融合勇伝!

小波 良心

第1話「スライムと融合した日」

「誰かに取られちゃうの嫌だから、私がしーちゃんに呪いをかけてあげるね」


 7年ほど前に大きな本を抱えた幼馴染がそう言ってきた、無邪気な笑みの中に深く歪んだ恋心を含んで。


本を開いてスラスラとよくわからない呪文を唱える幼馴染を私は止められなかった、


なぜならちょうどその日は幼馴染が縄抜けをしてみようと言い出し、私は木にくくりつけられているところだったのだ。


今日の行動全てはこれの為・・・、そう気づいたときには私は気絶していた、呪文の詠唱が終わったらしい。


 次に目覚めたときには、2日も時間が過ぎていたことに唖然とした、


しかし周りの人たちは2つの異変のほうが気になっていた。


1つは、2日前から幼馴染が村から姿を消したこと、そしてもう一つは。


「おはよう、シトラスちゃん」


「おばちゃん、おはよう、ところで私男の子なんだけど」


「それは7年前のお話でしょう?今は素敵なお嬢ちゃんじゃないの~」


 これだ、7年前のあの日から目覚めたら私は女になってしまった、これは全部幼馴染のキノットのせいだ。


私の名前はシトラス、15歳の女の子です、アイリンカ村で毎日のんびり過ごしてます。


当時は色々とあったけど、今は普通にこの体に慣れました、力は弱いですがね。


「今日も雲を数えて1日を過ごそう、お腹がすいたらシチューを作るんだ」


 正直やることもないので自宅の屋根の上で雲を見ていた。

 

男でなくなった私の日常はとても穏やかで、少しサボり気味かもしれません。


晴耕雨読よりものんびりと、時間は流れる水のように・・・


「ん?」


 ふと屋根の下を見ると魔物がいた、水みたいなのが動いてるのでスライムだろう。


珍しくもないとってもポピュラーなモンスター、害のないものが多く危険視されていないのでどこにでもいる。


「ちょっと遊んでみようかな」


 屋根から降りて、スライムに触ってみようとする、そういえば7年前からモンスターに触ってない。


プルプルして気持ちよさそう、と思っていたら急に私の指がスライムとくっつきはじめた。


「?!」


 捕食されたのではなく、まるで私とスライムの体が混ざり始めたように感じる、


指から腕へとどんどん混ざっていく、恐怖よりも好奇心が優ったようで、全く怖くない。


いい、もっと混ざりたい、そう思ったとき意識がクラっときてその場に倒れ込んだ。


「なんだろ?」


 体がやけに涼しい、肌に当たる風もさっきより鮮明に感じる、しかも体中がプルプルしてる?


あれ?なんか髪の毛にも神経が通ってるみたいだ、動かしてみようかな。


指を動かすように髪を動かしてみると、なんと私の髪がゆらゆらと動き始めた。


「おー、これすごい」


 楽しい!なんか面白い、ちっちゃい子みたいな感想しか出てこないけど今はそれ以外に言葉が出てこない。


まぁ、とりあえず水鏡で自分の姿がどうなってるのか確かめてみよう、下手に人のいるところに出て、


もし私の姿がモンスターみたいになってたら殺されちゃうかも知れないからね。


 チラッと水鏡を覗き込んだ、私の若草色の髪が澄んだ湖のような水色の髪になっていて、背は小さくなっていた、


これは・・・私がスライムとくっついたと考えていいだろう、髪の色がさっきのスライムと同じ色だ。


「私スライム少女かぁ」


 ちょっと喉が渇いてるし、水を飲もうと手で水をすくおうとしたら勝手に水が手に吸い込まれていった。


びっくりして水瓶から手を離した、水瓶の中は少しの間だけしか手を突っ込んでいないのに水がかなり減っている、


そして髪が肩から腹のほうまで伸びているのに気づいた、どうやら取り込んだ水の分だけ体が大きくなるらしい。


これは面白い、この体なら背も髪も好きなように伸ばせるわけだ。


「面白い」


 そういえば戻れるのだろうか?分離したいとか思えば離れてくれるのかな。


「分離したい」


 すると体からストンと水が落ちるようにスライムが体から出てきた、楽な合体だなぁ・・・。


『これ結構面白いな嬢ちゃん』


「!?」


 私の体から出てきたスライムが突然人語を喋り始めた、流石にこれはびっくりする、


喋るモンスターもいるって聞くけど、まさかスライムでもしゃべれるのがいたんだ。


「私シトラス、あなたは?」


『俺?俺はルド、性別不明のスライムだぜ!』


 スライムが性別不明・・・?確かにわかる、どうやってオスメスの区別つけたらいいかわからないもんね。


しかし目がどこについてるのかわからないな、ていうかものは見えるのかな?


『なぁ、シトラス』


「何?」


『ジャムの瓶か水を入れとくガラスボトルないか?俺けっこう乾燥に弱いんだ』


 ルドの体がさっきよりも小さくなっていた、


水の塊みたいなモンスターだもん、それじゃあ乾燥に弱いか、瓶かボトル・・・あったかな?


あ、そうだこの間飲んだ果物ジュースのボトル外に放ってあったような。


「外に多分ボトルあるよ」


『おお!ボトルいいね!頼む、持ってきてくれ』


「いいよー」


 外に出てボトルを拾うと、村の中心のほうで悲鳴が聞こえた、何かあったのだろうか?


