第7話 原井廉也問題
同性か異性かという選択を迫られた時、同性のあたしを選んでくれた理沙。あたしはその理沙のことが一層愛おしくなっていた。同性愛など、異性愛に敵うはずがない。そう決めつけ、卑屈になっていたのは他でもないこのあたしなのだ。しかし、同性のあたしと異性の男との間で揺れた同性の恋人が、こうして同性のあたしの元に戻って来てくれるようなことが、現実にあるんだな。こんなこともあるのだと、昨日まで卑屈になっていたあたしに教えてやりたい。
だが、この理沙の浮気騒動はここで終わりではなかった。もう一つ、この事件に絡んでいた人物、原井廉也の問題はまだ解決していなかった。理沙にはその気がないことがわかったにせよ、あのホモフォビア丸出しの原井が理沙に近寄るとなどと考えただけでおぞましい。もし、理沙が原井にあたしと付き合っていることがバレたりでもすれば、あいつは理沙にどんな仕打ちをするのかわからなかった。しかも、原井の想いに応えるつもりのない理沙に逆恨みでもすれば尚更だ。
何か方策を考えなくてはならないと思っていたところ、一郎からあたしの携帯に電話が入った。
「なに、一郎。昨日の今日で、またあたしになんか用事?」
「土曜日なのにごめんなさい。今度、月曜日の放課後、僕、もう一回廉也に会いたいんです。」
あんなにいじめられて、昨日も殴られそうになっていた一郎が再び原井に会いに来る⁉ あたしはその一郎の行動の真意がわからず、ただ驚いて声を上げた。
「は? なんで! あんなやつともう関わることないって。わたしももう絶交するつもりだから」
「それが、そうも言っていられない事態が起きちゃって。とりあえず、月曜日の放課後、廉也を学校の目立たない場所に呼び出してほしいんです。校庭の隅とか、なんかいい場所ないですか? あ、できれば職員室に近い場所で!」
「まあ、いくらでもあるけど」
「じゃあ、その場所、これから案内してくれませんか? ちょっと下見をしたいんです」
「え? 今から? ちょっと、今日休みなんだけど。なんで、こんな日に学校行かなきゃいけないわけ?」
「すみません。今度、ジュースかなにか奢りますから。お願いします!」
「わかったよ。じゃあ、今から学校行くから。一時間後に校門の前で待ってて。」
なんだかわからないけど、あたしの力が必要らしい。理沙とのことで、一郎にも迷惑をかけてしまったしな。お返しに、今度はあたしが協力してやるか。
あたしと落ち合った一郎は、料理部員の一人、
というのも、あたしの高校のサッカー部と栄斗の高校のサッカー部は合同合宿や試合で顔を合わせる機会もあり、栄斗は原井と顔見知りなのだという。栄斗はバイであることを料理部以外の場所でオープンにしていない。料理部は一郎の高校では、その部員がゲイやレズビアンばかりであることが知られており(というのもオープンリーゲイの一郎の所属する部活に、そういう後輩たちが集まって来たというのが真相らしいが)、そんな部活に入っていることを知られる訳にはいかなかったからだ。
ところが、昨日の一郎と原井のトラブルで、暴力沙汰になりそうだった二人の間に割って入った栄斗は、料理部員であることがバレてしまった。原井は一郎や栄斗の高校の人間ではないので、料理部がどんな部活かは知らない。しかし、ゲイの一郎と周囲には秘密で仲良くしていることから、原井はすっかり栄斗がゲイであると決めつけ、そのことを栄斗の高校のサッカー部員にも言いふらそうとしているらしい。栄斗はゲイではなく、バイセクシュアルである訳なのだが、そんなことを原井に説明したところで聞く耳など持たないだろう。
そんな原井を止めるべく、一郎は一つの計画を立てた。まず、あたしが原井を呼び出す。理沙が原井に話があるらしいとでも言って釣るのだ。当然、原井は理沙の存在に釣られてほいほい呼び出した場所に来るだろう。そこで、栄斗、そして一郎と原井をぶつける。恐らく、そこで原井は侮蔑的なセリフを吐きながら、二人に危害を加えようとするだろう。そこを動画で隠し撮りし、二人をいじめる現場を証拠として押さえる。もし、これ以上原井が何かをやらかせば、その動画を警察や学校に提出することにする。そんなことになれば、原井は停学処分か、もしかすると退学処分を免れないだろう。したがって、原井も二度と一郎や栄斗に手出しできなくなるという算段だ。
「面白そう! それ、あたしも乗ったわ」
あたしは二つ返事で一郎に協力することにした。これを機に、原井が理沙があたしと付き合っていることをもし知ったとしても、うかつに危害を加えることなどできないだろう。それに、昨日のゲイを蔑んだ発言も許せない。少しはこれで懲りるだろうか。
あたしは一郎と一緒に計画を練り、原井を呼び出す場所を決めた。
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