第3話「激突?私たちVSモンスター使い」

 とりあえず昨日新たに分かった私のことについて、


私と融合したモンスターは骨が折れていようが勝手に治るらしい、


融合を解除した後のショットがそうだったからだ。


その代わり私がとっても疲れた、原因は水の運びすぎではないと思う。


まだまだいろんなことが出来そうな私の体だけど、どうしてこうなったのか?


多分それはあいつのせいなのだろう、


キノットのやつ今はどこにいるのだろうか・・・


「今日はずっと寝ることにしたから」


 一昨日は村に出たゴーレム退治、昨日は森でドラゴンを撃退。


か弱い少女が経験しないような戦いをしていた私の体はもう限界だ、


ものすごく動きたくない。


『好きにすればいい、俺は水だけで生きていける』


 ルドは少しだけボトルの動いて返事をした、スライムは楽だな。


『僕も森に勝手に行くから好きにしていいよ』


 昨日から家の屋根に巣を作っているショットも了承してくれた。


森を見守るよりも私たちといるほうが楽しいので、ここに巣を作っている最中だ。


モンスターって自由でいいね、私も融合したらモンスターだけど。


 それじゃあまた寝よう、寝る子は育つ、いつか私も美しいって言われてみたい・・・


『ねえ、ルド?』


『なんだショット?』


『人の気配がしないんだけど』


『みんな出払ってるだけだろ、気にすんな』


『そうかな』


 この世界ではモンスターと共存している者もいるが、基本的に狩る狩られるの連鎖だ。


そのため気配を察知するのが得意なモンスターは少なくない。


ショットの言ったとおり、確かに村にはシトラス以外の人間の気配は無かったのだった。


 荒々しく、獰猛で、機械的、木漏れ日のように静かで、図書館にいるよう。


なんか色々と混ざって気持ち悪い夢、一体これは何の夢?


野獣らしさも感じるし、人間らしさも感じる、とても恐ろしい。


私らしさも感じるし、他の誰かの気持ちも感じる。


「流石に無理、寝てらんない!」


 悪夢のようで少し違うものを見た、体は汗で蒸れている、


息づかいも少し荒いようだ。


「なんなのさぁ・・・いったい」


『どうした?急に起きて』


「言い表せないくらい変な夢を見た」


『そうか、そういうのはあんまり深く考えないほうがいい、そのほうが楽だ』


「うん・・・」


 そうだ、さっさと忘れよう、深追いは何事も良くない、


早く気持ち悪い汗を拭いてすっきりしよう。


「?、ショット」


『なーに?』


「他の家の明かりついてる?」


『ついてない、一つも』


 あたりはすっかり暗く、明かりの一つでもついていないとおかしい時間だ。


なのに一つもついていない?この村に空家は無いよ。


なにかがおかしい。


「もしかしてまた変なことが起きてる?」


『ほらルド、やっぱり人がいないじゃん』


『マジかよ・・・』


「ルドも寝てたんだね」


『スライムだって眠るさ』


 汗を拭いて、服を着替えて外に出た、村はとても静かで虫の声がよく聞こえる。


ただしそれ以外の音はあまり聞こえない、生活感のある音は全く聞こえてこない。


「ショット近くになんかいる?」


『ちょっとまって、探してくるから』


「ルド、行くよ」


『おい、もっとボトルを優しく持てないのかよ?!』


 ショットは空から、私とルドは村中を探した、しかし誰もいない。


一体いつから・・・


『そういえば昨日水運びしてたとき、村に人は居たか?』


「うん、聞こえた、子どもたちの遊ぶ声や、おばさんたちのおしゃべり、村長の寝言も聞こえた」


 昨日までの声はどこに行った?どうして消えた?


「それはきっと俺のせいだな」


「誰ですかあなた?」


 家の影から男が一人出てきた、ローブを纏った小奇麗な青年で、腰には大きな彫刻刀が3本下げてある。


「俺?俺はねテックって言うんだ、こう見えてもなかなかやるんだぜ」


『何をだよ?芸術家みたいな兄ちゃん』


 テックと名乗った青年は、ルドのツッコミに対してそりゃそうだと言わんばかりに説明を始めた。


「俺はアーティストなんだ、この彫刻刀も俺の仕事道具でね」


 彫刻刀を見せびらかしたあと、テックは言葉を紡ぎ始めた、昔聞いたものに似ている言語・・・


「あんた魔術が」


「聞いたことあるのかい、そう!俺は魔術師でアーティスト、専門はこれ!」


 意気揚揚いきようようと話すテックが地面を踏みしめると土が盛り上がってゴーレムが現れた。


一昨日のゴーレムもコイツの仕業か。


「一昨日も仕掛けてきたね、お兄さん?」


「そう!あれは俺の仕業さ、変なスライムが邪魔しなければ一昨日にはもう俺の仕事は終わっていたのに」


 正直なやつだ、自分のやったことに対して素直にイエスと答えられる、


だがしかし、それがどうした!


「ルド!」


『おう!』


 私がルドと融合したのはテックのゴーレムが出たすぐ後のことだった。


とにかく目の前のゴーレムを倒して、術者を倒す!


今はそれしか頭にない。


「なんだ、モンスターと融合しやがった?」


「そこだ!」


 一昨日倒したゴーレムと変わらない。


ならば倒すのも容易だ、体の隙間に潜って文字を消してやる。


スルンと潜ったあとは、また文字のある場所に向かって進む、


同じ場所に文字が刻んであったのでまたeの文字だけ消して崩した。


このテックって奴、工夫ってものがないのだろうか?


