第2話「狩人の森」

 戦いの疲れはたたらず。


翌日起きた私は筋肉痛ひとつなく開放感溢れる朝を迎えた。


どうやら伸び縮みするスライムと融合していたので、疲労はしなかったらしい。


『起きたか、どうだ?どこか痛いか?』


「ううん別に、いたって普通の朝だよ」


 机の上にいるスライムのルドが私の具合を心配してくれた、


朝の光がボトルにキラキラと差し込んで眩しそうにしているルドを見ているとそっちのほうが心配なんだけど。


「眩しい?」


『いや、悪くない、心地いい目覚ましって感じだ』


「そう、ならいいんだけど」


『ところでシトラス、お前狩人の森って知ってるか?』


「なにそれ知らない」


『そっか、なら別にいい・・・』


「変なの」


 ベッドから降りて朝食の準備をする、私はパンでいいけど、ルドはどうするんだろうか?


スライムは物を自分の体で包んで捕食すると聞くが、どうなんだろう。


「ルドって何食べるの?」


『水だ、食費がかからないエコな同居人だぞ』


「それはいいね」


 水でいいのか、楽だなルドは。


ルドに水をあげようと水瓶を覗き込んだら水が減っていた、


そういえば昨日いっぱい水を使ってそのまま寝てたんだっけ・・・


どうしよう、水が無いとシチューもスープも作れないし、顔も体も洗えない、


この村には水源がないので森から汲んできたり、雨水を溜め込んで生活水を得ている。


このままだと今日の分で水の貯蔵が尽きるだろう・・・


「森へ行くのやだぁ・・・」


『どうした?落ち込んでるな』


「水が足りないんだ」


『なんだ、そんなことか』


「?」


『俺の特技を教えてやろう、実はな俺、水源探しが得意なんだ』


 ボトルの中ですごいだろと言わんばかりに体を揺するルドを見ていて、笑いそうになった、


でもその特技があるならあまり疲れずに水探しができるかもしれない。


「じゃあ、朝ごはん食べたら、水探しに行こう」


『おう』


 ルドのボトルになみなみと水を注ぎ、私はパンを食べて朝食を済ませて出かける準備をした。


カバンにルドの入ったボトルを入れるだけの簡単な作業だ。


『それじゃあ行くか』


「うん、ばっちり導みちびいてね」


 ルドの頭?が森の方角をさしている、どうやら方位磁針のような役割を果たしているようだ。


個人的にはルドの頭に一本のトゲが突き出しているようで、結構おもしろい。


『このまま直進な』


「わかった」


 導かれるままに森の中を進んでいく、木漏れ日の差し込むいい日だ。


ゆったりとした時間が流れていく。


『この先だな、水』


「ホントかなー?」


『冗談でこんなとこまで連れてこないよ』


 やれやれと言いたいように体を震わせるルド、感情表現が言葉と震えだけでもどんな気持ちなのか分かる。


面白いやつだ。


『着いたぞ』


 ルドは目の前に広がる湖を指さして上下に震えた、


まるでどうだすごいだろとあえて口に出さないで伝えようとしているみたいだ。


「ありがとうルド、これで明日も水に困らないよ」


『さっさと汲んで、帰ろうぜ』


「そうだね」


 水瓶なんか重すぎて持てないので、私はルドと融合して体に水を取り込んで家まで帰ることにした、


だから荷物はルドのボトルだけなのだ。


「さて」


 湖に手を突っ込んで体を大きくしていく、あっという間に少女の背丈から大人の大きさまで成長できた、


これで1週間くらいはもつだろう。


あとは帰るだけなのだが・・・


『!、なんかいるな』


「え?」


『とりあえず潜れ、隠れるぞ』


 静かに湖の中に滑り込み様子を伺った、どうやらオオカミのようだ、4匹はいる。


「オオカミ?」


『クルイクだ、オオカミが強くなったモンスターだな』


 確かに普通のオオカミよりも大きい、こんなの森にいたのか。


まだ誰も襲われてないのか、それともこの森に来たばかりなのかはわからないが、とりあえずやり過ごそう。


『大人しくしてるな、穏健派なのかもしれない』


「何事もなければいいんだけど・・・」


 少し緊張した空気が流れる中、クルイクたちは水を飲んでいる、私たちは水の中で静かにしている。


しかし突然の爆風にその膠着状態は、破られた。


