#30
今日は愛理さんからの視線が熱く大変困っています。
理由はただ一つ……ホワイトデーだからだろうな。
お返しとして、チョコを渡したが何故かずっとこちらを見ている。
「愛理さん?チョコ渡したよな?」
「はい、そうですね」
「なのになんでずっと物欲しそうにこっちを見てるんだ」
「え~だってもうちょっと常日頃のお返しとして何か貰いたいなぁって思ったので」
「欲張りだな……で、具体的には」
「樹さんのほ……いたっ」
なにか良くない言葉を発する気がしたので、俺は一発愛理さんのおでこにデコピンをした。
全く……
この間看病した時からまた俺たちが一緒に暮らし始めた頃のように愛理さんが、戻ってきたんだが……ド下ネタを発せられてはこちらも反応に困るからな。
「一回落ち着け愛理さん」
「スゥ―はぁー……やっぱり樹さんのほ……あべしっ」
「さて愛理さん配信しような」
俺は愛理さんの腕を掴み、愛理さんの自室へ連れていった。
「樹さんとラブラブイチャイチャ配信を……」
「ホワイトデーだぞ。バレンタインデーで配信できなかった代わりにT〇itterにあげたあのイラストの人気高かったよなぁ~?お返しが多そうだな~」
「うっしゃやるぞー!おー!」
「口調が黒瀬さん及びその他諸々になってるぞ」
愛理さんの口調があのOL組の口調になっている……
正直愛理さんは、あの方向に行かれては困るのであまりマネしないでもらいのだが……
愛理さんを落ち着かせてから、俺も自室へ行った。
暇なので配信をしてみると、すぐさま『逃げるな』『帰れ』とコメントが流れてくる。
どうやらリスナーたちは俺に配信させる気はないようだ。
「雪、配信してる。俺、暇」
『なぜにカタコト』
「現れたな立凛」
『なんで中ボスとかラスボス辺りの敵みたいな扱いなの』
▾コメ欄に立凛が現れた。
こんな感じのテロップが俺の頭の中では流れていた。
『コラボ誘ったのになんで立凛さんとイチャイチャしてるんですか!』
「帰れ」
『辛辣』
『サイテー』
『可哀そうだと思わないのか』
「配信中に来てるのが問題だろうが!」
愛理さんまでもが、コメ欄に出てきた。
というか今、愛理さん配信中だよな?
俺はさっき愛理さんを部屋に連れて行って配信させた記憶があるんだが……
俺の記憶が間違っているのか愛理さんは速攻配信をやめてコメントしているのか……
まあ配信しながらコメントしてるんだろうな……
今すぐにでも愛理さんの部屋に行き、ちゃんと配信をしろと一喝したいところだが向こうも配信中だ、俺には何もできない。
それから数十分は愛理さんのコメントが流れなくなったので、多分自分の配信に集中することにしたんだろう。
『あーそうそう、凛斗。今度会える?』
「あとで話そうなそういうことは」
『おっと浮気ですかい旦那』
『これはゆきちゃんに報告ルートですか』
『ニヤリ』
「頼むから鳩はやめろな?あと多分俺から言うから心配すんな」
鳩は結構真面目に洒落にならないからな……
そう思いながらも『了解』『おk』などと流れているコメ欄を見て安堵した。
「さて話すこともなくなったし立凛と話さないとだし配信終わるか」
『おつ』とコメントが大量に流れるのを見届けながら俺は配信を終えた。
配信を終えてから取り合えず立凛に、連絡を送った。
すぐさま返事が返ってきて、『取り合えず喋りながらでもいい?』と帰って着たので通話を繋いだ。
「おつ~じゃ、ま、話すね」
「おう」
「えっと取り合えず来週の週末とか会える?」
「ら、来週か……あとで確認しとく」
「まあいつでもいいから予定空いてるときに会うってことで、私はいつでも大丈夫だけど」
