#10マーガレット

ヴァルキリーとの戦いを得て、彼女は僕の”剣”となった。

しかし改めて見るとマジで美少女だ。それにさっきまで膝枕をしていたから気付かなかったが、髪の毛は腰辺りまで伸びており後ろの方で一本に編み込んでいる。Goodだ。

それにしても彼女からは何か不思議な何かを感じる。それが何かと聞かれれば上手く言葉にして説明する事は出来ない。とにかく不思議な感覚だ。



「ハルト様、これから先はどうしますか?」



これから先どうするか…その問いの答えは既に決まっている。

それはもちろん”外の世界”に出る事だ。この異世界に来てからというものの、今いる聖堂とこの道中までの洞窟以外の景色を知らない。色々と不安はあるが外の世界を見てみたいという好奇心は抑えきれない。



「とりあえずこの聖堂から出て外の世界を見てみたいかな。」


「かしこまりました。それでは外の世界へと参りましょう。こちらです。」



彼女はそう言うと聖堂の中心部、神様に似た女神像の方へと歩いて行く。



「この場所はかつて終焉の神オメガ様によって、貴方と同じく転生された方によって作られた場所になります。当時の世界は神と人間その他の種族を巻き込んだ大きな厄災の真っ只中でした。この世界に転生された方達の中には、転生後に訳も分からないまま厄災に巻き込まれ命を落した方も沢山いました。転生者を含め多種族の命を救いた。その願いを叶えるためにその転生者はこの聖堂を作りました。その結果この場所には種族関係無く多くの人々が避難し多くの命が救われたのです。」



なるほど。

だからこの聖堂を含め洞窟内も巨大な作りだったという訳か。

この場所を作った転生者も命の大切さを大事にしていたのが今の話でよく分かった。



「なのでこの場所は特殊な魔法障壁を何重にも施し、探知不可の刻印柱で守られています。」


「そんな厳守に守っていたんだ…」


「はい。当時はそれくらいしなければ多くの命を守る事は出来ませんでした。それ程大きな厄災だったのです。」



以前神様から転生前に聞いた堕天使サタンが神への反逆を企て、

1人の転生者をこの世界に召喚し破壊の限りを尽くしたとされる厄災の話し。

彼女の言う”厄災”とは多分この話しの事だ。話を聞き限り彼女もその厄災でこの聖堂を作った転生者と共にみんなの命を守る為に戦ったのだろう。



「すみませんハルト様、急にこんな話しをしてしまって……でもハルト様には知っておいてほしかったんです…この場所が存在した意味を…。」


「謝る事はないよ、話てくれてありがとう。」



彼女はその言葉を聞いて少しホッとした表情を浮かべた。



「はい。ありがとうございますハルト様。」



そう言うと彼女は右手を女神像へとかざし続けてこう言った。」



「我、この地に止まりし守護者ヴァルキリーなり。守護者の名により外界へと続く門を開きたまえ…アペェータ!!」



その言葉と共に女神像から眩い光が発せられこの聖堂一体がその光に包まれる。

しばらくすると神様の像から発せらた光は徐々に収まり、女神像を見ると先ほどまでと形が変化していた。



「これは…」



さっきまではまるで聖母マリアのように祈りを捧げているポーズだったものが、

今は祈りのポーズでは無く両手を広げ背中には6枚の翼が出現していた。

その女神像を見ると、転生前に最後に見た神様そのままだった。



「ハルト様、準備はよろしいですか?」


「えっ?」


「ハルト様の準備が整っているのであれば、いつでも外の世界に行ける準備は整っています」



てっきり外の世界に繋がる抜け道か出入り口があると思っていたが、そうじゃ無いみたいだ。ここは異世界定番の転移魔法か何かで移動するのだろうか?

そんな事を考えていると、ふとある事に気付いた。そういえば外の世界に出る時の為に採取しておいた結晶がさっきの戦いの時にバラバラに吹き飛んでいたのをそのままにしていた。

もし値打ち物だった場合しばらくの間の生活費の足しにする予定だ。これは急いで集めておかなければ!!



「ちょっとごめん!!拾う物があるから少し待ってて!!」



僕はそう彼女に伝えて結晶が落ちていた場所へと走り出す。

体はさっきまでの疲労感や痛みなどは全く無く、

体の重さもさっきよりもマシになっており快調な足取りだった。

回復魔法…いや膝枕の力恐るべし。



「あったあった!!」



地面には色とりどりの結晶があちらこちらに転がっていた。

全部までとはいかないが、原型を止めている物も幾つか見つかった。

それに砕けた結晶はいざと言う時の為に常備しておくのもいいだろう。

クリエイティブをする時に役に立つはずだ。



「何を拾われているんですか?」



後ろから彼女の声が聞こえる。



「あぁ、洞窟内で採取した結晶だよっ、てぇっ!?!?!?」



後ろを振り向くとそこには彼女の顔が至近距離であった。

唇までの距離わずか数センチ!!もし不意に前方へ動いてしまったらその時点で唇に触れてしまう!!世界よこれが異世界イベントだ!!!



