#17癒しの酒場

店内に入ってみるとそこは喫茶店というよりも酒場に近かった。

中は多くのお客さんで賑わっており外観のイメージよりも店内は広く感じる。

まさに冒険者の酒場って感じだ。冒険者登録とかここで出来るのだろうか?



「いらっしゃ〜い、お二人さんかい?」



店内に入ると1人の女性店員が声をかけて来た。

その女性は妖艶な雰囲気を醸し出しており、服装の露出度も高めで正直目のやり場に困る。



「あっ、はい2人です。」


「はぁ〜い、それじゃあ案内しますねぇ〜」



そう言うとその女性店員は僕達を2階の席へと案内してくれた。

後ろ姿からでも分かるくらい抜群のプロポーションの持ち主で、その女性が店内を歩く度に男性客達は見惚れていた。どうやら男性客達のお目当てはこの女性店員らしい。

心身共に疲れきった男性達の心を癒す為の”癒しの酒場”とでも言ったところだろうか?

これがゲームの世界だったら…いかん落ち着くんだ自分よ。



「はい、こちらの席にどうぞ〜。注文が決まったら教えて頂戴ね。」


「あっ、はい、どうもです」



その女性店員はメニュー表をテーブルに置くと1階の方へと戻って行った。



「ハルト様、鼻の下が伸びてますよ。」


「へっ?」



店内に入って一言も発しなかったマーガレットが、

席に着いた途端に軽蔑した目で僕を見ながら圧をかけるように口を開いた。



「ハルト様はあんな女性がタイプなのですねー、へぇー、そうなんだー」


「いや、違うから!!鼻なんて伸ばしてないから!!」



これは完全に誤解されている…。

これもあの女性店員から発せられる妖艶な雰囲気の効果か何かなのだろうか?

いや、今はそんな事を考えている暇は無い。何とかしてマーガレットの誤解を解かなければ…。



「あの〜マーガレットさん?」


「へー…言い訳ですかー…これは回し蹴りが必要ですねー。」



ヤバイ。マーガレットさんが怖い。

それにこっちの話を全然聞いてくれそうに無い状況だ…。

左右にユラユラと揺れるブリキの玩具のように身体を揺らしながら笑顔を見せているが、目が笑っていない。怖い。

しかし、ここで引いてしまったら変な誤解を生んだままになる…。それとあの回し蹴りだけは何としても回避しなければ…。



「確かにさっきの女性店員は大人な魅力がある人だと思う。けど…」


「ハルト様、表に出ましょうか。ここでは他のお客様の迷惑になりますので。」



マーガレットは僕の話に耳を貸さず、勢いよく僕の手を掴んで席を立った。

あまりの勢いに周りにいる他のお客さん達も何事だとこちらに注目し始める。

このままじゃまずい…確実に死んでしまう。



「けど!僕はマーガレットの方がタイプだから!!…。」


「えっ!?今なんと…???」


「だから…マーガレットの方が僕はタイプだから!!」



やばーい。恥ずかしい。恥ずかしすぎるぞ!!

これじゃあまるで公衆の面前で告白しているようなもんじゃないか!!

まさに青春!!これぞ青春の1ページって感じなのだが、あまりにも恥ずかしすぎるこの状況に僕はもう耐えられそうに無い…。



「おーいみんなー!!愛の告白だぞ〜!!!」


「いや〜若いね〜これぞまさに愛だね〜」



周りのお客さん達が飛ばす野次に2人共顔を真っ赤にして静かに席に着く。

いつしかマーガレットの握っている手の強さも弱くなっており、恥ずかしいのか少しだけ汗ばんでいた。



「しょっ…しょうがないですね…まったく。今回だけは許してあげます。次は…無いですから…。」


「うっ…うん。次は気を付けます。」



あまりの恥ずかしさに2人して俯きながら、

周りから飛んでくる野次をBGMに高鳴る鼓動をお互いに落ち着かせた。





しばらくすると周りからの野次も落ち着いて来た。

互いにぎこちなく顔を上げて見つめ合う。マーガレットの頬はまだ少しだけ赤くなっており、目が合うとすぐに横にそらしてはチラチラとこちらを見ていた。

そんな反応をされると余計にこっちまで意識してしまうじゃないか…。可愛いぜまったく。

しかしこのままという訳にもいかない。ここは勇気を出して先人を切ろう。



「お熱いね〜お・ふ・た・りさん」


「ひっ!!」



急に話しかけられ僕とマーガレットは同時に声を上げてしまう。

振り向くとそこには、先程の女性店員がニヤニヤしながら立っていた。

どうやら僕達2人の反応を見て楽しんでいたらしい。



「さっきは店を盛り上げてくれてありがとね〜おかげで儲かったよ〜。」



そう言うと女性店員は2つのジョッキをテーブルへと置いた。

そのジョッキの中からはリンゴのような甘い匂いがほのかにする。



「これは??」


「さっき店を盛り上げてくれたお礼だよ、この店の名物”リゴスの甘味水”さ!もちろん私の奢りだから心配しないで飲んでね〜」


「はっ…はぁ…」



不安をよそにマーガレットの方を見ると、

お目当ての甘味水に目もくれず女性店員に対して鋭い視線を送っている。

これは止めた方が良さそうだが…止めたら止めたでまた厄介な事になりそうだ。



「ん?」



マーガレットから送られる鋭い視線に気付いたのか、

女性店員はマーガレットに優しく微笑むと彼女の耳元に顔を近づける。

しばらくすると先程まで女性店員に対して鋭い視線を送っていたマーガレットの表情が緩み、女性店員と熱い握手を交わしていた。何だろう…1人だけ置いてきぼりにされた気分だ。



「挨拶が遅れたけど、私はこの店のオーナー、”ルミナ・ドラゴニス”、ルミナって呼んでね。よろしく頼むよ。」


「えっ?ドラゴニスって…ジャバルさんと…」


「あら?私の愛しい旦那に会ったのかい?」


「えっ!?!?!?」



まさかの展開に2人して開いた口が塞がらなかった。

この店のオーナー”ルミナ”さんが、まさかジャバルさんの奥さんだったとは…。

ジャバルさんも紳士な顔をして男なのだと痛感させられた2人だった。

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