#29

 放課後になり少し用事があったため愛理さんたちとは一足遅れ、学校から出ると雨が降っていた。

 もう雨が降り始めたか……

 三月になり、雪が降ることが減って代わりに雨が降るようになってきた。

 傘を持ってきていなかったので、急ぎ足で帰った。

 そういえば愛理さんも今日傘を持っていなかったような……

 折り畳み傘も入れてなかった気がする。

 そんなことを考えながら家へ着くと案の定、愛理さんは、くしゃみをしていた。


「へくちっ」


「俺のことはいいから体を温めろ」


「はい……」


 愛理さんを連れて、取り合えずリビングへ歩いた。

 暖房は点けてあるし、じきに温かくなるだろう。

 まだ風呂に入っていないようなので、愛理さんは風呂に入れることにした。


「飯も俺が作るから風呂に入りなさい」


「別に風邪引いてるわけじゃないんですよ……?」


「いつも無理させてるんだからこういう時ぐらい俺を頼れ」


「頼もしいですね~」


「ほら行くぞ」


 愛理さんが風呂に入っている間に、寝巻を用意し夕飯を作った。

 寝巻を纏めて部屋に置いておいてくれてよかった。

 もし置かれてなかったらわざわざ出すことになっていたうえ、下着も出さないといけなかったので困ることになっていた。

 風呂から上がってきたので、一緒に夕飯を食べて愛理さんは先にベッドに寝かせ、俺は食器を洗ったり色々としてから一緒に寝た。

 布団の中で「寒いです」って言って俺に抱き着いてきたときは、理性が吹っ飛びそうだったがなんとかそれを堪えて頭を撫でてあげてから寝た。









 目が覚めると珍しく愛理さんが目の前にいた。

 いつもだったらもうとっくに起きて朝食やら準備しているので、少し驚いたが昨日のことを思い出してみると、愛理さんは疲れが溜まっていたのだろう。

 愛理さんを起こさないよう音を立てずに起き上がろうとするとガチっと両腕で捕まった。


「……おはようございます」


「おはよう、愛理さん」


「体温計持ってきてくれませんか?」


「分かった」


 両腕を離したのでベッドから立ち上がり別の部屋に置いてある体温計を取りに行った。

 もしかして風邪引いたか?

 声も心なしか元気がなかった気がする。

 体温計を持ってきて、愛理さんに渡した。

 愛理さんが体温計を脇に挿してから、俺は愛理さんの額に手を当ててみた。


「熱いな」


「うぅ……」


「今日は休め。いつも朝から夜まで頑張ってるんだ。疲れが一気に出たんだろ。」


「そうですかね……」


 音が鳴り、愛理さんは脇に挟んでいた体温計を抜き出すと、画面には「38.5」と表示されていた。

 完全に風邪を引いてしまっている。

 普段の疲れもあり、昨日の雨のせいで体が冷えて一気にやられたんだろう。


「俺も休むか……」


「これぐらい私一人でなんとか…けほっけほっ」


「咳も出てるんじゃ、誰かいたほうがいいだろ」


「……はい」


 俺は学校に連絡を入れ休むということを伝えた。

 何故か春崎先生が出たことは置いておいて最後に「ちゃんと最後まで看病してやれ」と言われてしまった。

 最初からそのつもりだったが、他人に言われると一層ちゃんと看病してやろうという気持ちが高まる。


「本当に、けほっ……大丈夫だったんですけどね……」


「どうせ、俺が学校から帰ってきたら『樹さん居なくて寂しかったんです……』とか言うだろ?」


「うっ……そ、その本当は学校に行かれたら嫌でした……」


「ほらな、ちゃんと治るまで看病してやるから」


「うぅ……」


 愛理さんはベッドに寝かせ、取り合えず朝飯を作ることにした。

 冷蔵庫を見てもあまり軽そうな料理を作れるものは少なかったので、ここは病気と言えばおかゆということでおかゆを作った。

 愛理さんは何を乗っけるんだろうか?