「やっぱ量産するのに刀に記録したのだと、文字の位置も隙間の位置も同じか、そりゃ崩れるわ」


『じゃあなんで、同じやつをけしかけた?』


「モンスターと融合したのは驚いたが、別に問題じゃない、けしかけた理由はな」


「時間稼ぎかな?3分もありゃ良かった、俺がお前らの前に現れてから今までで約3分たったぜ」


 ゴーレムがやられてもテックは焦りを感じていない、むしろこれぐらいは当然といった顔だ。


さっきとは違う彫刻刀を地面に刺して、また新しいゴーレムを呼んだ。


石ではなくもっと生々しい姿の・・・


『てめぇ、フレッシュゴーレムだと?村人を殺しやがったな』


「フレッシュゴーレム?」


「よく知ってるな、そう!フレッシュゴーレムの素材は人間とかでできている」


「アンデットと違って俺の命令は絶対!普通のゴーレムとは違って人から作ってあるからさぁ・・・」


「だから?」


「もし知り合いの死体で作られたゴーレムが居ようもんなら精神的にきついもんがあるだろう?」


 ああ、あれは隣の家のディックだ、こっちはディッカおばちゃんか・・・


原型とどめてるけど違う人の体が別々にくっついてておぞましい。


これは精神的にキツい、ちょっと見るのも辛い。


「ルド、逃げていい?」


『お前が決めろよ、俺はついてってやるからよ』


 テックと反対方向に体を伸ばして、パチンコの感覚で自分の体を吹き飛ばして逃げる。


土くれのやつなら倒せた、でも知り合いの体で作られたゴーレムとなんて戦いたくない。


ホントはすぐに逃げたかった、でも目が離せなかった、このスライムの体の中で涙が流れた。


一度は戦おうとしたけど駄目だった、完璧に戦意喪失しちゃった。


テックは追ってこなかった。


私が目当てではなかったらしい、そのうちいなくなるだろうか。




 自宅に戻り、融合も解かずに部屋の隅にいた。


今は気持ちが沈んで解除できないみたいだ。


『無理もねえよ、フレッシュゴーレムなんて悪質なもんけしかけられたんだ』


「でもさ、仇かたきも討ってないんだよ、みんなあいつに殺されたのに」


『でもよう・・・』


『シトラス』


「ショット・・・」


 いつの間に帰ってきたのか、ショットが家の前にいた。


一部始終見ていたのかただ一言「誰もいなかったよ」と言った。


「ルドもショットも優しくて、村のみんなも優しかったのに、あいつ」


 昨日満杯にした水瓶に飛び込んで思いっきり泣いた。


水の中なので泣いても涙がすぐに体内に吸収されるが気にせずに泣いた。


そして30分ほど経って私は水瓶から出てきた、


泣いてる最中にルドとの融合が解除されていたのか私はずぶ濡れになっていて、


ルドも水瓶の水を全部吸収してでかくなっていた。


 とりあえずこのままテックをどこかに行かせるわけには行かない。


何ができるわけでもないけど何かしなくちゃ。


「・・・ショット融合しよう、あの状態ならいくらか気持ちも楽になる」


『わかった』


 ショットは快く承諾してくれた、昨日の狩りを楽しむかのような残忍さ。


あの気持ちで一時的に心を塗りつぶす、そう私は自分の翼に誓った。


「さて帰ろ、なんでこんな小さい村の住民を殺せなんて命令があったのかねぇ、まぁ楽しかったけどさ」


 テックは2体のフレッシュゴーレムを連れて、村の外へ出ようとした。


しかし突然、後ろのゴーレム2体は崩れて地面に転がった。


「なんだよ?なんで壊れてんだ?」


「あたしがやったんだよ」


 声は自分の上空から聞こえた。


見上げるとそこには鳥の翼をもったモンスターがいた。


足のかぎ爪が血に濡れていて、ゴーレムをやったのがこいつだというのは一瞬でわかった。


「殺しは一瞬で終わらせる、狩りは長々と楽しむ」


「やってみな?出来るのか?」


 私のかぎ爪は確かにテックの心臓を狙った。


だが大きな岩のドームが現れて、それを阻んだ。


「土の魔法は応用がきく、お前にこれは破れない!」


「確かに、これじゃあ無理だ」


「だろ?」


「だから」


 だからルドと融合しなおす。


さっき手当たり次第に周りの家の水瓶にルドが入って水を吸収してきたのは、


お前を水責めにするため!


『溺れちまえ!流水砲(りゅうすいほう)!」


 体から出せるだけの水をドームの上から勢いよく放った。


すぐに穴が空き、自分を守るドームは自らが殺される為の舞台に早変わりした。




 体が元の大きさに戻るまで土石流は続き、やがて朝日が昇りだした。


『死体ないね』


『ここの地面にズレがある、ドームを作ったあとすぐに逃げて塞いだんだろう』


 テックの死体は見つからず、逃げていたことが分かった、


まだみんなの仇は亡くなっていない、そのことが頭に浮かんだ。


「追いかける」


『シトラス、一回融合解け』


 ルドに言われるままに融合を解いた。


しかしショットと融合を解除したあともまだ気持ちがおさまらない。


復讐という感情が心に残ったままだ。


「まだ収まんない・・・」


『じゃあ探してみるか?』


「うん、探す、そして殺す」


『物騒だが、それでいいと思うぜ?』


『旅に出るの?』


「出よっか旅」


 死体を墓地に運んで埋め、一度家に帰って荷物を整理した。


旅支度をおえるとショットの背に乗り私たちは旅に出る。


早朝の曇り一つ無い澄んだ空は綺麗だったけど、私の心はくすんでいた。

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