『小さいがドラゴンだと?!』


「あれがドラゴン、初めて見た」


 2メートルちょっとの大きさのドラゴンも出現にクルイクたちは威嚇を始めた。


どうやらドラゴンには敵意があるらしく、クルイクたちを襲おうとしている。


「どうしよう?」


『ゴーレムなら俺たちでも倒せるが、ドラゴンは無理だ、蒸発しちまう』


 スライムは水の魔物だ。ドラゴンの吐く炎で蒸発してしまうので、静かにやり過ごすのが懸命だそうだ。


ドラゴンがクルイクに襲いかかろうとしたとき、また一つ風が吹き荒れドラゴンよりも一回り小さい鳥が現れた。


『なんだ?新手か?』


「スカイアローだ」


 空を飛ぶ大きな鳥のモンスターのスカイアローは森や渓谷に住みつき住処を守る、


自然を見つめ侵入者を追い払う種族と聞いている。


初めて見たが、すごい大きい。


『でっかい鷹だな』


 スカイアローがドラゴンの頭に爪を伸ばす、


しかし爪が届く前に振り払われてスカイアローが地面に叩きつけられた。


そのままドラゴンの足がスカイアローを捉えて締め付ける、このままだと死んでしまうかもしれない。


「ルド!」


『わかったよ』


 たとえ勝てなくとも、あのスカイアローからドラゴンを引き剥せるかもしれないと思った。


だからドラゴンに向かって水鉄砲を放つ。


幸いにも今私がいるのは湖、球切れの心配は無い。


だから、なんとかあのスカイアローを助けないと。


「ほら、こっちを向けぇぇえ!」


『潜れ!えぐられるぞ』


 ひたすら撃ち込んだらこっちを向いて襲いかかってきた、なんて沸点の低いモンスターなんだろうか。


とにかく潜って攻撃を避けた後、ドラゴンはクルイクの逃げた方へ向かって飛んでいった。


「おーい、生きてます?」


『ありがと助けてくれて』


「あ、良かった生きてて」


 なんとかスカイアローは生きていた、でもとても飛べそうにない状態だ。


『クルイクたちのほうにドラゴンが行った・・・』


「助けたいの?」


『ああ、僕は彼らを助けたい』


「でも羽が・・・」


『おいシトラス』


「なに、ルド?」


『融合を解除してくれ』


「え、いいけど」


 分離した私たちを見て、スカイアローはびっくりしていた。


そりゃあそうか、こんな人間いないもんね。


『モンスターと融合できるのか?』


「うん、ところでルドなんで分離したの?」


『鳥さんよ』


『何?』


『お前さん、こいつと融合してみちゃどうだ?』


『出来るの?』


「さぁ?でもやる前からできないと思うならできないと思うよ」


『なるほど、僕ショット』


「私はシトラス」


 ショットに触れて融合が始まった。


両手は風を感じ、足は細くなっていく・・・


融合が終わったあと湖の水で自分の姿を確認すると、


ショットと融合した私の姿は本に載っていたハーピィというモンスターに似ていた。


「バッチリ飛べそう」


『飛べるよ!シトラス』


「おお!飛んでる」


 少し翼を動かすと宙に浮いた、初めての飛行は私に空を制したと感じさせたような気がした。


羽ばたくたびにもっと上空へ行ける、素晴らしい感覚だ。


「見っけたよドラゴン♪」


『かぎ爪を使って羽を裂いて』


 ショットに言われるまま急降下してかぎ爪をドラゴンの羽に突き立てる、


私のかぎ爪は鋭いので少し力を入れただけでスパっと羽に亀裂がはしり、ドラゴンは地面に落ちた。


「もう一回、急降下だァ!」


 狙いを定めてかぎ爪をドラゴンの頭めがけて振り落とす。


なんだろう?これが狩りというものなのかな、とっても楽しい。


しかしそのまま倒そうとも思ったが、流石にやりすぎも良くないと思ったので途中でやめた。


殺しちゃってもドラゴンって食べられるのかわからないしいいや、ドラゴンってしぶといから大丈夫でしょ。


『あれでいいの?』


「食べるため、生きるための殺生しか私はしたくないの」


『いい心がけだ!』


「帰ろっか」


 そのまま私たちはドラゴンをあとにして湖へ戻っていった。


そうだ!あとでショットにも水を運んでもらおう。


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