第5話 弱気の虫
一郎が理沙に気がないことはわかった。それに、一郎があたしに協力してくれることも。だけど、あたしは不安でいっぱいだった。いくら一郎にその気がなくても、理沙があたしと付き合うより男と付き合いたいと言い出したらどうしよう。そうなったら、もう原井の好意から理沙を守ることなど、あたしにはできない。
あたしはずっと落ち着かなかった。そわそわして仕方がない。放課後、家に帰って一人で自室にいると、居ても立っても居られず、居間でテレビを見て気を紛らわせることにした。
だが、テレビを見ていても碌な番組をやっていない。まるで興味の持てないお笑い番組やバラエティー番組ばかり。こんなものを見て笑える気分にはちっともなれやしない。チャンネルを回していると、とあるテレビドラマが目に飛び込んで来た。
ドラマのタイトルはこうだった。『ゲイの僕が愛した
まぁ、ドラマの内容はあたしの思い描いた通りの展開だった。
ゲイである主人公の男子高校生が、とある出来事をきっかけに「付き合う」ことになる。男子高校生には秘かに愛し合う彼氏もいたにも関わらず。最初はその彼女とのキスにも抵抗のあった主人公。だが、なんやかんやあらゆる事件を共に潜り抜けていく内に、その彼女を本気で好きになっていることに気が付く。彼女と彼氏。二人の間で揺れ動く主人公。そんな主人公が最終的に選んだのは「彼女」だった。ハッピーエンド。
って、ハッピーエンドじゃねぇよ! なんだ、これ。「真実の愛」は異性愛の方にありましたってか? 無神経にも程があるだろ。こんなものに、世の女子たちはときめいているというのか。主演は今飛ぶ鳥を落とす勢いでスタジアムでライブを開催するような売れっ子イケメンアイドルだ。そんなイケメンアイドルは、女に興味がなかったにも関わらず、たった一人の女だけは特別だった、と。そんな特別になったたった一人の女に自己を投影して、ファンの女子たちはキャーキャー言ってるんだろうな。あぁ、忌々しい。
そんなものにキャーキャー言うんだったら、あたしがあんたらのハートを逆に鷲掴みにしてやる・・・ことはやっぱりできないんだろうな。同性であるあたしなど、異性を好きになる女心に入り込む余地などない。
しかも、このドラマのヒロインが
返す返す忌々しいドラマだ。主人公が理沙、ヒロインが一郎、そして主人公に振られる哀れな同性の恋人があたしだ。あたしは自分からドラマを見た癖に、自分で勝手にストレスを募らせ、自分で勝手に落ち込んでいた。あたしじゃ、男には勝てっこない。どうせ、「真実の愛」は異性愛にあるのだ。同性愛は異性愛には勝てない。どんなにあたしが「同性愛は異性愛の下位互換ではない」と頑張ったところで、そんなものあたし一人の力で覆すことの出来るものじゃないんだ。
あたしは滅法弱気になっていた。レズビアンとして生きることってしんどいな。今日ほどこの感覚を強く覚えたことはなかった。
理沙と話した一郎からどんな報告が来るのか、あたしは考えるととても憂鬱な気分になった。あまりいい返事を期待できる気がしない。翌日の学校でも、あたしはずっと落ち込んだ気分のまま、授業も上の空でぼうっと外を眺めて一日を過ごしていた。
ところが、放課後にその事件は起きたのだ。
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