#8膝枕という文化

鎧の中にいたのは、まだあどけなさが残る1人の美少女だった。


「あまりジロジロ見ないで下さい…恥ずかしいです…。」


これは意外な反応だ。

先程まで僕を殺そうとしていた人物の反応には見えない。

その表情はどこか恥じらいを浮かべているようにも見える。


「ごっ…ごめん。オッドアイって初めて見たもんだから。」


「そうですか…まぁこの世界では珍しいかもしれませんね。」


そう言うとヴァルキリーは鎧を解いてその場から立ち上がる。

その姿はまるで聖女そのものだった。膝丈くらいの純白のワンピースに青色をベースとしたラインが裾部分に入っており、首元には青色のフードのような物も付いていた。

背丈は女性でいう平均的な身長だろうか。まさに”聖母マリア”と言った感じだ。


「終焉の神オメガに選ばれし者よ、貴方の力量を試させてもらいました。流石選ばれただけの事はあります。」


「はぁ…それはどうも………」


「今回貴方に戦いを挑んだのは…」



ん?急に視界が…ヴァルキリーの声が……遠のいて…ダメだ…意識が…視界が狭まる。。。。

体から力が抜け抜け殻のようにその場に倒れ込んでしまった。








………








んっ………





意識が少しずつ回戻り、ぼんやりとした意識の中で何か暖かな温もりを感じる。

目を開いてみるが視界はまだボヤけて周りをよく認識する事が出来ない。


「気が付きましたか?」


この声は…??

徐々に視界が回復し、視線を上に向けるとそこには美少女の姿があった。


「君は……それに僕は……」


「私はヴァルキリー、先程まで貴方と戦っていた者です。あの後急に倒れてしまい意識を失ってしまったんです。」


「そっか…」


「貴方が倒れてしまったのも私のせいです。それに重症まで負わせてしまって…。」



どうやら訳ありのようだ。



「私はこの聖堂でオメガ様によって選ばれし者、”転生者”を待っていました。そして選ばれた者と対峙して力量を見極め、”剣”として仕えるにふさわしい人物かを見定めていました。高圧的な態度をとった上に、見極めるが故に貴方に重症を負わせてしまった事本当に申し訳ありませんでした。」


そう言うと彼女は謝罪の意味も込めて頭を下げた。

話を聞く限り彼女は僕が転生前に出会った神様、通称”終焉の神オメガ”と何らかの関係があるようだ。そして彼女は自分が”剣”として仕える人物か否か、それを見極める為に役を演じていたと言う訳か…。こうして話してみると礼儀正しく素直な印象を受ける。



「それで…君は答えを出せたのかな…?」



僕の問いに彼女は一呼吸置いて答えた。



「このヴァルキリー、”終焉の神オメガ”によって選ばれた貴方の剣となり、いかなる時も貴方をこの命に変えて守る事をヴァルキリーの名においてここに誓います。」



彼女の表情は優しさと決心に満ちていた。



「それは良かった、君がいればこの世界でどんな困難が待ち受けていても乗り切れそうな気がする。でも自分の命を蔑ろにする事だけはダメだ。命は1つしか無いんだし大事にしなきゃ。」


命の大切さは何よりも自分が1番よく分かっていた。

だからこそ彼女にも自分の命を大切にして欲しいと思ったのだ。


「…はい。分かりました。」



彼女は僕を見つめ深く頷いた。




………





ん?ちょっと待てよ…?

今の今まで気付かなかったけどこの状況ってあれだよな………?

視線を上に向ければ美少女の顔。そして首元に感じる人肌のぬくもり…






”膝枕”だ!!





ちょちょちょちょちょっと待ってくれ!!

急に自分の状況を把握した途端に動悸がっ…やっ…ヤバイ………!!!

これが異世界イベントってやつなのか?そうなのか!?

”ありがとう”な状況だけれども?自分よりも年下な…見た目10代の美少女に膝枕してもらうなんて…これは…恥ずかし過ぎるぞ異世界!!!



僕は美少女のお膝元で顔を赤くして1人テンパってしまった。



「あのぉ…この状況って…?」


「ん?この状況?あぁ膝枕の事ですか?」



この世界にも”膝枕”と言う文化は存在している事が判明した。

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