#14ジャバル・ドラゴニス

しばらく自転車を走らすと記念すべき最初の村”ノルズ村”へと到着した。

怪しまれないように少し手前の方で自転車を降りて、具現化した自転車の召喚を解く。

日も落ちて来た事もあって村には明かりが灯り出していた。

それとこの世界でマーガレット以外の人と初めて接する事になる。ここは年には念を入れて転生者という事は伏せておいて、何か聞かれれば駆け出しの商人か冒険者を目指しているという事で話を通そう。幸にも洞窟内で採取したマテリアもあるし何んとか誤魔化せるだろう。

そんな事を考えている僕とは違いマーガレットの方に目をやると、彼女は瞳をキラキラと輝かせていた。その姿はまるで誕生日にプレゼントを待ち焦がれている1人の無邪気な幼女のようだった。



「着きましたねハルト様!甘味水が待っていますよ!甘味水〜!!」



マーガレットの頭の中には甘味水の事で一杯のようだ。

よほど大好物なんだろう。何か甘味水の元になる食材をゲットした際にはマーガレットに振る舞ってみるのもいいかもしれない。



「じゃあ早速行ってみようか!」


「はい!」



村に到着し中に入ってみると、人も活気ずいており賑やかな印象を受ける。

それにマーガレットは”小さな村”と言っていたが、そこはもはや”村”では無く”街”だった。



「変わりましたねこの村も…私が最後に見た時には、こんなに大きな街ではありませんでした。」


「そうなの?」


「はい…、まぁ100年も歳月が経てば変わっていてもおかしくはありませんね。」


「マーガレット…」



100年の歳月を得て変わり果てた街を見るマーガレットの姿はどこか寂しげだった。



「さぁ!気を取り直して行きましょうハルト様!甘味水〜!!」



そういえばマーガレットと初めて会った時、彼女は聖堂で”転生者を待っていた”と言っていたがどれくらいの間待っていたのだろう?

ドリュアス森林の管理者ドライアドさんに会うのも100年、そしてこのノルズ村を見て”100年の歳月が経てば変わっていてもおかしくない”と言っていた…。

まさかとは思うが…100年もの間聖堂で次の転生者が来るまで1人で待っていたのだろうか?

もしそうだとしたら途方もない年月を1人孤独に待っていた事になる。



「なぁマーガレット、少し聞きたい…」



マーガレットに話をしようとしたその時だった、

彼女はこちらを振り向いて僕の発した言葉をかき消すように大声でこう叫んだ。



「何してるんですかーハルト様!!早く来ないとハルト様の分まで甘味水飲んじゃいますよー!!」



そこには先ほどまで感じていた寂しさを抱えている姿は無く、

無邪気な笑顔を見せるマーガレットの笑顔があった。それは彼女なりの気遣いなのか、それとも強がっているだけかどうかは分からない。でも今はマーガレットが見せるその笑顔を大事にしたいそう思った。



「ごめんごめん!今行くから!!」



そう言って僕はマーガレットの元へと駆け寄る。



「もうハルト様!!100年ぶりの甘味水なのですよ!!売り切れにでもなっていたらどうするのですか〜!!」



マーガレットの元に着くなり彼女は凄い剣幕で顔を近づけて来た。

その距離、唇まで数センチ。惜しい。



「ちっ!近いからマーガレット!!それにほら!甘味水の前にマテリアルを換金しないと!!甘味水も飲めないよ!!」


「そっ…そうでした…」



マーガレットにさっきまでの勢いは無く魂が抜けたように固まってしまった。

これがアニメやゲームだった場合、今頃”チーン”っと効果音が鳴って口から魂が抜けかけている模写になっているに違いない。

それくらいマーガレットは分かりやすく落ち込んでしまっている。



「ほっ、ほらマーガレット!!マテリアルを換金したら好きなだけ甘味水飲ませてあげるからさ! ね!元気出して!!」



その言葉を聞いたマーガレットは抜けかけていた魂を自身の元へと勢いよく吸い戻し、

目を輝かせながらこう言った。



「本当ですかハルト様!!では早速マテリアルを換金しに行きましょう!!!」



切り替えの速さに関心してしまった。

それはそうとマテリアルを換金出来る場所はあるのだろうか?もし換金出来なければ今度こそマーガレットの魂が天に昇ってしまう。それだけは避けなければ…。

こういった場合、まずは”酒場”や”冒険者ギルド”などに行ってみるのがアニメやゲームの鉄則だ。今回もその鉄則に従って探してみるとしよう。



「なぁマーガレット、まずは酒場かボウケ…」


「ハルト様〜!!換金所ありましたよー!!」



少し離れた場所から大声で僕に呼びかけるマーガレットの姿が見えた。

100年ぶりの甘味水の力恐るべし…。



「おっ…おう今行きます。」



マーガレットがいる場所へ向かうとそこにはアンティークな雰囲気を醸し出しているの店があり、店の表には見た事の無い文字で書かれた看板が置いてあった。



「マーガレット、この看板には何て書かれているの?」


「看板には、”ジャバルの質装備店”と書かれていますね」



”ジャバル”とはこの店の店主の名前か何かだろうか?

それに”質装備店”と付くくらいだから素材などを換金するだけで無く、装備品なども売っているに違いない。今後の先の事も考えて入って確認してみるとしよう。



「とりあえず入ってみようか」


「そうですね」



店内に入ってみるとマテリアルとは違った鉱石やモンスターの素材の他に、

武器や防具などの装備品も揃えられていた。店内にある物を見ると改めて自分が異世界にいるんだと実感させる。



「いらっしゃい。」



店内を物色していると背後から渋い男性の声が聞こえて来た。

振り向くとそこには白髪のオールバックで髭を生やし、眼鏡を身に付け紳士な身なりをしたダンディズムな男性が立っていた。

そのダンディズムな男性は胸元に右手を回し軽く一礼した後にこう言った。



「初めまして、私の名はジャバル・ドラゴニスと申します。どうかお見知り置きを転生者様。」



そう言うとダンディズムな紳士、ジャバル・ドラゴニスは笑みを浮かべた…。

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