#6神器
異世界に転生して初めての戦闘が始まる。
具現化した剣を強く握りしめ、ランスをこちらに向けているヴァルキリーを見る。
明らかに力の差がある勝負だ。ただ単に剣を振り回したところで敵う相手じゃ無い…。
それに戦闘の経験なんてほとんど無い。これぞまさに死にゲーってやつだ。
「それでは参ります!!」
ヴァルキリーはそう言うと勢いよくランスを振りかざす。
すかさず剣を横にして応戦するが、体に予想以上の衝撃が走り辛うじて受け止めるだけで精一杯だ。
「っ!!」
ランスを受け止めたは良いもののヴァルキリーの力は想像以上だった。
少しでも力を抜けば叩きのめされてしまう程の腕力の持ち主。全力で受け止めてはいるが、正直これがいつまで持つかは分からない…。なぜなら、体全体で受け止めている僕に対してヴァルキリーは片手でこの威力…。
まさに天と地の差ってやつだ。
「受け止められるくらいの力はあるようですね。でもそれもいつまで持ちますか?」
「よくお分かりのようで…」
完全に相手のペースに呑まれている。このままじゃ自分が潰れてしまうのも時間の問題だ。
どうにかして相手の隙を突く事さえ出来れば、この状況を抜け出せる事が出来るかもしれない…。
ピキッ
最悪な展開だ。具現化したこの剣の耐久力はかなり低いらしい。
ランスを受け止めている部分に亀裂が入ってしまい折れるのも時間の問題だ。
くそ…単にイメージした物を具現化した所でゲームやアニメのように耐久値まで高い訳ではないらしい。
このままじゃまずい。
剣身に添えている方の手にすかさず同じ剣をクリエイティブし、ランスを2本の剣で受け止める。
しかしこの剣の耐久力は極めて低い。それにこの耐久力なら物理的なダメージを相手に与える事はまず難しいだろう。
「ほう。もう1本剣を召喚しましたか。ですが見たところ貴方が召喚したこの剣の耐久力は低いようですね。最初に召喚した方はもう亀裂が入っていますよ?」
「っ………」
「万事休すですか?ならこのまま押し潰してあげます」
ヴァルキリーはランスを持っている方の手に自身のオーラのような物を集中させ、先程とは比べものにならない程の力で潰しにかかって来た。
「これで終わりです。選ばれし者よ。」
その言葉と共にヴァルキリーは更に強い力を込めて叩きこみ、その衝撃で大きな爆風が巻き起こり辺り一面を煙幕が覆い尽くす。
………
徐々に煙幕が薄れ視界が晴れていく。
ヴァルキリーがランスで叩き込んだ一撃により地面には大きなクレーターが出来ていた。
「これは…」
ランスを手元に戻すとそこにあったのは”人のような何かの残骸”だった。
「間一髪…脱出成功…」
”クリエイティブ”の能力を使用する際に必要なのは具現化したい物のイメージとマナ。
そしてこの力のキモとなるのが、”より明確なイメージ”と”使用するマナの量”だ。
ヴァルキリーのランスを受け止めている間、自分の手元にマナを集中させ頭の中である物をイメージしていた。
それは、”自分自身”だ。
こちらの世界に転生する前に僕は無意識に自分の家族を具現化した。
無意識ではあるが”人の形を要した物”を一度具現化した事がある。これを応用して後はより明確な”自分自身のイメージと”大量のマナ”を用いて、ヴァルキリーがランスを叩き込む一瞬の隙をついて一気に具現化しその場を間一髪脱したというわけだ。
「神様から授かったこの命を早々に無駄にしたく無いんでね…悪あがきさせてもらったよ」
間一髪脱出に成功したのはいいが、予想以上にマナを消費したらしい。
自分自身の明確なイメージとは別に、その場から少しでも遠ざかるために”強度”を高める必要があった。ランスを受け止めた時に具現化した剣の耐久値は低かった。
つまり単にイメージしただけの場合は、見た目こそ完璧に具現化出来ても中身はスカスカというわけだ。
それを踏まえて、”明確な自分自身のイメージ”+”より硬い強度を誇るイメージ”+”大量のマナ”の使用して強度な硬さを持つ自分自身の模造品を作成した。
それによって脱出には成功したが、マナを大量に消費したせいで体が重い…どうやらマナを使いすぎると体にも影響が出るようだ。
”マナ”=ゲームで言うところのMPといったところだろう。
「お見事…と言っておきましょう。ですがこれくらい出来て当然です。」
「お褒めの言葉光栄です…」
「ですが、これはまだ序の口…貴方のその強気の態度もいつまで持ちますかね。」
「さぁ…でも僕は精一杯生きると神様と約束したんで、最後の最後まで足掻いてみせるよ!!」
そう言って僕はヴァルキリー目掛けて走り出す。
マナを大量に使用したせいで体は重い…
でもしのごの言ってられない!!今度はこちらから仕掛ける番だ!!ヴァルキリーのランスは巨大が故に中距離や長距離間の戦いには向いてはいるが、あれだけ巨大な武器では近接戦闘ではそう軽々と降ります事は出来ないはず!!
”マナ”を消費したからと言ってクリエイティブの能力が使えない訳じゃ無い。
耐久力が低いならその都度具現化して攻撃を与え続けるのみ!!
「今度はこっちの番だ!!」
ヴァルキリーとの距離もそれ程遠くは無い!!
すかさず剣を両手に具現化してヴァルキリー目掛けて斬りつける。
それと同時にヴァルキリーも即座にランスで応戦しようとするがその大きさ故に防御体勢に入った。
「思った通り!!それだけ大きな武器じゃ即座に攻撃に移る事は難しいはず!!それにこの間合いなら防御するのに精一杯なんじゃ!?」
「…」
僕は無我夢中で剣で斬り付けてはヴァルキリーとの間合いを保ちつつ、剣が壊れては即座に具現化し攻撃を続けた。
しかしこの戦法がずっと続く訳が無い…ヴァルキリーが防御に入っているこの間に次の手を…
ヴァルキリーにダメージを与える方法を考えなければ…!!
剣とランスが交じり合う音が辺り一面に響き渡る。
ヴァルキリーに攻撃をしているが、どれも決定打にはならず自分の体力だけが徐々に失われて疲弊して行くばかりだった。
「剣術、型、戦法、どれもめちゃくちゃで成っていませんね。それに貴方の攻撃もワンパターンで読みやすい。だから私に攻撃が命中する事は無く簡単に塞がれてしまうんです。確かにこのランスは近接攻撃には向いていません。それを読み解いて近接攻撃に持ち込んだ所までは良かったですが………。その先に何か別の手があるかと思って期待していましたが、どうやら終わりみたいですね。」
そう言うとヴァルキリーは手に持っていたランスで攻撃を跳ね返しそのままランスの召喚を解き、右手を宙にかざしこう言った。
「神器!!」
その言葉と同時にヴァルキリーの身体は光に包まれて行く………。
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