#28

 肩の辺りを、とんとんっと叩かれたのでゆっくりと瞼を開いた。

 ぼんやりと映る人影がだんだんと定まり、エプロン姿の愛理さんが見えてきた。


「おはようございます、朝ですよ」


「おはよう、愛理さん」


「……戻ってる。んー!昨日の樹さんが良かったです!」


「覚えてないな」


 両手を腰に当て、頬をプクーっと膨らませるとそっぽを向いてしまった。


 可愛い。


 この一言に尽きる。


「むーご飯ですよ」


「はいはい」


 俺は体を起こし部屋から出ると、鼻腔をくすぐるいい匂いが漂ってきた。

 今思えば、愛理さんに朝起こしてもらって飯が用意されてるなんてありがたい話だよな。

 椅子に座り、朝食を食べて支度をし愛理さんと一緒に家を出た。


「一緒に登校しても問題ないですね」


「そうだな……」


 内心ため息をついてしまう。

 愛理さんの隣にいると視線が痛いからな……

 多分なんでこんな美人の隣に陰キャが立っているんだ、と……


「樹さん今日帰って来たら髪切りに行きますよ」


「なんでだ?」


「まあ明日分かると思いますよ」


 不思議に思いながらもいつものように電車に乗り込み凛ヶ丘へと向かった。









 なぜ俺は朝からこんな目に合わなきゃならないんだ……

 心の中でそう呟いた。

 目の前には、モーセが海を割ったかのように生徒が二つに分かれ道が出来上がっていった。

 そしてその先にはだるそうにこちらを見ている猪口先生が立っていた。

 まあ立ち止まるわけにもいかないのでそのまま真っ直ぐ歩き、猪口先生の前で俺らは立ち止った。


「お前らが付き合おうが許嫁だろうがそんなことは知ったこっちゃない、が……こうやって騒ぎを起こすのはやめてくれ。俺の仕事が増える」


「はい……」


「あと樹。春埼先生が呼んでるぞ」


「はあ……」


 また何かやらかしたのだろう。

 目に見えているが、先生からのお呼出しとあらば、出なければならないのが生徒としての礼儀だろう。

 ということで、愛理さんには先に教室へ行ってもらい俺は教務室へと向かった。


「失礼します」


「お、来たな」


「で、なんですか?」


「これの修理とこれの修理とこれの……」


「他に誰か頼める先生を探したらどうなんですか?」


 呆れてもいいような量の電子機器を目の前に出された。

 一体この人はどれだけ破壊すれば気が済むんだ……

 誰か電子機器を上手く扱える人を俺が紹介したほうがいいレベルで酷い。


「いやそのな……お前ほど扱える人間がいなくてな……」


「はぁ……」


「先生の前でため息をつくんじゃない。思うんだがお前妙に大人慣れしてないか?」


「まあ色々とあったんで」


 本当に色々と……

 REVIAの女性は、大体がこんな感じなせいで、流石にどう対応すればいいのか分かっている。


「取り合えずよろしく頼む」


 俺は袋に入った電子機器を受け取りそのまま教務室を出て、教室へと向かった。




 教室に入ると案の定、速攻周りに人が集まり囲まれた。

 誰でもいいから助けてくれ……


「退いてくれるかしら?」


 タイミングを見計らったかのように紀里が教室へと入ってきた。

 紀里に感謝したくない……

 こいつに感謝するぐらいなら周りを囲まれたままのほうが良かった。

