#15一攫千金
店内に入った時には人の気配は全く感じなかった。
それに”ジャバル・ドラゴニス”と名乗るこの人物…僕が転生者である事も知っていた…?
この人も転生者なのか?いや、もし転生者だった場合はお互いに感知できるはずだ。
”転生者を感知する事”がどういった風に自身で感じ取れるのかは不明だが、この街に入った時ですら何かを感知するような事は無かった…。だとすればこの人は転生者では無いかもしれない。今のところは…。
「ハルト様」
マーガレットはすかさず僕の前に立ち”ジャバル・ドラゴニス”を警戒する。
「無礼を承知で聞くが、貴様何者だ?それに気配を全く感じなかった…魔術師か?」
先程まで甘味水を求めて幼女のように瞳をキラキラさせていた同一人物とは思えない。
今のマーガレットの瞳は”ジャバル・ドラゴニス”に対して殺意向けている。
「そう警戒なさらないで下さい。私は怪しい者ではありません。ただの年老いたこの店のオーナーでございます。」
彼はそう言うと両手を上げて抵抗の意思が無い事を示した。
「マーガレット…。」
僕はマーガレットの肩に手をやり警戒を解くように促す。
今のところ僕達に敵意を向けているようには感じない。それどころか表情一つ変えず平常心を保っているように見える。
「一つ質問してもよろしいでしょうかジャバル・ドラゴニスさん」
「えぇもちろん、それと私の事はジャバルとお呼び下さい。」
「分かりました。ジャバルさんはなぜ僕達が転生者だと思ったんですか?」
もしマーガレットの言うとおり彼が魔術師か何かだとすれば、
転生者で無い人でも”誰が転生者であるか”を識別できる術か何かがあるという事になる。
「長年店を構えておりますと種族関係なく色んな方と出会う機会があります。その中にも転生者の方とは何度かお会いした事がありました。年月を重ねていく内に、人を見る目というものが他の人より分かるようになったのです。まさに職業病というやつでございます。なので貴方を見た時すぐに転生者だと分かりました。」
「ではなぜ気配を感じなかった?本当にただの店のオーナーか?」
マーガレットはジャバルさんに対してまだ警戒をしている。
嘘を付いているようには見えないが、この店に入って気配を感じなかった事に対して不信感があるのは事実だ。
「それに関してはこれでございます。」
ジャバルさんそういうと自身の左の小指に付けていた指輪を外し僕達に見せた。
「これは”幻影の指輪”と言います。」
「これは…」
マーガレットは”幻影の指輪”を見るなり何か思い詰めた表情をしている。
「この指輪は以前、古い友人から貰った物です。この指輪にマナを注ぐ事で自身の存在を周囲に溶け込ませる効果がございます。最近は外が物騒な物ですから用心してこの指輪をはめて気配を消していたのです。よろしければ一度試して頂いても構いません、さぁ遠慮なさらず。」
僕はジャバルさんの指輪を自分の小指へとはめる。
そして自分のマナを指輪に送り込んだ瞬間、徐々に小指から霧のように周囲に溶け込んで込んで行くのが分かった。最終的に自分でも自身の感覚を認識するのが難しい程に周囲に溶け込んでしまった。
「これで信じて頂けましたでしょうか?」
僕は指輪を外しマーガレットの方を見ると、
先程までジャバルさんに向けた殺意も無くなり僕の方を見て静かに頷いた。
どうやらマーガレットも納得したみたいだ。
「先程は無礼な態度をとってしまい申し訳ありませんでした。この通り…。」
マーガレットはそういうとジャバルさんに対して深々と頭を下げた。
自分の非はしっかりと認め、相手に対してちゃんと謝罪するその姿勢は尊敬に値する。
僕もマーガレットと一緒にジャバルさんへ頭を下げ謝罪した。
「疑ってしまって申し訳ありませんでした。」
「そんな謝らないで頭を上げて下さい。いくら外が物騒だからといって疑われるような事をしたのも事実です。謝るのは私の方です。」
ジャバルさんもまた僕達に向けて深々と頭を下げた。
◇
しばらくして互いに頭を上げると、先程まで張り付いた空気は消えて互いに笑みが溢れた。
僕はジャバルさんに”幻影の指輪”を返すと、自分が転生者である事とこの店に入った理由を説明した。
「なるほど…ハルト様の事情はある程度承知いたしました。それでは早速ですが換金されたい物を見せて頂いてもよろしいでしょうか?」
「分かりました」
僕はリュックにしまっていたマテリアルを幾つか取り出してジャバルさんに渡した。
「これは…」
ジャバルさんはマテリアルを手に取ると鑑定というよりも、マテリアアルを真剣に見入ってしまっていた。
「これほどまでに純度の高いマテリアルはあまり見た事がありません…これを一体どこで…?」
「それは…」
一瞬マーガレットの方を見ると、複雑な表情を浮かべながら僕の洋服の裾を静かに握っていた。確かにあの場所はマーガレットにとって特別な場所だ。もしもこの先何かあった時の為に出来るだけ聖堂の場所を知られるのを避けたいのだろう。僕はマーガレットを見てそう察した。
「なるほど…分かりました。何かご事情がおありなのでしょう。無理に聞く事は無いのでご安心下さい。」
マーガレットはその言葉に少し安堵した表情を浮かべる。
「それで…ジャベルさん、このマテリアル換金して頂く事は可能でしょうか?」
このマテリアルが換金出来ないとなれば死活問題だ。
そうなれば甘味水を楽しみにしていたマーガレットから、今度こそ魂が全て抜け出してしまうに違いない…。これだけは阻止しなければ…、僕は心の中で藁にもすがる思いで祈った。
「もちろんですハルト様、是非こちらのマテリアル換金させて頂きたいと思います」
おぉ…神よ…神様よ…。
『換金させて頂きます』
なんて素晴らしい言葉なのでしょう。
この思い通じたのですね!!これでマーガレットの魂が口から抜け出す心配がなくなりました…。ありがとうございます神様!アーメン。
「良かった〜」
「良かったですね!ハルト様!!」
マーガレットもその言葉を聞いて子供のように笑顔を見せて喜んでいた。
これでマーガレットに甘味水を好きなだけ買ってあげる事が出来る。
それに換金出来ると分かったので、しばらくは食べる事に対して困る事は無さそうだ。
「それではハルト様、こちらのマテリアル全て換金という事でよろしいでしょうか?」
ジャバルさんに見せたマテリアルは全部で4つ、まだリュックの中にも幾つかはストックがある。それに万が一無くなった時は、マーガレットに頼んでもう一度洞窟に戻って採取するのもいいだろう。なので今回はジャバルさんに渡したマテリアル4つを全て換金する事にした。
「お願いします!」
「かしこまりました。それでは準備しますので今しばらくお待ち下さい。」
ジャバルさんはそう言うと店の奥の方へと向かった。
マテリアアル4つでどれくらいの金額になるのだろう?ジャバルさんの反応を見る限りそれなりの値打ちがありそうな気がするが…。いかん、こんな事を考えてしまったらフラグになってしまう。ここは欲を抑えて平常心を保っておくのが一番だ。
「お待たせしました。ハルト様が持って来られたマテリアル4つ全部で、合計4000ガルムになります。転生者様のいた世界の言葉で言うところの4000万円です。よろしいでしょうか?」
「えっ!?4000万!?!?」
洞窟内で採取したマテリアルを換金した事によって、
僕達は一文無しから一変して、お金持ちになったのだった。
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