#16 後編
愛理さんの居場所を知らずに歩いていたが丁度歩いていた影南さんに場所を訊き言われた場所へ向かった。
どうやら愛理さんは自分のデスクがある部屋にいるらしい。
部屋の前へ着くと扉が開き中から愛理さんが出てきた。
「どうしたんですか?」
「いや特にすることもなくなってな」
「ん~?やることがなくなったからこうして私の元へやってきたと」
「……まあそうだな」
「よーしよーし寂しかったですね~」
「子供じゃないが」
「じゃあ彼氏?」
スゥ―今はそうじゃないけどさぁ……
まるで「今晩が楽しみです」とでも言いたげな顔をしている。
それについては触れないで俺は俺の話を通すことにした。
「愛理さんこの後どうする?」
「ぬ~まあもう特にやることないですけどぉ~」
「じゃあ飯食いに行かないか?」
「夕食ですか?でもどこで……」
「しゃちょ―――――――」
「やあ二人とも調子はどうかな?」
俺が言葉を言いかけた途端偶々なのかは分からないが通りすがった社長に声を掛けれた。
あーそういうことか。
多分社長は俺に見せ場を与えているんだろう。
「相変わらず私たちはラブラブです」
「愛理さんその、抱き着くのは……」
「え~いいじゃないですか~」
「アハハ、その様子だと上手くいってそうだね。私は通りすがっただけだからもう行くよ」
最後俺に向かって目配せしてどこかへ行った。
「で、愛理さん。抱き着くのやめてくれないか」
「このまま夕食を食べに行きましょうよ」
「だーめーだ」
「ちぇーもう少しデレデレしてもらいたいものです」
そんな姿を誰かに見せることはできないというか見せたくない。
なので俺は決してデレることはないと言い切りたい。
無意識はノーカンで。
気を遣ってくれたのか愛理さんから離れてくれた。
「じゃあ行くか」
「行きますか~」
「不機嫌になるのはやめてくれ。……こ、告白するとき気まずくなる」
「まあ告白のためなら仕方がないですね~んフフフ~♪」
頬を膨らませて不機嫌そうにしている愛理さんを告白のためだと言って機嫌を良くさせたが今になってこれは失敗なのではと思った。
俺の発言によって愛理さんの期待値を上げてしまった。
だんだん鼓動が速くなっているのを感じながら社長が予約した所へ向かった。
「樹さん、ここ結構お金かかるんじゃ……」
「まあ三十万以上とかじゃなければ……」
「え?三十万?どこからそんなお金が……」
そうか、愛理さんは俺が金欠だということを知っているからそう言っているのか。
確かに普段使えるお金は金欠だが中学の時に稼いだまあまあの大金は別にしているからな。
「中学の時に稼いだのがあるんだ。流石にそっちは普段使いできないからな」
「え、ということは私に全財産貢いでないということですか」
「いやそれはまあ確かにそうとも言えるが……」
「冗談ですよ。今でも十分なくらい貢がれてますからね」
今考えれば俺、愛理さんに何十万と貢いできた気がする。
実際何十万という数字で済むのか?家計簿的なものはつけてないからなどれだけ貢いだのか全く分かっていない。
「まあここに立っているのもなんですし中に入りましょうか」
愛理さんに連れられて中へと入っていった。
予約していた名前を言うと席へ案内されフロントの人が居なくなったところで愛理さんが口を開けた。
「……こんなところに高校生が居ていいんでしょうか?」
「財閥家の娘が何を言っているんだか……」
「で、でもぉ」
確かに俺もこんなところに高校生が居ていいのか不安だが俺はスーツ姿だし愛理さんも私服とはいえなかなか品のあるものだから一見して高校生には見えないだろう。
コースを予約していたため次々と食べては料理が運ばれてとうとうデザートが運ばれてきた。
ネットではこのタイミングか終わってからプロポーズやらをしたほうがいいと書かれていたが……
終わってからしようと先延ばしにしてしまった。
緊張のあまり俺も愛理さんもすぐにデザートを食べ切ってしまった。
「……」
「……」
いや~こんなにも気まずい事ってあるか?