 取り合えず逃げ道ができたので何も考えず逃げて、俺の席へ逃げた。


「樹さんどうして呼ばれてたんですか?」


「ん?ああ。機械音痴の春崎先生が俺にこれを修理してくれって頼まれた」


 俺は手に持ってる袋を愛理さんに見せ、それを見た愛理さんは納得したように「なるほど」と言って頷いた。

 そして荷物を机に置いた時、横にいる紀里からギロッと睨まれた。


「あなた、助けてあげたのに礼も言わず愛理とイチャイチャするなんてどういうことかしら?」


「お前に感謝する義理はない」


「さっき助けてあげたって言ったわよね?」


「いだだだだだ……」


 紀里に足先をかかとでグリグリと踏まれた。


「助けていただきありがとうございます。紀里様」


「い、樹さんってSM主従プレイが好きなんですか?」


「学校で言うことじゃないな。愛理さん?」


「雪上が来る前から二人はずっとこんな感じだぞ」


「きーちゃんはまだわかるけど……」


「愛理?何を言ってるのかしら?」


 その言葉に愛理さんは体を震わせ、黙り込んでしまった。

 やはり愛理さんが来ても紀里の女王様気取りは変わらなかった……

 周りからの視線が針みたいなツンツンとした痛さからナイフのようなぐっさりえぐってくるような刺さってくる痛さへ変わった。

 クラスでの立場が、どんどん失われていく。

 まあ紀里に絡まれ、暴力を振るわれた時点でこの学校での俺の人権はないようなものだったな。

 周りの視線を常に感じながら、授業を受けることになった。









「……頼む、愛理さん。勘弁してくれ……」


「え~いつもこうしてるじゃないですか」


「学校だぞ……」


 昼休憩になり、すぐさまこの場から逃げてやろうと席を立ったが京一に肩を掴まれ紀里と愛理さんからは大人しく座ってろという視線を感じ大人しく戻った。

 その結果何故か愛理さんと一緒に昼飯を食うことになった。


「あ~ん」


 俺の目の前に弁当の中に入っていた料理を出してきた。

 逃げたい。

 周りからの視線と愛理さんの視線がとてもとても怖い。


「あ、あーん……」


「はい、あーん」


 俺の口の中に弁当の中身が入った。

 周りからの視線が怖くて、味がしない。

 なんで愛理さんはこんなことをやろうと思ったんだ……

 付き合ってると言っただけならそれぐらいで済ませばいいものをわざわざ見せつけるようにするのは、こっちが恥ずかしい。

 文句を言っても愛理さんは絶対に聞いてくれないので俺は黙って愛理さんの言う通りにするしかなかった。

 そして何故か弁当を完食する頃には、周りからの視線が殺意の持ったものではなく呆れたような目線になっていたのは一体どういうことなのだろう。

 結局疑問は残ったまま、午後の授業へ変わったが、春崎先生の俺への当たりが強くなっていたのは気のせいだと思いたい。









 放課後になるとすぐに愛理さんに捕まりそのまま美容院へ連行された。


「あ、私の彼氏なんですけど髪型いい感じにしておいてください」


「あら~愛理ちゃん彼氏さんいたのね~ま、良い感じにしちゃうから期待しててね」


「樹さん、逃げちゃダメですからね?」


「はい……」


「愛理ちゃんの尻に敷かれてるようね」


「よろしくお願いしますね」


 そういうと愛理さんは店を出ていってしまった。

 え?俺一人なのか?


