶ…。
「うっ…うまい…!!」
何だこの味は!?あまりの美味しさに衝撃が走る。
肉の柔らかさといい今まで食べた事の無い味だ!この世界にしかない香辛料や調味料を使っているのだろうか?それにしても美味すぎる!!トレビアン!!!
「そんなに美味しそうに食べてくれると、こっちも作ったかいがあるよ〜」
「私が言うのも何ですが、ルミナの料理は絶品なのです。この際マーガレット様も教わってみてはいかがでしょう?」
「そうだよ!マーガレットちゃん!!時間がある時にでも私の所で働いてみないかい?胃袋を掴む修行だよ!!」
「胃袋を掴む!!いいのですか?」
マーガレットは瞳をキラキラと輝かせながら料理を頬張る僕の方を見る。
「ハルト様、もしお時間がある時はルミナさんのお店のお手伝いをしてもよろしいでしょうか?」
マーガレットのキラキラと輝かせる瞳の奥には、決意の炎がメラメラと燃えたぎっていた。
これは本気だ。こんな真剣にお願いをされてしまっては断ることは出来ない。
それに本人がやりたいと思う事は積極的にやらせてあげたいと思うし、元より断る理由はミジンコたりとも無い!なぜならマーガレットの手料理が食べれるチャンスなのだから!!
これがお目当てという事は誰にも悟られないよう心の奥底にそっと閉まっておこう。
「もちろん!マーガレットがやりたいと思う事があるなら、僕はチャレンジして欲しいと思うよ!頑張ってねマーガレット!! ルミナさん、僕からもお願いします。」
「良かったね!マーガレットちゃん!!」
マーガレットは嬉しそうにルミナさんと喜んでいた。
その姿はまるで仲の良い姉妹のようで、見てるこっちがホッコリとしてしまう。
「それじゃ〜改めて!!今日という日にかんぱ〜いっ!!!」
ルミナさんは店内にいる全ての人に向けて乾杯の音頭をとり店内を沸かせた。
それからは大いに盛り上がり僕達は楽しいひとときを過ごし、気付けばお店も閉める時間になっていた。
僕とマーガレットはご馳走してくれたお礼に店の後片付けを手伝いをする事にした。
「そういえば、2人は今日どうされるのですか?」
「あっ…」
料理に夢中で宿の事をすっかり忘れてしまっていた。
時間的に今から入れそうな宿はどこかあるのだろうか?外を見て見ると、賑わっていた広場も静まり返っており街頭の明かりがしんみりと灯っている。
「その様子だと宿はお取りになっていないようですね。」
「はい…この街に着いてから色々とバタバタしていたものですから…」
「もしハルト様がよろしければ家に泊まっていかれてはどうでしょうか?余っている部屋もございますので。」
「そうだよ〜!!こんな場所だけど行く当てが無いならうちに泊まっていきなよ!!」
ドラゴニス夫妻…なんて良い人達なんだ!!
