#17
俺が手伝える仕事も終わり白葉も櫻花も仕事が終わった。
時計を見てみるとまだ夕飯を食べるには早い時間帯だった。
「どうする?」
「いやぁ~まさかこの部署のできる仕事を全部してこんなにも早く終わるなんて思ってなかったらね~」
「まあ昔よりも全然仕事ないからな」
「あーそうだねーあははー」
全て棒読みで言う理由は簡単だ。櫻花は俺に仕事を任せることが多かったからだろう。
ちなみに当時は時々だが櫻花の仕事を三分の一くらい任されていた記憶がある。
昔よりかはペースは速くなっている気がするがそれでも周りに比べたら少し遅い。
「もう少し作業効率を上げたらどうだ?」
「素人にはこんなの分からんのである」
「三年前も同じセリフ吐いてたよな」
「私の記憶にはないのである」
「録音しときゃよかった」
そしたら櫻花は素人ではないという証明ができるんだがな。
まあどちらにせよ就職して今ここで働いている時点で素人ということはないんだが……
「白葉ー終わった?」
「あと少しだ。というか終わってるんだったら手伝ってくれ」
「神崎、後は頼んだよ」
「逃げるな卑怯者!」
「手伝ってやれ」
「女性に暴力とは何事だ!」
俺は逃げようとしている櫻花の右肩を掴んでいる。
少し力を入れると「痛い痛い!」と叫ぶので少し右手に入れる力を緩めた。
「なんて野郎だ……クソ、肩がいてぇ」
「そんなセリフを言っている暇があったら手伝え」
「はぁ……俺も手伝うから共有してくれ」
「も!?勝手に私もやることになってるのはなz……いだだだだだだだ」
「そういえば勝手に空いてるところ使ってたけど大丈夫だよな?」
「ん?何言ってるんだ?あそこはお前の場所だぞ」
「はぁ?」
とうとう白葉は仕事の疲れで頭が回らなくなったらしい。
こいつの頭、今だけ三年前に戻ってるぞ。
それとももうボケ始めたか?
困惑した様子を見兼ねたのか白葉は俺に問いかけてきた。
「社長に聞いてないのか?」
「ああ、全く。一言もな」
「知っているからそこに座っているんだと思ってた」
「櫻花、お前も知っているのか?」
「勿論、この部屋に居る人で知らない人はいないでしょ」
この部屋に居る全員が知っているということはざっと見渡した限りでは少なくとも50人は知っているということだろう。
「……社長がお前のためにこの会社の居場所を残してたんだ」
「戻ってこないかもしれないのにか?」
「そうだ。当時の社員はこの社長の意見に全員賛成したからな」
「今でもここでは影で慕われているんだからね~」
なんだか少し納得できないところもあるが心に留めておこう。
俺は櫻花を引っ張って今、自分の居るべきであろう場所へと帰った。
櫻花も手伝って白葉の残っている仕事をできる限り終わらせた。
「よっしゃ飲むか。あ、言ってなかったがいつもの店だぞ」
「まだあるんだな。あの焼肉店」
「ああ、まだあるぞ」
どうやらまだあの焼肉店は残っているようだ。
「私と白葉は先に外に出て待ってるから連れてきな」
「すまん、すぐに行くから」
俺は部屋を出て愛理さんの元へ向かった。
予め連絡を取って効率的に動けばよかったと痛感した。
愛理さんが居るであろう場所へ向かって急いで向かった。
「どこだ……」
当たりを見渡しても愛理さんの姿はない。
ここじゃなかったか?
そう思い振り返って進もうとすると、
「あ、樹さん!」
「こっちは終わったが出れるか?」
「出れますよ、私は特にやることもなかったですからね。あ、でも少し待っててください。荷物取ってくるので」
「ああ、ここに居るからな」
愛理さんは体を180度反転させもと来た方へ戻っていった。
数分もしないうちに愛理さんは戻ってきた。
行くときそんなに荷物持ってたか?
