#7オッドアイの瞳

宙にかざした右手と足元から魔法陣が展開する。

さらに術式のような物が魔法陣を中心に円をを描くように次々と展開して行き、それと比例してヴァルキリーから発せられる光も強くなる。

展開した魔法陣の大きさはこの空間を埋め尽くす程の大きさになっていた。

そして宙にかざした右手を強く握りしめ自身の胸へと持って行き、ヴァルキリーは詠唱を唱え始める。


「我、誇り高きヴァルキリーの意思を継ぐ者なり。円環の定めし理をこの胸に刻みその想いをここに示そう。名も無き我にその力を与えたまえ。」


その言葉に共鳴するかのようにヴァルキリーの背に9本の光の柱が現れる。

そしてヴァルキリーは胸に当てた手を勢いよく右に振りかざしこう言った。


「神器!!ワルキューレ!!」


ヴァルキリーの背にある9本の光の柱が丸い球体へと変化し、空中へと舞い上がり1つに重なる。その球体は次第に十字架のような物へと形を変えてヴァルキリーの元へと降下する。

そして十字架を手にし祈りを捧げるかのようにこう言った。


「”ワルキューレ”これが私に与えられた神器です。そしてこれが”ワルキューレ”の力…モードチェンジ!!”Ver.ブリュンヒルデ”!!!」


その言葉と共に十字架から聖剣へと形状を変えて行く。

ヴァルキリーはその手に聖剣を握りしめ、宙へとかざし真下へと勢いよく振り下ろす。


「さぁ、、、これで終わりにします」


明らかに”あの聖剣”はヤバイ…。

細胞レベルで逃げろと体全身から危険信号を放っている。

しかもこの状況を打破する考えが全く浮かばない。


「行きます!!」


ヴァルキリーは”聖剣ブリュンヒルデ”を構えながら勢いよく走り出しこちらへと向かって来る。


「はぁぁぁぁぁっ!!!」


今までに無い勢いで斬り付けてくるヴァルキリー。ランスの時とは違い聖剣を振り下ろすスピードは先ほどとは比べものにならない。

呼び出した剣で応戦したのも束の間、応戦した途端に具現化した剣はヴァルキリーの聖剣によって呆気なく砕かれてしまった。


「なっ!?」


「これは”聖剣”聖なる力を宿した剣です。貴方の見かけだけの玩具とは違います。」


そう言うとヴァルキリーは斬りつけた体勢から右足を軸にして体を勢いよく左へと旋回し、反対の左足で無防備状態の僕へ渾身の一撃を浴びせる。


「ぐはっ…」


その一撃は”痛い”を通り越してもはや何も感じる事は無く、気付くとこの空間の入り口付近まで吹き飛ばされていた。


一瞬の出来事に戸惑いながらも横たわった体を起こそうとするが体が思うように動かない。

辛うじて動く右手で地面を押しながら体を起こして自分の体を見てみると、左腕が完全に砕け機能しなくなっていた。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


激しい激痛が体全体に走る。

肩は完全に骨が砕かれ内出血を起こしており、肘にかけて酷く腫れがり意識が遠のきそうな程の痛みに襲われる。


「残念ですがその左腕はもう使い物にならないでしょう。」


これが…神の力……。

ヴァルキリーの言うとおり左腕はもう使い物にならない。感覚さえも失っている。

それにあの聖剣の攻撃を防ぐために、もう一度クリエイティブで剣を召喚しても一瞬にして砕かれる。ましてや剣の強度を高めるにしても時間とマナを消費し、具現化に成功したところであの聖剣に太刀打ち出来る保証も無い………。





これまでか…





絶望し顔を地面の方へと向ける。地面には洞窟内で採取した結晶が散らばっていた。

さっき吹き飛ばされた時にリュックから溢れ落ちたのだろう。



………




「もう言葉を発する事も出来ませんか…。」


そう言うとヴァルキリーは聖剣を両手で持ち、宙にかざし光のオーラを聖剣へと集め始める。


「聖剣ブリュンヒルデよ、我に悪き者を裁く光の刃を与えたまえ………」


聖剣に集まった光のオーラは次第に大きくなり宙へと伸びて行く。

ヴァルキリーはこの一撃で確実に仕留めに来ている。もしあの技をまともに食らってしまったら確実に死んでしまうだろう。


そんな状況の中、地面に落ちている結晶を一つ手に取りある事を思い出していた。

クリエイティブには脳内でイメージした物を具現化する方法ともう1つの方法がある。

それは”具現化したいイメージ”と”イメージの元になるベース”を用いた方法だ。

今までは脳内でイメージした物を具現化していただけだったが、”元になるベース”を用いてクリエイティブした事は無い。もしこの方法を用いてクリエイティブしたら…。


ふとヴァルキリーの方に目をやると今まさに聖剣を振りかざそうとしていた。




「終焉の神オメガに選ばれし者よ、貴方を聖なる光で裁きます!!《ホーリージャッジメント!!!!》」




振りかざした聖剣は光のオーラを放出し曲線を描きながら迫ってくる。

もう一か八かやってみるしかない!!地面に落ちている紫色の結晶を1つ手に取りその結晶をベースにクリエイティブを始める。


「今更何をしようとしても手遅れです!!この攻撃は避ける事は出来ない!!!」



まさに神の鉄槌。

聖なるホーリージャッジメントが直撃しその衝撃で爆風が巻き起こり、辺りは光に包まれる。







………






「!?」


ヴァルキリーはある異変に気付く。

確かに《ホーリージャッジメント》は相手に直撃した。それは間違いないはず。

しかしこの攻撃が直撃した場合、相手の背後に”聖なる門”《ホーリーゲート》が出現しそのまま異空間へと飛ばされるはず…。しかしその《ホーリーゲート》が出現していない。



