第4話「オークの男道」

 村を出て空へと旅立ってから早3時間。


シトラスの心には暗雲が立ち込めているらしく


ときどき唸ったと思ったら拳を握り始めるなど何かをとても我慢しているような仕草をしている。


「殺す、殺す・・・」


『怖い・・・』


 今も繰り返し「殺す」とつぶやいている、昨日までは可愛らしい少女だったのに今ではすっかり殺人鬼のような表情が張り付いている。


あのゴーレム使いのことは許せないが、それにしたってずっとこのままだとシトラスが病気になる。


早くなんとかしないとな。


『おい、シトラス』


「何?。ルド」


『そろそろショットも疲れてきたから休もうぜ?』


「・・・うん」


 ショットがホッとしたような表情をしたのを見て、無理させてたのが分かった。


「ショット、ルドごめん」


『少しは落ち着けよな、そのうち死ぬぞ?』


『シトラス死んじゃうの?』


「死なないよ」


『そっかぁ良かった』


『たとえ話だよ』


 ショットのやつはかなりのアホのようだ、ピュアっていうんだっけかこういうの。


とにかくシトラスを落ちかせよう。


無理に何かをしようとすると決まって良くないことになる。


「なんでテックは私の村を襲ったんだろうね?」


 私たちが降りたのは緩やかに流れる川の近くでゆっくりと休むことができる広さがあった。


そこで寝転んで気持ちを落ち着かせることができ、昨日のことを思い出し始めた。


『頭のおかしいやつだったんじゃねえの?』


「でもあの時さ、仕事ってあいつ言ったよ?」


 「一昨日には俺の仕事は終わっていたのに」とゴーレム使いのテックは言っていた、


村人を殺すという仕事を命令した奴がいるんだ。


なんの為かは知らない、というか知りたくないかも。


『深い意味はないのかもな、手当たり次第に殺してこいとかそんなのだったんじゃないか?』


「うーん」


 深い意味はない・・・そうかも知れないなぁ、この辺は国が無い地域『ブラッチ』


定まった法も無く、犯罪者は追放するのが基本で殺しはしない。


「恨まれて復讐されても仕方ないよねぇ」


『ブラッチではそういうのが普通だが、他の地域はどうなのかね?』


「いずれどっか違う地域に行きそうだね、テックに命令したやつも探さないといけないし」


『もっと遠くに行けるんだ!』


「まだ先の話だけどね」


 先のことなんてさっきまでは考えられなかった、ルドとショットのおかげで気持ちもすっかり楽になった。


「2人ともありがとう」


『あ』


「あ」


 ふと川の向こうを見ると、緑の肌をした大男と目があった、たぶんオークだ。


あんまり生態が分かってないモンスターって聞くけど実際はどうなんだろう?


「初めまして、私シトラスっていいます、あなたの名前は?」


『名前か?俺はルクス』


 逃げることなど考えず、真っ先に名前を尋ねていた。


ショットとルドは慌てているみたいだけどどうしたのだろう?


「どうしたの?」


『え?お前オークのこと知らないのか?』


「知らないよ」


『人を襲う種族だぞ、お前がひどいことになっても知らないからな』


 そんなに危険なのか・・・あ、川渡って来た。


ルクスは私の目の前に立って私を見ている、私もルクスから目を離さないようにした。


『あんた、逃げないのか?』


「なんで?私はオークというものを知らない、あなたのことをよく知らないの」


『俺はモンスターだぞ』


「私の仲間だってモンスターだよ」


 ルドとショットを指差して言った。


大きくて肌の色が違うだけの男よりもスライムやスカイアローの方が怖いと思うけどな。


指をさしたほうにいる2人はびっくりしていた。


なんで驚いてんだろう?