今日事務所へ来たときよりも荷物が増えている気がする。
「その荷物どうしたんだ」
「あ~こっちで使わない私物持って帰ろうかな~って思って整理したので」
「持とうか?」
「え、いいですよ。全然重くないですしそれに……中身を樹さんに見られたくないので」
何が入っているんだと好奇心をそそられたがきっと愛理さんの事なのでろくでもないものが入っているんだろう。
愛理さんを連れて白葉と櫻花が待っているであろう会社の外へと出た。
「おー来た来た。は~神崎にはもったいないねえ」
「櫻花の言う通りだな」
「なんだよ二人して」
「初めましてですかね?樹さんの彼女で許嫁の雪上愛理です」
愛理さんがそう言うと俺の腕に抱き着いてきた。
「お、おう……絶対に神崎を離す気がないのだけは十分に伝わった」
「まあこんなところで立ち話もなんだし向かいながら話そうぜぇ~」
白葉と櫻花が歩き出したのに愛理さんと俺は付いて行く。
初っ端から櫻花が愛理さんの俺に対するからかいが始まるような質問をしてきた。
「実際二人はどこまで行ったん?最近の若い子は付き合ったらさっさと行くところまでイってそうだけど」
「正直済ませちゃいたいんですけどぉ~こんの草食さんがダメダメうるさくてですね……」
「あー神崎だからな」
「神崎だもんね~」
白葉と櫻花はどうやら意見が一致しているようだ。
そこは解釈違いであってほしかったな。
流石に愛理さんに迫られているのでいつかはなぁと考えるようにはなったがもう少し時間が欲しいと考えてしまいこのまま先ずっとずるずると引っ張ってしまう未来が視える。
「ちなみにキスもまともにしてくれません」
「うわっないわーキスぐらいちゃんとしてあげなよ?可哀そうだよ」
「神崎お前……男か?」
「いやな?こんなに美少女で可愛いんだが逆に手を出しずらいというか……それに俺の推しであってアイドル的な存在でもあったから傷つけるのがな……」
「は?どうせ今後ヤるんだしいつヤっても変わらんやろ」
そういうことじゃないだろとツッコみたかったがまあ言ってしまえばその通りなのでツッコもうにもツッコめなかった。
「櫻花さんとは気が合いそうです」
「こんな奴と気が合うなんて……」
「……愛理ちゃんこいつのこと襲っちゃえ。寝てる間ならバレんよ」
「樹さんを寝かせたままだと後片付けがちょっと大変かもしれないですけどね」
「そこはほらペロペロしちゃえば?」
「それがいいですよね!」
「お前ら……他の人もいるんだからもう少し真面目な会話を……」
「「ヘタレは黙って寝てろ!」」
櫻花と愛理さんは全く同じタイミングでまったく同じセリフを吐いた。
まるでアニメやラノベに同じセリフがあるのかと思うくらいだが……たぶんない。
しかしそのセリフで決まったな。どうやらここでの立場は白葉と同じかそれ以下ということらしい。
「雪上さんも大変だな。こんな草人間を相手しないといけないなんて」
「えぇまったくですよ!まあでも好きなことには変わりないので」
「惚気話か……フッ私もそんな話ができたらな……」
「俺にも昔はあったがな……」
「はぁ?お前がか?え、きっしょ。なんで私と違ってあんのさ」
昔は惚気話ができると言った白葉の言葉を聞き櫻花が騒ぎ出した。
白葉はともかく櫻花は少し意外だったな。
惚気話はともかく恋愛経験が何度かあるのかと思っていた。
「おい、貴様。私が男遊びしてる女だと思ってただろ」
「そうだな」
「男遊びどころか恋愛経験も0だわ」
「はえ~モテそうですけどね」
「愛理ちゃん?私、君とは違うんだよ?」