かなり淡々と適当に話が進んでいるが、俺は気になったことを聞いた。
「で、なんで急に」
「あー渡したいやつあるから。あ、そうそうゆきちゃんはお留守番で」
「了解。場所とかは……」
こんな感じで話が進んでいるが、俺と立凛はリアルで会ったことはない。
なのでお互いどこに居るのかすらも分からない。
「私から会いに行くこともできるけど」
「俺がどこに住んでるのかも分からないだろ」
「んぁ~まあ教えてもらえれば」
立凛のことを信用しているが流石に教える気にはなれない。
まあ取り合えず俺が住んでる県内の、適当な場所で会うことにした。
「ほいじゃ、予定空いてたら連絡寄こしてねーノシ」
「それリアルで言ったやつ初めて会ったわ」
「そう?凛斗の初めて貰っちゃった」
「会った時、誤解の生む発言は控えるように」
こんなくだらない会話をして終わった。
特にやることもなかったのでPCを閉じて、リビングへ戻り、ソファーに座っていると愛理さんが戻ってきた。
「むぅー」
「な、なんだその顔は」
「立凛さんとばっかりイチャイチャしてぇ、狡いです!」
これ以上言っても聞かないか、「イチャイチャしたいです」とか言って予定を聞けないので、可哀そうだが無視することにした。
「来週の週末やりたいことあるか?」
「む、無視……ま、まあ特にないですけどぉ?樹さんとイチャイチャするっていう……」
「そうか、じゃあ俺出掛けるから」
「冷めてる……樹さん……私のこと嫌いになったんですか!?やだー!樹さんがいないと私ダメになっちゃうぅううううううう」
「どーどー……」
愛理さんが抱き着いて頭を俺の胸に当ててグリグリと押し付けてくる。
く、クソっ可愛い……
「俺も愛理さんがいないと蒸発するから安心しろ」
「じゃあ樹さん抱いてください」
「それは無理な願いだな」
「……やっぱり冷めてるぅ」
今日は目一杯甘かしてやろう、そう思い愛理さんを抱っこしそのままベッドへ運んだ。
この状況だけ考えると、完全にそういう流れだが、俺は愛理さんに手を出す勇気などないため後ろから抱き着いて、
「愛理、ずっと一緒だからな」
「はひゅっ、は、はいぃ……」
囁き攻めをすることにした。
愛理さんはずっと溶けたかのようにふにゃふにゃと喋っていた。
「い、樹さん、お腹以外の場所触っててもいいんですよ」
「じゃ、遠慮なく」
取り合えず愛理さんの脚に手を置いたが、定期的に愛理さんの弱そうなところを徹底的に攻めた。
「これで満足か?」
愛理さんは頷いてから、何故か俺のほうを向いた。
なんだろうか?
これでもまだ足りないというのならかなりの欲張りさんだが……
「やられっぱなしなので……じゃんけんして勝った方が好き放題できるっていうことしません?」
「そうだな」
「じゃあ……最初はグーじゃんけん、ぽん」
俺の手は完全に開きパーの形をしている。
そして愛理さんの手を見てみると、綺麗な人差し指と中指だけが立っていた。
負けたか……
「うへへ、じゃあ……」
俺は唾を呑んだ。
愛理さんなら何を言ってきてもおかしくない。
なんなら「エッチしましょう」と言ってきそうなんだが……
そんなことを考えてる間に愛理さんは続く言葉を発した。
「胸揉んでください!」
「……」
俺が無言になっている間に再び愛理さんは俺のほうに背を向けた。
一番つらくないか?
潔く「エッチしましょう」と言われたほうが良かったまであるぞ。
どうやら愛理さんは俺の理性を壊すのが楽しいらしい。
「従わないんですか?なら別のにしますけどこれよりえっっっっろいことしますけど?いいんですかぁ?」
マジで揉むのか?
