第5話 1−5

「さて、ようやく最後の躯体の説明ですにゃ。この躯体ですが……。ですがにゃ……」

 そこまで言うとメフィールはなぜか言いよどんでしまいました。

 ベンジも気がついたようで、首をひねります。

 一体どうしたんでしょうね?

「どうしたの?」

「実はこの躯体、わからないことが多すぎましてにゃ……」

「わからないことが多すぎる?」

「その点に関しては私から説明します」

 二人の通信に割って入ったのは、工場の技術部門を担当するブーンでした。

 左の画面に現れた彼は咳払いを一つすると、目の前に表示窓を表示し、そこにある記述に目を通しながら説明し始めました。

「この躯体は、マアス社の計画プランにはない躯体です。少なくとも建造される前日までには計画案の中にはなかった躯体なんです」

 そうブーンが説明するのと同時に、左の画面が動き、最後のゴーレムちゃんを映し出しました。

 体中を包む鎧は全身黒で、頭のほとんどを覆う兜も黒で、頭頂部に二つ白い角がついていました。

 その姿は、人型の甲虫とも形容するにふさわしい姿です。

 その姿を確認したように躯体を見たブーンは、説明を続けます。

「この躯体は、従来型及び新型のゴーレムと比べて遥かに強力な魔導エンジンを二基搭載しています」

「二基も?」

「はい。全力稼働時の物理出力及び魔法などの火力は新型勇者専用ゴーレムちゃんや火力重点型勇者型ゴーレムちゃん、高位戦士型及び魔法使い型などの従来型ゴーレムちゃんなどを遥かに超える出力を持っております。ですが、欠点もありまして……」

「欠点?」

「魔導エンジンの出力が大きすぎて、大量の熱などを放出するため、あまり長い間の全力運転に躯体が耐えられないんです」

「躯体が?」

「ええ。全力運転での制限時間は三〜十五分程度で、それを超えるとエンジン及びボディが溶け出すことが、工場でのシミュレータで判明しています」

 そこまで聞くと、ベンジさんは眉間にシワを深めて、何事かを考える顔をしました。

 それからそのゴーレムちゃんの姿を見て、何かを言い当てるような声色で言葉を吐きました。

「これ、短期決戦用かな……。コンセプトとしては他のゴーレムなどの護衛を伴って敵の本拠地まで殴り込むタイプか、戦場で暴れまわって被害を大きくさせる時に使うのか……。そうじゃなきゃエンジンとかのテスト機だなこれ」

「そういう見方ですか……」

 ベンジの発案に、ブーンはなるほどとうなずきました。

 あら、ベンジさん。見ただけでそういう使いみちとかが思いつくものですね。

 さすがは「人形使いの大勇者」だけはあります。

「もし機体が破壊されても、ゴーレムちゃんの意識自体はクラウドマインドなどでバックアップされることを利用した、使い捨てコンセプト機に見えるな、この躯体は」

「潜入用や破壊工作用などの躯体にはそのようなコンセプトの躯体もありますが、なるほど、一種の自走爆弾として使うというわけですか……」

「なんでこんなものを何者かが建造したかはわからないけどね」

 そこまで見えていますか、ベンジさんは……。

 ベンジさんは一口飲み物を飲みました。

 そして、コップを再びテーブルに置くと、彼はこう尋ねました。

「以上が突然組み立てられたゴーレムちゃんだと」

「いえ、もう一つあります。ゴーレムではありませんが」

「ゴーレムの他にもあると?」

 ブーンの回答にベンジさんはまた眉をしかめました。

「実は、ゴーレムたちと同時にこんなものまで作られてたんすよ」

 ヒゲ男ドリンがそう言うと、さらに画面が動きました。

 ゴーレムたちが眠るメンテナンスベッドのさらに右に置かれていたのは。

 頭まで背もたれがあるような大きな椅子と、その周辺に置かれたゴーグル一体型ヘッドセットなどの装置一式でした。

「これは?」

「これはどうやら新型のゴーレム制御・指揮装置のようですわぁ。このゴーグルをかけて、指揮装置にアクセスすることにより、意識制御などにより単体のゴーレムなどをより精密に直接制御したり、今までより多数のゴーレムを指揮・管制などできるようになるみたいですわぁ」

 ドリンの説明に、ふんふんとうなずいていたベンジさんでしたが。

 何かに気がついたようで。

 突然目をジトッとさせると、ドリンとブーンに向かってゆっくりと告げました。

「で、これらを……。僕にテストしろと……。この誰が作ったものかわからないものを……」

「まあそういうことですわ」

 ドリンの直接的な回答にベンジさんは天を仰ぐと、また画面に向かいます。

「テストしてないのかこれ?」

「各騎計画時点でシミュレーションテストは行っています。最後の未確認騎以外は。ただ、現物を建造してテストしてみないとわからないことも多いので」

 ベンジさんの問いにブーンの声が飛んできました。

 彼の回答にベンジさんは下を向くと、ため息を吐きました。

「まあわかってはいるけどさぁ。僕ゴーレムちゃん好きだし。……というかこれどういうふうにテストすんの? マアス工場のテストフィールドでテスト?」

「その件に関してですが……。丁度いい案件が一つありまして」

「イゼーラ? なにさ」

「その案件が三つ目のお知らせとなります。……サンラ、クルス様の通信をオープンにして」

 今までベンジさんのそばで黙って立っていた領主代行ゴーレムちゃんのイゼーラが口を開くと、屋敷を制御するゴーレムちゃんのサンラにそう命令しました。

 一体どんな案件でしょうか? 気になりますね?

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