第24話 お江と国松
近頃竹千代は福の七色飯により、だいぶ食べる様になったらしく、それを聞いた桃子は心底喜ばしかった。
「ちよたん最近ご飯食べるようになったらしいじゃん」
と桃子がいうと竹千代は誇らしげに胸を張った。心なしか以前に比べて顔色や体格が良くなった様に感じられる。
「桃子、外に出たい」
と活発な声すら上げるようになった。
庭園に出ると竹千代は凧揚げを空へと高く飛ばした。城下の子供達の間で流行していると言伝られ、即座に購入したものであった。若様とて、心はまだ城下町の子供と変わらないのだ。
雲一つない空へと高く昇る凧を見上げて
「凧とか何年振りに見たんだろう〜!電柱とかないから自由に飛ばせるね!」
と桃子が言った。
竹千代は「桃子もやってみよ」と凧を繋ぐ糸を桃子に手渡す。凧はゆらゆらと空を仰いだまま。
「桃子様、上手でございます」
紫乃が声を上げる。
「紫乃も!はい!」
桃子から紫乃へと糸が渡った。
その刹那、大きな風が吹いた。凧が空を四方八方に揺れ動き、やがて地へと落ちていった。
「ああ〜、紫乃へた〜」
桃子が茶化すと紫乃は頬を風船のように膨らませた。
「今のは風のせいでございます!わたくしの技量不足ではございません!」
弁解する紫乃を桃子は、はいはい、とどうでも良いような素振りをした。桃子の態度に紫乃は更に弁解する。連ねる言葉が増えれば増えるほど言い訳がましくなる一方だった。
ふと、桃子は紫乃との掛け合いで置いてけぼりになってしまった竹千代に目を向けた。
竹千代は某っと遠くを見つめていた。その顔は表情がなく、どこか悲しみを帯びた瞳は池に掛かる太鼓橋で仲睦まじく、池の鯉を眺める母子の姿を捉えていた。
途端に紫乃が桃子に耳打ちする。
「桃子様!お江様と国松様でございます!」
その言葉に桃子は咄嗟に竹千代の両目を手で覆った。
「ちよたん!お部屋戻ろっか!」
桃子の手は酷く震えていた。それと同じく竹千代の肩も小刻みに震えていた。
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