第4話 1−4
猫耳ゴーレムちゃんがそう応えると、左の画面がなめらかに動き、新型勇者専用勇者型ゴーレムちゃんの右側のメンテナンスベッドを映し出しました。
メンテナンスベッドで眠っているのは、勇者専用勇者型ゴーレムちゃんと同じような鎧でしたが、彼女よりかは簡略化されている、紺の鎧を着た黄色の髪のゴーレムちゃんでした。
「これは、さっきの量産型?」
「御明察ですにゃ。これは量産型勇者ゴーレムちゃん試作型ですにゃ。
バランス型に調整されておりまして、戦士、魔法使い、シーフ、僧侶など、冒険などに必要とされる職業をひとまとめにして躯体に組み込んだタイプのゴーレムちゃんですにゃ。
ベンジさまの勇者型ゴーレムちゃんの量産型という位置づけですにゃ。
能力的には人間の一般的な戦術〜作戦勇者と同じぐらいかやや上な程度とされますにゃ」
メフィールが説明し終えると、ベンジさんはしばらく量産型勇者ゴーレムちゃんを眺めていました。
量産型がこれか、というような面持ちで。
そして、メフィールの画面に視線を移し、問いを投げかけます。
「なんでこれが作られたんだ?」
「一つには一般的な戦術級の討伐任務や高価値攻略任務に投入するため。もう一つは先程ご紹介した勇者専用勇者型ゴーレムちゃんなど、高価値護衛対象の護衛用として計画・立案されましたにゃ。
もう一つには、従来型ゴーレムちゃんの機種統合もありますにゃっ」
「えーっ、わたし達お払い箱ですかっ!?」
「そういうわけでもないですが。アルカ。躯体が増えるほど、ドールズのやることは増えるのですよ」
「あー、ホッとしたっ。わたし達、まだお勤めできるのねっ」
「なんなら今すぐお暇をあげましょうか?」
「いえいいですマル様っ。魔王のような顔で怖いこと言わないでくださいっ!?」
「えー、こほんっ」
マルとアルカ、二人の言い合いを遮り、メフィールが説明を再開します。
「このマアス城の工廠で比較的以前から企画・設計が進んでおりまして、試作寸前の段階にあったのですが、突然何者かによって自動工作機械によって生産されたのですにゃ……。
以降説明する躯体たちでもほぼ同じですにゃ」
「もともとこいつは計画されていたものだってことか……。じゃあ、こいつが、というかここにある躯体がなぜ生産されたのかは……」
「いまだもって不明ですにゃ」
メフィールは首を横に振って応えました。
ベンジはもう一度じっと躯体が並ぶメンテナンスベッドを眺めたあと、
「続けてくれ」
とだけ言いました。
その声は、ゴーレムちゃんがどのような機体なのかには興味があるようですが、なぜ突如として作られたのかに関しては、どうでもいいという様子でした。
うーん、そういうことにも興味を持ったほうがいいじゃないでしょうかね? ベンジさん?