この街に着いてから何から何までお世話になりっぱなしだ。
今度何かお礼をしなくては…後でマーガレットと一緒に考えるとしよう。
「いいんでしょうか?こんなにお世話になってしまって…」
「そんなお気になさらず。ルミナもこう言っておりますし。」
ドラゴニス夫妻は優しい表情で僕達2人を迎えてくれた。
ここは断る方が失礼だ。それにジャバルさんに色々と聞いておきたい事もあるし、お言葉に甘えて今日はお世話になるとしよう。
「それじゃあお言葉に甘えて、お世話になります。マーガレットもそれでいいかな?」
「もちろんです!ハルト様!!」
どうやらマーガレットも嬉しそうだ。
「よし!じゃ〜後の片付けはジャバルに任せて部屋に案内するから付いておいで〜」
こうと決めたら即行動する辺りマーガレットにそっくりだ。
ジャバルさんの方を見ると少し困ったような様子だったが、優しく頷くと僕達をルミナさんに付いて行くように促してくれた。ありがとうございますジャバルさん。
ルミナさんは2階へと向かい、さっき僕達が座っていた席の先にある扉へと入っていった。
その後を付いて行くと広々としたリビングが見えて来る。
「ようこそ我が家へ!!」
改めて見渡して見ると、アンティークな家具に店の表に置いてあった植物が所々に飾ってあった。
きっと部屋のコーディネートはジャバルさんが担当なのだろう。
とてもお洒落な内装でどこか懐かしくも感じさせる。
「とてもお洒落なリビングですね、なんか懐かしいな〜」
「この家具や部屋の内装はジャバルの好みでね〜、私はそうゆうの疎いから全部ジャバルに任せてるんだよ。ささ!2人の部屋はこっちだよ〜」
やはりこの家具や内装はジャバルさん担当だったか。
マーガレットも興味があるのか部屋を見渡しては1人でソワソワとしている。
リビングの先にある扉を進んで行くと左右に部屋が2つあり、ルミナさんは右の部屋へと向かって行った。
どうやらこの部屋が今夜お世話になる宿らしい。
「はい!ここが2人の部屋だよ〜少し狭いけど気にせず自由に使ってもらって構わないから。じゃあ〜私はジャバルの後片付けの手伝いに戻るから、後は2人でごゆっくり〜」
ルミナさんは悪い表情を浮かべながら部屋を後にしてジャバルさんの元へと戻って行った。何かイベント毎がある度にルミナさんにはからかわれてしまいそうだ。早く免疫をつけなければ…。
ともあれ、これで今晩の宿の心配も無くなった。僕は振り返り部屋を見渡して見るとある事に気付いてしまった…。
「これは…」
ルミナさんの悪い表情の正体が分かってしまった。
…
……
………
「ベットが1つ…」
いかん!急に恥ずかしくなって来てしまった…。
マーガレットの方を見ると、どうやら同じ事を思っているらしくマーガレットは頬を赤くして恥ずかしそうにしている。そんな反応をされるとこっちまで恥ずかしくなってしまうじゃないか!!動揺する気持ちを抑えつつ、僕は深呼吸をして一旦気持ちを落ち着かす。
こういう場合はマーガレットにベットを使ってもらって、僕が床かソファーに寝るのがベストな選択だ。よし。そうしよう!あわよくば一緒のベットに寝れるかもしれないという下心など僕には無い!!紳士に対応しよう!!
「ベット…1つしかありませんね…。」
「そっ…そうだね、まぁ僕がソファーで…」
「私は!私は一緒に寝るは嫌じゃ…無いですよ。ハルト様が嫌じゃなければ…ですけど…。」
何という破壊力!!!まさかの添い寝OKパターンとは誰が予想しただろうか!?
しかもこれで断ってしまったら逆にマーガレットを傷つけてしまう事になる…。
これは覚悟を決めるしか無い…のか?
マーガレットと一緒に…
添い寝…
…
……
………
「温泉に行こう〜!!!」
勢いよく部屋のドアが開くと、そこにはルミナさんとジャベルさんが立っていた。
あまりの急な出来事に、僕とマーガレットは慌てて振り返り互いに背中を向き合った。
「あらぁ〜もしかしてお取り込み中だったかしら?」
ルミナさんがニヤニヤした顔で僕に詰め寄ってくる。
ジャバルさんも慌ててフォーローに入るが、僕達2人は余計に恥ずかしくなり互いに顔が真っ赤になった。
「だから勝手に入っては行けないと言ったではありませんか!ルミナ!!」
「だってぇ〜やっぱり気になるじゃない?マーガレットの恋の師匠としてはさぁ〜」
「ルッ!ルミナさ〜ん!!」
マーガレットは慌てながらルミナさんの元へ駆け寄り口を抑えに行った。
それを見て僕とジャバルさんは顔を合わせて苦笑いしたのだった。
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