元々俺は収録から家へ帰ってきた愛理さんに告白するつもりだったのに今はいる場所は社長が行くような高級レストランだ。
普通こんなところに来たらプロポーズするのが当たり前のような場所だが今回は告白だけなんだよなあ。
他の人に聞こえないくらいの声量で俺は声を出した。
「あ、愛理さん……」
「は、はい……」
「そのぉ………………愛理さん、好きだ。あーいや今更こんなことを言うのもあれだな。……もうこんな関係だが…これからも一緒に居てくれ」
「は、はい。これからもよろしくお願いします?うぅ……」
告白がこんなにあっさりと終わってしまってもいいのかと少し悩んだが公衆の面前だし……ということでそこら辺は流すことにした。
そしてこんな公共の前でキスなんてするもんじゃないのでタイミングを見計らってすることにした。
中々に気まずい空気間の中、会計を済ませ俺たちは店を出た。
「手、手を繋いでください」
俺は愛理さんの手を取り指と指を絡めた。
愛理さんの顔を見るとどこか満足げな顔をしており指を絡めた恋人繋ぎにしてよかったと実感した。
「どうします?この後荷物を取ってからホテルに行きますか?それとも寄り道とかしてから行きますか?」
「寄るところあるか?」
「ないですね。じゃあ荷物を駅に取りに行きましょうか」
駅に荷物を取りに行ってからホテルへ向かった。
ホテルへ着き案内されるとまさかのスイートルームだった。
「生まれて初めてこんな部屋来た……」
「……」
「黙ってどうしたんだ?」
「んっ……」
「んぐっ!?」
俯いていた愛理さんがいきなり顔を上げこっちへ顔を向けたと思ったらいつの間にか愛理さんの柔らかい唇が俺の唇に押し付けられていた。
あーそうか。愛理さんからキスするとか言っていたな……
愛理さんの腕が俺の体の後ろへ来た途端何か本能的な危機感を感じ俺は愛理さんの顔をどけて少し強引に離れた。
「……何しようとした」
「樹さんのような勘のいい人は嫌いです」
「で、何をしようとした?」
「ちゅるって」
「ちゅるってなんだよ」
愛理さんは何も言わなくなって部屋の奥へ行ってしまったがなんとなく察した。
多分愛理さんは俺の頭を掴み逃げられなくなったところで口の中に舌を入れようとしたのだろう。
俺も後に付いて行くとソファーに座って背伸びしている愛理さんの姿があった。
「ふわぁ、収録で疲れちゃいました」
「配信はどうするんだ?」
「あ、うーん……」
「疲れてるんだったらやめておいたほうがいいんじゃないか?」
「え~でも~雑談だけしちゃいます。樹さんは同じ部屋に居ます?」
普通に雑談だけする話の流れかと思ったら急に爆弾発言をされた。
「馬鹿か。音とか載って匂わせになるだろ」
「ん~でも社長から言われてるんですよね。『樹さんを公式に出させるきっかけが欲しい』って」
「一応社長に確認しておけ?影南さんでもいいから」
「まあ言うか言わないかはともかく聞いてみますね」
愛理さんがスマホを取り出し少しの間別の部屋に居たがすぐ戻ってきた。
社長はいらないこと言ってないよな?影南さんも……
愛理さんが口を開くのを待った。
「ええっと……私が彼氏できたよー的なことを言うぐらいなら事務所が何とかするらしいんですけど流石に同じ部屋に居るのはあらぬ疑いを掛けられるかもしないので駄目だそうです」
「そうか。なら俺は別の部屋に居る」
「はーい、チッ、世の中のクリぼっちにいちゃラブを見せつけてやろうと思ったのに」
愛理さんの口から恐ろしい言葉が出た。
そんなことしたらクリぼっち全員泣く羽目になるぞ。
俺は去年のクリスマス配信を思い出し三万人近くが集まっていたのを思い出した。
そして流れるスパチャの量もえぐかったな。
クリスマスにぼっちでいるやつらが配信者にスパチャしてるんだろうな。
「樹さん、これからは配信始まる前と終わった後にキスしましょ」
「急にどうした。落ち着け愛理さん」
「平常運転です。やっぱり付き合ったからにはそういうことしないとやってらんないですよ」
「はぁ……これで我慢してくれ」
俺は愛理さんの背中へ手をまわし頭を撫でた。
心なしか胸元に顔を埋めている愛理さんの息使いが荒い気がする。
「ハァハァ……スゥ―」
「いつも通り配信頑張れ」
危機感を感じた俺はそう言って愛理さんから腕を離した。
そんな不服そうな顔をするのなら大人しくしてればいいものを。
プクーっと頬を膨らませどこか物足りなさそうな顔で上目遣いをしてくる。
「はぁ」と俺はため息をつきながら頭を掻きながらも愛理さんに顔を近づけてほんの一瞬だけキスをした。