「え、そんなにモテてないと思うんですけど」
そんなはずないだろうと心の中で思った。
俺が学校へ行っている間の悩みとしてこれがある。
転校初日のあの絶対に近づいたらいけない感を見ておきながらも美少女ということもあり愛理さんへ多数の男子生徒が告白している。
本当だったらその生徒の秘密をすべてネット上に公開し潰してやりたいところだが愛理さんに止められるのと幻滅される未来が視えているので俺はしない。
「ちなみにどれくらい?」
「月に……三人くらいですかね?何度も来られる方もいますし」
「はぁー私なんて学校生活で二回しかなかったよ。どっちも振ったけど。ちなみに私から告ったことはないよ。ほんじゃ白葉は?」
「俺は……一回だけだな。女子から告られた。まあ今じゃもう過去の思い出だけどな」
「愛理さんに告白したのを除けば0だな……」
「あれ?私がおかしいんですか?」
恐ろしいな……
人は慣れてきたら感覚が鈍るもんだが告白を慣れてしまうとはなかなか……
「にしてもよく神崎の告白振らなかったね」
「付き合う前から好きでしたし」
「それにある意味愛理さんから告ってきたようなものだしな」
「どゆことー」
「愛理さんが告白しろって言って振る気ないとか言ってた」
「なんじゃいそりゃ。んなもん愛理ちゃんから告ったほうが良かったんじゃない?こんな朴念仁野郎に告らせるんじゃなくて」
後半余計な言葉が入っていたが櫻花の意見には俺も賛成できる。
「はぁ、いいなあ。若いって。そんなラブコメみたいな青春送りたかった」
「おい、着いたぞ」
「私のセリフを無駄にすんなや」
「知らん」
櫻花は自分の吐いたセリフを無駄にされたようでムカついたようだ。
そんな櫻花を横目に俺たちは普通に店の中へと入っていった。
四人用の机へ案内され俺と愛理さん、櫻花と白葉で対面して座った。
「よっしゃー櫻花の奢りだしどんどん食べようぜ」
「いいんですか?」
「折角だからな。雪上さんも好きな物食ってくれや」
「ありがとうございます」
「ほんじゃ私はビール」
「ああ、俺の分も頼んでくれ」
いつもと変わらず櫻花と白葉はビールを頼んだ。
「適当に選んじゃうけどいい?」
「俺は別に」
「私もなに頼めばいいのか分からないのでお任せします」
櫻花は机に置かれているメニューを手に取り店員を呼びどんどんと注文をしていった。
「そういえば名乗ってないな。俺は
「私は~
櫻花は机に「未来」という字を指で書いた。
そういえば俺も漢字を聞くまでは完全に「未来」だと思ってたんだよなあ。
「津賀さんに美雷さんですね」
「あ~できれば櫻花って呼んで欲しいかな~そっちの方が私は慣れてていいし」
「俺も白葉と呼んでくれ」
「分かりました~」
話が終わると注文したものが何品か運ばれてきた。
櫻花はトングで網の上に肉を置いて焼き始めた。
「そういえばお二人は樹さんとはどういう関係なんですか?」
「会社の仕事仲間だけど神崎はちょっと別かな~神崎は事務所のほうの担当で私たちはREVIAのITの担当だからね~」
「まあ事務所設立の時は事務所としてあるだけで人はいないからREVIAの社員総動員だったがな」
「そしてそれでも人材不足で俺と契約したもんな。社長は」
「最初は皆無理だろうと思ったんだけどなんか途中で化け物入ってきたおかげで今の事務所があるわけ」
「当時は社長とそこにいる化け物が猛威振るっていたもんな」
「そこまででもないだろ」
俺は流石に正社員どころか外の人間なので手伝いぐらいだけだったはずだが……
それに俺の担当はHPの作成ぐらいだけだったはず……ん?
