第3話

 言っときますけど私は殺してませんから!

 ちょうど死にそうな彼らの元にお邪魔しているだけです。


 どうも私が感じていた悲しい気配の先には誰かの死が待っているようなのです。

 何故かは不明。



 魔導師はやっぱり魔法が使える、魔法は本当に存在したんだ!

 私がモンスターの死を度々発見する事でそんな風に言われたりもします。


 正直そう言われても困る、私は何もやってない。

 これが魔法だというなら、ちょっと思ってたのと違う。

 こんなの夢がないですよね。

 

 

 と私の気持ちは置いといて、周りには色んな人が近付いてきました。

 私が発見するモンスターの分け前を貰いたい人。

 魔導師の地位回復のキーマンとして私を祭り上げたい魔術界の先輩方。


 こんなにチヤホヤされるのは初めての経験です。

 別に私自身は大した事してないのに、あひあひ、うへへ。

 私は少しパニック状態でした。


 そんな私の盾となってくれたのがマリス。

 不安定で頼りない流されやすい私を守ってくれました。


 でもそれだけでは食べていけない私。

 そんな私のためにマリスは窓口にもなってくれました。

 私目当てで集まる人々を取り仕切り、死を嗅ぎ当てる力をお金に変えてくれました。


 私が悲しい気配を感じるとマリスは手を取り連れ出してくれました。

 片時も私の側を離れず一緒に野山を探索、これってデートと呼べますかね?


 そうして悲しい気配の元を突きとめると、人を手配して後の処理を全てやってくれる。

 私は何もかもマリスに任せていました。



「俺はあまり人に興味がなかったんだ。他人が何をしようが正直どうでもいい。でも……君の事は何だかほっとけない。気になっていつも目で追ってしまう。どうか……ずっと俺の目の届く場所で微笑んでいてくれないか」


 これは内緒、ここだけの話なんですけど、実は先日マリスに告白をされちゃったんです。

 マリスは格好いいし頼りになる。

 マリスのお陰で昔みたいに気配に怯える事もなくなっていた。

 感謝です。


 でも何となく私は答を保留しました。

 別に不満はないけれど、私の中には何か踏み切れない思いがありました。





 あの日も私達は森を探索していました。

 その日は悲しい気配ではなく怖い気配が強く森に立ち込めていました。


 悲しい気配の先には誰かの死、そして怖い気配の先にはどうも争いが待っているようなのです。

 怖い気配がするならなるべく近付かないように気を付けなければなりません。


 

 今日はもう帰ろうかしら、と思った矢先、怖い気配が消えました。

 代わって悲しい気配が辺りに漂う。


 争いが終わり敗者が死を迎えようとしている、そう感じ取れました。

 その事をマリスに話すと、彼はうんうんと頷きました。


「そう……じゃあ行こう」





 確かにその場所には敗者がいました。

 見知った顔、ゴウでした。


 ゴウは私に気付くと、あ、という顔をしました。


「アプル……そうか……お前が来たって事は俺は……死ぬんだな……」


 人を死神みたいに……。

 ゴウは最近の私の評判を知っていました。

 そして私も実はゴウがどんな活動をしているか知っていた。

 やっぱり気になってしまって調べちゃってたんです。


 まずまずの仕事ぶりだったみたいです。

 悪くはないけどそこまでパッとしない、まあまだ若いしこれからこれからって感じでしょうか。


 でもこれからはない。

 彼の命は尽きようとしていました。


「俺……後悔してたんだ……やっぱり俺にはお前しかいなかったんだって……俺は……お前の事……取り戻したかった……でもお前の活躍も聞いてたから……このままじゃ……お前に相応しい男とは言えないって……結果出さなきゃって……焦って……無茶して……この様だよ……バチが当たったんだな」


 打算的で卑怯な男。

 そう思いました。

 自分の都合で人を捨てといて、利用出来るとなるとまた戻ろうとする、最低な奴。


 そして馬鹿だとも。

 そんな意地張らなくても私は君を選んだのに。

 しょうもないプライドでこんな事になっちゃって……。


 目の前の瀕死の男は憐れで情けない、恥知らずだし未練がましく足掻いた挙げ句もうすぐ死ぬ、ざまぁ笑笑と思うんだけども……でもやっぱりゴウだ。

 こういうのは理屈じゃないんですね、私は今も彼が好きです。

 嫌だなあ、本当。


「お前が一緒にいたら……きっと……俺の無茶を……止めてくれたんだろうな……何で……こんな風に……なっちゃったんだろ……」


 ゴウは泣き出す、私は彼を抱き締めてあやしました。

 よしよし、いい子いい子。


 ゴウは私の腕の中で死にました。

 少しは安らかに逝く事が出来たのでしょうか?

 ちょっと分かりません。

 少し離れた場所でマリスが頭を掻きながら立っていました。





 あれからも悲しい気配、怖い気配はあらゆる所からします、でも正直近付きたくない。

 相変わらず私を求めて人々はやって来ますが、現在引きこもりを決め込む日々です。

 マリスも困っているみたいです。

 いい加減動き出さないと食べていけません。


 でも……今は……まだ……ちょっと……つらいなあ。

 私は元の臆病者に戻りました。

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龍と恋を殺す怖がり @tori-makefumi

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