第19話 初めてのキセル

 翌日、大奥内で唯一、外からの出入りが許される七つ口において女中達が商人の訪問に賑わっていた。

 桃子はその群れをかき分けてたばこを手に入れたのであった。


 スキップさながら自室へ戻った桃子は

「紫乃〜!たばこ手に入れた〜!」

 とキセルとたばこを持つ手を上げ、宝剣を天にかざす様な仕草をした。紫乃は呆れ顔である。


 桃子は先に商人から教わった方法で、キセルにクズの様に小さくまとまったタバコを詰める。こういう時の桃子は大人しく器用である。そして、一服吸った。瞬時に咳き込む。


「ちょ、ダイレクトすぎ。でも、ヤニ摂取せな、やってらんない」


 桃子の目は遠くを見据えていた。桃子がタバコを吸う時、大抵考えることは桜庭レンの事であった。しかし今、桃子の心はタバコを吸えた喜びと安らぎで無の状態である。

 そんな恍惚とした桃子に紫乃は一言詫びを入れて、

「桃子様、福様がお呼びです」といった。


「え〜、これ吸ってからでいい?」


 桃子は一拍遅れでいう。悠々自適な桃子に紫乃は


「福様が早急にとお呼びです!行きますよ!」

 

 と桃子を無理矢理に立たせ、腕を引いた。


「紫乃、力強すぎ〜」


 桃子の嘆き声が廊下に響いた。

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