当時を思い返してみると明らか違う仕事が……
「そこの化け物はHPの作成以外にも会社のデータを管理するツールとか作っちゃうしひどい時税理士を差し置いて税務をこなしてるし」
「そして数十人分のPC組み立てしてたしな」
「それにREVIAの出してるソフトの基礎作ってるしただの化け物なんよ」
「樹さんの手伝いって……」
「すまんやりすぎた」
改めて言われるとやりすぎたのが良く分かった。
まあ、あの時は中学生だし自重できなくてもしょうがないよな。
「まあ正直助かったよ。今じゃまあまあ有名な企業になったし」
「REVIAで働いてほしいんだがな」
「父さんの会社で働かないんだったらな」
「まあそうだよね……」
この一瞬のやり取りで場がしんみりとしてしまった。
俺は話を切り替えるために訊こう訊こうと思っていたがなかなか訊けなかった話題を出した。
「そういえば今REVIAはアプリとソフトの開発しかしてなかったはずだよな?RPG開発はどうしてるんだ」
「…ああ、そこは複数の会社と共同制作だよ。うちはアプリ自体なんだけどできることはこっちでもやってるよ。私がそうだけど」
「軽い動作とか……あまり細かい動きとかは任されていないようだが大まかな動きとかそいつがしてる」
「まあ正直ちゃんとした道具がないからよく修正されるんだけどね~それもさ~そういうの別の会社がやることになってるのにうちの会社だと私だけに回されて通話しながらとかしてるんだけどなかなかこう上手くいかないんだよね」
「何でそんなことになってるんだ……」
「いや前言ったけどさ~一年後なんよね。流石に何社で共同制作とは言っても人足りないしやること多いし」
そこまで大規模なRPGを作るつもりなのかあの社長は……
でも不可能を可能にする人間だから何としてでも完成させるつもりなんだろうな。
「ちなみに何社くらい関わっているんだ?」
「何十社だっけ?まあ言ってもその会社の一つの部署を借りてるみたいな状態だから人数的にはそこまでかな」
「あの社長は相変わらず馬鹿なのか?」
「昔からでしょ」
「昔からだな」
「馬鹿なことには変わりませんね」
ここに居る四人の意見を合わせ出された答えは「社長は馬鹿」ということになる。
ここまで揃うとはなかなか世の中でも少ない事だろう。
まあその社長の馬鹿な無茶ぶりのおかげでこの会社と事務所は成長してきたんだもんな。
そこに関しては社員として最初から働いていたやつも途中から入ってきたやつも感謝しているんだろう。
「あーこの仕事ひと段落付いたら長期休暇欲しいんだけど~」
「有給取らないのか?」
「そんなことしてる場合じゃないんだよ!終わらないと給料減らすって言われたから。もうあれは脅しなんよ」
「ちなみに私たちのほうにもそれは響いてくるので何とかしてもらいたいですよ」
「あーならそっちで使えるやつにも手伝ってもらいたいよ。でも使えるやつ少なすぎて人員も引っ張ってもそこまで変わらないからなあ」
まあただのVtuberがそんな技術を持っているほうが少ないだろうな。
ちなみにsivea一期生の四人は元REVIAの社員なので一応スキルは持っている。
ただ昔のようにできるかとなったら別なんじゃないか?もう数年もやってないだろう。
普通にREVIAで働くことはできると思うがVtuberとして時間もないだろう……というかVtuberとして活動していたほうが楽でいいというのならあいつらは絶対に働かないからな。