いやまあ形はいいし大きいし好きな人の胸だし柔らかそうだし別に嫌というわけではない。
ただ触ったら俺は戻ってこれない可能性が大いに……
愛理さんが俺の手を引っ張った。
「樹さん取り合えず私の顔に頭乗っけてみてください」
言われた通りに愛理さんの顔の上に乗っけてみると、愛理さんが少し動き耳に口が当たっている状態で、
「堕ちちゃえ」
俺は一発自分の顔を思いっきり殴った。
愛理さんは急に自分の顔を殴った俺のことを心配したが今の俺を止めるにはこれしかなかった。
そしてそのままこれ以上堕とされまいと、眠った。
朝起きると愛理さんが不貞腐れたような顔をしながら俺の頬を突いていた。
「おはよう」
「ふーんだ」
愛理さんがそっぽを向いてしまった。
俺に背を向けてる愛理さんの、頭を優しく撫でてみるとすぐご機嫌がよくなったのが分かった。
「樹さんは誘っても無視するんですね!」
「誘ってるんだな……」
「……ふん」
なんだこの可愛いのは。
頭をもう一回撫でてみると、猫のように気持ちよさそうにするが意地でも自分は不機嫌だと思わせようと必死に頑張っている姿が可愛い。
キスしてあげたらすぐにご機嫌を取れたので、そのまま今日はいつも通り暮らした。
週末になり俺は朝早くに起きた。
朝早くに起きたはずなんだが愛理さんはもう起きていた。
「……おはようございます」
「おはよう」
「今日は立凛さんに会いに行くんですよね」
「そうだが……」
「なんで連れて行ってくれないんですか!」
……そう言われてもなぁ。
俺は何度も訊かれて何度も答えているが愛理さんは一向に認めてくれないので今日の今日まで愛理さんが言い続けている。
ただ向こう側から愛理さんは留守番と言われてしまっているので俺からは何とも言えない。
愛理さんを宥めながら、適当に準備をして家を出た。
というかネットの人とオフで会うの初めてなんだが……どうすればいいんだ?
考えてみたが実際行かないと何もできないので取り合えず集合時間よりも早めに行くことにした。
待ち合わせをしていた場所に着いたので、連絡を入れてみた。
『着いたけど』
『早いね、私まだもう少し掛かりそうだから着いたらまた連絡する』
『了解』
やることもなかったのでそこら辺をふらついていてもよかったが、いざとなった時に近くにいないと立凛も困るだろうからあまり動かずスマホを弄りながら待った。
『着いた』
スマホの通知が鳴り確認してみるとそう書かれていた。
周りを見渡してみるとスマホを弄りながらこちらへ近づいてる人がいた。
「凛斗?」
「立凛か」
「いえす」
取り合えず第一印象はたけぇ……
俺と一緒ぐらいの身長だが女性の中では普通に高い方だろう。
「異形を見るような目で見るんじゃない」
「身長高いな」
「そっちも人のこと言えないけどね。あとバチクソイケメンじゃん雪ちゃんいなかったら喰ってたわ」
なぜ俺の周りのこのぐらいの歳の女性は同じようなセリフしか言えないんだ?
これはある種、世界の謎かもしれないな。
そんな馬鹿らしくくだらないことを考えた。
「なんでVやってんの」
「まあそれは雪への憧れとかまあ色々と」
「実写のほうがOL釣れてたと思うけど?」
「釣れる世代が決まってるのやめないか?」
「まあ別の世代もちゃんと釣れると思う」
まあそんなことを言われても俺は多分顔バレでもしない限りは、Vをやり続けることになると思う。
Vになっていたおかげで愛理さんとここまで仲を深められたのもあるし、やめたくないな。
「ほいじゃ、どーする?」
「なんかカフェでも行くか?渡したい物あるんだろ?」
「任せるわ、ここら辺良く分からないし」
俺もここら辺はあまり来たことないんだよなぁ。
なんか最近できたカフェがある気がしたので、特に決まってないしそこに行くことにした。
しかし身長高いな……
隣を歩いていてそう思う。
愛理さんは俺より少し低いがまあ平均身長かそれ以上ぐらいだ、女性の平均身長は知らないから何も言えないが。
そんな愛理さんと10cmぐらいは違うんじゃないか?