「今日だけだからな」
「彼女を可愛がらない彼氏!ひどい!」
「なんだそれは…………こっちだって恥ずかしいんだ」
「可愛いですね」
羞恥心からか正面から愛理さんを見られなくなった。
「え、可愛いって言っただけでこんなになります?」
「は、はは……」
顔が赤くなっていくのを感じた俺は愛理さんから逃げるように愛理さんの死角になるような場所へ逃げた。
聞き慣れない言葉を言われただけで顔を赤くして逃げる俺ってみっともないな。
同じ部屋に愛理さんが居なかったら壁か机へ頭をぶつけていただろう。
「あのー私なんか変なこと言いました?」
「いやそれはない。断じてないから安心してくれ」
「じゃあ……」
「彼女から聞き慣れない言葉を言われたからな」
「ふ~ん?まあ私は配信してますね」
「ああ、俺のことは無視してくれ。……今は空気になりたい」
自分のみっともなさにも羞恥心を抱き今はとても空気になりたい。存在しているかしていないかのぎりぎりになりたい。
俺は部屋の隅に逃げた。
〈愛理視点〉
何故か樹さんが部屋の隅に行ってしまった。
今は甘えることも甘えられることもないので配信を始めることにした。
「こんばんは~雪原の姫、雪の花、雪姫雪花です~今日は収録終わりで出先だから雑談だよ~」
『こんゆき』という挨拶がコメ欄で流れていく。
この『こんゆき』というのはこんばんはと私の名前から取った挨拶だけど、私が考えたんじゃなくて黒が考えてくれた。というか勝手にこれで挨拶し始めたので視聴者も真似して配信開始と同時に『こんゆき』と流れるようになった。
ちなみに私もたまに使っている。
「あ、そうだ。告知告知っと」
誕生日配信のことを言うことにした。
「えっと今年も誕生日が近づいてきたので配信をするんですけど……というか28日なんで結構近い。まあ今年も凸待ちするつもりだよ」
わざわざ今から企画するのも面倒なので去年もやったように凸待ちをすることにした。
「あともう一つ公表すべきことって言うか社長が言えって言ったので言いますけど~」
コメ欄がざわついた。
私は長く貯めるのもあれだと思いすぐに言うことにした。
「実は彼氏できちゃいました。てへぺろ」
少しの沈黙の後コメ欄が加速した。
コメ欄がざわつくどころじゃなくなっている。
SNSサイトを軽く見てみれば凄いこの話題になっているし運営もなんか文章を出している。
あれ~?これこのまま行くとトレンドに載っちゃうやつでは?
「何か言いたいようであれば全て社長へどうぞ。全責任は社長が負うと言ってたから」
『私、そんなこと言ってないけど!?』
瀬戸社長がコメ欄に現れた!
今のコメ欄は私の彼氏いる発言と瀬戸社長が来たという事実で流れが物凄いことになっている。
同接数も5万人を超した。
「あちゃー社長のせいじゃん」
炎上問題来ちゃうかこれ。
着火剤が樹さん油が社長の大炎上。あー怖い怖い。
「社長からも許可取ってるので恋人になったんですけどね~」
だんだんとコメ欄が落ち着いてきた。
とはいえいつもの流れよりかは早いしトレンド入りもしたみたい。
こんな短時間でここまで変わることはほとんどないと思う。
「んとまあその彼氏が今度事務所からの発表に出るみたいですよ。そこら辺は私も知らないので事務所のほうに問い合わせてください」
今回のことに関しては燃えても仕方のない事だがそこら辺の対応は全て事務所に任せることにした。
別に炎上してやめさせられることになっても樹さんと一緒にいれるのなら私は構わないけど。
樹さんは罪悪感が積もるよね……
「まあもうこの話ですることもないし普通に雑談かな」
いまだ騒がしいコメ欄とトレンドを見ながら私は普通に雑談を進めた。
一時間が経ち話すこともなくなったので私は配信をやめることにした。
「えっと重大な告知もあったけど今日は配信に来てくれてありがとう。運営のほうから多分色々と出てると思うからそっちを見みてね。さいならー」
そう言って私は配信を止めた。
炎上してるかな~と思ってリスナーのツイートを見てみるとそんなに批判的な言葉がない。
むしろ「おめでとー」とか「よかったねー」とか祝ってくれるツイートのほうが多かった。
私は「今日の配信に来てくれた人たちありがとう」と一言だけツイートしておいた。
「私のリスナー意外と民度が良い?」
他の配信者というかこういうアイドルのような配信者がそういうことを言うとすぐに炎上してもおかしくない気がするイメージだけど民度が良いからか炎上しないですぐに終わりそう。
