第23話 推し哲学

 あくる日の朝、七つ口にて女中達が賑わっていた。商人が訪ねてきたのかと桃子達はその賑わいを遠目に見つめる。


「紫乃、今日は何で集ってんの?」

「本日は呉服商が訪問しております」


 女中達の隙間から見える色艶やかな数多くの着物を紫乃は眩しげに見つめていた。

 その傍らで桃子は「はぁ」と吐息をつく。


「桃、思うんだけどさ…そんなに着物っている?」


 桃子の何気ない質問に紫乃は

「好みのものが手元にあれば、見ているだけで喜ばしい気持ちになりませぬか」

「ふーん」


 桃子はどこか解せない様子である。


「その方の財産となります」

「なるほどね」

 と桃子、多少納得した様子である。


「でも桃もさ、通販で可愛いお洋服大量買いしてたけど、嬉しいのって一瞬なんだよね、何回か着たら、ただの衣服にすぎないって感じ。桃はね、自分の身なりに金かけるより、誰かに貢いだ方が幸せなの」

「その誰かとは、桃子様がよく口にする、れんくん?というお方の事でございましょうか」

「そう。桃の好きぴ、レンくん。ひょろひょろで死にそうなぐらい白いレンくん。でも、その儚さが堪らないの」

「桃子様は甲斐性なしを好むのですね」

「うん…しゅきが溢れる」


 そう言って、うっとりとした表情浮かべるのも束の間、

「でも!今世での推しは、ちよたん!」

 と声を上げた。


「さぁ紫乃!ちよたんに会いに行こう!てか、金落とさなくても推しに会えちゃうってやばくない?バチ当たらん?」


 桃子の自問に紫乃は以前から気になっていたことを口にする。


「桃子様、推しとはどういう存在なのでございましょう?」

「桃的には生きがい」


 即答であった。紫乃は「なるほど」と深く息をついた。

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