感覚だと10cmぐらいだと思っているがまあそれ以上の高さもある気がするな。
「バレー部とかバスケ部だったのか?」
「身長弄りかぁ?まあバスケ部だったけど」
「なんか強そうだな」
「まぁエースしてたからね」
「エースかよ……」
まあでもなんというか見た目通りではあるが……
これで絵を描けるのは少し予想外なんだよな。
「あ、バスケのこと調べないでね?
「全国大会でも行ったんか」
「その通り」
「今度調べるわ」
「やめろぉおおおおおお」
バスケでエースになって全国大会まで出てるやつがこんなになって絵を描いてるとはなんというか波乱万丈な人生を送っているんだろうな。
憐れみながら歩いてると、すぐ着いてしまった。
店に入り席に通された。
俺と立凛はそれぞれ適当に頼み、いよいよ今日会った本題に入ることにした。
「ほいじゃ、まあこれ」
何か入った袋を机の上に出された。
中身を確認してみると……思わず吹きそうになった。
「何やってんだよ……」
「これ量産したらOKだよねって感じで作ってみた。どうよ」
「最高なんだが、うーむ……」
「あ、ちなみにそれは私が一つずつ持ってるけど残りはそれしかないから限定品ね」
限定品と聞くとどうしても大切に扱いたくなるんだが……
エロ同人をさりげなく突っ込んでくるのやめてくれないか?
袋の中には、エロ同人誌、アクスタ、キーホルダーが入っていた。
ただ異様に同人誌が大きく、袋を開いた瞬間目に入ったのは、なかなかダメージが高い。
「そっちは絶対に受け取ってもらって。で、こっちはまあ見てみて」
また袋を渡された中を見てみると……こっちもエロ同人じゃねぇか……
さっきの袋に入っていた同人誌は雪姫雪花と神木凛斗のエロ同人誌だったが、こっちはまさかの立凛と神木凛斗のエロ同人誌だった。
「いや~描いちゃった」
右手の親指を立ててグッドの形で突き出してくるのやめてくれないか。
「息子が凛斗しかいないからちょっとよしよししたくなっちゃったね」
「そういう領域の話じゃないな」
よしよししたくなって同人誌描くのは明らかずれている。
注文していたものが丁度届いてしまったので、渡されたものは急いで持ってきた袋の中に突っ込んでしまった。
「……まあ凛斗には感謝してるよ、最近依頼が結構多くて大変だけど」
「なんかすまん」
「まあ稼げてるからヨシ。ちなみに訊いておきたいんだけど兄弟出来ても問題なさそ?」
「ん?なんだ?そんな依頼でも来てるのか?」
もし立ち絵の依頼が来ているんだったら気になる所だが。
なんならコラボしてやろうという勢いで考えている。
「いやそういうわけじゃないんだけどさ」
「俺は特に気にしてないからいいぞ。そういう立凛はどうなんだ?」
「ん~まぁお金貰う以上いいんだけどさ、もう少し凛斗に色々としてあげたいからどうしよかなって」
「もう十分色々としてもらってるけどな」
「ま、それは立ち絵の依頼来てから考えるかー」
正直俺は兄弟が増えても困らないし、なんなら仲良くなりたいと考えている。
「最近どうよ。配信減って私暇してるんだけど」
「まぁな……生活もだいぶ変わって……でも、それなりにいい生活はしてる」