 梅干しとかか?

 取り合わず分からないので何も乗っけず、食卓へ出してから寝室へ戻った。

 部屋に入ると咳をして、苦しそうにしている愛理さんの姿があった。


「……朝飯持ってきたほうがいいか?」


「けほっ、そ、そうしてくれると、けほっけほっ……」


「酷くなってきたな……」


「あはは……気、緩んじゃいました……」


 取り合えずお盆に朝食を乗せ、風邪薬も持って寝室へ運んだ。


「樹さん部屋別にしないと風邪、うつしちゃいますよ……」


「ん、まあその時はその時だ」


「樹さんが風邪引いたら……けほっ、嫌です」


 布団に包まって咳をこちらに向けないようにしているが、今日一緒に寝た時点でアウトな気がする。

 さっきは一人が寂しいようなことを言っていたのに、風邪をうつしたくないからと部屋を出ていってほしいと俺の許嫁さんは、可愛いな。

 可愛いのはいつものことだが。

 何を言っても駄目なので俺は風邪を引いてもいいという思いで、


「愛理さん……」


「え……ん…はむ……んぅ……ぁう……」


 これでもかと言うぐらい愛理さんと舌を絡めた。

 正直ここまですると恥ずかしさなどどうでもよくなってしまい、理性がすり減り何も考えられなくなってしまう。

 ただ今の愛理さんは病人だということを鑑みて、これ以上はしなかった。


「……ぷはっ、これで傍に居てもいいだろ?」


「は、はいぃ……」


「はい、あーん」


「あ、あーん……」


 こんな調子で愛理さんに朝飯を食べさせた。

 皿を片付ける前に、愛理さんに薬を飲ませ冷えピタを額に貼ってあげてから、皿を片付けた。

 ちなみに俺は愛理さんの皿を片付けてから朝飯を、普通に一人で食べた。

 皿を片付けて色々と朝支度をしてから、寝室へ戻った。


「樹さんが…けほっえほっ」


「どうした?」


「あ、い、いえなんでもないですよ」


「そうか?……なんか言いたいことあったら言えよ?欲しい物とかでもいいが……」


「樹さんの愛が欲しいです!!けほっけほっ、けほっ」


 急にいつものテンションで話したからか、咳が酷くなった。

 あまり無理をされると俺が心配になるから勘弁してほしい。


「む、無理するなよ?さっきのじゃ足りなかったのか?」


「キスはもっと欲しいですけど……ベッドの中でぐちゃぐちゃに愛されたいです」


「来年な」


「なんで樹さんしてくれないんですか……」


 愛理さんに言われて少し考えてみた。

 ……色々と言って誤魔化しているが、結局俺がヘタレなだけだ。

 愛理さんだったら多分全てを受け入れてくれると思っている、だから恐怖はない。

 ただ、そういうことをする、という心の準備が整っていない。

 したいと思ってことなら何度もある。

 愛理さんが魅力的で積極的なせいで、男としての本能が出てきそうになる。

 それでも俺は無理矢理そういう思いを押し殺している。

 深く考えていると愛理さんが声を掛けてきた。


「けほっけほっ、そんな顔しなくても……私はいつでも樹さんの、けほっえほっ……ことはウェルカムなんですから、我慢もなにもしなくていいんですよ」


「あぁ……聖母だ」


「い、樹さん?大丈夫ですか?」


「すまん、一瞬愛理さんに後光が指していたから聖母だと思ってしまった」


「う、うーん……」


 愛理さんは聖母と呼ばれることがあまり気に食わないようだった。


「樹さん、ん゛っんっ、暇なのでゲームしません?」


「ゲーム?」


「樹さんの理性破壊ゲーム」


「恐ろしいゲームを爆誕させるな」


 俺の言葉は無視しそのまま愛理さんは言葉を続けた。


「ルールは二人で裸になって一緒にくっついて樹さんがエッチなことしたくなったら、そのままエッチして、私がしたくなったら樹さんは大人しく天井のしみ数えてるだけで終わりの、なんとも簡単なゲームです……けほっえほっけほっけほっ」


