第6話「推参?花のもののふ」

『起きなさい、とりあえずは大丈夫だと思うから』


 さっき私たちを助けてくれた声がそう囁く。


起きたいのだけど体が動かない。


トーピードーの毒がまだ回っているらしい。


「悪いんだけど、毒にやられて動けないの』


「目も霞んで見えなくなり始めているみたい』


 話をしている声の主も見えないほどに侵食されている、このままだと死ぬかも。


『さっきの蟲せいね。毒を持ってるし、葉を食い散らかすし本当に嫌な生き物だわ』


『でもやられてばかりだと思ったら大間違いだわ、解毒ぐらい朝飯前よ』


 瀕死の私を前にして、声の主は楽しそうに話す。


蟲とか解毒とかは聞こえたけど、もう耳も音を正しく聞き取れていない。


私助かるのかなぁ・・・。


せめて毒を全部こっちに引き受けてショットを切り離してあげたい。


『あ!貴女のことそっちのけで私ったら。ほら飲みなさい楽になるわよ』


 口の中に指を突っ込まれて、何かが喉を通っていった。


次第に体が楽になってきたのでどうやら解毒剤のようだ。


今のうちにショットを・・・


「うう・・・成功」


『シトラス!?。毒を全部自分の体に持ったまま切り離したの?死んじゃうよ』


「!!ぁぁぁ!!さっきよりも、痛い」


 さっきからショットが話さなかったのは私よりも毒を自分の方に持ってきてたからだったんだ。


モンスターの体よりも人間の体の方がこの毒に弱いんだ。


解毒も追いついてないみたい。


もう目も見えなくなったし、さっきとは段違いだ。


『そこの鳥、この娘は一体?』


『この娘はシトラス、モンスターと融合できる女の子だよ』


『モンスターとね、私とも融合できるのかしら?』


『どうして?』


『私なら根を張って、大地に毒を流すことができるわ』


「やってみよう・・・、あなたの・・・、名前は?」


 わずかにしか動かない口で呟く。


名前を聞いておけば姿の見えない相手とも融合しやすいだろう。


『ピーピスよ』


 私の手に触れた手を握り交わることだけを考える。


痛みが消えてくれればもうこの際何でもよし。


花が咲くようなイメージを見て私とピーピスは融合した。


『成功みたいね、根を張るわ」


 足がいくつも枝分かれして地面に突き刺さっていく。


それと同時に気持ちよく入浴したような爽快感とともに毒気が抜けていく。


大地に感謝した。


「ふぅ〜、今度こそ楽になった』


 目も見えるようになったので、自分の体を調べる。


足は木の様になり地面にしっかりと根を張っているので動けない。


髪は新芽の様に綺麗な緑色で肌は人の肌に所々木の肌が混じっている。


「あなたってジャングルナーブ?』


『あら?よくわかったわね。そうよ」


 ブラッチの大地にジャングルナーブがいなかったらここまでの自然はなかった


とまで言われるほどに凄い種族らしい。


森に住んでいるとは聞いてたけど。


話の中でしか聞いたことないスカイアローやジャングルナーブと融合してる私って結構凄いかも?


『シトラスといったかしら、毒気を完全に出すために当分融合したままのほうがいいわ」


「すぐにでもルドたちと合流したいんだけどな』


『なら私も連れて行きなさい、丁度貴女に興味があるの」


 私に興味がねえ、まあいいか。


「よろしくね、ピーピス』


「仲睦まじいのはいいことだけど、貴女は私の金の卵になるの」


『出た、蟲娘』


「いい響きね」


 さっきから「貴女に興味がある」とか、「私の金の卵」だの。


ほんとモテモテね私。


女の子になってから言われても、あんまり嬉しくないわ。


で、さっきの蟲っ娘かぁ、もう痛いの嫌なんだけど?


「貴女に構ってる暇はないんだけれど?』


「貴女じゃなくて、私の名前はカンザシ、そう呼んでシトラス」


『もっと違う形で会いたかったわカンザシ。それじゃあさよならといきたいんだけど?』


「ダーメ!」


 あーあ。今日一番の笑顔じゃないのよぉ〜。


しかもまた蟲放ってるし。


『シトラス、根は簡単に抜ける、あとは大地が手を貸してくれるわ」


「わかった、大地のお導きのままに!』


 スポンと抜けた根は足の形に変わり、左手には緑色の刀が生えた。


これがジャングルナーブの力、何ていうか凄いミラクル。


そのまま一閃、あっという間に蟲たちは一刀両断、これは痛快ね。


「さっきの毒の礼よ、お代は要らないからとっときなさい』


 とりあえず私に向かってきていた蟲は全部斬った。


でもカンザシはすぐに蟲を全方向から差し向けてきた。


「全方向からのオールレンジでどう?」


 私が慌てると、木の葉が舞い、幾つもの刃となって蟲を撃ち落とす。


森が私の味方になってくれているみたいだ。


「これ凄い』


『ふふ、当然でしょ!」


 手持ちの蟲を全部使い切ったのかカンザシは唖然としている。


「友達0になったのなんて始めて・・・」


「お終いね』


 小さな体を利用してカンザシが私の近くに接近してきた。


攻撃してくるかと思いガードすると・・・


「ッチュ!」


 唇を奪われた。


しかもこれファ、ファーストキス・・・


「売るのやめた、いつかシトラスを私のモノにするから待ってて」


「じゃあバイバイ」


 そのままカンザシは走って去っていった、ていうか・・・


「な、な、なにすんじゃー!!こらー!!』


『変な娘ね」


 殺しにかかってきて売ろうだとか何だとか言って・・・


私をモノにするだと!?訳わかんないわ。

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