#9使命と承諾
”膝枕”
《それは人の膝に頭を乗せて体を横にする、またはその体勢の事を言う。またこの体勢をとる事によって互いに接触し2人は意識しお互いに心を許したとみなされる。そしてこれは一種の愛情表現でもある》
つまり何が言いたいのかと言うと、無意識に相手の事を意識してしまうという事だ。
よくある異世界物のアニメやファンタジー系のゲームでよくある展開ではあるが、まさか自分が実際に異世界に転生して経験するとは思わなかった。人生何が起こるか分からない。
まさにこの言葉に尽きる。
「地面にそのまま横にしておくのも体に悪いじゃないですか。それに私は貴方の剣です。言って下されば膝枕くらいいつでもしますよ。」
眩しい。眩し過ぎる。
先程まで生死を掛けて挑んだ相手の言葉だとは思えない。
まさに聖母マリアだ。僕は心の中で彼女に祈りを捧げた。
「私が言うのも何ですが、あんな無茶な戦いは2度としないで下さいね。治癒魔法で体の傷を癒す事は出来ますがマナまでは回復する事は出来ません。それに先程みたいにマナを大量に消費してしまったら下手したら命を落としていましたよ!」
体が思うように動かせなかったのは大量のマナを消費したせいだったのか。
”生命の命の源マナ”それを大量に消費してしまうと命を落としてしまう可能性があるらしい。今後はちゃんと考えて使用した方が良さそうだ。
それにしても戦いの最中に感じていた痛みは無くなっており、左腕の感覚もしっかりとある。これが”治癒魔法”の効果なのか。ここまでの重傷を治癒するとはゲームで言うところの最上級治癒魔法でも使用したのだろうか?
戦闘でも抜群の格闘センスの持ち主、それに治癒魔法も使えて美少女で膝枕付きだ。
悪くない。
「もし今度無茶したらあの回し蹴りをお見舞いしますからね!!分かりましたか?」
「はっ…はい…もうしません。。。」
あの回し蹴りだけは2度とゴメンだ。
それに早速主導権を握られてしまった感がある。いや尻に敷かれたと言うべきか…。
それを笑顔で言う辺り本気度が伝わって来る。
「分かって頂ければ問題ないです」
これは怒らせたら怖い。間違いない。
その事を肝に銘じ、膝枕に名残惜しさを感じながら体を起こす。
どれくらいの時間意識を失っていたのか分からないが、この体勢のままじゃ彼女もキツいだろう。ここまで親身に看病してくれた彼女にお礼を伝えなければ。
そう思い彼女の方を見ると僕は言葉を失ってしまった。
「もうよろしいのですか?膝枕?」
何という破壊力!!
首を少し横に傾け、右手の人差し指を軽く口に当て上目使いをしながらの困り顔。
それに女の子座りをし無防備な太ももが露わになっている。
これは…俗に言う”男を射止める悩殺ポーズ”と言うやつだ。
このまま見惚れていてるのもダメだ!!そう自分に言い聞かせ理性を保ち顔を横に背ける。
典型的な反応をした自分に内心恥ずかしくなってしまった事は内緒だ。
「かっ…看病してくれてありがとう。君のおかげで傷も癒えたし助かったよ。どれくらいの間意識を無くしていたか分からないけど、ずっとその体勢でいるのも大変だったと思うし本当に感謝している。」
「いえ、そんな事ありませんよ。お気になさらないで下さい。それに貴方が重傷を負ってしまったのは私の責任ですし、最後まで責任持って看病するのも私の役目です。」
彼女はそう言うとその場から立ち上がり、少し腰を低くして右足を左足の後ろの方へと横にクロスさせ、右手を胸の前へと持って行き左手は横に広げた。
そして瞳を閉じると彼女は口を開いた。
「終焉の神オメガに選ばれし転生者様、私はヴァルキリーの名を受け継ぎし者。改めてのご挨拶となりますが、その名に恥じぬよう貴方の剣としてその使命を誠心誠意努めさせて頂きます。」
そして彼女は瞳を勢いよく開き、真剣な眼差しで僕の目を見てこう言った。
「その承諾を!!」
僕の答えはもう決まっていた。
「承諾する!!」
これが僕の答えだ。これ以外の答えを出す事は考えられない。
きっとこうなる事を神様は最初から知っていたんじゃないだろうか?
そんな考えが頭の中をよぎる。この世界の事は転生前に神様から大まかな情勢と、自分以外にも転生者が存在し友好的では無い者も存在する事は教えてもらった。
しかしそれ以外の事はほとんど知らない。まさに未知の世界だ。
そんな僕が外の世界で少しでも強く生きて行けるように試練を与えたんじゃないだろうか?
少し考え過ぎかもしれないが、この洞窟内で自身の能力”クリエイティブ”に関してもある程度は理解する事が出来た。
それに彼女との戦いで、この世界の力の大きさも少なからず肌で感じた。
もしこのまま何もなく洞窟の外に出て戦闘にでも巻き込まれてしまったらと思うと武者震いがする。
僕は心の中で改めて神様に感謝した。
「僕の名前はハルト、改めてよろしく」
僕は彼女に手を差し出す。
差し出されたその手を彼女は優しく握りしめ、笑顔でこう言った。
「はい!!ハルト様!!」
そして満を辞して外の世界へと冒険が始まるのだった。
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