「無理するなって言ったよな?」


「ちなみに樹さんがエッチなことしたくなったら何しても私は文句も言いませんよ?」


「おい……そんな高度なプレイするわけないだろ」


「樹さん性癖歪んでないですもんね……」


「なんで残念がるんだ!」


 過去に配信で愛理さんがいる中、性癖の話を立凛に振られ、答えたが二人して至って正常と言ってきた。

 逆にどうしたら性癖が歪むんだ?


「けほっ……ま、樹さんになにされても文句は言うかもしれませんが拒否はしないので」


「文句は言うんだな」


「そりゃまあ言いますよ」


「文句言ってくれた方が可愛いから別に深く考える必要もないな」


「えぇ……」


 何故か引かれた気がするが、俺は特に気にしなかった。

 取り合えず愛理さんを寝かせた。

 思っていたよりも家に何もなかったし、愛理さんがしばらくこの様子だと色々と大変になるから買い出しに行くことにした。

 明日も続くようなら嫌でも医者に連れていくしかない。

 あとしばらくは愛理さんがしてる家事その他諸々を俺がやったほうがいいよな。

 少しは愛理さんを休ませないと、そう思いながら近くのスーパーやらドラッグストアで色々と買った。




 適当に買ったものを棚へ入れたりして整理してから、寝室へ向かった。

 部屋に入ると相変わらず愛理さんは横になってぐっすりと眠っていた。

 風邪の症状も落ち着いたのか、いつものように普通に寝ている。


「可愛いな、愛理さんは」


 つい心の声が漏れ出てしまった。

 思えば最近は、愛理さんを可愛いと思うことが増えてきた気がする。

 特に可愛いと思うのは、愛理さんがからかってきたときに返り討ちにするときだな。

 あの時はもう脳がバグる。

 あとは配信とかで、スパチャ送った時の慌てようだな。

 雪姫雪花は愛理さんなのかと訊かれたらまた別問題な気がするが、まあそこら辺は一緒ということにしておこう。

 口調は全然違うが……

 いつになったら敬語を止めてくれるのかという思いと慣れてしまったのでこのままでもいいという思いがぶつかり合う。

 敬語でも十分可愛いしなんなら慌てふためくときは敬語のほうが良かったりするが、普段の可愛さは敬語抜きのほうが可愛いと思う。

 愛理さんのことを考えている時がなんだかんだ言って一番落ち着く。

 そんな馬鹿なことを考えていると、愛理さんが目を覚ました。


「ふぁーんぁ……おはようございます」


「おはよう、体調はどうだ?」


「結構良くなりましたよ」


「そうか。でもまあ、薬飲んで落ち着いてるだけかもしれないから無理するなよ。あーそうだ、昼飯はうどんでいいか?」


「うどんでいいです。でもまだ要らないので、樹さんベッドに入ってきてください」


「なんでだ?」


「くっつきたいです」


 本当に可愛いなこの許嫁さんは……

 愛理さんに誘われ布団に入った。

 暖かいと思っていると愛理さんが俺の背中に手を回しぎゅっと抱きしめてきた。


「最近どうですか?」


「ん?……愛理さんのおかげで充実した日を送れてると思うぞ」


「ならいいです」


「どうしてそんなことを急に?」


「ん~もうそろそろ半年経つけど、どう思ってるのかなって思ったので」


 半年という言葉に驚いた。

 まだ半年なのか……

 体感的には、軽く一年は経ったつもりでいたが思っていたよりもそうではなかったようだ。


「そうか、俺たち距離感バグってたからまだ半年と思うのか……」


「そうですね~」


「主に愛理さんのせいなきがするが」


「確かにそうですけど……正直、私だって急に許嫁と一緒に過ごすなんて何すればいいか分からなかったですし……まあでも推しだったからどう接すればいいのかぐらいは分かりましたけどね?まあそれでも分からないことだらけで、でもこの人の傍に居たいなって思ってから逃がしたくないな~ってなってからはもう何をすればいいとか置いて、アタックに全振りしましたね」