さて、メフィールはベンジの催促に、首を一つ縦に振って応えました。
と同時に、左の画面が右へと動きます。
画面は新たなゴーレムちゃんを映し出しました。
そのゴーレムちゃんは、耳部に長い板状の突起物をつけており、頭頂部近くにも二つの板状の突起物を装着していました。鎧は蒼系の色です。
耳の突起物からは透明なバイザーが顔の両目の部分を覆っていました。
彼女が眠っているメンテナンスベッドの隣には、彼女の身長ほどはある杖に似た機械が置かれていました。
メフィールは猫耳をピクピク動かすと、説明をはじめました。
「次に説明するのは新型の指揮型ゴーレムちゃんですにゃ。
従来型勇者型、あるいは指揮官型ゴーレムちゃんの指揮・妨害戦システムなどを改良し、より多くの範囲・数の有意識・無意識型含めたゴーレムや人間兵士などを指揮する他、妨害魔法などを広範囲に展開するために設計されたゴーレムちゃんですにゃ。
指揮型としての能力の他は、新型量産勇者型ゴーレムちゃんとほぼ同じ性能ですにゃ」
「ふむ……」
「この杖は……」
「はい、マル様。これはクラウドマインドサーバの魔導杖ですにゃ。この魔導杖で指揮下にあるゴーレムちゃんのクラウドマインドを司るんですにゃ」
「これでドールズを指揮するわけですか」
「はいですにゃ。この魔導杖と、設置型魔導計算機や、他の部隊などの各ゴーレムちゃんなどとネットワークを構成することにより、メインのクラウドマインドと通信できるようになっておりますにゃ」
「なるほど、城のクラウドマインド・アンなどにも対応しているわけですか」
「無論ですにゃ」
「これも計画にあったの?」
「はい、ベンジ様。マアス社の次世代型ゴーレムちゃん開発計画には初期段階から存在しておりまして、設計もすでに完了していたんですがにゃ……」
「が?」
「もともとはベンジさま向けではなかったんですにゃ。グライス王国軍や他の勇者向けなどに生産される予定だったんですにゃ」
「……」
それを聴いた途端、ベンジさんの眉間が険しくなりました。
なにか、気になることがありそうです。
それに気がついたのか、メフィールが声を掛けます。
「ベンジ様、どうなされましたにゃ? 気になることでもありますかにゃ?」
「……まあちょっとね。でも今はいいよ」
「いいんですかにゃ?」
「ああ。いいよ。今は躯体のことだ。続けてくれ」
「じゃあ、続けますにゃー。サンラ、カメラを動かすにゃ」
その言葉とともに左側の画面がまた動き出しました。
そして、次のメンテナンスベッドの前で止まります。
映し出されたゴーレムちゃんは、カラス色の短い髪に、黒を基調とした長袖の服、長ズボンを着ていました。
その服やズボンにはポケットなどが多く縫い込まれ、機能的に見えます。
「これは……」
「単独でのダンジョンでの行動、あるいは敵地への侵入・隠密・暗殺行動などに特化して設計された勇者型ゴーレムちゃんですにゃ」
メフィールが何かを見ると、そのゴーレムちゃんの姿が拡大されます。
その少女の躯体は狐のようにも、蛇のようにも見えました。
「新型の勇者型ゴーレムちゃんに高レベルシーフ型ゴーレムちゃんや忍者、アサシンなどのクラス機能などをプラスして設計された駆体ですにゃ。
見た目からはわかりにくいですが、ナイフなどの武器・フックワイヤーなどの道具を内蔵式にしているなどの特徴を持っておりますにゃ。
これもマアス社にプランはあり、ベンジ様用ではなく軍事用の駆体として設計が進められ、設計は完成していましたにゃ」
「で、突然組み立てられたと……」
「はいですにゃ」
そこまで言葉をかわすと、ベンジさんはまた黙り込んで目を細めて口を固く結びました。
「ベンジ様っ、何考えてるんでしょうかねっ」
「どうせろくなことでもないですが。このゴーレムちゃんで女子風呂を覗くとか考えててもいるのでしょうが」
「そんなことないですよっ、マル様っ。ベンジ様は性欲ない人ですから。ちんちん立たないひとですから」
「……なにげにひどいことを言っている気もしますが」
そんなマルとアルカの会話をよそに、ベンジは考え込んでいましたが、やがて、
「続けて」
一言だけ、そう言いました。
ベンジさん、何を考えているのでしょうね。
ゴーレムちゃん好きな彼のことですから、そのことなんでしょうけれども。
