第7話 福が桃子を気に入ったわけ
「来たか、桃子」
福は町に出ていた時とは異なり、色彩豊かな着物を身にまとっていた。
町に出ていた時も凛とした雰囲気を漂わせていたが、さらなる雅さを漂わせている。
「福、何?」
桃子はこの時代の作法を知らない為に、ずかずかと福の部屋へ入っていく。女達は桃子の奇行さを小さく囁き合った。
一方で福は、心広く桃子を受け入れ、自身の前に座らせた。
「早速だが本題じゃ。妾は家康様の命で竹千代の乳母をしておる。長男早世ゆえ、三代目将軍は次男竹千代に確実かと思われた。
「それとあたし、何が関係あるの?」
日夜浴びるほどに酒を呑み、脳が萎縮している桃子ではあったが、その小さな脳みそをフル回転させ、事情を理解した。
ちなみに桃子、生まれは両親共に会社を経営する家の出であった。故に金が物をいう小中高大一貫のお嬢様学校に通っていたという経歴である。
それなりに教養は身についていた。彼女が理解を得る為に記憶していた教養は徳川家康という名のみであったが。
「妾はどんな事があろうと竹千代を三代目将軍にする。桃子。そなたの様な一人怯む事なく、真っ向に男に噛み付く狂犬さ。そなたには世継ぎを授かって頂きたい」
「え、待って待って。どゆこと」
「福様!何をおっしゃいましたか!?」
ざわめき出したのは桃子だけではなかった。福に仕える女達もこの場で初めて福の考えを聞いた様だった。
「世継ぎを孕んでもらう」
福は自身の考えを曲げる事がない。また、誰も福の意思を曲げる事など出来ない。その為、この場はこれで収まるのが当然であった。
しかし一人、福の威厳を恐れぬものがいる。
「いや、え、あたしにも選ぶケンリってあんじゃん?てか、むりむり。竹千代?知らんし」
桃子であった。彼女もまた自我の強い女である。
すると福は桃子の言動が目に見えていた様に「これから謁見してもらう」と言った。
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