「かーあの雪ちゃんの実質夫さんだもんねぇ、そりゃいい生活してそう」
「立凛はどうなんだ?」
「んーまあ可もなく不可もなくいつもと変わらず面白みのない日常よ」
「そうか」
俺も愛理さんと出会ってなければそうなっていたことだろう。
正直そっちの生活のほうがある意味安定しそうで、少し羨ましかったり……
なんて言うと周りの人から「は?」と言われ、愛理さんには「私と居るのが嫌なんですね!?」と言われかねないので何も言わないし言えない。
「絵、描いてるだけで全て上手く世界線はないんかー」
「無理だろ」
「ぴえん」
「人前でそういうことするな」
「はーやめだやめ。こんな話は飲みに誘った後輩に愚痴ってやる」
「その後輩が可哀そうだ……」
俺は櫻花や白葉のせいでよくそんな目に合っていたがまあ大変だった。
ヤケ酒して酔っぱらって結果、家まで連れていくことが何度あったことやら……
立凛と話していると昔のことを思い出すな、特に櫻花。
なんか別に違う人間なはずなんだがどこか、雰囲気が似ているというかなんというか……
「なんでそんなしみじみした顔で私を見てるん?」
「いやなんか知り合いに雰囲気似ててな」
「なるほど?」
「さーて、次はどうする?」
「どこか行きたいところとかあるか?」
「ん~まあ特にないかな」
なら帰らせてほしい。愛理さんがずっとスマホの通知鳴らしてきて大変なんだが、と言いたいんだが貴重な機会だし何かしたいところではある。
「なら……バスケするか?」
立凛はバスケ部のエースをやっていたというしどれくらいの実力か知りたいところではあった。
別に真っ向から勝負したいというわけではない。
俺は運動があまり好きではないし、バスケなんか中学にやったぐらいな気がする。
「お、いいね。でもどうする?」
「まあ適当にボール買って近くの公園でやるか」
「お金に余裕あるの?」
「まあ」
「チッ……昔の凛斗はどこに……」
俺たちはカフェを出て、適当に近くのスポーツ用品が売ってるところでボールを買った。
幸い近くの公園にバスケのできる場所があったのでそこへ向かった。
「いや~出来るかなぁ」
「……なんで勝負することになってるんだ?」
「え?しないの?」
「しないつもりだったんだがな……」
「まあまあ折角だしやろうよ」
俺はボールを手に持ちドリブルする体勢へ変えた。
地面に何回かボールを着いた途端、立凛が一気に詰めてきて、鎌鼬かのごとく風のような速度であっさりとボール取られそのままスリーポイントを決められてしまった。
「隙だらけ」
「うぜぇ」
「いや~久しぶりだけど動けるねぇ」
勝負するつもりなんぞさらさらなかったが、ここまで調子に乗られては俺のプライドが許さない。
結局立凛と何試合もした。
「はぁはぁ……」
「いや~面白いね」
ようやく立凛にすぐボールを取られることは無くなったが、圧倒的技術力の差で負けてしまっている。
あと体力の限界が近づいてきている。
立凛はまだ息を切らしていなかった。
「休む?」
「……あーもう無理だ、疲れた」
「私の勝ちー」
「うっぜぇ」
「ほら、休んで、汗かいたでしょ。洗い流さないと」
そんなセリフを立凛が口から発した直後俺は捕まった。
……ん?