「で、最近はもう逃げないことが分かったから少しアタックを弱めたと」


「ん~そうですね~まあ単純にし過ぎて嫌われるのも嫌だったので頃合いを見たぐらいです」


 大体読めていたような気がするが、実際口から聞くとまたちゃんと別の理由も聞けた。


「まあ樹さん何しても私のこと嫌いにならないみたいですしまた昔のようにアタックしまくりますね!!!!けほっけほっ」


「はぁ……取り合えず今は大人しくしてろ?治ってからアタックするのはいいが体の健康が第一だからな?それでも止めなかったらしばらく別居な」


「ぬぅ……別居は嫌です……」


 さっきよりも抱きしめている腕の力が強くなった気がする。

 俺だって別居は嫌だが愛理さんの体を壊してまでアタックしてもらいたいとは思わないからな……

 二人で抱き着かれたまま色々と話してこなかったことや、これからの話をして夕方まで過ごした。









 愛理さんの様子も大分落ち着いたが無理されても困るので家事は全て請け負った。

 なぜか愛理さんは不満そうな顔を時々見せたがあれは何だったんだろうか。

 謎は深まったままだったが、夕食も食べ終えたので寝室へ戻った。


「汗が嫌なのでお風呂入りたいです!」


「熱測ろうな」


 大分体調が良さそうに見えるが案外侮れないからな。


「……あっ、スゥ―……」


「はい、今日は体拭くだけにしような」


 体温計には見事『38.2』と書かれていた。


「愛理さん体調は?」


「うーん悪いかもしれないです」


「はぁ……」


 これは愛理さんが自分は風邪が治ったと思い込んでたせいで、体調が良かっただけだろうな。

 思い込みって意外と怖いものだな……

 そう思いながらタオルと少しぬるま湯よりも温かい水を用意し、寝室へ持って戻った。


「まあ実質これはご褒美」


「背中は拭いてやる」


「えぇ~病人に無理させるんですか~?」


「それぐらい一人でできるだろ!」


「今日ぐらいいいじゃないですか……」


「チッ……」


「いぇーい!」


 こうして不覚にも愛理さんの体を拭くことになった。


「脱ぐスピード……」


「い、樹さんが私の体をあれやこれやして……」


「普通に拭くだけだからな」


「え~なんか変なことしてくださいよ」


 愛理さんは変態なのか?