「さっさと引退してこっちに戻って……」
「あ゛?」
「お前……箱推しか?」
「そうとも言えるが雪花様推しだ!!!いいか?雪花様とコラボして尊い空間を出されると雪花様の殺傷能力がえぐぅなんねん。あんなん食らったら死も同然や。でもそれ見ると生を実感するんや、生きててよかったわー思うねん」
「どうした?お前……」
「樹さんこうなるんですよね……雪姫雪花の事語りだすと方言混じったり侍になったりキモオタみたくなったりするんですよ」
おっといけないけないつい我を失ってしまった。
愛理さんの前でこうならないように自重はしているが配信でこの姿を見せているため愛理さんにはどうなるかばれているという自重しても無駄なことをしている。
「雪姫雪花と雪上愛理によって全てを変えられてしまった男。それが神崎樹か……」
「丸くなったもんなあ。昔はあんなに冷静な男感出してなかなかの人間だったのに……」
「おい?お前らしみじみすんな」
「成長したねぇ」
「お前の成長した姿が視れて俺はうれしいぞ」
社会人になって久しぶりに帰ってきた息子を見た親かよ。
まあうちの親なんかそんな目で見てこないだろうし何なら家に居ないだろ。
父さんは会社母さんはどうせ出張でいないだろうからな。
「愛理ちゃんうちの子を頼んだよ」
「はい!!!頼まれました!!!」
「櫻花はどの立場で言ってんだよ」
「神崎の母親?」
「あえて言うなら義母だろ?」
「そうだね。じゃあ義母」
「いや勝手になんなし」
流石の俺も櫻花が義母なんて嫌だぞ。
なんか違う気がする……
俺の今考えたままのことを口にしていたらじゃあ誰が義母ならいいんだよと返される気がする。
なので口に出すのはやめた。
「まあ私、母親じゃないけどその家族愛に飢えた化け物のことよろしくね」
「化け物呼ばわり……」
「私樹さんが化け物でも気にしませんよ?だって樹さんに変わりはありませんから」
「愛理さん……」
「……肉食えぇえええええ!このバカップルがあぁあああああ」
叫ぶ櫻花を見て俺は、
「フッ……」
「死ねクソガキィイイ」
「お、おい落ち着け櫻花」
「黙れクソ野郎!!私はこの地球に生きる独身&非リアに変わってこいつを制裁しなければならない」
「憐れだなぁ(笑)」
さらに追い打ちをかけてやると今度は網で十分に熱されたトングを持ち立ち上がり振り回してきた。
おー危ない危ない~
白葉は必死にトングを振り回している櫻花のことを押さえつけている。
「汚物は消毒だあぁああ!クソッあんの生意気でゴミみてぇなところはなんも変わっていないんだな!」
「櫻花も変わらず独身のままだな」
「神崎やめてやれ」
「はぁ~白葉に止められたからにはやめるしかないな」
大人しく網の横にトングを置きこちらを睨みながらも立ち上がっていた櫻花は座った。
「どういうことですか?」
何も分からない愛理さんはこの状況を俺が櫻花を煽り怒らせたと捉えているだろう。
まったくもってその通りだ。
「面白いから怒らせてるだけ」
「死ね」
「分かってるんだよな~」
櫻花はトングを手に持ち机に乗っかっている俺の手めがけて落としたがいつものことなので手を引っ込めた。
こいつはRPGの同じパターンしかしてこない敵キャラかよ。
RPGしたことが毎回新しいパターンで攻撃してくるとは思えないのでそう思ったがそれであってるよな?