「ちょっ!!近くないですか!?!?!?」



僕は慌てて彼女から少し距離を取る。



「そんなにビックリしないでくださいよハルト様!!こっちまでビックリするじゃないですかぁ〜」


「いやいやいやいや!!そんなに顔が近かったら普通ビックリするでしょ!!」


「そうですか?私は構いませんけど?」



またもや人差し指を口に近づけて首を横に傾けている。

これが俗に言う”あざと可愛い”と言うやつか、正直嫌いじゃない。

しかし今回はそれだけじゃ終わらないのが彼女だ。前屈みになりこちらを覗き込むような体制をとっている。つまりだ…彼女の胸元が大きく開き中が露わになっている!!

慌てて目を背け、なんとか理性を抑え最後まで見る事を阻止した。

正直、彼女はわざと狙っているんじゃないかと思ってしまう程だ。



「いやいや普通にビックリするからね?それに無防備すぎるから!!」


「ん?」



その反応を見る限り彼女はわざとやっているようでは無い…ようだ。たぶん。

僕は気を取り直して彼女に拾った結晶を改めて見せる。



「これを拾ってたんだよ。」



彼女は見せた結晶を手に取るとこう言った。



「これはマテリアルですね。しかも純度の高い代物です。」



この結晶は”マテリアル”と言うらしい。それに純度の高い代物と来た。



「ここを出た後にもし値が付くならこれを資金にしようかなと思って、一応採取しておいたんだ」


「なるほど!そうだったんですね。このマテリアル1つでそこそこの値は付きますね。しばらく食べて行くには十分だと思いますよ。」


「本当に?それは良かった〜。これで外の世界に出てからしばらくは安心して過ごせるよ」


「はい!それでは残りも拾って外の世界へと行きましょう!!」



それから2人で地面に落ちている残りのマテリアルを拾い、もう1度リュックをクリエイティブしその中へとしまった。

そしていよいよ外の世界へと旅立つ時が来た。改めてリュックの中身などを確認して再び女神像の元へと向かう。

この世界に来てそんなに時間は経っていないが、随分と濃い時間を過ごしたような気がする。洞窟で結晶を採取したり、洞窟内を自転車で漕いだり、彼女と戦って死にかけたり…

そんな事を考えている内に女神像の元へと辿り着いた。



「それでは行きましょうかハルト様」


「うん。行こう…」



そういえば…彼女の名前をまだ聞いていなかった。

”ヴァルキリー”でいいのだろうか?一応確認しておこう。



「そういえば、君の名前って”ヴァルキリー”でいいのかな?」


「名前ですか…実は私には名前がありません。”ヴァルキリー”と言う名は受け継いだ名前なので…。」



彼女にも色々と事情があるのだろう。

人によっては聞かれたく無い事や知られたくない過去の1つや2つくらいある。

その事は自分が1番分かっている。だからこれ以上その事について詮索する事や聞く事は止めよう。



「もし…もしハルト様が迷惑じゃなければ…私に名前を付けて頂く事は可能でしょうか?」


「僕に?」


「はい。ハルト様に付けて欲しいのです。…ワガママでしょうか?」



彼女は頬を赤らめ下に顔を向けながら言った。



「分かった、考えてみるよ」



そんな風にお願いされたら断れる訳が無い。

元より断るという選択は最初から持ち合わせていなかった。

それにしてもこれは重要な使命を任されてしまった、今まで誰かの名前を考えた事なんて1度も経験した事が無い。

自分の子の名前を真剣に考える世間の親御さんたちの気持ちが今になって分かる。


名前、名前、名前…彼女のイメージに合いそうな名前がいいな…。

彼女のイメージといえば、美しい、美少女、花蓮、綺麗な金色の髪、透き通った白い肌、強い、あざとい…いや最後の無かった事にしよう。


ん〜…

考え込んでいると元いた世界でばーちゃんとのある日の会話を思い出した。




『ばーちゃんこの花好きだよね』


『マーガレットの事かい?この花はね、昔おじーさんが私に初めてプレゼントしてくれた花なんだよ。』


『じーちゃんが?』


『そうだよ。なんでこの花を選んだの?って聞いたら”君に似て美しいから”だって。それがとても嬉しくてね。それ以来この白いマーガレットの花が好きなの。』




遠い昔、大好きなばーちゃんとの淡い記憶が蘇る。



「マーガレット…」


「えっ?」


「君の名前は”マーガレット”、どうかな?」


「マーガレット…」


「うん。昔、僕のじーちゃんがばーちゃんにプレゼントした花の名前なんだ。その花は白い色をしていてね。君みたいにとても綺麗な花なんだ。」



彼女はとても綺麗で花蓮で美しい。それにマーガレットの花言葉の中に”信頼”という意味もある。彼女が僕の”剣”になるなら、僕はその彼女を”信頼”している証としてこの名前を付けたい。そう思ったのだ。



「こんな素敵な名前を頂いて…私……凄く嬉しいです」


「気に入ってもらえて僕も嬉しいよ」



マーガレットの瞳は少し潤んでいた。



「じゃあ外の世界へ行こうか、マーガレット!!」


「はい!!ハルト様!!」



女神像の背中にある6枚の翼が僕達2人を包み込むと1つの光り輝く球体へと変わった。

そしてその球体は祝福の光を発しながら外の世界へと旅立ったのだった。

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