今はとりあえずルドをボトルに入れて乾燥を防がなきゃ。


「ルド、ボトルあったよ」


『ちゃんと洗ってな、混ざると色が変わって気分が悪くなるんだ』


「うん」


 ボトルに水を入れて振って中身を綺麗にする、これで大丈夫だろう。


ルドをボトルに詰めてみると、なんかそのへんの露店で売ってそうな怪しい色のジュースみたいになった、


あれはあれで美味しいんだけど、これはルドだからなぁ・・・。


『そういえばさっき、悲鳴聞こえたな、あれなんだ?』


「さぁ?さっきはボトルをこっちに持って帰るのが先って思ったから、後回しにした」


『行ってみようぜ?』


「いいよ、その代わりルドはバックの中に入っててね」


 壁にかけてあった肩に掛けるバックにルドの入ったボトルを入れると、悲鳴の聞こえた方に行ってみた。


『あれモンスターだな』


「石の塊・・・ゴーレムだ」


 さっきの悲鳴の原因はこのゴーレムだったのだ、悲鳴をあげてた人はどっかに逃げてくれたみたいで、


周りには誰もいない。


「これどうしよう・・・」


『ウォオォオオ』


『避けろ!シトラス』


「わかってるよぉ~」


 巨大な腕を必死こいて避ける、7年間も穏やかに過ごしてきた女の子に怪物の攻撃を全て避けるなんて、


無理かも・・・。


『ガァァアア』


『またきたぞ!』


「ふぇぇ、無理無理、もうこれ以上は無理、疲れた」


 避けなきゃ死んじゃうかもしれないのはわかるけど、もう無理、肉体が持たない・・・


体力なさすぎかもしれない、近所の子でも草原を駆け回るだけの体力があるけど、私はのんびりしすぎました。


 ・・・そうだ!


「ルド!」


『なんだ?』


「融合しよ、生き残るにはそれしかない」


 今できるのは、ルドと融合して何とかすることだけ、それ以外に選択肢は無し!


『いいぜ!行くぞ』


 ルドの入っているボトルに指を突っ込んで、混ざりあうことを考える。


しかし融合している最中に、ゴーレムの腕が私たちに振り下ろされ、グシャっと潰れる感覚がした、


視界も一気に地面すれすれまで下がった、・・・でも生きてる!すごいなスライム娘。


ドロドロになった体で石と地面の間から脱出するのはとても簡単だった、とりあえずもうゴーレムの攻撃は怖くない。


「よし!ぶっ飛ばそう」


 指をゴーレムに向けて、パチンコの要領で水を飛ばす、さしずめ水鉄砲といったところか。


ゴーレムは泥とか石で出来ているから、水の塊であるスライムと融合した私は天敵なはず。


「連弾いってみよう!」


 両の手をゴーレムに向かって向け、大量の水をゴーレムに向かって片っ端から撃ち込んでいく、


そのうち水に弱いところに当たって崩れてくるのが、私の狙いだ。


『おい、水分出しすぎだ』


「あ・・・」


 撃ち込むのに必死で忘れていた、そうだ水分かなり消費するんだった・・・、


私の体はとても小さくなってしまっていた、このままだとまともに撃てる弾はあと3発くらいだろうか。


『あと3発か、きついな』


 近くに水はない、取りに行ってたら誰かがまた襲われる可能性がある、


そんなわけで私たちは逃げずに戦うことにした、さて?どう倒そう。


「あ!そういえば、ゴーレムってさ体の中にemethって彫ってあるらしくて、その中のeを消せば壊れるらしいよ」


『なんでそれを知ってて無駄打ちしたんだ・・・』


「忘れてた」


 お花畑でキラキラした夢という花を栽培していたようだ、今の今まで忘れていた、


とにかく狙いが定まればあとは打ち込むだけ。


文字はさっき水鉄砲で流した体の中から見えてる、そこのeの字を消せば私たちの勝ち。


「行くよ」


 近づいて1発外した、ゴーレムの攻撃を受けてるうちに無駄撃ちで1発、いつの間にかあと1発になってしまった。


『あと1発が限度だな』


「うん・・・」


「しょうがない、ルド突っ込むよ」


『まぁいいけど、ミスんなよ?』


「もちろん」


 文字の見えている穴に飛び込む、水鉄砲の撃ち過ぎで小さくなった体だから楽に入れる、潜入成功!


目の前にはemeth心理の文字、そこに向かって水を打ち込んでeを消して、meth死んだに変えた。


これで私たちの勝ち、でも崩れたゴーレムに巻き込まれて私たちも土砂の下敷きになった。


『疲れたか?』


「うん、疲れた」


 死んだと思っても形が不特定だから下敷きになってもすぐに脱出できるのだった。


便利だなモンスター、とりあえず自宅に帰って、水を吸収しないと・・・


赤ん坊ぐらいの小さな体で、自宅までかかった時間は15分ぐらいだった、


いつもの状態ならば5分とかからないんだけどなぁ・・・


「今日は、自分がモンスターと合体できることを知ったり、ゴーレム倒したりで疲れた」


『融合したら結構強いモンスターも倒せるもんだな』


「そうだね」


 とりあえず、いろんなことが1日に起こりすぎて疲れた、今日はもう寝よう。


ルドを机に置いて私はすぐにベットで寝息をたて始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る