「えっろ」
「やめろ、放せぇええええ」
「じょーだんじょーだん」
「目はマジだぞ」
放してくれたが、狩猟本能が出た動物並みの目をしてこちらを見ている。
怖すぎるでしょ……
バスケであれだけコテンパンにされて、体力までも奪われた状態の俺が今捕まれば、間違いなく逃げられずそのまま連れていかれるだろうな……
そんな恐怖に怯えながらも取り合えず、汗は拭いた。
「はー疲れた疲れた。案外動けたけど流石に運動してないと体力落ちるね」
「体力落ちたって言っている割には息が上がってないよな」
「元から体力に自信はあったし」
ドヤ顔をされても反応に困る。
俺は明らか中学校の頃よりも体力が落ちてしまっている。
原因は自堕落な生活だろうな……
愛理さんが居るだけで、何もしなくても全てが終わっている。
そんな生活を続けていれば流石に体力も落ちるだろう。
あと愛理さんのご飯のせいで少し太ってきている気がする。
運動しないとなぁと思いつつも面倒だなという思いが勝ってしまう……
ダイエット運動は何がいいのか考えながら、立凛を送るために適当に話しながら駅まで向かった。
「いや~今日は楽しかったね。また会えたら……あと配信頻度増やしてね?暇だから」
「暇なら自分で配信しろ」
「めんどくさい」
「俺も面倒くさいんだよ!」
「はー雪ちゃんとイチャイチャしてばっかで配信しないとか良い生活してますね!クソが死ね」
急に口が悪くなるな。
「じゃ、またいつか」「またな」そう挨拶を交わすと立凛は駅の奥の方へ姿を消していった。
そして俺は溜まりに溜まった愛理さんからの、メッセージをちゃんと返しながら家に帰った。
玄関を開けると、仁王立ちでこちらを睨みつけてる愛理さんが居た。
俺はすぐさま土下座した。
プライド?そんなもの中学の頃に捨てたわ!
「遅かったですね」
どうやら愛理さんは土下座だけでは機嫌がよくならないようだ。
俺は立凛から渡されたものを愛理さんに献上した。
「なんですかこれ」
「中身を見てください……」
ビニールが擦れる音と布が擦れる音がすると、愛理さんが声を漏らした。
「ぐへ……」
「おい」
「ま、これは預かりますね!後で返しますから!」
「勘弁してくれ……」
立凛のエロ同人のおかげで俺の命は助かったらしい。
あとで立凛に感謝しなければならないな。
……この状況になったのも立凛のせいじゃないか?
よく考えてみればそうだったので、感謝する気は一瞬で塵と化した。
でもまあ連絡は入れる必要があると思ったので、連絡は入れておくことにした。
ようやく土下座の状態から解放され、愛理さんと一緒にリビングへ向かった。
リビングに入ってすぐに愛理さんが、
「立凛さんから貰ったもの一緒に見ません?」
「……はい」
俺には今拒否権がないので、大人しく見ることになった。
「おーアクスタ!部屋に飾ろっと」
「これとかどうです……」
「キーホルダー!種類もあるし……うへへぇ」
「ここにあるものと立凛が持ってる物しかないから大切にしろよ?まあ一応量産はできるみたいだが」
「そうなんですね!丁寧に扱います!」
愛理さんがいつにも増して喜んでいる気がする。
その姿を見れただけで、今日立凛に会いに行ってよかったと思った。
さりげなく愛理さんは中に入っていた同人誌を手にしてしまった。
「こ、これは……」
「こっちもあるぞ」
「……立凛さんは性癖歪んでるんですか?」
「それは思った」
「流石にこれは……読ませていただきましょう!」
愛理さんはそう言い残し、袋ごと自分の部屋に持って行ってしまった。
「いや~エロい!」
「愛理さん飯だぞ」
「珍しい……ありがとうございます」
リビングに戻ってきたかと思いきや、扉を開けたが束の間思いっきり「エロい!」と言われたこっちの身にもなってほしいものだ。
そのまま内容やらなんやらを聞けば、俺は、何かを聞かされその上何かをされかねないので、気になる所を我慢し飯を運んだ。
俺も愛理さんも食卓に着き、夕飯を食べた。
「いーっつもあんまり料理してくれないくせに美味しいの嫌味かなんかなんですか?」
「愛理さんのような店でも出せるような料理は作れないが、まあ適当に作れるからな」
「なんか樹さんのは、実家の味って言うかお母さんの味みたいな優しい感じがするんですよね。本人は冷めてるのに」
「悪口か?」
「いーや、樹さんのそういう部分も好きですし悪口を言ったつもりは全くないですけど」
「……不意打ちがすぎるだろ」
あまりに自然な流れで言われては、嬉しくも少し恥ずかしく感じる。
でも冷めてるは少し悪口じゃないか?