「はいは~い、じゃ、早速取り掛かっちゃいましょう。そこ座って頂戴」


 美容師に流されるように案内され、俺は髪を切ることになった。

 なんだか東京とかの良いところにありそうな美容院なんだが、俺なんかが居ても大丈夫なのだろうか。

 愛理さんが居るのは別におかしくはないのだが、俺が居るのは絶対におかしいと思う。

 なんか美容師の人めっちゃにこにこしてて怖いんだけど……

 不安と恐怖に駆られながらも、大人しく髪を切られた。




「さ、こんな感じでいいわね」


「お、おぉ?」


 目の前の鏡を見てみると、いつもよりすっきりしている俺の姿があった。


「素材がいいと決めやすいわ~愛理ちゃんもあなたも顔いいわね~羨ましい」


 愛理さんが顔が良いのは分かる。

 全力で頭を縦に振ることができるぐらいその気持ちはわかる。

 丁度愛理さんが帰ってきた。


「あ、終わりまし……い、樹さん?」


「いい素材だったからいつもより頑張っちゃったわ」


「樹さん滅茶苦茶かっこいいです!樹さんのかっこよさが際立ってます!あーもう好きです!」


「あ、愛理さん?落ち着こうな」


 若干というかだいぶ興奮気味の愛理さんは会計を済ませてしまい、すぐに店を出た。

 なんか今日は用事が淡々と終わっている気がする。


「私の目に狂いはありませんでしたね」


「どういうことだ」


「ん~樹さんと初めて会う前に写真を見せてもらったんですけど『顔いい!』ってなりましたもん。まあ実際樹さんの事好きになったのは顔だけじゃないんですけどね~」


「そ、そうか」


 素直にそういう言葉をぶつけれられるとやっぱり照れてしまう。

 愛理さんと手を繋いで帰った。




 家に帰りリビングへ着くと愛理さんが、


「樹さん、ベッドインしましょ!」


「はぁ……」


「だって樹さん取られたら嫌ですもん……今更気づいたってもう遅いってこと気付かせないとですもん……あと寝取られはクソです!」


「寝取られはクソだな」


 寝取られはクソ、これは満場一致してもおかしくないだろう。


「あと初めては樹さんがいいですし……」


「待て愛理さん。俺が愛理さん以外の女性に目が行くとでも思っているのか?」


「いやほらその強引にって……」


 本当に心配なのは愛理さんが寝取られることだがまあ学校終わったらすぐ家に帰ってる愛理さんがそんなことあるはずない……よな?

 何か心配になってきた。

 もし愛理さんが俺以外の男に興味を持ったら……


「ほら樹さんも心配じゃないですか。だから今のうちに初めてをあげてマーキングしておかないと」


「落ち着こうな?」


「むー」


 取り合えず頭を撫でて落ち着かせた。

 愛理さんは猫なのか?

 そう思えるくらい落ち着き、もっと撫でてほしいと上目遣いでこちらを見てくる。

 そんな可愛い仕草をされると抵抗する気すら起きない。

 まあ上目遣いをされなくても俺は普通に愛理さんの頭を撫で続けると思うが……

 なんならこのままキスしてしまいたいところだが、流石にそこは自重し……彼女相手にする必要あるのか?

 そう悩んだ挙句、キスした。


「一緒にご飯作ろうな」


「……明日の朝キスマークいっっっっぱい付いてても知りませんからね」


「微妙に困ることをしないでくれ……」


 そんなことをされては学校に行ったら周りの人から白い目で見られることになってしまう。

 愛理さんの頭から手を離し一緒に夕飯を作った。




 今日は徹夜すると愛理さんに言い聞かせ俺は自室へ向かった。


「愛理さんと一緒に寝たいんだがなぁ……」


 本当に朝キスマークだらけではたまったもんじゃないし、春崎先生から渡された物を全て直さないといけない。

 正直なことを言うと俺に頼むのではなく専門的な人に頼んでもらいたい。

 幸い渡してきた物の中に物理的に壊れてしまっている物はなく、適当にいじくりまわせば直るような物ばかりだった。


「……それにしてもいつにもまして量が多いな」


 倍ぐらいの量な気がする。

 そこまで複雑な作業でもないのでその点についてはあまり気にしてはいない。

 頼むから機械を扱える人を探してくれ……

 ただ複雑な作業じゃないとはいえ、面倒なことに変わりはない。

 俺は一人寂しく淡々と作業を進めるのだった。









 結局配信をしたりして徹夜し、睡魔に誘われながらも愛理さんと学校へ向かった。

 そういえば今日はあまり周りの視線が痛くないな。

 愛理さんが言っていたことはこの事なのか?

 教室へ入ると教室内がざわざわしだした。


「お、お前……樹か?」


「そうだが」


「そうか……いや、なんというか……なんかムカつく」


「どういうことだ!」


 周りのクラスメイトも「うんうん」顔を縦に振り京一側についている。


「簡単に言うぞ。一昨日クラスの目がある中美少女から告白まがいなことをされて次の日には二人でイチャイチャしてそして今はイケメンになってイチャイチャしながら登校してきた。これを聞いてムカつくだろ?そういうことだ」