 俺の中でそう呟いた。


「お前は俺に何を期待している」


「樹さんにお前って言われたお前って!」


「はいはい、愛理さん拭くぞ」


 面倒だが俺は椅子に座って風邪引いているのに真っ裸になってる愛理さんにうつ伏せになってもらい、腰まで布団を掛け横から拭くことにした。

 取り合えず首筋から背中までを拭くことにした。

 いつ見ても思うが、愛理さんの体って綺麗だよな。

 肌もそうだが体型も整っていて、正直なんでモデルになってないのか疑問に思うぐらいだ。

 愛理さんの体を見ながら拭いていると、


「なんか背中を舐め回すような視線を感じるんですけど?」


「すまん、綺麗だったからな。つい見てしまった」


「まあ、樹さんならどこ見てもいいんですけど~」


 取り合えず背中は全て拭き終わったので次に両脇と両腕を拭くことにした。


「ひゃぁっ!」


「すまん」


「うぅ……」


 どうやら愛理さんは脇が弱いらしい。

『あぁっ』や『ひぅっ』など軽く拭いているだけというのに、艶っぽい厭らしい声をあげるせいで俺の理性がとんでもないことになっている。

 本能を押さえ脇は拭き、次に腕を拭いた。

 腕は特にさっきまでのような声は出さなかったので一安心だった。


「背中側は終わったか……」


「じゃあ前ですね」


 愛理さんが仰向けになろうとする前に俺は目隠しをした。

 今の俺には刺激が高そうなのであらかじめ目隠し代わりとしてタオルを用意していた。

 布の擦れる音が聞こえる。


「あっ!樹さん、ずるです!」


「ずるってなんだ」


「むぅ……樹さん私の体は汚らわしいから見たくないんですね……」


「そんなことないが!?」


「じゃあ目隠しなんかしないでくださいよ」


 クソッこのままじゃ愛理さんの流れに……

 どうしようか考えている間に、腕を掴まれそのまま引っ張られた。

 今この状態で抜け出そうともがくと、目の前が見えず平衡感覚がかなり下がっている状態の俺では愛理さんに頭から突っ込む可能性がある。

 なので今は何もしないほうがいいだろう……


「樹さ~ん?今樹さんは目隠しをしてる状態なので、私の体のどこを拭いてるのか分からないですよねぇ?あと~触っても見えなかったからということになりますね!」


「あ、ちょ……」


 腕が引っ張られた後、すぐにタオル越しだが柔らかい感覚が伝わってきた。

 クソ……脳が……

 見えてないせいで妄想が捗ってしまう。

 今すぐにでもこの顔を愛理さんに埋めたいぐらいだが、今の愛理さんは病人だ。

 流石にそんなこともできるはずなく脳内でギリギリの妄想をしまくりながら手を動かした。


「あっ……」


「愛理さん……頼むからそういう声を出さないでくれ」


「だってぇ……」


「じゃあ俺がやらなければいいな?」


「嫌ですぅ」


 我儘だなぁと思いながらも、愛理さんの体を拭いた。




 愛理さんに服を着せてようやく目隠し代わりのタオルを外した。


「愛理さん……頼むから俺の理性を破壊するようなことはやめてくれ」


「ん~じゃあキスもなしですね」


「……度が過ぎたことはやめような?」


 ニヤニヤとしながら「は~い」と愛理さんは返事した。

 最近は落ち着いてきたと思ったらこれか……

 別にこういう感じでからかわれるのが嫌というわけではないが、理性が削れてとても危険だ。


「樹さんってよく我慢できますよね」


「結構ギリギリだけどな……」


「……一回ぐらい手を出してもいいんですよ?」


 一回でも手を出したら多分二人してハマる可能性がある。

 二人だけで同棲してるのが一番危険なんだが、今から同棲をやめるとなると多分寂しくて病む。

 だから我慢するしかないが我慢というのも、本能に抗う行為なのでなかなかにつらい。


「……風呂入ってくる」


「え~樹さんばっかりずるいです!」


「仕方がないだろ……」


 頭を冷やして落ち着いて整理するために風呂に入ることにした。

 すぐに体を洗ってしまい、湯船に浸かった。


「はぁ……」


 体中にお湯の温度が染みわたり、ほぐれるように心が落ち着いた。

 最近、愛理さんと初めて会ったころに比べて一層、魅力的に見えるようになっている。

 そのせいか、愛理さんがからかってきたときの破壊力が高く理性がボロボロになる。


「一回一緒に寝るのやめてみるか?……いや無理か」


 とてもじゃないが味わうであろう寂しさに耐えられるとは思えない。

 多分それは愛理さんも一緒だろう。