愛理さんに悪口言われた……
「ヘラるな樹さん」
「愛理さんが冷めてるなんか言うから……」
「おーよしよし。悪口のつもりじゃないですからね?仕方ないあとで甘やかしてあげますね」
愛理さんが頭を撫でてきたが、凄い恥ずかしい。
一気にこみ上げてきた羞恥心で、脳が焼けるかと思った。
少し妬け食いして、さっさと寝る仕度をしてしまった。
布団に仰向けになって寝っ転がっていると、扉が開き愛理さんが顔を覗かせてきた。
「最近一緒にお風呂入ってないですよね~」
「また入るのは嫌なんだが」
「樹さんとは常に傍に居たいんです」
「可愛いこと言うな。でもまた風呂入るのはい……」
「じゃあ私一人で入ってきますよ?でも一緒に入ってくれない代わりに立凛さんのエロ本一緒に読みますからね」
……理性がボロボロにならなければ、あの同人誌のほうが多分マシに決まっている。
俺は無理矢理、愛理さんを風呂に入れてその間深呼吸して心を落ち着けた。
愛理さんが風呂からあがってくると、笑顔であの同人誌を持って部屋に入ってきた。
怖い怖い……
愛理さんは俺の横に寝っ転がり、勢いよく同人誌を開いた。
「まあ最初は勿論の事エロくないです」
「解説付き?」
どうやらこの同人誌の物語、拗れたような物でもなく普段の日常生活をコンセプトとして描いているようだ。
最初の数ページは、特にそういう展開はなかったが、途中から雲行きが怪しくなってきた。
「立凛さんって私たちの生活監視してるんですかね」
「まあなかなか解像度は高いな」
思ったより今の俺たちのような生活が描かれていて正直驚いた。
そんなことを話しているうちに、良くないほうへ進みどんどん過激になりそのまま終わった。
えー結果エロい。
普通にあかんかった。
俺も愛理さんも顔、真っ赤よ。
隣にいる愛理さんをもう一度見てみると、目が合ってしまい二人ともすぐ目を逸らした。
「ちょっとよろしくなかったな」
「いや~一人で読んだときはまだよかったのに樹さんと一緒だと体が火照って暑いですね」
「今は距離を……!?」
愛理さんが抱き着いてきた。
普段ならあまり気にすることではないが、お互いの理性が崩壊し合い、ボロボロな中での接触はまずい。
少し耐えられず愛理さんにキスをした。
舌まで入れて、出来る限り落ち着けようとしているが馬鹿なことをしてしまった。
尚更理性が崩壊していく。
唾液と唾液が絡み合い、厭らしい音が耳へ入ってくる。
その音が、少しずつ少しずつ俺の理性を削っていく。
これ以上したらまずいと、脳では判断しているのに、体は愛理さんを求めてしまっている。
「んぁ、い、息が……」
息が続かなくて少し愛理さんが苦しそうにしている。
一瞬だけ思いっきり攻めて、やめた。
愛理さんはぽけーっとしたままで、目の焦点が少し合っていない。
「すまん、愛理さん」
「あ……腰抜けちゃいました……」
「このまま寝ような」
「樹さんの舌が私の口の中で奥まで入り込んで、暴れたのは忘れませんからね」
「言わないでくれ」
「えっち」
元はと言えば同人誌を一緒に読もうと言って、理性が崩れているところで抱き着いてきた愛理さんが悪いが、キスに関しては俺が完全に悪いので言い返してやりたいところだがどちらもどっこいどっこい程度なので言い返そうにも言い返せない。
愛理さんに「えっち」だの「スケベ」だの色々と言われ、頭を抱えながら寝ることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます