第5話「毒蟲と癒しの花」


「死んでる」


『ああ、しかもそこらじゅうに転がってるぜ』


 森の中を進むことにした私たちは茂みの中で様々な生物の死骸を見つけた。


爪や牙などでつけられた傷が見当たらないが全員苦しんで死んだことが見て分かる。


「ルクス、この辺にこんなことをするヤツっているの?」


『俺は知らないな。この辺はオークの縄張りだが俺たちは力があるからこんなことはしない』


「そっか。別に食べるわけでもないのに殺したのかな?」


『集団で襲われたのかもしれん』


「でもみんな種族が違う」


 果物に擬態して脅かす【サプルーツ】


森の植物を育てて食べる【グリーダー】


外敵と定めたものからは一目散で逃げる【エイッシュ】


硬い毛で身を守ってる【カラット】


どれも特徴が違うし、大半は大人しいモンスターばかり。


『これ、毒だな』


「ルド分かるの?」


『少し血管を触らせてもらった。スライムは体のあらゆるところに入り込めるからな間違いないぜ』


『それも強力なやつだ、これはたまらねえな』


 体をギザギザと小刻みに震わせてどれぐらいの刺激なのかをルドがアピールしている。


見ただけだが尋常じゃないのはわかる。


だってすごい早さで震えてるもんね。


「・・・早く行こうか、嫌な予感がするんだ」


 これは村に誰もいなかったあの夜と同じような感じがする、


もしかしたらあのテックみたいなのがいるのかもしれない。


無法地帯のブラッチでも大量死は珍しい。


外から見放されていることもあって案外この土地は平和だ。


食べるために必要な数しか獲物を取らないし、共存している種族も多い。


それに新鮮な死体を放置しているのもおかしいし。


『みんな!なんかくるよ』


 ショットが叫んで警戒を始める。


耳に届くのはブブブブという小刻みな羽音、これは虫系のモンスターか。


「ショット私と融合して!ルクスはルド抱えて走って、あとで見つけるから」


『どうした急に?』


「強い毒を持った虫系のモンスターがいるって聞いたことがある。ここに倒れてるモンスターみたいにみんなやられるかもしれないから逃げるの』


 突然、私が囮をすると言い出したのでルクスたちは戸惑っていた。


「早く行って!』


『ショットが一緒なら逃げ切ることは容易だろう、ルクスの兄貴早く行こうぜ』


『わかった』


『あとシトラス、ついでにショット』


「何?』


『負けるなよ!』


『ついでってなんだ、ついでって」


「まあまあ、仲が良いってことにしとこう』


 さて、羽音の主さんがやってきたみたいだ。


「ハーピー?こんなところに?」


「女の子?』


 目の前に対峙したのは女の子だった。


私よりも幼いかも知れない背格好、焼けた肌にピンク色の髪。


可愛らしい見た目をしているが後ろに虫の群体を連れていて、違和感がある。


「いいでしょ私の友達、グレイニードルって種族なんだ」


「(見たことないなぁ?)』


 グレイニードルなんて知らないし見たことない.


やっぱり違う地域のモンスターか。


「狩りが上手なんだ、毒で苦しませて殺すの」


「この辺の死体みたいに?』


「そう、あなたも仲間入り」


 そう聞いてすぐに私は空へと飛び上がる。


すぐにこうすればよかった。知らないモンスターへの興味で長居しすぎたみたいだ。


「元気な獲物で嬉しいってこの子たちが言ってるよー」


「嬉しくない!』


 なんでモンスターマスターって殺しとかが好きなんだよ、最悪な職業だな。


たぶん偏見だけど。


 こいつらの速度なら私たちには追いつけない、このまま逃げ切ってやる。


しかし上昇を続けようとするシトラスに対して少女は投擲のフォームをとっていた。


「行け!トーピードー」


 少女は球状の何かをシトラスに向かって投げる。


投げられたそれは空中で球の形を崩し細長い虫の姿をとりシトラスの足に絡みついた。


『うわ、なんかくっついた」


「あれ?体動かない』


 トーピードーと呼ばれた虫はシトラスの足に噛み付き毒を流し込んでいた。


グレイニードルの苦痛を伴い死んでいく毒とは違いトーピードーの毒は麻痺毒、


だからすぐに逃げるエイッシュも殺せたのだ。

 

シトラスは空から地面に落下していく中、それを理解した。


「テックはダメな人、自分の趣味を優先して目的を忘れる」


「うわ、やっぱ仲間じゃん』


「うるさい・・・とりあえず悲鳴を聞かせて、ハーピーって歌が上手なんでしょ?」


 グレイニードルが飛来し5回ほど刺していき、直後体中に激痛が走った。


「ああああああああ!』


ルドが再現した痛みの倍はあるよ、これ。


「痛い、痛い、焼けそう』


「足りなさそう、もう5回くらい刺して」


「』


 可愛い顔してやることえげつない。


「・・・もう5回」


「ひぃやァァァっァ!!」


 どうやら彼女も楽しみだしたようだ。


もう全身が焼ける感覚しかないし、しゃべれない。


痛みを全部こっちが引き受けてショットが死なないようにするので精一杯。


マズイな。


「15回くらい刺してるけど、これマニアに売ったらいいお金になるかな」


「解毒して少しいじったら、いい商品かもね」


「うーん」


 私今にも死にそうなのにこいつ何言ってんだろ、売っぱらうって?ふざけんなよ。


しゃべれないからって、いい気になるなよ。


体さえ動けば、体さえ動けばなぁ・・・


『・・・そろそろ無益な殺生はやめてほしいわ』


 木の葉がシトラスを包み、少女との間に壁が隆起した。


木の葉が落ちる頃には、シトラスの姿は消えていた。


まさに一瞬の出来事である。


「消えちゃった・・・でも逃がさない、私のお金の為に」

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