#4戦乙女

味と匂いの無いコーヒーを飲んでから随分と歩いた。

周囲を見渡して見ても相変わらずな景色がどこまでも続いており、、出口という名のパラダイスは今だに発見出来ていない。OVER…。

一旦戻って別の道に進んでみるのも良いかと思ったが、同じ道に変わる事の無い景色を再度見ながら帰るのも酷だと思いその選択は却下した。


「それにしても何処まで続いてるんだこの洞窟は…」


何処までも続くこの一本道と先の見えない展開に不安を感じ始める。

このまま洞窟から出る事が出来なかったらどうしよう…。そんな言葉が頭の中をよぎってしまい気持ち的に不安になってしまう。どうにかして早くこの洞窟を出る方法を考えなければ肉体的にも精神的にも更に疲弊してしまうだろう。何か策を練らなければ。

この洞窟の道は場所にもよるが人が通れるくらいの大きさだ。しかも地上からどれくらいの位置にあるのかも分かっていない。下手にクリエイティブの能力を使って失敗でもしたら出る以前に最悪の場合は”死”に至る可能性だってある。

効率よく進む方法…人が通れるくらいの大きさ…クリエイティブしても失敗しない物…



「自転車だ」



人が通れるくらいの場所かつクリエイティブで失敗しても死ぬ事も無い。

それに自転車に乗って進む事によって足の疲れも軽減される。

これは名案すぎる程に名案だと自画自賛してしまった。善は急げだ。早速”自転車”をクリエイティブしよう。

頭の中で”自転車”をイメージする。そしてイメージした自転車を”マナ”に流し込みグリップ、ハンドル、フレーム、サドルと次第に形を形成して行く。


「よし…出来たぞ!!」


まさか異世界で自転車に乗ると誰が想像しただろうか。

フレームは赤を基調とした光沢のある輝きに仕上がっている。そして一番こだわったのは”カゴ”だ。元いた世界では後もう少し大きければと何回も思った事がある。

これで荷物がかさばった時も安心して物を入れる事が出来る。

その悩みを今回解決して自分が理想とする自転車をクリエイティブする事に成功したのだ。


「これが、僕専用のママチャリ…ハルトカスタムだ。」


これでこの洞窟を進むのもだいぶ楽になるはずだ。

早速乗ってみると自分が思った以上にサドルにフィットし、サドルの高さもベストポジションで申し分無かった。

ペダルに足を乗せベルを”チリン”と鳴らし僕は自転車を漕ぎ始めた。




「快適すぎる…」




なぜ今の今まで自転車をクリエイティブする事を思い付かなかったのだろう。

自分の能力をフルに活用する事をすっかり忘れていた。

それにしてもこの能力”クリエイティブ”は万能すぎる程万能な能力だ。

自分がイメージした物を具現化出来る能力ってチート過ぎないか?今思い付く欠点といえば、味や匂いを再現出来ない事だ。それ以外は今のところ自分が思い描いた通りに具現化出来ている。

このクリエイティブの能力侮れないな…能力の限界とかあるのだろうか?

この洞窟を出た後に色々と試してみよう。あらかじめ色んな物を具現化しておけば、いざという時に役に立つはずだ。

とりあえずはこの洞窟を出る事が当面も目標だ。自転車を具現化した事で今までよりも格段に進むスピードも上がった事に違いない。

ならば今はその目標に向かってペダルを漕ぐ他無い!!その思いをペダルに託し自転車を漕ぎ洞窟内を快適に進んで行った。





洞窟内を快適な自転車で優雅に漕ぎ始めてしばらくすると道が変化していた。

今までは人が通れるくらいの大きさで凹凸としていた道も歩きやすくなっており、明らかにどこかに繋がっているであろう道へと変わっていた。壁には結晶を丸く加工した物が壁に埋め込まれており、その先を更に進んで行くと壁には壁画が描かれていた。

僕は自転車から降りて壁画に描かれたいる物に目をやる。そこに描かれていたのはこの世界の歴史なのだろうか?今まで見た事も無い文字と一緒に描かれており読む事は難しいが、描かれている絵を見てなんとなく読み解く事が出来そうだ。


そこには、翼の生えた人物が13人、そして翼の生えた人達に祈りを捧げている人々が描かれている。

この祈りを捧げている人々はこの世界の住人で、翼の生えた人達は天使…または神なのだろうか?

更に道を進んで絵を見てみると、翼の生えた人達の1人が祈りを捧げている人々の中から1人の男性と女性に何かを渡している。

そして次の絵には人々が翼の生えた人達を神のように崇めている絵だった。

書かれている文面が何を記載しているのかは分からないが絵を見る限り、


《この世界の人々が祈りを捧げ、それに応えたかのように突如と翼の生えた神のような存在がこの地に舞い降りる。そして神のような存在は人々の中から1人の男性と女性を選び何かを授け人々は翼の生えた人達を神のように崇めた。》


っといった感じだろうか。


この翼の生えた神のような人物は一体…まさか神様の言っていたサタン?