 確かになぁ……

 俺のことのはずなのになぜか納得できた。


「雪上と付き合ってるのは知ってたしイチャイチャしてるのは仕方がないとして、お前そんな顔だったんだな」


「なにか言いたげだな」


「いやただ……OLに目、付けられてそうだなって」


「少女漫画に居そう……」


 誰かがぼそっとそう呟いた。

 誰だ出てこい。

 愛理さんが急に近づいて来たかと思えば、抱き着いてきた。


「む~樹さんは渡しませんからね!」


「……学校でイチャイチャするのはやめてくれ。さっさと家に帰れ」


「刺されろ……」

「末代まで呪ってやる……」


 さっきからぼそぼそと会話してる内容が聞こえてくるのだが、物騒すぎないか?夜道歩いてたら刺されたなんて洒落にならないぞ。

 しばらくは周りに気を付けることにしよう。

 そんなことを考えていると、紀里が教室へ入ってきた。


「なんで朝からこんなに騒がしいのよ……」


「いやこいつが」


「樹がどうしたのよ」


「あれぇ?反応が変わらないだと……」


「あえて言うなら、髪切ったぐらいかしら」


 俺にとって紀里の反応が一番ありがたい。

 たかだか人が髪を切っただけでこうも騒がれては困るものがある。


「愛理はいいわよね……ちゃんとし……てはいないわね。まあでも男と出会えて」


「おい、ちゃんとしてないってどういうことだ」


「樹さんだから仕方がないんだよ、きーちゃん」


「愛理さん!?」


「ほんと、大丈夫かしら……」


 愛理さんと紀里は、俺の声はガン無視で、俺へのディスを二人して始めている。

 京一は二人にボコボコにされている俺を見て笑っているので、腹に一発入れてやった。


「お、お前……手加減をしろよ……いってぇ……」


「笑ったお前が悪い。次、気に食わないことあったら速攻もう一発腹に入れるからな」


「思考が紀里」


「なにかしら?」


「スッー……なんもないです……」


 流石に紀里を相手にするのは、京一ですら臆することのようだ。

 物理的にも負ける可能性は十分あるし、退学やら家族への負担やらで別の方向からも容赦なく攻撃してくるのが紀里流なので、誰も逆らえない。

 どういう親を持ったらこういう思考の、やばい人ができるのだろうか。

 紀里を見ていると何度もそうおも……

 紀里がこちらを睨めつけるように見ていることに気づき俺は考えることをやめた。

 こわ……あいつは心が読めるのか……

 今度からあいつのことディスるときは、家でディスろう。

 紀里が立ち上がりこちらに歩いてきて、


「次、変なこと考えたら愛理と一カ月会えなくさせるわよ」


「すみませんでした。もう何も考えません。なので勘弁してください」


「よし」


 俺は犬か。

 紀里は心が読めるということが分かったので、今度からは気をつけよう。

 教室の前の扉が動くと、春崎先生が入ってきてこちらを軽く見て、


「はぁ……チッ」


 ため息をついたと思いきや、後ろのほうにまで聞こえるほどの舌打ちをした。

 おい、教師としてその態度はどうなんだ。

 生徒をこき使わせ、しまいには舌打ちする教師はなかなかいないぞ。


「さっさと座らないと席離すぞ」


「私たちは赤い運命の糸で繋がってるので離れません!」


「「「チッ……」」」


 愛理さんが俺の腕に抱き着くと、周りから舌打ちの音が聞こえてきた。

 周りからの視線が……

 取り合えず愛理さんを腕から離し席に座った。










「なんでお前ら家に居るんだ……」


「髪の毛切った祝い?」


 何故か家に帰ると紀里、京一、千郷、そして各務光大がソファーに座ってゲームをしていた。

 俺は修理した物を教務室に置いてから帰ったから、他の人よりも一足遅れ家に帰ってきたがどうやら教務室へ行っている間に五人で来たらしい。

 最近はずっと騒がしいな!

