第17話 大奥反乱⑦

 遠く離れた部屋に避難した桃子と紫乃。

紫乃はぐしゃぐしゃの顔で桃子を申し訳なさそうに見つめていた。


「桃子様!申し訳ございません!」


 何度も何度も首を垂れる紫乃。桃子は唇をグッと噛んだ。桃子の怒りは冷めていない。この手で殺めても良いと思ったぐらいのこれまでにない怒りを感じていた。


「いい!紫乃は悪くない!悪い女が多すぎただけ!それに紫乃は家のためじゃなくて紫乃の気持ちで、とどまったじゃん!」


 桃子は紫乃の未だ震える背を何度もさすった。


「お家の事を考えるのを辞めてしまった」


 紫乃は顔をあげ、桃子の瞳に問いかける。


「紫乃は、桃子と同じか?」


 桃子は泣きながら笑った。


「おんなじだよ!紫乃悪い子!桃の悪友になっちゃったね!」


 紫乃も同じように口角を上げた。


「桃子と同じなら嬉しい」


 二人は熱い抱擁を交わした。固く、強く、誰も引き剥がせないほどに互いの存在を認め合った。


***


 その頃、城敷地内の端にある、役目を終えた井戸の前で女達が一人の女を囲っていた。


「玉緒。残念じゃ」


 福は二人の女中に崩れ落ちそうな玉緒を抱えさせていた。その背後には井戸がある。

 玉緒は襦袢のみを身に纏っており、まるで白装束の様であった。


「福様!どうか、どうかお許しを…!」

「妾はそなたに申したはずじゃ。そなたはその忠告を聞いたにも関わらず、馬鹿な真似をした」


 玉緒は死を予感した。恐怖のあまり腿に尿が伝う。


「もうそなたに懇願する余地などない」


 井戸の中に女の声が消えていく。井戸の底から鈍い音が響いた。

 葉が揺れる音だけが静かに響く。


「妾には竹千代を将軍にすること以外どうでも良いことなのじゃ」


 福は立派な深緑の葉をつけ、黄色い花を咲かせた枝を井戸へと投げた。

 月桂樹——花言葉は「裏切り」それは、死後も彼女に付き纏う花となるだろう。福は桃子が抱いた怒りへ同情を込めたのかもしれない。


⭐︎桃子の小話

 やっぱり女の世界、大奥って陰湿な虐めが絶えなかったみたい。新参舞しんざんまいっていう大晦日に新人女中が裸踊りをさせられる催しもあったらしい。なんか段々、もうやってやるわ〜!って気持ちになってメンタル強くなりそう。あ、それが狙い?



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