これ以上何かしたりする必要もないだろうと考えた。
「樹さんからクリスマスプレゼント貰ったし私も何かあげないとなあ」
樹さんから罰ゲームとはいえ告白という最も嬉しいクリスマスプレゼントを貰ったので私も何かあげないといけないと考えた。
真っ先に思い浮かんだのが初めてだが樹さんとは約束をしてしまっているので樹さんがその気にならない限り私はしないと決めている。
ただ樹さん意外とああ見えて初心で可愛いので少しからかいたくなってしまう。
「は~樹さんが彼氏かあ」
正直に言って今すぐこの場で跳ねて大喜びしたいぐらい。
まず性格が良い、顔が良い、声が良いそして推し。
もうここまで揃ったら最高だよね。
そんなことを考えつつも樹さんの元へ向かうと部屋の隅で丸まっていた。
「樹さ~ん?配信終わりましたよ~」
「は、ははは……」
「も~キスください」
樹さんが壊れたみたい。
私は恥ずかしさを我慢しながらも樹さんに顔を近づけて私から顎クイして樹さんの唇に口づけした。
キャー恥ずかしー
樹さんから見たら私は積極的な女子と思っているんだろうけど本当は積極的に行くのも恥ずかしいし正直攻められたいけど樹さんがあまりにも草食なせいで何もしてくれないから私から行っている。
「はぁ立ち直らないと舌入れちゃいますよ~?」
「……風呂入ってくる」
項垂れながらも樹さんはそのまま浴室へ行ってしまった。
チッ……一緒に入ったろ。
可愛い可愛い彼女を構ってくれない彼氏なんてサイテーだと自分に言い聞かせ私は樹さんの後に続いて風呂へ乱入した。
「あ、愛理さん!?」
樹さんがこちらを振り向き顔を赤くさせて俯いた。
フヘヘ……あーその反応がたまらん。
内心で思っていることが口に出ない限りは樹さんにはバレていないので何を思っても引かれることはない。
さっさと体を洗い流し委縮して丸まっている樹さんの背中側に行き浴槽へ浸かった。
「樹さんどうしたんですか~?さっきからずっと避けられてる気がするんですけどぉ~」
「俺のみっともなさと羞恥心で死にたい気分だ」
「……は?何を言っているんですか?樹さん自身がそう思っているだけでしょ?私は樹さんのことみっともないとは思わないし。というか今の「可愛い」と言われただけで恥ずかしがる樹さんもいいと思います」
「それはそれでどうかと思うぞ」
「ん~でも平常運転の樹さんも少し言われただけで死にそうになる樹さんも全部含めて私の彼氏で許嫁で推しの樹さんなんですから」
「そのセリフは風呂凸したやつが言うセリフじゃないな」
あ~この後ベッドインしてハスハスしたい。
私は内心樹さんの姿、言動を見て興奮しているが平然を装って体を洗い樹さんが入っている風呂へ突入した。
樹さんめっちゃ動揺してる。
今日の樹さんは私に対する耐性がゼロのようなので私はこのまま背中に抱き着いた。
「彼女にほぼ裸の状態で抱き着かれてる気分はどうですか」
「……愛理さんも内心恥ずかしいんじゃないか?鼓動が高まってるぞ」
「へ?」
樹さんに私も恥ずかしいけど抱き着いていることを悟られたけど私はそのまま続行した。
「私の鼓動どうですか?」
「離れてくれないのか?」
「はい、もう樹さんの彼女なんで自重しません」
「せめて自重はしてくれ」
「樹さんに言われたのなら仕方がないですね」
私が自重しないと樹さんから嫌われて話しかけてすらくれなくなりそうなので樹さんの言う通り自重する。
でも男子高校生ならこの状況でもそうじゃなくてもさっさと襲えよ、と私は思っている。
「樹さんがもう少し不健全だったらなあ」
「愛理さんが内面まで清楚だったらなあ」
「「……ん?」」
私と樹さんのある意味真反対の言葉が重なった。
「愛理さんはもう少しその外見にあった言動をしろよ!」
「樹さんはなんで男性なのに襲ってこないんですか!」
確かに私の見た目は清楚なんだろうけど(周り全員がそう言っているので認めざるおえない)こんなに積極的な女の子に手を出さずあまり可愛がってくれない男性が居ますか普通。
「いや男が当然のように襲うと思うなよ」
「いやこの状況でそれ言えますか?」
「……言えないかもしれないな」
「なら襲えぇえええ!」
樹さんにはこういう時だけ腹が立ってくる。
私は背中に抱き着いて樹さんがこっちを向かない限りは見えないことを利用してバスタオルを外した。
「これでどうですか!」
「や、その愛理さん……」
「あ、もしかして私に裸で抱き着かれてるから興奮して立っちゃいました?」
「……」
え?まじ?