『そうか、安心してくれ俺は人を襲わない』


「他のオークは?」


『襲うな、俺はそれが嫌で一人で暮らしている』


 なるほど、それで2人とも慌ててたんだ、私を思ってのことだったんだね。


「ルドもショットも心配してくれてありがとう」


『当たり前じゃ、普通オークとにらみ合いする人間なんていねーよ』


『すっごい心配したよ』


「そうかな?」


『あんたが特別なんだろう』


「シトラスでいいよ」


『ありがとう、俺のこともルクスでいい』


『ところでシトラスたちはなぜこんなところに?』


 とりあえず私がルドに会ってからのことを大まかに話した、もちろん昨日のことも。


それを聞いたルクスは、さっきの私みたいな顔をしだした。


「どうしたの?」


『15歳でそんな辛いことがあってその復讐か』


「私がやらないとみんな安心しなさそうだし」


『しかもモンスターと融合できる特殊な体質ときてる、なんて重い人生だ』


「ルドもショットもいて助けてくれるし、大して辛くないよ」


 3日前までの私は何をするにも無気力な女の子だった。


でもルドと融合して、ショットと融合して・・・。


テックに村のみんなを殺されて今日はルクスに出会った、人生は動いてみないと始まらないんだ。


「私は、自分に正直に生きたい!だから邪魔立ては許さないつもりだよ」


『そうか、正直に・・・』


「ルクスも一緒に行く?」


『『マジで?!』』


「あれ2人とも嫌?」


『いや別にそうじゃないけどさ・・・』


『気持ちはありがたいが俺はいい、それじゃあ気を付けてな』


「あ・・・」


 ルクスは静かに去っていった、背中に寂しさを連れて歩いているようにも見えたが。


「どうしてルクスを怖がるの?」


『いや別に・・・』


「見かけで判断しないほうがいいよ、ちょっとの時間しかいなかったけどルクスはいいやつだ」


「初めから疑ってたりして信頼なんて生まれるわけない、それじゃ人間と一緒だよ」


『ごめん・・・』


「それは私じゃなくてルクスに言お」


 少しだけ怒った、ルクスは何も悪いことなんてしてないのにルドもショットも見た目で判断して。


怖いのも私の為なのも分かるけど、でもそれが嫌だったんだ。


待っててねルクス。



『・・・俺の家が灰になってやがる』


 スカイアローとスライムを連れた少女シトラスに会って、旅に誘われた。


楽しそうではあるが、スライムたちの反応を見たらその気持ちも沈んだ。


オークは怖いもんな。


何もかも奪っちまうのが普通だ、俺はそんなやり方が嫌で村を抜けた。


 だから俺がお前と一緒に行くと他の2人が心配しちまうから駄目なんだシトラス。


とか思いながら家に帰ったら俺の家が燃えて灰になっていた。


『なんで燃えてんだよ』


『俺たちの仕業さ』


 振り返ると、4人のオークがいた、村で見た顔だな。


『嫌がらせにしては悪質だな』


『へへへ』


 深い意味は無いみたいだがそれもそうか。


だってオークだもんなお前ら、


やりたいことはなんでもやって本能のままに生きるのが俺たちオークだもんな


『ふん』


 一番近くにいたやつを殴った、家燃やされたんだ、これぐらいしねえと。


『1体4ってことを忘れなさんな』


『!?』


 3人がかりで押さえつけられてしまった、これは流石さすがに分が悪いか。


『オラ』


『うっ』


『まだまだ行くぜ!』


 1発、また1発と殴られていく、タフで有名なオークといえどもこれはキツイな、


ああ、流石に死んじまうかもな・・・


『そろそろ死ねや!』


『!』


 なんで次のパンチが来ない?


「痛いじゃんあんたらのパンチ、おかげで顔がグニャグニャだよ』


『なんだお前?顔が!』


 ルクスを追いかけてきたら、他のオークに攻撃されてるルクスを見つけてすぐにルドと融合した。


そのまま行っても良かったんだけど、確かに生身で行って殴られたら骨とか折れちゃいそうだもんね。


それにしても・・・


「4対1か卑怯だね、ルクスがなんかしたの?』


『俺たちオークはやりたいことはなんでもやるのさ、そこに理由なんて無えし、深い意味も無え!』


『『『そうだ!』』』


「うるせぇ!』


『『『『!!!』』』』


『シトラス・・・』


「ごめんねルクス、ルドとショットのことは許してあげて、でも私はルクスがいい人だってのはわかるから』


「ルド、融合解除』


『分かった、ところでルクスよ』


『なんだ?』


『さっきはすまないな』


『気にしてないさ』


『シンプルなやつだな!あんた』


「ルクス!あなたの力私に貸して!」


『いいぜ!』


 力強さと荒々しさを感じ、そして曲がらない一筋の道が見えた。


「おお!強そうじゃねえか!』


『男勝りな感じになってるな』


 背はルクスと同じくらいで、髪の毛は深緑、肌は薄緑といったところで、ガッシリとした筋肉が力強い。


『めんこいのぉ』


「そうか、でもな可愛いだけじゃねえんだぜ』


 一人を殴って地面に沈めた、力加減が分かんねえや。


『ヒィィィィィ』


「やりたいことをやるのはいいが、他人に迷惑をかけんじゃねえ』


「そんなことも分かんねえで今日まで生きてきたのか?』


「大体よ、深い意味が無えってなんだよ、教えてくれよ!』


『おい、シトラス』


「なんだよルド?』


『もう全部やられてる』


 深い意味のことを聞いたあたりで、手当たり次第に残りのオークを殴って気絶させていたらしい、


怖ええなこの状態、ショットと融合したときと同じぐらい危ないかもな。


「ルクス、融合解除するよ』


『おう』


「ふう、これでよしと」


『ところでルクスよ、お前の家燃えたんだろ』


『ああ、宿無しになっちまった』


「じゃあ私たちと一緒に行こうよ」


『・・・そうだな、頼む』


「頼まなくっていいんだよ」


 へへと笑って見せる、今日初めて心から笑ったような気がした。


 

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