#5試される力量

《”ヴァルキリー”》

ヴァルキリーは神話に登場する半神の戦乙女で、別名”ワルキューレ”。

戦場を天馬で駆け巡り、戦場で生きる者と死ぬ者を定める女性と言われたりもしている。


そして前に突如として現れた、天を駆け抜ける誇り高き閃光の騎士”ヴァルキリー”

神話上の人物が今目の前で戦闘態勢を取りこちらに攻撃を仕掛けようとしている。


「さぁ、終焉の神オメガに選ばれし者よ。貴方も武器を手にしなさい。」


「そんな!!いきなり言われても!!貴女と戦う理由が僕にはありません!!」


「貴方には無くても私にはあります!!」


そう言うとヴァルキリーは右手でランスを構え、こちら目掛けて天馬を勢いよく走らせる。

まさに猪突猛進。


”避けないと”


思考が体に”避ける”伝達をする前にヴァルキリーは自分の目の前に迫っていた。

周りの動きがスローモーションに見える。これが死の間際に体験する状態なのだろうか。

体の力が抜け、思考は完全に停止し”死”を覚悟する。


「ふざけた真似を…」


ヴァルキリーは右手に持っていたランスの召喚を解き、そのまま力強く握りしめ僕の腹部へと渾身の一撃を浴びせる。”死”を覚悟していたせいか身体に力は入っておらず衝撃をモロに受け、身体は思いっきり吹き飛ばされ宙を舞う。

宙を舞った身体はそのまま勢いよく長椅子の方へと飛ばされ、次々と四方八方に長椅子が吹き飛び体は長椅子の瓦礫の下敷きになった。


「!!!」


呼吸が…息が……。

吹き飛ばされた衝撃と殴られた腹部の痛みで身体を動かす事が出来ない。

辛うじて息をするのが精一杯だ。


「これで貴方は一度この世界で死にました。」


明らかにレベルが違い過ぎる…こっちは異世界に来てまだ数時間で、能力もまだまだ使いこなせてない上に戦闘経験だって無い…。この世界でやって来たことと言えば洞窟を進んで来た事くらいだ。


「くっそ…異世界に来てそうそう何でこんな目に合うんだよ…」


殴られて腹部を手で押さえ痛みを堪えながら呼吸を整える。

ヴァルキリーの方へ目をやると天馬に跨ったままこちらの様子を伺っている。

鎧を纏い顔こそ見る事は出来ないが、その鎧の奥からハッキリとした殺意を感じた。


「もう一度言います。武器を手にしなさい…死にたくなければ。」


そう言うとヴァルキリーは天馬から降り、

こちらへと足を運びながらもう一度右手にランスを召喚する。

このままじゃ確実に殺される。神様に授かった命が無駄になってしまう。僕は痛む体を叩き起こしなんとかその場に立った。


「くっ…」


痛い!!痛過ぎる!!立ってるだけで精一杯だ。

次にさっきの一撃が来たら今度は避けれる気がしない…。考えろ!!考えるんだ!!

僕の能力は”クリエイティブ”これを駆使してこの状況を打開する方法を考えるんだ!!


「ほう。根性無しではなさそうですね。安心しました。」


くそ。完全に下に見られている。

こうなればやる事はただ1つしかない。





それは…





全力で走る!!!




「呆れました。まさか逃げるとは…。」




痛い!!痛い!!痛い!!

体を動かす度に殴られた腹部に激痛が走る。その都度痛みが体全身に走り呼吸が浅くなる。

でもここで諦めたら、、、走るのを止めてしまったらダメだ!!

足を前へ走らせながら後方を確認するとヴァルキリーはまだその場に静止していた。


「よし、、、行ける!!」


僕はただ逃げた訳じゃない。逃げると見せかけて入り口付近で降りた”自転車”の元へと向かっているのだ。

相手も天馬という移動手段を持っているならこっちは自転車だ。




天馬vs自転車




これぞ異世界バトルといった感じだ。



目標の自転車まで後少しと迫ったその時、一瞬の出来事だった。

自分の真横を一筋の光が閃光の如く一瞬にして通り過ぎる。

そしてその光は、後少しで届きそうな自転車に向かって一直線に進み激しい爆風を巻き起こした。


「なっ!?」


煙幕が激しく舞う中から声が聞こえる。


「貴方の狙いはこれですか?」


徐々に薄れゆく煙幕の中を目を凝らして見てみると、そこにはヴァルキリーの持つランスで本日納車したばかりのハルトカスタムが無残にも串刺し状態になっていた。

ヴァルキリーはそのまま片手でランスを持ち上げ、串材し状態になっていたランスを軽々とこちらへとなぎ払う。


「私は武器を手に取れと言ったんです。」


目の前に無残にも破壊されたハルトカスタムの残骸が転げ落ちる。

これはいよいよヤバくなって来た。まさに”閃光”と名が付くだけの事はある。

しかも天馬に乗っていた時とは比べものにならない速さで瞬時に前方へと行き、間合いを詰め巨大なランスで敵を貫く。

まともに戦って勝てる相手じゃ無い…。


「覚悟決めた方が良さそうだな…」


僕は転生前に神様とクリエイティブの練習で具現化した剣を呼び出す。

この剣はあくまでもゲームの中で登場したお気に入りの装備品だ。それを脳内でイメージした物を単に具現化しただけ。これで何処まで通用するか分からないが、やるしかないようだ。


「やっとですか。」


そういうと巨大なランスを僕の方に向けこう言った。


「終焉の神オメガに選ばれし者よ、改めて貴方の力量を試させてもらいます!!」

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