樹さんをからかってやろうと言ったつもりが本当だったみたい。
私は樹さんへの好奇心を押さえ……られなかった。
「ま、まあこうやって私から触れているわけですし~しょ、処理をしてあげてもいいですよぉ~?」
「……」
樹さんは立ち上がり黙ったまま浴室から出て行ってしまった。
「あちゃーやりすぎちゃったかな」
流石にこれには私が反省をしないといけないのかもしれない。
反省しないといけないと思いつつも樹さんの反応良かったのでもう一度見たいと考えてしまった。
私は少し長くお風呂に浸かってから上がった。
〈樹視点〉
風呂に入っている愛理さんから逃げてから結構経った。
流石に耐えられなくなってしまったので俺は逃げてしまった。
背中にまだ愛理さんの当ててきた胸の感覚が残っている。
「まさかバスタオルをどけて素肌で触れてくるなんて思ってもいなかった……」
普通にあれはよくない。
俺だって男子だということを分かってもらいたいものだ。
流石に恋人関係とは言えどあそこまでするのは普通によくないと思う。
俺がソファーに座り項垂れていると後ろから肩を叩かれた。
「大丈夫ですか?」
「誰のせいだよ……」
「私のせいですね……お詫びに何かしましょうか?」
「いやもう何もしないでくれ……疲れた」
「はい……」
流石に今日はもう疲れた。
愛理さんのことだから朝起きたら何かしてそうな気もするが明日のことは考えずとにかく疲れを癒すために寝室へ入りベットに飛び込んだ。
あーやわらけぇ。
流石ホテルのスイートルームのベット普通のベットとは違って凄く柔らかい。
柔らかいという単語が脳に出て来た瞬間愛理さんも脳内に過ったのは俺の脳が愛理さんに侵されている証拠だろう。
「愛理さんの膝枕ってどんな感じになるんだ?」
普通にそのまま眠りの世界に落ちてしまう気がする。
ただ今はもう頭を上げる気力すらないので愛理さんに頼むことはないだろう。
「はぁ……頭持ち上げますよ」
「いつからそこに!?」
「樹さんにずっと付いて来たんですけど」
疲れのせいか周りに目が行っていなかったようだ。
愛理さんが俺の頭を持ち上げて自身の膝の上に乗っけた。
あ、これやばい……
愛理さんの膝枕で睡魔が強化され俺は目を瞑って寝てしまった。
目が覚めると疲れはそこまで感じなくなり快眠できたことが良く分かった。
まさか愛理さんの膝枕にあそこまでの魔力が込められているとは思わなかった。
「愛理さんのおかげでよく寝れ……?」
横で寝ている愛理さんに何か違和感を感じた。
何かがおかしい。そして絶対に布団を捲ってはいけない気がする。
でも愛理さんが寝ているというのに布団を捲れと言っている気がする。
「でもな愛理さん俺はもう学んだんだ。愛理さんの言う通りにしたら面倒なことになるってな」
俺は布団を捲らずに寝室から出た。
朝食はどうしたものか……
愛理さんと一緒に行ったほうがいい気がするが……
朝食はバイキング形式になっているので部屋を出なければならない。
「愛理さんが起きたら行くか」
愛理さんが起きるまで俺はソファーに座ってボーっと外を見ることにした。
寝室の扉が開いたことに気づきそちらへ振り向いてみるととんでもない恰好をした愛理さんが出てきた。
「まともな服を着ろ!」
「クリスマスプレゼントなので~開封してくださ~い♡」
「やめろぉおおおおお近づくなぁああああああ」
愛理さんが身に纏っていたのはプレゼントなどをラッピングするときの幅が少し広めのリボンだった。
それはクリスマス時期の絵師のイラストだけで十分だああああ。
実際に見ることないわ!というか愛理さんどういう思考してリボンだけ身に纏うなんてことをしたんだよ!