もしそうだとするとサタン以外の神が他に12人存在するという事になる。

壁画は更に続いておりその先に描かれていたは、神のような存在に何かを授かった2人の男女が人々の中心となりまとめ上げ、文明が発展して行く過程とそれを見守る神のような存在の姿が絵が描かれていた。


「まるでアダムとイヴだな」


この壁画を見る限りこの2人の男女は、神のような存在からも人々からもとても愛されているように感じた。そして人々は見事文明を発展させる事に成功したようだ。

この壁画がこの場所に描かれているという事は、ここはこの壁画に描かれている文明の跡地か何かだろうか?ただの洞窟と思っていたが、まさかの展開に謎が深まっていく。

ともあれこの先に進めばその答えが分かるかもしれない。

僕は再び自転車に乗り先へと進む。


もしこの壁画がこの世界の歴史の一部だとすると、神のような存在と人々は最初の頃は良い関係だったのかもしれない。しかし神様によると、今現在は100年近くサタンが率いるリベリオン軍とヴァラマ帝国との間で冷戦状態が続いているらしい。この100年近くの間に何があったんだ?神様の言っていた”神の1人が転生者を召喚して破壊の限りを尽くした”事も関係しているのだろうか?


壁には先ほど見た壁画から翼の生えた神のような存在13人分の絵が順番に描かれていた。

知らない文字と一緒に描かれており、読む事は出来ないがたぶん自己紹介的な物が一緒に書かれているのだろう。

13人目の壁画を通り過ぎると、その先は巨大な空間が広がっており壁には結晶を丸く加工した物が円を描くように壁に埋め込まれ淡い光を発していた。そしてこの空間の中心には神様に似た巨大な女神像が建っていた。


「あれは…神様?」


僕は自転車から降りるとその場に止めて神様に似た女神像の元へと歩き出す。


自分が歩くと同時に地面に埋め込めれていた結晶が次々と光だして行く。

次第に明るくなって行くと同時にこの空間の実態が見えて来た。両サイドには4人程が座れる長椅子が女神像の前まで埋め尽くされており、女神像と長椅子の間には祭壇が設けられていた。言うなればこの空間は巨大なドーム型の教会だ。そして神に祈りを捧げる神聖な場所。それ以外の言葉が僕には見つからなかった。


「………」


その圧倒的かつ神聖な空間に僕は飲み込まれてしまった。

元居た世界でこんな物は見た事がない。まるで幼少期の頃に新しい物に出会い触れて感動する。それに近い感情に僕は浸っていた。

きっとこの女神像は神様だ。この女神像からもあの優しさが伝わってくる。

この場所に来れたのもきっと神様が見守っていてくれたからだろう。僕は胸に手を当て神様に感謝の祈りを捧げた。






「祈りを捧げし者よ…」





その声は突然僕に語りかけて来た。


「!?」


誰だ!?この声は!?突然の呼びかけに身構える。

周囲を見渡しても自分以外の姿は見えない。まさか姿を隠しているのか???

転生者は自分以外の存在を感知する事ができる。そして神様が言うには友好的じゃ無い転生者も存在する…。まさか僕の存在を感知して襲撃に来たのか!?色んな思考が頭の中をよぎりパニック寸前状態だ。


「終焉の神オメガに選ばれし者よ」


神様の事を知っているのか?選ばれし者??まさか…他の神!?


「誰だ!!姿を見せろ!!」


「まぁそう慌てるな選ばれし者よ」


その言葉と同時に周囲に輝いていた結晶の光が次々と上空へと集まって行く。

無数の輝きが一点に集中し、あまりの光の輝きに上空を直視する事が出来ない。

更にその輝きは光を増して行き空間全体を飲み込んで行った。


「!!!」


しばらくして空間を飲み込んでいた光が徐々に弱まり上空を見上げると、そこには白い鎧を纏った騎士が上空に浮遊していた。

人が浮遊しているだけでも驚きだが、その騎士の体からは白いオーラが湧き出ていた。

アニメやゲームなどの世界でしか見た事がないその光景に僕は言葉を失う。


これが異世界。


「我名は”ヴァルキリー”天を駆け抜ける誇り高き閃光の騎士なり!!」


そう言うと鎧から湧き出る白いオーラを片手に集め巨大なランスを召喚した。

見るからに重そうなランスを軽々しく振り回し上空へと掲げ、ランスから光を放つと鎧を身に纏った天馬を召喚し颯爽と跨がり戦闘態勢をとりこちらに視線を向ける。


「終焉の神オメガに選ばれし者よ。貴方の力量試させてもらう!!」


そして異世界に来て間もない僕と、天を駆け抜ける誇り高き閃光の騎士”ヴァルキリー”との戦いが始まるのだった。

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