第11話 大奥反乱①
あくる日の朝———
とある一室で女達が密かに集っていた。
「私、やはり納得いきませぬ!」
「私もです!」
「福様の意向に添えません!」
女達は口を揃えて桃子の奥入りを許さなかった。しかし、福に反論できるものなど誰一人としていない。
何か策はないか、と皆が悪しき事を考えた。
そして一人の女が声を上げる。
「そうじゃ、良い事を思いついた」
その声は玉緒であった。玉緒は女達に言う。
「事故を装って殺してしまえばよいではないか」
女達は初めこそ動揺の眼差しを交わし合ったものの玉緒の案に賛成した。
一方、桃子は与えられた自室にて、世話役に任命された紫乃と打ち解けつつあった。
「紫乃っていくつなの?」
「十四でごさいます」
「若っ!子供じゃん!」
紫乃は桃子の言葉にムッとする。大奥に奉公した紫乃は元服したも同然だった。
「わたくしは家を出て、お勤めをしております!故に立派な大人でございます」
声を上げる紫乃に桃子はニヤニヤを口元を歪めながら言う。
「チューした事ある?」
「ちゅーとはなんでございましょう」
首を傾げる紫乃。桃子は口元をきゅっと窄め、「せっぷん」とリップ音を鳴らした。
「あ、あ、あるわけなかろう!馬鹿め!」
紫乃の顔が見る見るうちに真っ赤に染まっていく。
「紫乃可愛い〜」
と桃子は純粋な紫乃の反応に笑った。
「ねぇ紫乃はどうして大奥入りしたの?」
途端に紫乃は、しゃんと背筋を伸ばした。紫乃は家の話となると自然と体が強ばるのだった。武家の娘として恥じぬ様な姿勢となる。
「奥入りすれば泊がつく。たとえお暇を貰おうと良い縁談がくるだろう。そうすれば父上もさぞかし喜ぶ。願わくば、上様の側室にもなり得る…全てはお家の為じゃ」
「紫乃しっかりしてるね、偉いよ」
「武家の娘として恥じぬ生き方をせねばならぬ」
あまりにもしっかりとした受け答えに桃子は感心した。
「桃子様はお家の為にという心はないのか」
紫乃の問いに、桃子は苦笑する。
「あたし?ないない。なかった。だから遠く、遠くに逃げたんだもん」
大学進学と共にうちを出た桃子。
親元を離れ、ようやく自由な暮らしを手に入れたものの、自己管理が行き届かず、大学はサボりがちになり、歌舞伎町に明け暮れる日々を送っていたのだ。
桃子は「あ!」と何か思い出したかの様に声を上げた。
「てか桃、だいぶ先の未来から来た?っぽいのね。死んだって言うのかな?」
桃子の言葉に紫乃は動じる様子がなかった。
「あれ?思った以上に驚かないじゃん。さすが武士の娘。肝座りすぎ」
桃子が茶化すと紫乃は吐息をつく。
「桃子様とは異国のものと話している様な気分になる。もう慣れたというのか、驚きもせぬ」
「なるほどね?」
「しかし未来とは、どの様なものなのじゃ」
紫乃の素朴な問いに桃子は頭を悩ませた。
「うーん。遠くにいる人と直接会わないで会話できたり?」
「どういうことじゃ?文とは異なるのか」
「まあ、なんて言うか、わざわざ人が動かなくても届くみたいな」
「よく分からぬ」
「カルチャー伝えんのむず過ぎ!」
桃子の嘆きに紫乃は首を傾げるしかなかった。ふと、紫乃は声を上げた。
「わたくし、そろそろ失礼します」
「えっ何で!紫乃は桃のお世話係なんでしょ?」
桃子は上目遣いに紫乃を見る。紫乃はお構いなしに部屋を出ようとする。
「他にも勤めがあります故、失礼します!」
「え〜桃を一人にしないでよ〜。することなさ過ぎてまじ鬱。病む」
「失礼します!」
紫乃は桃子を哀れむ事なく、颯爽と去っていった。一人部屋に残された桃子は呟く。
「ぴえん」
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