そうこうしているうちに、画面は移り変わり、新たなゴーレムちゃんを映し出していました。
そのゴーレムちゃんは顔は美少女ゴーレムちゃんですが、鎧をつけた体が大きく、背中にある大きなリュックサックのようなものから腕のようなものが伸び、足の膝部分は極度に太く、そこからも腕が生えています。
「これは魔法火力重点型のゴーレムちゃんですにゃ。魔法火力に特化して設計されましたにゃ。
本体の手のひらや、背中や膝から生えている腕の手のひらなどに魔法を発動するための焦点具などを全身に内蔵し、それらから一斉に魔法を投射することが可能ですにゃ。
また、背中のデバイスに主に呪文を格納する魔導計算機を内蔵しておりまして、勇者や他のゴーレムちゃんなどが呪文を呼び出して使うことができますにゃ。
この工場で設計されて試作寸前までいっていたのですが、魔力消費が激しいという問題があり一時凍結されていたのですがにゃ……」
「高火力型というよりは、呪文をより多く使うためのタンクという感じだね。呪文を選んで使えば、持久戦などに役立ちそうだよね」
「流石ですにゃベンジ様っ。もともとは移動する呪文図書館や魔力タンクというコンセプトで作られておりましたが、再設計で戦闘能力の付加がなされて現在の形になったのですにゃ」
「……何者かがこれを選んだということは、何かの意図がありそうだね。他の躯体もそうだけど」
「そうですにゃ。さて、次に移ってもよろしいですかにゃ、ベンジ様?」
「いいよ」
その言葉とともに画面が動き、新たにメンテナンスベッドの上で眠るゴーレムちゃんの躯体が現れました。
そのゴーレムちゃんは本体そのものは新型量産型勇者型ゴーレムちゃんに似ていますが、鎧が角ばっていて、古めかしいロボッタ《ロボット》のようにも見えます。
彼女の背中からは、いくつかのアームが伸び、その先端に大きな板状の箱がいくつか接続されていました。
ベンジさんが彼女の姿をじっくり見回したのを確認したのを待ったメフィールが、説明し始めます。
「これは従来型ゴーレムとほぼ同じ躯体ですが、背中のデバイスに最適化された躯体ですにゃ」
「その背中にあるのって……」
「武器収納デバイスですにゃ。分離して自律移動し、他のゴーレムちゃんなどに武器を補給するなどができますにゃ。
このデバイスはシールドや魔法発動具などとしての機能も持っていて、独立しての自律攻撃なども行えますにゃ。
先程の火力重点型ゴーレムちゃんの背部デバイスもそうですが、この背部デバイスも分離可能で、他のゴーレムちゃんに装備・運用させることができますにゃ」
「どうやらこの躯体は本体が重要じゃなくて、デバイスのほうが重要みたいだね。選んだ何者かはそう言っているように見えるよ」
ベンジさんがうんうん、と何度かうなずくと、
「このゴーレムちゃんはあくまでも量産試作型ですからにゃ。
ただ造った何者かはこのデバイスの試験をしてみたかったみたいですにゃ……」
猫耳ゴーレムちゃんも推理するような顔で応えました。
まるで名探偵のようですね。
その推理、果たして合っているのでいるのでしょうかね……?
ベンジさんがメフィールの説明を受けている一方。
マルとアルカはお菓子を食べながら、その様子を見ていました。
「えー新型量産型ー? わたしお払い箱ですかっ?」
「アルカ。ギャグの繰り返しは三度までですが。これは今ので二回目ですが」
「……魔王のような怖い顔でカウントしないでくださいっ」
「……二回目。まあ、新型がいくら出てきても、旧型には旧型の使いみちがあるのが、ドールであり道具なのですが」
「本当ですかっ?」
「本当……、でしょうかね?」
「やっぱり魔王のような怖い顔で言わないでくださいっ!?」
「……アルカ、三度目」
「……あ。しまったーっ!? そっちーっ!?」
「罰としてあとで地下訓練迷宮で特訓です」
「……ぐすん」
アルカちゃん、結構うかつですね。
さっきドラゴンと戦っていたときにはしっかり仕事をしていたのですが。
二人の漫才はさておき。
メフィールは、咳払いを一つすると、ベンジに向かって言いました。
「さて、ようやく最後の躯体の説明ですにゃ。この躯体ですが……」
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