少し思ったことが不安になったが別に口に出していないのでよしとした。
「まあまあ櫻花もいつか時が来るだろ。ほら俺が奢ってやるんだから好きなだけ食え」
「……うぐっんぐっ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛な、なんで私がこんな奴に負けなきゃならんのぉ……」
櫻花はジョッキに入ったビールを一気飲みし思いっきり机に叩きつけるように置いた。
そして酔いが回ってきたのか泣き始めた。
「白葉はこんな奴に負けていいのかよぉ」
「別に何とも」
「おめぇ味方じゃねかったのか」
「いやいつ誰がお前の味方になったんだよ」
「ひどっカス人間じゃん」
「だからお前に味方付かないんだろ」
「愛理ちゃんは?」
「知り合ったばかりですし……」
流石愛理さん同情の欠片もない。
ここで櫻花に味方している人間は誰一人としていなかった。
この後も終始櫻花に同情すること者も現れず一人叩きのめされたのだった。
白葉も酔いが結構回ってきたのか眠たそうにしている。
「お開きにするか?」
「まだ飲め……やっぱ無理、帰る」
白葉が立ち上がりふらふらとしながらもレジへ向かった。
俺は櫻花に肩を貸して白葉の後を追った。
愛理さんが羨ましそうな目で見ていたのは気のせいだろう。
「お前ら食い過ぎだ……」
「でもおごりじゃん」
「いや俺の財布が泣いてる」
「どんまい、白葉も結構食ったし」
「こんなことなら奢りって言わなきゃよかった」
「払いましょうか?」
「いや男に二言はないからな」
「神崎お前最低だな……まあでもその通りだ」
いや~やっぱ人の金で食う飯は美味い。
櫻花も口に出してはいないが心の中ではそう思っている頃だろう。
「私の家近くだし歩いて帰るわ」
「女一人で大丈夫か?」
「あ?きめぇやつ来たら胃の中にあるもの吹っかけたる」
「お前がきもいわ」
「きもい奴にきもいことしてもきもい奴に変わりはないからおk」
「どういう理屈だよ」
櫻花はふらつきながらも帰っていった。
あいつ途中でコケてそのまま寝そうだな。
白葉とも途中で別れ愛理さんと二人きりになった。
「面白い方々でしたね」
「そうか?」
「樹さんのこと頼まれましたし」
「その話は忘れてくれ」
「嫌です。どうせ変わりませんし」
「ああ、そうだといいな」
俺は人だから未来のことは見ることはできないが愛理さんとは良い関係でいたい。
「ふわぁ眠いです」
「そこまで遠くないんだから歩いてる途中で寝るなよ?」
「まあ寝ちゃったら運んで下さ……」
「愛理さん世の中全てうまくいくなんて思ったらだめだからな」
「ちょっとぐらい甘えてもいいじゃないですか」
「付き合って一日だが?」
「その前の生活思い出してからそのセリフは言ってください」
一昨日以降の記憶を蘇らせると恥ずかしい思い出が沢山出てきた。
一瞬だけ愛理さんの裸姿が蘇ってきたが無理やり消した。
あれは本当によくない。
「これは無意識なんですか?」
「ん?……何やってんだ俺ぇえええええええ」
愛理さんから素早く手を離し握り拳を作り自分で自分の顔を思いっきり殴った。
俺馬鹿なの?なに勝手に愛理さんの体触ってんだよ!
「ちょっと!?何やってるんですか!」
「ビンタでもいいから愛理さんも顔に衝撃を与えてくれ」
愛理さんが手を掲げたので俺は目を瞑った。
あれ?来ない?
そう思って目を開けようとすると唇に柔らかいものが押し付けられた。
俺は慌てて目を開いたが何事もなかったように愛理さんは俺のほうを向いているだけだった。
「あのなぁこういうところでしないでもらっていいか?」
「何のことですか~?」
「帰るぞ」
周りの目が少し気になったので愛理さんの手を引き急いでホテルへと向かった。
部屋へ入り少し落ち着いてから話を始めた。
「愛理さんいくら恋人とはいえ場所をわきまえろ。あんな道路の真ん中ですることじゃないからな」
「でも樹さんが顔に刺激が欲しいって言ったじゃないですか」
「痛覚への刺激だ!キスしろとは全く言ってないしそういうことじゃないんだぞ」
「い、痛いのが好きなんですね……」
「マゾみたいな扱いをするな!」
「でも痛いのがいいって……」
「そんなことを一言も言ってないんだが?」
愛理さんが俺の言葉を独自解釈をしているせいで話がまったく進まない。
ここまで愛理さんが変になったところ見たことがないんだが……
まさかとは思うが……俺にキスしてテンパってるんじゃないか?