 呆れながらも俺もソファーに座りコントローラーを手に持って参加した。


「あ、丁度いいや。樹君、そこ立って」


「なぜだ?」


「美雨達に見せよかなって」


「面倒なことをしないでくれ……」


 俺は特に立つこともせずそのままゲーム画面を向いてコントローラーをいじった。

 するとカメラのシャッター音が鳴った。


「送っちゃえ!」


「あ、おい」


「よーし、送信完了」


 今から消しても無意味なので俺は諦めた。


「樹君、一昨日と比べて本当に変わったね」


「美男子三人衆だね!」


「まあ顔はいいわね」


「うち二人彼女持ち」


 色々と言われてる中、京一が声を掛けてきた。


「なあ、樹」


「なんだ」


「美少女三人衆もできてないか?」


「そうだな……」


 愛理さんは勿論の事、紀里は性格はあれだがモデル並み見た目をしている。

 千郷も普通に考えたら美少女側だな……

 なかなかに恐ろしい空間に陰キャの俺が取り残されていることに気づき、なんか心が沈んだ。


「イエーイ!」


 千郷が全員を写すようにして写真を撮った。


「学年のグループに送るね?」


「はぁ、もう好きにしろ」


「面白そうですね」


「好きにしていいわよ」


「僕はもう今更だね……」


 各務光大だけ凄いなんというか可哀そうになっている。

 なんかあいつ可哀そうだよな……

 千郷は学年のグループに写真を送った。

 というかそんなものがあったんだな。

 俺は知らなかったぞ。


「わぁー凄い凄い」


「おぉ……」


 俺は入っていないので千郷のスマホの画面を見てみると爆速でコメント……が流れていた。

 最近あまり配信してないとはいえすぐコメントって出てくるのは職業病みたいなものだな……

 口にしないように気をつけないといけないと再度実感した。


「飯が食えるはやばいだろ……」


「私たちの学年って変態が多いのかしら?」


「その筆頭が何を言う」


「樹、あなた消されたいようね?」


「まあまあ二人とも落ち着きなよ」


 紀里の消すという言葉は本当にこの世から消されそうなので俺は紀里から離れた。

 あいつのバックにマフィアでも付いてるんじゃないかと俺は思っている。


「きーちゃんが樹さんのこと消そうとしたら全面戦争だからね?」


「……はぁ、雪上家を敵に回すわけないじゃない」


「話が物騒だぞ」


「二人の話は僕たちとはまるで次元が違うね……」


「あと樹さんにも味方はいますし」


「誰だ?」


 味方って誰かいるか?と考えていると愛理さんがとんでもない発言をした。


「ん~樹さんのお父様の会社とか?」


「愛理さん?」


 それ隠してるんだが?というか愛理さん約束どんどん破っていくのやめてくれないか。

 許嫁の関係とかこの事もそうだが愛理さんには釘を刺していたというのに、全部ばらしていっている……

 あとでよく言い聞かせておかないといけない。


「どうやら隠してることがあるみたいだね、樹君?」


「あーいやそのな……」


「やっぱりそうだったのね」


「お前は、勝手に人の個人情報を調べ上げるな」


 やっぱり調べられていた……

 紀里に関してはもう何を言っても無駄なので俺は説教する気はない。

 というか紀里に何かしたら後々何かの方法で絶対に返ってくるためしないほうが得だということを俺は学んでいる。

 過去に一度やらかしたせいで地獄を見たからな……

 まさかどんなやつかと調べようとしたら返り討ちに会い、PCが一台吹っ飛んだのはいい思い出だ。

 紀里が睨んでくるので、思い出すのをやめた。

 結局俺は会社の社長の息子だと説明する羽目になった。




 六人で色々とゲームを遊びつくした。


「じゃ、帰るよ」


「ばいばーい」


「また明日な」


「愛理、何かあったら言いなさい」


「一人だけお母さん混じってなかった?」


「じゃあな」


 俺がそういうと四人は玄関の扉を開け、帰っていった。

 さて……


「いや~楽しかった……です、ね……?」


「愛理さん?最近ちょっと口のチャックが緩んでるんじゃないか?」


「えっと……その……えへ?」


「今回のことはえへ?ぐらいで許すが余りにも酷いならも少し考えるからな」


「はーい」


 流石に愛理さんの「えへ?」に俺は勝てなかった。

 最近は愛理さんがこういうあざとい事ばかりしてくるので俺の理性がゴリゴリ削れている。

 少し距離を置きたいが、多分俺も愛理さんも寂しくなって死ぬので無理だ。

 一緒に寝れないとか無理だ。

 前は背中向けたりしてたのにな……と数か月前のことを思い出す。

 あの頃とは違って俺も愛理さんも変わったよな。

 そんなことを考えながら愛理さんと一緒に夕飯を作った。

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