まったく朝から頭を抱えさせられる。
「開封されなかった……」
「開封で合ってるのかそれ?」
「まあこのリボンの端を引いてほどいてくれたら私は樹さんの物になります」
俺は一瞬次の言葉を言おうか躊躇ったが恋人同士なら問題ないだろうと思い愛理さんに近づき抱き着いて口にした。
「そんなことをしなくても愛理さんは俺のものだ。絶対に離したりしないし誰かに渡さない」
「樹さん……束縛系の人?」
「そんなことないぞ。ただ愛理さんは可愛い俺の彼女で許嫁だからそう思うだけだ」
胸の中にいる愛理さんが恥ずかしがっている様子が伺えた。
やっぱり愛理さんはずっと守ってあげないとな。
「じ、じゃあこのリボンほどいて証明してくださいよ」
「そうだな」
「へ?」
「……時間に余裕があればそのリボンをほどいていただろうが朝食に行かないといけないからな」
「そ、そうですね~急いで着替えちゃいますね」
愛理さんは寝室で俺はソファーのあるこの場所で急いで着替えて朝食を食べに行った。
部屋へ戻り俺は歯を磨いてからソファーに座った。
最後のほうに行ったはずなのに結構な人数の宿泊客がいた。
「樹さん今日の予定は……」
「今日は事務所に行って手伝い……あ、そうだ。今日の夜、飯食いに行く」
「え~誰とですか~」
「白葉と櫻花」
「ん~確かにそんな名前の人居たような……」
「どうする?あいつらがいいって言ったら来るか?身バレになるかもしれないが」
「別に事務所所属のVtuberとしてじゃなくて樹さんの許嫁で彼氏ということで行けば気にしませんよ」
あいつら分かってるからな、と言おうと思ったがまああいつらのことだしあえてその話題には触れなさそうだし大丈夫だろうと思い俺は連絡を入れてみた。
「返事来るのはや。ああ、大丈夫だってさ」
「じゃあ私も暇なので事務所行きますね。すぐ準備しちゃいます」
数日間かここを使うとはいえ汚くしておくのは嫌なので少しだけ荷物を寄せたりして愛理さんの準備を待つことになった。
ある程度綺麗になったように見えるぐらいなって俺も少し支度をして寝室から出ると丁度愛理さんの支度も終わった。
「じゃあ行って来ますのキスを……」
「同じ場所へ行くのにか?」
「正直に言うと昨日のだけだと物足りないので」
「具体的には」
「舌と舌を絡めた濃厚なやつか何回もしたい。でも樹さんまだ嫌なんですよね?」
嫌というわけではない。というか少ししたい気持ちはある。
ただどうしても羞恥心が勝ってしまうというかなんというか……
一回だけならと愛理さんに近づき唇に口づけした。
「……んぅはぁ…もう一回」
「俺の理性が吹っ飛ぶ」
「は?樹さんの理性なんて知りませんよそんなもの」
「理性が働かなくなって愛理さんを傷つけることが怖い」
「そして傷つけて私が離れるのも怖いと」
「いや絶対に離さない……冗談だぞ?」
「冗談にしては目がガチなんですけど……」
なぜか愛理さんに引かれた気がする。
冗談だって言ったよな?
俺には愛理さんに引かれたことが不思議でしかない。
「樹さん私と別れることもなく結婚しても離婚することはないでしょうが一応言っておきます。女性に束縛はあんまりしないほうがいいですよ」
「そんなにか……」
「まあ私は愛されているということが実感できるのである程度なら許せます」
「そうか……まあ俺もそこまで束縛しないようには善処する」
「じゃあ詫びキス」
「そうだな」
俺はもう一度愛理さんに顔を近づけて口づけをした。
素直に俺がキスをしたことが驚きなのか愛理さんは目を見開いたまま固まっている。
「っ……ま、まあ~行きましょうか」
「そうだな……」
お互いに気恥ずかしさを表に出さないように苦労しながらも事務所へと向かった。
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