 何か月も一緒に傍で暮らしてきたせいで、生活の一部に愛理さんが欠けるようなことがあると多分生きれない。

 現状をどうにかしたいと考えながら俺はしばらく湯船に浸かった。




 〈愛理視点〉


 私は樹さんがお風呂へ行ったことを確認してからベッドの上で悶えゴロゴロと転がっていた。

 タオル越しとはいえ樹さんに体を触られたことがなかなかに効いていた。


「んー!なんであんなことしてるの私!!!」


 正直風邪を引いて熱が出ていることなんてどうでもよかった。

 樹さんはからかうと凄い可愛い反応をしてくれるので、どうしてもからかってしまう。

 でも私のからかい方が過激だと自分で思っている。

 なんなら自分でやって、今みたいに恥ずかしくて悶えることなんか何度もある。


「『一回ぐらい手を出してもいいんですよ?』って何言ってるの本当に……」


 本当に手を出されたら嬉しいけど恥ずかしくて死ねる。

 だって私の体をあれやこれして……


「うぅ……」


 妄想するたびに理性が擦り減る。

 樹さんは理性が理性がと何度も言ってるが私だって樹さんをからかったり樹さんから攻められるたびに理性が擦り減っている。

 正直今日なんか風邪引いてなかったら樹さんの上に跨っていたかもしれない。

 これ以上のことを想像するとムラムラしてしまう。

 でも今、我慢しないと樹さんが戻ってきて見られるという大事故が起こってしまう。

 我慢して何もしないでいると時間の経過が遅く感じる。


「ん~暇だし樹さんのスマホ見ちゃおっと」


 パスワードは後ろから覗き見したときに覚えたので難なくクリア。

 いつもだったら樹さんは肌身離さず持っているか、私の目の付かないような場所に置いてるけど今日はさっきのこともあったからか慌ててスマホを置いて行ってしまった。

 これはもう私に見てほしいということだと思うから遠慮なく見させてもらった。


「取り合えず誰と連絡とってるかなぁ~」


 軽く見てみたけどあまりにも多くてどれが誰だか分からないので一旦は無視することにした。

 本当は心配だけど、勝手に消したら樹さんに怒られるどころの話じゃなくなるのでやめておいた。


「ん~写真フォルダー見よっと」


 開いてみるとここ最近の写真のほとんどは私が写っている物だった。


「えへへ……私のこと大好きですねぇ~」


 心の声が漏れてしまったけど誰も聞いていないのでヨシ。

 去年のフォルダーに移ったので見てみると、何故か後ろから樹さんに抱き着いてる女とその横に男子が写っていた。


「どこかで見たことある顔だけど……」


 あまり覚えていない。

 あと何故かこの写真の次の写真が私の姿になっていた。

 この虚無の数ヶ月は一体……

 この三人の写真は何枚もあり中学生時代の物だった。

 仲が良さげなので多分中学生時代の同級生か後輩だと思う。

 普通に友達のような雰囲気で三人の写真が残されているので私はそこまで気にしなかった。

 もう少し遡ってみると一昨年の8月の写真に気になるものがあった。


「……ふーん」


「俺のスマホ見て何してる」


 丁度樹さんが帰ってきた。

 私の手にあるスマホの画面を見ると一気に慌てだした。


「あ、愛理さん?」


「誰ですか?」


「あっと……幼馴染だぞ?」


「ふーん」


 樹さんのスマホに映し出された写真には、樹さんに抱き着いて一緒に写真を撮っている女子の姿があった。

 それも樹さんもこの女も相思相愛じゃん。

 顔を見たらすぐに分かった。

 可愛いし……


「この幼馴染さんとは、連絡を取っているんですか?」


「た、偶にな?あと夏にじいちゃんの家帰った時に会ってるぐらい、だ…が……?」


「この人に絶対会います!」


「お、おう……」


 樹さんは戸惑っているみたいだけど私としては最悪寝取られる大ピンチな状況。

 寝取られはクソ!許すな!根絶だー!おー!

 脳内の私達が団結をした。


「まあ今年の夏、愛理さんと一緒に行くつもりだったから丁度いいか」


「ぜっっっったいに連れて行ってくださいね」


「はい……」


 樹さんが寝取られるとは思っていないけど念には念を入れないといけないし。

 こうして私は樹さんが寝取られるのを防ぐために今年の夏、樹さんの幼馴染に会うことになった。

 ちなみにこの後、樹さんに思いっきり抱き着いて一緒に寝た。

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