「愛理さん」
「は、ひゃい!」
「テンパってるな」
「へ?な、何のことです?」
愛理さんに顔を近づけると俺から少し離れて顔を逸らした。
「避けるんだな。折角愛理さんが望むキスをしてやろうと思ったのに」
「……今はダメです。多分押し倒すかもしれないので」
「それはダメだな。やめておこう」
「でも少しくらい……」
ここで黙ってしてこないのが愛理さんだよな。
もししたいと思うのなら黙ってそのまましてしまえばいいものを愛理さんは……
まあそのおかげで俺の理性がギリギリ保たれているからな。
ただ愛理さんが過激な服装をしたり風呂に凸ってきたりされると少し危険だ。
「一週間後にもう一回チャンスくれませんか」
「ダメだ」
「明日」
「ダメだ。じゃあ俺風呂入ったら寝るからな」
「頭なーでーてー」
急に上目遣いでおねだりするような声を出された。
クソッ可愛いな。
俺は愛理さんに逆らえず腕を伸ばし頭を撫でてやった。
「にゃーん」
「猫になったから顎の下触れってか」
「にゃ」
可愛いなと思いつつも頭に乗せていた手を顎の下まで滑らせて猫を扱うかのように撫でた。
「んぅにゃ~ん」
実際の猫のようにだんだんと愛理さんの瞼が落ちている。
猫耳あったらもうそれだっただろう。
今度愛理さんに猫耳付けさせてもう一回やってもらおうと考えた。
愛理さんの顎の下を触っていると突如部屋中に音が鳴り俺は、はっ!と目を覚ました。
何やってるんだ俺……
どうやら愛理さんのスマホから鳴ったらしい。
「誰からだ?」
「安心してください。社長です」
「社長か」
社長なら安心だ。
というかなんで愛理さんは社長という前に「安心してください」と言ったんだ?
まあ確かに安心したが……
俺に掛けるべき言葉を知っているというのか愛理さんは。
「樹さん社長が言いたいことあるみたいなので代わってください」
「ん?なんだ……」
愛理さんからスマホを手渡されて耳に持っていった。
「社長なんだ?」
『いや~1月1日までこっちに居ることって可能かな?』
「いや別に俺は良いんだが愛理さんが……というか雪上家がどうかによるんだが。ちなみになんでだ?」
『ゆき君と君の件と開発中のゲームに関して話してもらおうと思ったんだけど生憎事務所で使える日が1月1日しかなくてね』
「家だと無理なのか?」
『無理ってわけじゃないけどこっちでやってくれると何かと都合がいい』
確かに家で二人でやるよりも事務所のほうで指示を出しながらやってもらえるとスムーズにいくだろうし言葉に詰まっても助けてくれるだろう。
俺は勝手に決めるのは悪いだろうしかと言って今の段階で無理と決まっているわけでもないので雪上家の事情を聞くまで一旦保留にすることにした。
「いつまでに決めればいい?」
『いつでも大丈夫。その日はもう使うってことで決定させたんだけど別に無理なら無理いいよ。別にその日できなくてもこちらが損することはないし』
「了解。なるべく早く返事ができるようにする。愛理さんに代わろうか?」
『いや用件はこれだけだし。あ、でも一応ゆき君に用件がないか訊いてみてくれるかい?』
「愛理さん。社長に何か言いたいこととかあるか?ないなら切るが」
「え、ないので切っちゃってください」
「だそうだ。じゃあな」
『え、いやちょ―――――――」
社長が何か言う前に俺は切った。
「で、用件はなんでしたか?」
「一月一日までこっちに残ってほしいって」
「……明日父に確認します」
愛理さんが心底嫌そうな顔をしている。
父親と話すのがそんなにも嫌なのか?
俺は一方的に話を進めていかれるので嫌だが。
「うぅ行きたくない……」
「行きたくないってどこに?」
「あぁ樹さんは知りませんよね。分家が集まるんですよ。正月とお盆に」
ああ、愛理さんは父親と話すのが嫌なんじゃなくて分家が集まる正月が嫌なんだな。
うちはそういう集まりがないからな。
あえて言うなら夏休みに祖父の家に数人が遊びに来るだけだが。
「もう寝ます!」
愛理さんはそういうとすぐ風呂に入り支度をすると寝室へと行ってしまった。
俺も眠くなってきたので支度をして寝た。
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