「どういう事だ…?」



説明しよう。

洞窟内で採取した色とりどりの結晶達。それら結晶にはそれぞれ”ある特性”があるらしい。

先ほどクリエイティブのベースにした”紫の結晶”この結晶には”闇”の特性がある事が分かった。なぜ分かったかというと具現化した瞬間に剣から闇のオーラを発したからだ。

そして”紫の結晶”をベースに”紫色の剣”をクリエイティブし、ヴァルキリーの攻撃を今現在片手で耐えているというわけだ。

それにヴァルキリーは”光”の力を使用している。つまり僕がクリエイティブで具現化した”闇の特性を持った剣”とは相性が悪い。まさか異世界でもこの法則が通用するとは。


「まさかの展開に僕も驚いてるよ。洞窟で採取した結晶がこんなところで役に立つなんて思わなかった!!」


気力も体力も限界に近づいている。恐らくこれが反撃できるラストチャンスだろう。

ヴァルキリーの攻撃を耐えれるこの”闇の剣”があったとしても今の気力と体力じゃそう長くは持た無い………。



ならやる事は1つ。



「全力疾走!!!」



これしか無い!!攻撃は最大の防御!!!

敵の攻撃を防ぎつつ相手の懐に入って間合いを詰める!!



「ウオォォォォォォォ!!!」


「なっ!?まさかこの攻撃の中を突っ込んで来る気ですか!?」



左腕が痛い。足もガタが来ている。今にも倒れてしまいそうだ。

でも…動け…動け!!動いてくれ!!!

可能性が少しでもあるなら!!まだ諦めるわけにはいかない!!!



行け!!走れ!!敵は目の前!!




「ここだぁぁぁぁ!!!!」



ついにヴァルキリーの元へと辿り着き”闇の剣”で渾身の一撃を振りかさず。



「そうはさせません!!」



すかさずヴァルキリーも聖剣で応戦し、その一撃を受け止めた。



「残念ですがその一撃は私の元へは届きませんでしたね。」



「それはどうかなっ…!!」



”左腕”は完全に機能を失っておりヴァルキリーが警戒しているのは”右腕”だけ。

確かに”左腕”は使い物にならない。しかしそれは”左腕がそのままだった場合”だ。

ヴァルキリーの攻撃を”闇の剣”で防ぎながら密かに”2つ”クリエイティブしていた。


まず1つ目は、”脳内で自身の左腕をイメージ”して”自分の左腕をベース”に自分の左腕を具現化した。完全に左腕が復元出来た訳でな無いが、これで左腕を動かす事は可能になった。


そして2つ目にクリエイティブした物は”闇の剣”だ。

先程みたいに”紫色の結晶”をベースにしてクリエイティブした訳では無いが、ヴァルキリーの攻撃を防げる程の耐久力を有している”闇の剣”を脳内でイメージして”闇の剣のレプリカ”を具現化したのだ。



後はヴァルキリーに近付き、右手に持っている”闇の剣”で切りつけた攻撃を相手が塞いだ時に唯一隙が生まれる。

その瞬間に左腕に持っている”闇のレプリカ剣”で攻撃する。これが僕に与えられて唯一与えられた反撃チャンスだ。

そしてヴァルキリーが聖剣で攻撃を防いだこの瞬間、すかさず左手に持っていた”闇のレプリカ剣”で腹部から顔にかけて下から勢いよく斬りつけた。


その一撃を浴びたヴァルキリーは、体勢を崩し背中から地面へと崩れ落ちた。

ヴァルキリーは鎧を纏っており、斬りつけた直後に”闇のレプリカ剣”は刃先から粉々に砕け散り、無数の残骸が雨のように地面へと落ちて静寂とした空間にその音が響き渡った。



「チェックメイト」



ヴァルキリーが顔を上げると首の部分に刃が向けられていた。



「お見事です…。」



さっきの一撃で顔を覆っていた鎧に亀裂が入り徐々に鎧が崩れ落ちて行く。



「………」



崩れた鎧の中からヴァルキリーの素顔が明らかになる。

透き通った白い肌に金色の髪、見た目は自分よりも若く見える。10代くらいだろうか?

やはり”ヴァルキリー”を名乗るだけあってその正体は女性だった。

そして何よりも一番驚いたのが…



「オッドアイ…」



彼女の瞳は左右で色が違い左眼が”青”右眼が”赤”色をしており、

その瞳は一点の曇りも無く宝石のように綺麗に輝いていた。



「綺麗…」



思わず口から本音と心の中で何かが落ちる音がした。

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